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一夜明けて

    一


「それで、これからどうするの?」

 セトは干し肉をかじりながら、口をもごもごと動かした。

 あれから一夜明けて、今は森のはずれに獣車を止めて休憩中だ。夜中中走ったおかげで、シュテンの町からはかなり距離を稼いだし、だいぶ前に街道をはずれたこともあって追っ手の姿もない。

「このまま森沿いに南へ下って・・・三日くらい。そこの領主は、長老とは、旧知なんだ」

「その領主様に、保護をしてもらうの?」

 セトが確認すると、ガンファはうなずいた。

「でも・・・その領主様だって、魔族なんでしょう?」

 不安そうにつぶやいたのは、シイカだった。食欲のわかない彼女は、ガンファから半ば無理矢理渡された干し肉のかけらをもてあそぶようにしている。

「セトを探しているのが魔王の命令だとしたら・・・かくまってくれるかしら」

「領主のユーフーリン様は、長老ほどじゃないけど、長生きの魔族だから・・・大丈夫だよ」

「なんで、長生きだと大丈夫なの?」

 きょとんとして聞き返したセトは、すでに自分の分の食事は食べ終わってしまっている。物足りないのか目線の端でシイカが手にしたままの干し肉を追っていた。

「魔王が現れたのは・・・そんなに昔じゃないんだ」ガンファもすでに、自分の食事は終えている。セトが物欲しげにしているのを見て、腰につけている薬草袋を探ってハッカの葉を一枚取り出すと、セトに渡した。

「それまで・・・魔族は、少ない人数の集まりしか、なかった。みんな自由に、生きていたんだ。だけど、魔王が現れたことで・・・魔族は統制されて、命令に従わなければ・・・いけなくなった。昔から生きている魔族には・・・そのことに、不満があるものも、いるんだよ」

 ゆったりした口調でしゃべるガンファは、シイカにもハッカの葉を一枚渡すと、ゆっくりと立ち上がった。一人だけ身体が大きいので、急に動くと荷台がひっくり返りかねない。

「さてと・・・。ラグスたちにも、水をあげないと・・・。森の中に川があるはずだから、行ってくる」

 ガンファは、二人がまだ寝てるうちに周囲を少し偵察し、そのときに川の音を聞いたから、近くに川があると説明した。

「僕たちは?」

「二人は、ここで待っていて。すぐ、戻るから・・・。ここから離れたら、ダメだよ」

 ガンファは飼い桶を二つ持って獣車の荷台から降りると、彼の腰ほどまである草をかきわけて森へ入っていってしまった。ガンファの腰ほどあるということはすなわちセトなどからしたら頭のあたりまであるということなので、後を追うわけにもいかない。

 セトはガンファにもらったハッカを噛みながら、荷台の縁に寄りかかり、空を見上げた。よく晴れた空は高い。

 ため息が自然と漏れた。昨日、グレンデルに部屋へ呼ばれてから、まだ丸一日も経っていない。いっぺんには処理しきれないほどのことを教えられ、追い出されるように町を後にした。グレンデルのことを暗示するかのような光も見た。いろいろなことが一度にありすぎて、それらを整理する余裕もなかったのだが、今になってようやく少し頭が回り始めたようだった。

 何とも理不尽な話だ。顔もなにも覚えていない母親が王族であった、というそれだけで自分までもが命をねらわれ、町から逃げ出す羽目になった。育ての親とも離ればなれになり──それだけではない。あの町にはリタルドを始め、ほかにも一緒に暮らした兄弟がいたし、魔族にも剣術や学術を教えてくれたもののほか、親しくしてくれたものがたくさんいたのだ。

「大丈夫、セト?」

 いつの間にか隣にシイカがきていた。先ほどまで持っていた干し肉は、結局食料をしまう麻袋の中に戻してしまったようだ。ガンファにもらったハッカはまだ手に持ったまま、心配そうにセトを見つめている。

