偶然拾った不遇職・犬でチート無双~隣のじじいに邪魔されたけど、最期の灰まで無駄にはしません。強欲じじいに逆転ざまぁ
じじいは激怒した。
彼の暴虐邪知な隣のじじいをどうにかせねばならぬと決意した。しかし、復讐は復讐を生む。復讐の無益を悟ったじじいはシロの言葉通りに作成した粉を枯れ木に撒くことにした。
じじいは駆け引きが分からぬ。
ただ畑を耕し、細々と暮らしていた気のいいじじいは、世間の荒波にもまれることなく純真無垢にすくすくと育っていた。ばばあに先立たれ、一人無聊をかこっていたじじい。そんな彼はある日、運命の出会いを果たした。一匹の犬を拾うことになったのだ。
それはこの世界を管理する神が送り込んだ、固有スキル『ここ掘れワンワン』を持った、正直なじじいへの贈り物。そんなことは露とも知らぬじじいは、つぶらな瞳で訴えかけるその犬のあざとさに逆らえずに連れ帰っただけなのだが。
だが、犬との暮らしはじじいに思いがけぬ心の安らぎをもたらした。いくらでも湧いてくるノミには辟易したが、そんな煩わしさを埋めて余りあるほど、じじいは救われたのだ。
「わしも、寂しかったんじゃのお」
ふとつぶやき、空を見上げるじじい。漆黒の夜空を所狭しと彩る、無数の星々。星と星を線でつなぎ、そこにばばあの面影を見出して、記憶の中にある美しい姿に目を細めた。隣では犬が様子を伺うようにじっと見上げている。
(いや無理があるだろ)
犬の考えなどじじいには分からない。彼にはただ犬が鼻を鳴らしたようにしか聞こえない。
「よしよし、お前も分かってくれるか。ばあさんの美しさはいつまでも心の中に、じゃよ」
ブルブルブルブル。
悪寒を覚えた犬は全力で首を振ったが、人間にはその動きもただの犬の習性にしか見えない。伝わらないことに苛立ちを覚えた犬は、意志を伝えようと尻尾を振った。
「そうかそうか。喜んでくれるか。お前にも見せたかったのぉ」
犬は諦めた。
『人間ならば誰にでも、現実のすべてが見えるわけではない。多くの人たちは、見たいと欲する現実しか見ていない』
古代の名将が残した現実は、洋の東西を問わず全ての人間に当てはまるものらしい。また一つ賢くなった犬は、ワンワンと吠えた。
「おぉ、同意してくれるか。お前は本当に賢いやつだのう」
そう言って頭を撫でられ、犬はコミュニケーション手段をひとつ、手に入れたと思った。二回吠えるのは肯定的な意思を表してるととられるらしい。もう一度、ワンワンと吠えた。
「ほほほ。かわいい奴じゃ。そういえばまだ名前をつけていなかったの。いつもお前と呼ぶのもなんじゃし、そろそろ名前をつけてやらんとな」
ワンワン。
じじいはじっと犬を見ている。犬は自分の見た目には自信があった。中型犬ながらも引き締まった体躯にぴんと尖った耳、つぶらな瞳にすっと通った鼻筋。これだけ条件が整っているのだから、相応しい名前をつけてくれるだろうと。毘沙門なんかがいいな。そう期待していた。
「そうじゃ、白い毛並みだからシロにしよう。お前にぴったりじゃの」
ワン!
