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9話

 D,G,Oでは2年目を迎えた現在、各地で大規模なイベントが発生していた。






 初級エリア、レイヤ平原。ここはアバター設定後のプレイヤー誰しもが最初に訪れる場所となる。


 のどかという雰囲気が似合うこの平原の近くにはちょっとした村がいくつも存在し、辺りに生息する魔物は数は多くても非常に弱く、NPCや初心者プレイヤーである大人から子供まで様々な人物の往来する姿が見れる平原だ。


 しかし今日この時は違う。平原にはスライムといった通常の魔物は一切おらず、逆に初心者とは思えない装備で身を固めたプレイヤーが大勢姿を見せていた。




「……見えた! きたぞ!!」


「お、おい。なんだありゃ?」


「えっ……何あれ!?」




 戦士と呼べる風貌の男性プレイヤーが叫ぶと、周りからは困惑した声があがった。普段のレイヤ平原では見ることのない存在が多数その姿を現したからだ。その存在は明らかに魔物と呼べるものではなく、その容姿は "お菓子" と例えるのが正解だろうか。


 その存在が近づいてくると平原には次第に甘い匂いまでも漂い始め、思わず美味しそうといった感想を頭に浮かべた者も多かった。それも、その存在の全貌が明らかになればとてもじゃないが美味しそう等といった感想を抱くことは出来ない。皆一様にしかめっ面となる。


 近づいてくる存在はワッフルやケーキといったお菓子達。だけど何かが "変" だった。近くで見ればそれは明らかで、どのお菓子達も体と呼べるお菓子部分から "手や足" を生やして歩いている。


 美味しそうに見えていたのも気のせいだ。見れば色合いもおかしく、ショートケーキのような姿の存在その上部にあるイチゴのような物はまるで心臓のように不気味に脈動している。ワッフルのような姿の存在もよく見れば凹み部分には無数の瞳が存在していて目が合った女性プレイヤーが悲鳴をあげた。


 そんな存在を前にしては尻込みするプレイヤーも出てくる、初心者プレイヤーだ。確かに初心者プレイヤーにいきなりあんな生き物を相手にするのは酷というものだろう。迫りくる不気味なお菓子にプレイヤー達は攻めあぐねていると……




「初心者は下がれ! ……お菓子だけに "おかしい" ってか? ふざけるなよ、化物が!」




 手に持つ斧、バトルアックスを持った戦士プレイヤーはそう叫ぶと駆け出した。続いて駆け出すプレイヤーが多数。ベテランプレイヤー達だ。彼らはこのD,G,Oの世界でそれなりの修羅場を潜り抜けてきた者となる。このお菓子のような存在にも臆することなく立ち向かっていった。




「このショートケーキ野郎が! くらえっ!」




 先頭を走る戦士プレイヤーがショートケーキ風の化物と対峙すると、振るわれたバトルアックスが上部に存在するイチゴへと襲いかかる。おそらくここがウィークポイントと踏んだのだろう。


 男のバトルアックスがイチゴに食い込むと、ケーキはその見た目からは想像も出来ないおぞましい雄叫びをあげた。男の狙いは正しかったようだ。かなりのダメージとなったことが分かると、男はやってやったという会心の表情を浮かべるが、しかし……狙いは良くとも男は見誤った。このケーキの実力を。


 ケーキは体から生えた足で、その容姿からは想像もつかない鋭さの前蹴りを放つ。男はこれを防ぐことが出来ず、直撃を受けると錐揉み状態に空中へと飛ばされ直後、姿が消滅した。男は今の一撃で "死亡した" のだ。その様子に後続から続いていたベテランプレイヤー達の足が止まる。




「こ、こいつら見た目より強いぞ! 気をつけろおおおおおお!」




 誰かの掛け声が合図となり、プレイヤーとお菓子な化物との戦の火蓋が一斉に切られた。









 ベテランプレイヤー達は果敢に戦っていたが、それでも状況はすぐにプレイヤーが劣勢となっていく。しょうがないことだった。このレイヤ平原は初級のエリア。ここに集まったプレイヤーは初心者が多く、ベテランプレイヤーもいるといってもその殆どが "中級" もしくは "上級" といった者達。


 このお菓子な化物はランクにしたら "超上級" であった。


 かなりの人数がいたプレイヤーもその数が目に見えて減っていく。プレイヤーは復活が出来るけど、死んだ後にこの戦場へと再び戻ってくるプレイヤーも減っていた。諦め、リタイアというやつになる。そのくらいお菓子な化物とプレイヤーとの間には絶望的な実力差があった。


 ところで、ここレイヤ平原は別名 "始まりの平原" と呼ばれる場所になる。


 この始まりというのは "アバター作成後のスタート地点" という意味も含まれているけど "もう一つの意味" もあった。それは……死亡した際の "復活地点" もここであるからだ。直後 "1人の人物が" レイヤ平原へとやってきた。




「いてて……全く。戦う前の "宣言中" に攻撃をしてくるとは何て卑怯な奴らだ……ん? この場所にも現れていたか "魔物" め!」




 男の名前は "フリード・シャイン" 。フリードは平原中央でプレイヤー達と魔物が交戦していることに気付くとすぐに駆け出しスキルを発動すると、フリードの足を光が包みその速度が爆発的に上がる。