 考えてみれば、一番かわいそうなのはこの子だ、とセトは思った。何しろ魔王やフェイ・トスカに探されているのは自分で、シイカは巻き添えを食ったようなものだ。この子にとっては逃げる理由なんてないのだ。

「うん。・・・ごめんね、シイカ」そう考えたらシイカをひどい目に遭わせているのはすべて自分のせいであるかのように思えてきて、自然と謝罪の言葉が口をついた。

「セトが謝ることはないよ」シイカはハッカの葉を指先でくるくる回した。「セトはなにもしてないもの。私はあの町にきてまだ二年くらいだったから、そんなに思い入れもないし。それに、おじいちゃんは・・・もう・・・」

「あの光のこと?」

 セトの問いに、シイカは無言でうなずいた。

 だがセトにとっては、そのこともいまいち納得がいかないことの一つだった。あのときは何となく納得してしまったが、そもそもあの光がグレンデルのものである確証なんてないのだ。

「どうして、あの光がじいちゃんだって分かるのさ?」

 ガンファも、シイカがそう言うまではあの光が何であるのか分からないようだった。シイカはなぜ、それが分かったのか。そもそも、本当に分かっているのか。

 だけどシイカは答えず、うつむいてしまった。

 シイカは、セトから見ても少々不思議なところがある少女だった。セトと比べても特別頭の回転が速いとかいうこともないのだが、時折、町の誰もが知らないような特殊な知識を持っていることを垣間見せることがあるのだ。

 だが、そのことについてセトが突っ込むと、途端に黙り込んでしまう。ちょうど、今のように。

「ちぇっ」セトは立ち上がった。そういえば、まだガンファは戻ってこない。

 時間を計るものがないのではっきりとは分からないが、もう半クラム(約一五分)は経過したのではないだろうか。すぐ戻ってくる、といっていた割には遅い。セトは少しだけ不安になった。「川が見つからないのかな」その声は独り言とも、シイカに話しかけたともとれる中途半端な音量になった。

 そこへ、ガサガサと草の揺れる音が響いた。セトは安堵したが、音はすぐにやんでしまった。

 訝しげに音のした方を見ていると、また草が揺れだした。だが、草よりも背が高いはずのガンファの姿は見えない。草は揺れ続けている。

 やがて、草の下方からゆっくりと首を出したのは・・・一匹の狼だった。

 セトが驚いて一歩後ずさる。「セト、見て!」シイカの声で辺りを見回すと、さらに三頭の狼がゆるゆると獣車を取り囲んでいた。明らかにこちらをねらっている。

「どうしよう・・・」

 ガンファは戻ってこない。セトは剣を持ってはいるが、実戦経験のない自分に合計四頭の狼を相手にできるとは思えなかった。

 狼は少しずつこちらとの差を詰めてくる。セトは背中にシイカをかばいながら、四頭の狼を順に見回した。その際、獣車につながれている二頭のラグスが目に入った。

 ラグスは二頭とも上半身を覆う毛を逆立てておびえている。セトはまずはこの二頭を落ち着かせてやらなければ、と考え、御者台の上に置かれた手綱に手を伸ばした。ガンファが荷台の上からでも操れるように長めに作ってあるので、セトも荷台の上からつかむことができる。

 だが、ラグスの扱いになれていないセトは、眼前の狼が一歩踏み出したのを見た拍子に、手綱を思い切り引っ張ってしまった。

 急に刺激された二頭のラグスはパニックとなり、けたたましい鳴き声をあげると一目散に駆けだした!