そのまんまやんけ! そう思った犬は大きく吠えた。二回で肯定なのだから、一度なら否定になるだろうと。
「そうか、気に入ってくれたか。よしよし、シロ。お前は今日からシロだ」
じじいは手強かった。純粋培養された人間は、ここまでポジティブになれるものかと、シロは戦慄したのだ。首をすくめ、鼻を鳴らす。
「ほほ。そんなに喜んでもらえると一所懸命名前を考えた甲斐があるのぉ」
考えてそれかよ。そう思ったが、もはや何も言うまいと考えたシロは地面を見ている。アリがせっせと餌を運んでいた。シロは悟りを開きつつあった。
————
シロはそのつぶらな瞳を期待で輝かせ、じっとじじいを見つめている。野菜を切り、ウサギの肉をさばいてせっせと湯を沸かす姿に、否が応でも心が弾む。これは神の犬シロにとっても予想外のことだったが、じじいの作る食事は表現のしようがないほど美味だったのだ。
一日二回、一緒にとる食事はシロにとって数少ない楽しみのひとつだった。
「ほれ、できたぞ」
木の器に盛られた食事が床に置かれるが、頭のいいシロはすぐには飛びつかない。別に教えられたわけではないが、選ばれし犬を自認しているシロにとって、何も教えられていない凡百の同族と同じように振舞うのはプライドが許さない。
自分で自分をしつけ、本能を抑えられるようになったシロは、タクトが振られるのを待つオーケストラのように行儀よく待つ。
じっと見つめ合うじじいとシロ。間に漂う緊張感。刹那が一瞬に、一瞬が一秒に、一秒が一分に引き延ばされるようなにらみ合い。
おい、いい加減にしろよ。
さんざん焦らしプレイで弄ばれた後、じじいの「よし」という言葉でようやく食事にありつけた。気分的にはがっつきたいところだが、誇り高きシロは落ち着きはらった体を装い、行儀よく口をつけていく。
「よしよし、いい子じゃ。たんとお食べ」
そう思うならさっさとよこせよ。抗議の意味も込めて尻尾をピンと伸ばし、黙々と食事を楽しむシロ。一口食べるたびに脳内では歓喜のラッパが吹き鳴らされる。美味。他に言いようがない。好意百パーセントで野菜をたっぷり入れられた食事の中から玉ねぎを弾きながら。生をつなぎとめるための本能的行動であるにもかかわらず、同時に愉悦を感じることができることに感謝はしている。
「相変わらずお前は玉ねぎがきらいなんじゃのぉ。仕方のない奴じゃ」
無知とはいえ平気で犬に毒を盛るじじいに若干の殺意を覚えながらも、寛大な心でそれを許すシロ。感謝と幸福とわずかな殺意。犬とはいえその心は人のそれと変わらない。
シロの食事を見届けてからようやく自分も食べ始めるのも、いつものじじいの優しさだ。そっとそばにより、ぺこりと頭を下げた後、じじいの膝を三回、タップした。三ツ星。
なぜか毎食混入している玉ねぎサバイバルを乗り越え、栄養いっぱいの食事と愛情いっぱいの散歩。充実した毎日を過ごしていたシロからは、拾われたばかりのころのみすぼらしい面影はすっかり消え失せていた。毛並みも良くなってつやつやと輝き、体も成犬らしく大きくたくましくなった。その気になれば、ひもでつながれたじじいを引きずり回せるほどの力があると自負している。散歩に関しては主従逆転だ。
今日も自分が望む方へと引っ張り回し、満足するまで散歩を堪能。へとへとになっているじじいを衛兵のごとく付き従え、意気揚々と帰還する姿はまるで凱旋将軍。シロの脳内では沿道を埋め尽くす熱狂的な群衆も再現されている。舞う花弁と歓呼の声。気分上々得意満面。
「最近おまえは犬らしくなくなってきたのぉ」