 圧倒的な速度で平原中央へと駆け寄ったフリードにお菓子な化物は反応が出来ていない。攻撃をするには絶好の機会だ……にも関わらず、フリードは何を思ったのか先制攻撃を仕掛けることもなくその場で足を止めると "目を閉じ" おもむろに持っていた剣を天に掲げた。




「僕の名前はフリード。フリード・シャイン! 悪を滅するのが僕の仕事……見せてやる。光の剣技を、そして滅せよ! 人々を苦しめる悪しき魔物め! はあああああああ!!」




 大きな声でそう言い放ったフリードの掲げる剣が眩い光に包まれる。それはまるで悪しきものを討ち払う聖なる輝き……なのだろうか。よく分からないが、その光量はお菓子な化物達の注意を引くのには十分であり、プレイヤーと交戦中であった化物もフリードに注目していく。




「あの少年に助けられた……のか?」




 突如、対峙していた化物の注意がそれたことに苦戦していたプレイヤーは助かったと呟くも、その顔はすぐに訝しい顔となる。


 化物の視線の先には輝く剣を空へと掲げる少年が一人。あの少年に自分が助けられたのは間違いない。分からなかったのは、注意を引いた少年はどう見ても "無防備" だったからだ。


 このプレイヤーの危惧する通り、フリードの目前へと難なく接近した化物の1体が強力な前蹴りを繰り出した。いまだ目を閉じた状態の少年はこれを回避する所か攻撃されていることすら気付いていない様子に、その光景を眺めていたプレイヤーはこの後の少年の無残な姿を思い浮かべたまらず顔を背けようとした、その時――




「いつもいつも、あなたは馬鹿なんですか?」




 そんな言葉と共に化物により放たれた前蹴りは、どこからか現れた "少女" の持つ刀によって受け止められていた。




「…… "アオイちゃん" ? どうしてここに!?」




 現れた少女はギルド白夜所属の "アオイ・ヤシマ" 。聞き覚えのある声にようやく閉じていた目を開けたフリードは突如現れた "仲間" に目を丸くして驚くと、アオイは「うわ……何ですかこれ。気持ち悪い」の言葉と共にフリードを無視して化物の蹴りを刀で押し返すと同時に一刀両断にした。


 血振りをするアオイによって払われたお菓子のカスは消滅し、するとその場には "うずまき模様の棒付き飴" が一つ。




 素材 2周年記念ペロペロキャンデー


    子供が好きそうな形をした飴。

    舐めて美味しければ良いことがあるかも。




 落ちた飴を手に取り説明を見たアオイはげんなりとした様子で飴をインベントリへと収め、そして状況の分かっていないだろうフリードへと睨むような視線を向ける。




「私とジェイクさんの2人はフリードさんの元へ援軍に向かいましたが、私達が到着するとそこではまた "それ" をやってて "死んだ" あなたの姿を目撃しました。今と全く同じ状況ですよ。馬鹿なんですか? あ、いえ。あなたが馬鹿なのはもう周知の事実でしたね、何度も尋ねるようなことをしてすみません。私がそんな "馬鹿" の元へと再びやって来たのは一緒にいたジェイクさんから……」




 アオイの歯に衣着せぬ物言いにフリードは非常に渋い顔となるが、一先ずアオイの話を大人しく聞いていく。


 アオイとジェイクの2人は白夜城から "勇者君" もといフリードの元へと援軍に向かった。2人がフリードの元へ向かった理由としては、フリードのいた "山岳地帯" は初級エリアだった為、強いプレイヤーが少なかった場合の戦力不足を補う目的と、不安要素の塊であるフリードの "悪い癖" が出た場合、単純に彼がまずいだろうと思ったからだ。


 案の定、山岳地帯ではプレイヤー側が劣勢となっていて、そして時すでに遅しといった状態で "無防備な状態を攻撃されあっけなく死亡するフリード" の姿が2人の目に映る。


 唖然とするアオイに、額を手で覆いながら呆れたジェイクから『予想はしてたが……あのアホ勇者め。まぁこっちはいいからアオイちゃんは向こうに行ってあげてくれ』そう言われたアオイがこの場へと駆け付けたのだった。




「馬鹿な! アオイちゃんはジェイクさん1人をあの場所に置いてきたというのか!?」


「……滑稽ですね。ジェイクさんはあなたみたいな "馬鹿" に心配される人じゃありません」




  "馬鹿" という言葉をやたら強調するアオイに、いくら女の子相手でもいい加減我慢の限界であったフリードが物申そうとした所でアオイが手の平をフリードへ向け待ったをかける。




「無駄話はこの辺りでやめておきましょう」


「む……確かに」




 どこか釈然としない様子のフリードであったけど、アオイに言われ辺りを見ればそこにはもう誰一人プレイヤーの姿はない。あるのはこちらを不気味に見つめる色とりどりのお菓子な化物のみであった。




「流石に数が多いので、今度は "真面目に" お願いします」


「僕はいつでも真面目だ!」




 アオイは手に持つ刀の切っ先を下げ構えると、フリードも同じように手にした剣をお菓子な化物へと向け構えた。

今日はもう1話連続で投稿します。

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