「うわあっ」「きゃっ」

 二人の悲鳴を置きみやげにして、獣車も猛スピードで走り出す。意表を突かれた狼もあわてて追いかけるが、なりふり構わず全速力のラグスにはかなわず、どんどん引き離されていく。

「シイカ!だ、だいじょっ、うぶっ!?」

「・・・・・・!」

 獣車の二人は振り落とされないようにするのが精一杯で、セトの声にもシイカは答えられない。ただでさえ街道をはずれて整地されていないところを走っているので揺れもひどい。迂闊にしゃべると舌を噛みそうなので、それ以上は口を開くこともできなかった。

 セトはそれでも何とかしてラグスたちを落ち着かせようとするが、いくら手綱を引いてもラグスたちは何の反応も示さず、ひたすらに全速力で駆けている。賢いラグスは落ち着いているときなら手綱を引かなくとも、声による合図だけで制御できるのだが、今は何を言っても聞いてくれそうになかった。


 結局ラグスたちはそれから一クラム(約三〇分)ほどは走り続け、いよいよ消耗しきったところでようやくセトの制止を聞き入れた。

「ひどい目にあった・・・ここ、どこだ?」

 セトは辺りを見回す。ラグスたちは森から離れようとはしなかったので、一見して景色はあまり変わらない。

 狼たちの姿は見えない。どうやら逃げきったようだった。隣ではシイカが身を起こしていた。彼女が守っていたおかげで、食料などの荷物も飛ばされずに無事だった。

 だが、ガンファとは完全にはぐれてしまった。現在位置は分からないが、森沿いに戻れば先ほどの位置まで戻ることはできるだろう。ただ、ラグスたちは疲れてヘたり込んでしまっているし、また狼に出くわさないとも限らない。

「ガンファは大丈夫かな・・・」

 一つ目の巨人である魔族のガンファは、その気になって戦えばかなり強そうだ。狼ぐらいは撃退できるかもしれない。だが、セトにはガンファが何かと戦っている姿が想像できなかった。彼はとても心優しい。

「少し休んだら、戻ってみよう。ガンファもこっちを探しているだろうし」

 シイカに声をかけた、そのとき。

 森から小さい何かが飛び出してきた。

「魔物!?」

 セトが声を上げる。突如として二人の視界に現れたのは小鬼だった。

 小鬼は個体ごとの知能に差があり、人の言葉を解するものもいれば解さないものもいる。そのため魔族とも魔物とも言われるが、たいていは知能の高い個体に率いられて洞窟などで集団生活をしているか、命令されたことには忠実なので魔族に小間使いとして仕えていることが多い。

 いずれにしても、こんな森のはずれに単独でいることは珍しい。

 小鬼はセトたちに気づくと、顔を醜悪にゆがめてこちらを睨んだ。簡素なものではあるが革製の胸当てを身につけていて、手には手斧を持っている。よく見ると、背中には矢が一本突きたっていた。

「戦いがあったのか・・・逃げてきたのか?」

 セトは戦慄を覚えた。ただでさえ小鬼は好戦的なところがある種族だ。まして負傷しており、明らかに興奮している。

 案の定、小鬼はこちらを敵と見なしたようだった。手斧を握りなおし、こちらには分からない言葉でキィキィと何事か喚いた。

「シイカ、後ろに下がって!」

 二人はまだ荷台の上にいる。ラグスを走らせればまた逃げられるのではないか、と思ったが、二頭のラグスは昨晩から水も飲まずに走り通しで、加えて先ほどまでの全力疾走の疲労から回復していない。小鬼には気づいていても、ヘたり込んだまま立ち上がる様子もなかった。

 セトはシイカを背中にかばいながら後ずさり、荷物と一緒に置いてあった剣を手に取った。グレンデルから託された長剣を鞘から抜き、かつて教わったとおりに正眼に構える。

 練習用の木剣とは違う、真剣の重みが両腕から肩にかけてずっしりと響く。小鬼はこちらが武器を持ちだしたのをみて少したじろいだ様子だった。

 こんなに早くこの剣を抜くことになるとは思っていなかった。かつて父が使っていたと教えられた剣は、一般的な成人用の長剣からすると少しばかり短い。だが成長途中のセトからすればそれでも長く、持ちなれていないこともあって構えているだけでも負担がある。

 できることなら、このまま逃げ出してくれないだろうか──そんなことを考えた瞬間。小鬼が手斧を投げつけてきた!