疲れ果て、草履を脱いだ後にへたり込むじじいを見て、さすがのシロも少しだけ良心が痛んだ。犬とて恩義は感じる。ここまで大切に育ててもらった恩を返したい。じじいが疲れ果てた原因が自分にあるということをすっかり忘れ、シロは頭を悩ませた。
シロがじじいの前に姿を現す前、神様と名乗る声に授かった力がある。
【ここ掘れワンワン】
意味が分からないと思った。いきなりここ掘れと命令されても、どこを掘ればいいのかさっぱりだし、何を掘ればいいのか分からない。自分が掘るのか、じじいに掘らせるのかも分からない。力を与えるなら説明責任を果たせよ。「ステータスオープン!」なんて犬が言えるわけねーだろ。シロは心で毒づいた。
幸いシロは犬なので匂いを嗅ぐのは得意だ。自分の生態を思い出したシロは、何を見つけてあげれば喜んでくれるかを必死に考える。掘れというのだから土の中からだろうし、だからといってモグラやカブト虫の幼虫を掘り当てても喜ぶとは思えない。食べ物なら喜ぶかもしれないが、植えられている野菜を掘り出すなんてただの畑荒らしにしかならないだろう。きっと怒られる。
そこでシロは思い出した。じじいは普段、畑で採れた野菜と引き換えに他の食料と交換しているが、たまに金属でできた丸いものと交換していたことを。確か銭と呼んでいたそれは食料と交換できるのだから、きっとそれなりの価値がある物に違いないと思ったシロは、じじいの懐に鼻先を突っ込んだ。
「な、なんじゃあ⁉」
突然のじゃれつきが不意打ち過ぎたのか、じじいは吃驚してひっくり返ってしまった。その拍子に着物の前合わせがはだけたので、さらに鼻を突っ込んで臭いを嗅ごうとした。いつも懐から銭を取り出していたのを見ていたからだが、じじいの匂いを直接嗅いだシロは悶えた。たまにしか風呂に入らない上に加齢臭が重なって、犬の嗅覚にはかなりきつい。普通の犬なら喜ぶのかもしれないが、シロは自分を高貴な犬だと思い込んでいる。シロにとっては自分の匂いこそが至高の香りであり、同じ犬であろうが人間であろうが他者の匂いはくさいと思ってしまうのだ。
シロはえずいた。
だが諦めるわけにはいかない。決死の覚悟を決めたシロは、毘沙門天の加護を祈りながら再度特攻。目標に迅速に到達するため、素早く懐深く飛び込むシロ。襲い掛かる臭気。
「あひゃひゃひゃ! これ、何をする!」
じじいは呑気に笑っているが、シロにとっては真剣勝負。目標へと接近し、一呼吸で匂いを吸い込んで早急に離脱。無事生還した喜びを噛みしめ、深呼吸をする。
オロロロロロ。顔に匂いが移っていた。
——はっ! 気が付いたらじじいは寝ていた。どうやら気を失っていたらしい。自分の匂いのせいで愛犬が気絶したというのに、何も知らずに呑気なものだ。でも時間が経ったおかげで顔に移った残り香はすっかり消え失せている。そのことにホッとしつつも若干の怒りを覚える。じじいの着物の袖に、そっと尻をこすりつけておいた。目には目を、臭いには臭いを。
入口の扉を鼻先で器用に開け、足音を忍ばせて外に出た。とんだ災厄に見舞われたものの、目的のブツの匂いはしっかりと覚えている。さすが選ばれし犬と鼻高々に過大な自己評価をしながら、家の周囲を嗅いで回るシロ。銭とやらが地面から生えているものなのかは知らないが、こんなスキルを与えたんだからそこら辺は神様が責任を持つだろう。とにかく嗅いだ。嗅いで回った。ひたすら探した。
見つからない。
それはそうだろう。食料と交換できるような貴重なものが、そこら中に埋まっていたら誰も働かなくなってみんな穴を掘っている。きっとカブト虫の幼虫を見つけるよりも難易度は高いだろう。神様もとんだ無理難題を押し付けてくれたもんだ。不遇職、犬。
