最終章 賜死の朝
内廷の広場——
外と後宮を繋ぐ大門の扉はしっかりと閉まっている。
朝の空気は刺すように冷たく、まだ薄暗い空に、雲が低く垂れ込めていた。
玲瓏は、自分で最後に選んだ衣の裾を整え、纏足を解いた足のまま、前へと歩いた。
黒髪がさらさらと流れる。
かつて競い合った後宮の女たちは、顔を伏せ笑う者も、目を逸らす者もいたが、玲瓏はその一人ひとりの視線を避けようとはしなかった。
後宮の広場の上段には景燦帝がいる。明珠皇后もいる。
誰もが息を潜め、玲瓏の最期を見届けようとしている。
誰かが小さくすすり泣く声が聞こえた。
琳貞の声によく似ている気がするが、前だけを見つめる玲瓏にはそれが誰のものかは分からない。
風が広場を吹き抜けるたびに、居並ぶ女たちの衣擦れの音だけが、やけに大きく響いた。
景燦を見上げる。
だが、その顔を見ても、もう縋りつきたいという気持ちも、浮かばない。
どうして私を選んでくれなかったの——。
(私を選ばなかった手に、価値はない。 選ばれなかった私の手に、価値はない。)
選ばれなかった手で、膳に置かれた毒杯を掴む。
玲瓏は最後に毒杯を高く掲げ、静かに微笑んでみせた。
それは媚びるための笑みでも、誰かに許しを乞うための笑みでもない。
ただ、自分自身のためだけの笑みだった。
風が吹き、淡い緑色の裾がひらりと揺れた。
黒い杯に玲瓏の薄赤色の唇が寄せられる。
蘇玲瓏という女が、誰かに選ばれることを望み続けた人生の果てに、最後の最後で初めて、自分自身を選んで死んでいった。
——終