 予備動作がほとんどなく、不意をつかれたセトはあわてて身をよじってなんとか直撃を逃れた。手斧はセトの服の右肩部分を斬り裂き、そのまま森の中へ消えた。

 その間に小鬼は一気に間合いを詰めると、荷台の上に飛び乗ってきた。「くっ、この!」セトは剣を振るったが、頭に血が上って構えも何もない。大振りになった上、剣に重心をとられて体勢を崩してしまった。

 次に小鬼をみたとき、そいつは少し離れた位置で身を沈め、こちらに飛びかかろうとしていた。武器は持っていないが、長く伸びた右手の爪は、人間の喉笛などやすやすと引き裂けそうだった。

 こんな形で、あっさりと死んでしまうのか──。

 セトがそう思ったとき、小鬼が予想しなかった方へ飛んだ。こちらへ飛びかかってくるかと思いきや、真横へ飛んだのだ。さらに、ふらふらと荷台の縁に向かうと、そのまま下へ落ちてしまった。

 あわててセトが様子を見に行くと、小鬼は荷台の下で息絶えていた。

 よく見ると、こめかみから矢が突きたっているのが分かった。おそらく、こちらへ飛ぼうとした瞬間に矢を受けたのだ。

 そのとき、セトの背後の森から物音とともにまた何者かが現れた。今度は何だ、とセトはまた剣を構えたが──。

「あんたたち、大丈夫!?」

 聞こえてきたのはこちらを気遣う声だった。

 現れたのは女性で、見た限り人間のようだった。小柄で、セトたちとそれほど差のない年頃に見える。動きやすさを重視した金属製の胸当てを身につけていて、腰の左右にはそれぞれ小剣を帯びていたが、今はどちらも鞘に収めたままで、手に持っているのは弓だった。おそらく、小鬼を射抜いた張本人であろう。

「マーチ、しとめたのか?」

 セトがどう答えたものかと戸惑っていると、続いてもう一人が森からでてきた。こちらは男性で、やはり人間のように見える。女性よりはだいぶ年上に見える。二〇台後半というところだろうか。人間だとすればかなり大柄といえる体格で、背中にはその体格に見合った大剣を担いでいた。