一晩探し回ってようやく臭いの痕跡を軒下で見つけたが、地球を七周半するくらいの距離を歩き回ったので疲れた。地球の広さは知らないが。これからさらに掘り出すとか冗談じゃない。待遇改善を要求する。というわけでシロは寝た。明日こそは、恩返しをしてみせよう、そんなことをぼんやり考えながら。
翌日、朝食を待つシロ。心を落ち着かせ、高貴なる犬としての振る舞いを心がけ、優雅に佇んではいるがちぎれんばかりに振られた尻尾は誤魔化せない。毘沙門天の加護を戴いていても、生物としての本能には勝てないのだ。
「ほれ、できたぞ」
今日も始まるミリ〇ネア的なにらみ合い。そろそろ勘弁してくれませんかね、みのさん。そう思ったころに「よし」と言われたので。一番上にこれ見よがしと乗せられた玉ねぎを避けて食らいついた。
「ジュテーム!」
シロは感極まってそう叫んだつもりだが、当然ながらじじいには犬が吠えたようにしか聞こえない。だがちゃんと二度吠えたので、否定の意味にはなっていないはずだ。
「なんじゃ、今日の飯はいまいちじゃったか。いつもより玉ねぎを多めに入れたんじゃがの」
シロは後悔した。味は確かに上がっているのに、致死力のほうも一緒に上がっていてはたまったものではない。いつもより慎重に玉ねぎをより分けながら、優雅な食事タイムを堪能していく。いい加減誰か、このじじいに犬に玉ねぎは毒だと教えてくれないものだろうか。そういや誰かが訪ねてきたこともほとんどないし、友達がいないのかも。シロはそっとしておくだけの優しさは持っていた。
今日の飯は確かに玉ねぎが多かった。空になった容器には、器用に鼻でよけていった玉ねぎの残骸が山と積まれている。毎度のことで慣れたとはいえ、このじじいの玉ねぎに対する並々ならぬ情熱はいったいなんだろうか。どうやらシロの命を狙うよう密命が下されているわけでもなさそうだし、人間の行動原理というのはよく分からない。
「相変わらず玉ねぎを大量に残しておるの。わしの好きなものを、大切な家族と分け合って美味しくいただきたいと思ってるんじゃが」
初めて聞いた玉ねぎ混入の真相。まさか善意百パーセントだったなんて……。シロは戦慄をした時のように、鳥肌が立つほど震えた。尻尾も耳もピンと立っている。
「そうかそうか。お前も気持ちだけは分かってくれるんじゃな。これからも苦手克服できるよう、毎食玉ねぎは入れてやるからの。裏の畑に唸るほど生えておるんじゃ」
毒になることを知らないことを横に置いたとしても、何か月もの間毎食玉ねぎを入れ続けるじじいの精神に、動物的本能で恐怖心を覚えたからだ。いくら豊富にあるからとはいえ、頑なに食べない犬に毎日食べさせようとする動機が嫌がらせ以外にもあったことに、驚きを禁じ得ない。もはや裏の畑で玉ねぎを『ここ掘れワンワン』するべきじゃないかと思った。
「あ、思い出した」
シロはここまで来てようやく昨夜、自分が何をしていたのかに思い至った。犬のくせに鳥並みの記憶力をもっていないように思われては沽券にかかわる。そこは今日初めて思い立ったのごとく、素知らぬ顔で恩返しをすることにしよう。
まずは自分の意志を伝えるべく、シロはじじいの膝に噛みついた。
「いだぁ! な、何をするんじゃ!」
もはやじじいとの円滑なコミュニケーションは諦めているので、まず最初はインパクトを与えてこちらに意識を向けさせる。そのままブンブンと尻尾を振っていると、じじいもようやくいつもと何か違うと感じたのか、問いかけてきた。
