陽炎
カルナの死後、中心であったカウラヴァの長兄ドゥルヨーダナが死に、いよいよ敗北が近くなった。
しかし、ドゥルヨーダナの死に際の言葉が、パーンダヴァを縛った。
「お前たちはクシャトリヤとして戦い正義を示そうとした。だが、その正義のためにクシャトリヤとして大切なものを失ったな。それ故にカルナは、我々は負けたのだ」
散々、卑怯な手を使ってきたドゥルヨーダナが死の淵に言った言葉に、多くの者は憤った。
だがそれは、パーンダヴァらにとっては痛いことだった。確かに、世に悪が滅びることを示した。しかし、パーンダヴァはそれ以上の罪を犯しているのである。
そのことは公には知られず、民衆にはパーンダヴァが正義として見えていた。いいや、正しく正義だった。戦いに勝った。それが何よりの証拠だった。
そうしてやがて、戦いは終わった。地上に束の間の平和がやってきた。
強き者が勝つ。そうクリシュナは言った。真実も正義も、この世の魂も全て、宇宙へと還るのだと。それ故に、人は義務を果たすのだと。クシャトリヤの義務は、この世の正義を守ることなのだと。
しかし、アルジュナの涙は止まらなかった。なぜ悲しいのかわからなかった。死に行ったカルナは笑っていたのに。これでは逆ではないか。
カルナを討ったそのとき、光が天へ伸びた。あれはカルナの魂か、あるいは心か。アルジュナにはわからなかったが、彼が父である太陽の元へ行ったことは理解できた。
それがどうして、こんなに羨ましく思えるのか。
戦いが終わり、数年。クリシュナの訃報が届き、いよいよこの世への執着がなくなった。あれほどの男でさえ、呆気ない最期を迎えてしまうのだ。
アルジュナたちパーンダヴァ五王子は、隠遁生活を送ることにした。世界で最も神の元に近い場所であるヒマラヤへと向かう。
その後、彼らがどうなったかを知る者はいない。
嵐は去った。太陽はまた、空へと昇っていた。
これにて完結です。お付き合いいただき、ありがとうございました。