「何とかね・・・。あのまま逃げに徹されたら危なかったけど。この人たちがいて、ある意味助かったわね」

 マーチと呼ばれた女性は大男に向かって片手をあげて答えた後、こちらに向き直った。

「それで、あんたたちは何でこんなところに?よく見たら二人とも子供だし・・・。腕が立つわけでもなさそうだし」

 最後の言葉は先ほどの戦いぶりを見てのことだろう。小馬鹿にするような言い方に、セトは助けてもらったことも忘れて思わず言い返した。

「そっちだって子供じゃないか」

「なんですって!?」

 セトの声は小声だったが、マーチは聞き逃さなかった。目尻をつり上げて荷台に詰め寄ってくる。そのまま乗り込んできそうな勢いだ。

「腕が立てば、子供だろうと関係ないでしょ!剣に振り回されてるような奴にそんなこと・・・」

「まあまあ」

「ちょっと、はなしなさいよ、ユーフォ!」

 大男・・・ユーフォがマーチの首根っこをつかむと、まるで猫を持ち上げるようにしてマーチを荷台から引き離した。

「ごめん、マーチは子供扱いされるのが大嫌いなんだ。まぁ、君らをおそっていた小鬼をしとめたのはこの子だし、悪く言わないでやってよ」

 ユーフォに諭されて、セトは自分が無礼を働いたことに気がついた。あわてて姿勢を正し、頭を下げる。

「あっ・・・ご、ごめんなさい。助けてくれて、ありがとうございます」

「ふん」

 マーチはそっぽを向いたままだ。

「やれやれ・・・。あ、僕はユーフォ。むくれてるのはマーチ。君たち、人間だよね?どうしてこんなところに、ふたりでいたの?」

「僕はセト。こっちはシイカ」セトがまとめて自己紹介をする。シイカは軽く頭を下げた。

「もうひとりいるんだけど、はぐれてしまって・・・?」

 そこまでしゃべったとき、セトは突然めまいを覚えた。初めて真剣を使って戦った緊張が解けたからだろうか。

 だが、明らかにそうではなかった。セトは腰が抜けたように突然しりもちをつくと、そのまま仰向けに倒れてしまった。

「セト・・・?」シイカが何事かとセトをのぞき込もうとしたが、いつの間にか荷台にあがってきていたマーチがそれを制した。

「ちょっと、見せて!」すでに気を失っているセトの身体を見回して、右腕の袖が裂けているのをみると、おもむろにその袖をめくりあげた。

 セトの右腕は赤黒く腫れ上がっていた。後ろで見ていたシイカが息をのむ。

「やっぱり・・・斬られてたのね!何で言わないのよこいつ!」

 傷自体はかすり傷のようなもので、出血もほとんどしていない。おそらくセト自身気づいていなかったのだろう。

「な、なんで・・・」

「毒よ!小鬼が持っていた斧!」

 おそるおそるつぶやくシイカに怒鳴るようにしながら、マーチは自分の腰に帯びている小剣の片方を抜いた。ほぼふさがっている傷口を切り開くと、どす黒く変色した血が流れ出す。マーチは舌打ちすると、躊躇なく傷口に吸いついた。毒を含んだ血を吸いだし、吐き捨てる。何度か繰り返したが、やがて顔を上げた。

「だめだ、結構回っちゃってる。毒消しがないと・・・」

 マーチは動きを止めてしまった。ユーフォも顔をしかめたまま動かない。ふたりとも、毒消しは持っていないのだ。

「どうしよう、とにかく里に・・・」

「それはダメだ。外のものを入れるのは・・・。それに、里の物資だってギリギリなんだ。余分な薬草が残っているかどうか・・・」

 シイカはふたりのやりとりを見ていることしかできずにいたが、ふと思い立って声を上げた。

「そうだ、薬草なら!」

 ガンファは薬草師だ。本人はこの場にいないが、薬草自体は荷物の中にあるかもしれない。

 祈るような気持ちでガンファの私物が入っている袋を開けると、案の定薬草がたくさん詰まっていた。

 思わず安堵したシイカだったが、すぐに困り果てることになった。たくさんの薬草は、どれが何に効くものなのかさっぱりわからなかったのだ。

 薬草は小分けされて瓶や袋に入れられてあり、すぐ使えるよう調合済みと思われるものもいくらかあったが、どれが何に使えるとはどこにも書いていなかった。ガンファ本人にはすぐわかるのだろうし、薬草師ならわかるのかもしれないが・・・。

 シイカは一縷の期待を込めてそれらをマーチとユーフォにも見せてみたが、やはりふたりともどれが毒に使える薬なのかはわからなかった。

「やっぱり里につれていこう」そう言ったのはマーチだった。「里には薬草師がいる。この中に毒消しがあれば、里の物資を使わなくてもいいでしょ」

「だが・・・」

「このままじゃこいつ、死んじゃうよ!人間を見殺しになんてできないでしょ!」

 ユーフォは渋っていたが、マーチの説得にやがて折れたようだった。

「・・・そうだな。見殺しにはできん」

「そうと決まれば、急いでいくよ!・・・って、何こいつ?」

 ユーフォも荷台に乗り、御者台に向かったマーチは、そこで初めて荷台につながれたラグスに気がついたようだった。

「これ、魔物・・・?なんでこんなのが繋がれてるの?そもそも、いうこと聞くの?」

「馬と同じように扱えば、大丈夫だって言ってた」

 戸惑うマーチだったが、シイカにそう言われたことと、一刻を争う事態でもあることで、迷っている暇はないと判断したようだった。

「ええい、もう・・・!掴まっててよ!」

 マーチが手綱をぴしゃりと鳴らすと、ラグスたちはまだ疲れた様子ではあったものの、非常事態であることを察したのか、文句も言わずに走り出したのだった。


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