シロは歓喜した。初めての意思疎通に感動すら覚え、恋しさと切なさと心強さを、小さな胸に溢れさせたシロはそのままじじいを案内すべく、鼻で入り口扉を開け絵外に繰り出した。
「なんじゃ、散歩に行きたかったのか。それならそうと言えばいいのに。よしよし、食後の運動も兼ねて少し歩き回るか」
シロは絶望した。しょせん無理なのだ。相手が普通の人間ならまだしも、こちらの意思表示を全て今自分がやりたいことに変換してしまうポンコツ辞書機能をもったじじいが相手では、どんなに複雑な暗号を産み出したとて全て簡略化されて無味乾燥なものに変えられてしまう。
だが散歩はしっかり堪能した。
——しかし散歩の終わり、自分の使命を決して忘れない名犬シロは、頭の隅に追いやられていた恩返しというキーワードをどうにか引っ張り出してきた。そうしてギリ思い出した記憶を頼りに、軒下に向かって走り出す。家を前にして歩調を早めたシロに、さすがのじじいもついてきた。それを横目に、地面を掘りだそうとするシロ。
「地面めちゃ固っ!」
長年かけて踏み固められ一度も掘り起こされたことのない地面が、犬の詰めごときでたやすく掘り返せるのなら、この世につるはしも鍬も必要ないということだ。ハッキリ言ってこんなの惚れるとは思えない。だけど、シロには神から授かった使命の責任感が少々と、なんとかじじいに恩返しをしたいという気持ちがおおさじ二杯。ここでひいては選ばれし犬の名が廃るという謎のプライドでほとんどが構成され、そこに負けず嫌いというスパイスが調合されていた。
シロシチュー。
そしてその奇妙なレシピは実を結び、日がとっぷりと沈んだころになってようやく目当てのものを掘り出した。掘り出したのは大きなツボ。木の蓋で封がされていたので中身までは分からなかったが、じじいの持っていた銭の匂いはするし、何といっても重量があるのでかなりの量が入っているだろう。これは相当な手柄だぞとほくそ笑みながら、シロは顎が外れそうになりながらそれを軒先に引っ張り出すと、得意げに「ワン!」と吠えた。
だがじじいの姿はなかった。
だが今度こそシロは諦めなかった。道行く雑草を押しのけ、跳ね飛ばし、シロは黒い風のように走った。道行く人を仰天させ、犬を蹴飛ばし、小川を飛び越え、少しずつ沈んでいく月の十倍も早く走った。とはいっても軒先から家の中までのわずかな距離なのでそんなことが起きてはいないのだが、そこは雰囲気というもの。友人の命を奪われかける青年のごとく、メロ……シロスは走ったのだ。
家に入ると、じじいは先に飯を食って横になっていた。シロの分もちゃんと用意されていたが、今は食ってる場合じゃない。じじいの襟首をくわえてそのまま外に引きずり出した。
「痛い痛い痛い! なんなんじゃ、今日はやけに興奮しておるの」
シロはそれでも容赦することなく、軒先まで引っ張り出してきたツボの前でようやく口を放す。どさりと落ちたじじいの前には長年土に埋もれていたためか、すっかりボロボロになったツボ。
「なんじゃ、梅干しでも作ってくれたのか?」
気が抜けた。梅干しが作れるなら犬でも自炊ができるだろ。鼻を鳴らし、木の蓋をひっかいて開けて見ろのジェスチャー。ふふふ、じじいよ。中身を見て震えおののき、我にひざまずきこれまでの玉ねぎ非礼を詫びて許しを請うがよい。そして我は貴様にとって他に変わるもののない支配者となるのだ。
スポン。
シロの無意味なモノローグとは対照的に、ツボにはめられていた蓋は間抜けた音で簡単に外れた。気になるシロも一緒になって覗き込んでみたところ、一番上に乗っていたのは、なんとまばゆい光を放つ黄金色の大判!
「なんじゃこれ」
シロはひっくり返った。当然と言えば当然なのだが、当時の庶民は基本的に銅貨を使って経済活動を行っており、小判や大判などは小切手のようなもので商人同士の高額なやり取りで使う貨幣だった。だから無菌室で蝶よ花よと育ってきたじじいが見たこともないのは当然なのである。
「なんというか、割と大きめのハッピーター……」
「ワンワンワンワン!」
それ以上はいけない。いくらいい加減なやつといえど、踏み越えてはいけない一線というものがある。しかし、幸いだったのは大判小判は最上段に数枚乗っていた程度で、それをめくると普段使うのと同じ銭がぎっしりと入っていたのだ。それを発見したじじいはわなわなと震える。
そして徐々に表情が険しくなり、耐えかねたかのように大声を出した。
「お前……こんなものを盗んできたのか!」
ちげーよボケ! シロは心の中で思いっきり悪態をつきながら、軒下に移動して掘り出した穴を指し示した。
「なんじゃ、その穴は。勝手に家の周りに穴など掘ってはつまづくだろうが!」
察しが悪いにもほどある! そろそろケツに噛みついてもいいだろうか。だが心優しい犬を自称するシロは穴とツボの間を何度も往復し、ここから掘り出したということを主張した。もはや空気を読めないと言っても差し支えのないじじいではあるが、さすがにツボの入手経路は理解できたらしい。先ほどまでの険しい表情は一変してほくほく顔になっている。
「じゃがのぉ。せっかく掘ってくれたのに嬉しいんじゃが、この金色の板は使えないような気がするんじゃ。きっと高価なものに違いあるまいし、貧乏農家のわしがこんなもの持ってたらどこかから盗んできたと思われるじゃろ」
意外にも現実主義だな。シロは思った。でもシロは吠える。
「ワンワン、ワワン!」
諦めんな! 歳がいってるからと終わったみたいに言うんじゃねー。これだけの銅銭があれば、なんらかの商売を始めることができる。そうやって貧乏農家から這い上がり、大手を振って大判小判を使える身分に成り上がるんだよ! なんならそのまま討幕しろ!
そんな思いを込めて何度も吠える。小銭を掘り起こして恩返しというのは、高貴な犬シロにとってはなんとも目覚めが悪いような気がしたからだ。自分が動いた以上、伝説になれ。そんな思いだった。
「そうかそうか。お前もつつましく生きていくほうがいいと思うよな。わしはこれからも身の丈にあった生活をしていくことにするわい」
「ガルルルル……」
じじいに小判。あまりの意思疎通のできなさに、さすがのシロもイラついた。
「なんじゃ、誰か来たのか」
ちげーよ、お前にムカついてんだよ! そう思ったが、次の瞬間、本当に扉を叩く音がした。頭に血が昇ったシロは気がつかなかったが、誰か来ていたらしい。
「はいはーい」
不用心にも銭をぶちまけたまま扉を開けに行くじじい。シロはため息をつきながら、せめて大判小判を隠すようにその上に寝そべった。人を家に入れるとき、大金を置いておくのはやめましょう。防犯意識というものが存在しない田舎の村に苦労するシロ。
「おや、隣のじいさんじゃないか」
「やぁ、すまんね。少し塩を借りようと思って来たんじゃが、そりゃそうとありゃなんじゃ?」
目ざとい隣のじじいは、大半がシロの体の下にあるにもかかわらず、それでもはみ出ている少量の銅銭を見て目を光らせた。取りにきたら食い殺す。シロは心の中で牙をむいた。
「や、あれは今朝うちのシロが掘ってくれたんじゃ。うちのシロは賢いからのぉ」
やめろジジバカ。悪い気はしないものの、いい歳こいたじいさんが自分の犬を無闇に誉めている姿は、他に誰もいない家ではなんだか痛い気がする。ばばあがいなくなったのは仕方がないが、せめて友達くらいいれば違うのだが。
「なんとも賢い犬じゃな! 頼む! 一晩でいいからわしにもその犬を貸してくれんか。知っているかとは思うが、わしの家には古来から海賊伝説があり、わしの持つ山にはその財宝が埋まっているというのじゃ。その名もひとつなぎの……」
「ワンワンワンワン!」
ヤメロバカ。じじいのお菓子発言より危険なワードぶっこんでこようとするんじゃねー。誰でも知ってるからって公有財産じゃねーんだぞ。アイデアや作風、固有名詞にまで著作権はないとはいえ、そこは倫理観とプライドを持て。だいたいなんで山に海賊伝説が残ってんだよ。
危険な会話を阻止したシロがため息をついていると、隣のじじいはさらにしつこく頼み込んでいた。
「分け前はやるから、ぜひ一日だけ貸してはくれんかの?」
なぜか必死なじじい。何が彼をそこまで駆り立てるのかは分からないが、目に入れても痛くないほどかわいがっている自分の犬を、眉唾な理由で貸し出したりはすまい。シロはそう高をくくっていたが、じじいの口からは耳を疑う言葉が出ていた。
「一日だけでいいのか?」
おいコラじじい。自分の愛犬を何だと思ってるんだ。分け前が発生するということは立派な労働。何の資格もなくそんなことをすれば労働者派遣法に引っかかるんだぞ。何度も吠えてシロは遺憾の意を評していたが、そんな政治家のような曖昧模糊な抗議がこの二人の間で通用するはずもなく、じじいは気前よくシロを貸し出すことにしていた。派遣職、犬。
————
「よし、クロ。わしは実は見てたんじゃ。お前が銭の詰まったツボを掘り出すところをな。あのじじいの敷地内にあれだけの銭があるのなら、もっと広い畑を先祖代々受け継いでるうちならもっと唸るほどに埋まってるに違いない。それこそひとつなぎの……」
「ワン!」
いい加減にしろよ。まず第一に名前を間違えている。シロは牙をむいて吠えた。せめて間違えるなら大黒天あたりにしろよ。それと他者のネタをいつまでも引っ張るな。二度も擦ったら読んでるほうも冷めちまうんだよ。
大渋滞するボケに一つずつツッコミをいれながらも、シロは動かずまずは横になった。まず労働条件も整っていない環境で働くつもりはない。派遣先の指示に従う必要はあるが、雇用主はあくまでもじじい。この隣のじじいは派遣社員に対する法的な義務がある。まずはエサ。そして散歩。労働犬が保証されるべき二大権利だ。
「なんじゃ、まずは何か食わせろということか。なんとも強欲な犬じゃの」
強欲なのはテメーだろ。そう思ったが、うちのじじいよりは話が早くて助かる。シロはそのまま待つことにした。エプロンをして台所に立つ強欲じじい。しわしわのじじいに花柄エプロン。意外と似合っていることに、シロは戦慄を覚えた。強欲じじいも随分前に伴侶を亡くしたらしく、料理の手際はいい。男もやればできるということを体現するこの二人のじじいは、世の中の亭主関白に対するアンチテーゼなのかもしれない。
意味の分からないことを考えながら待っていると、やがて料理が出来上がった。強欲じじいはシロの前に器を置くと、自分もさっさと食べ始めた。シロも食べ始めるが、正直そこまで美味くはないと思った。味は薄いし、野菜は生煮え。肉も下処理をしっかりしていないのか、妙な臭みが残っている。シロは食べ終えた後、強欲じじいの膝を一回だけタップした。一つ星。
そして当然のごとく、この村の風習でもあるかのように入っていた玉ねぎは残しておいた。どうなってんだこの村。アフリカケンネルで修行してこい。帰ってこれるか知らんけど。シロは食後ということもあって、散歩を所望していた。ハッキリ言って催している。
「そりゃ、飯は食わせたぞ。さっさとお宝を掘り当てんか。わしは商人の知り合いがおるから、大判小判を掘り当ててもよいぞ」
鼻息荒いよ。てめー二大責務の片方をスルーするつもりか。そう思って吠えたが、やはり言語という人間と犬との大きな壁は超えることができない。せっかく強欲じじいはいい感じだったのに、ここら辺が限界だったようだ。しかたなく立ち上がり、庭に出るシロ。足取り軽く追いかける強欲じじい。シロはあちこち匂いを嗅いで回る。意外なことに、あちこちから該当の香りが漂っている。このじじいの家、本当に何かがあるのかもしれん。そう思ってファーストポイントを掘りあげてみると、金属の塊が姿を現した。じじいの家で出てきたものよりかなり大きい。自信満々のシロがそれを差し出すと、強欲じじいは死んだ魚のような目で答えた。
「それはいらなくなった鍬の先じゃ。折れたから埋めたんじゃよ」
ややこしいことするんじゃねー。シロはそう思ったがこればかりは仕方のないことだと思い、元に戻した。ついでに用を足して埋め戻しておいた。シロは上品なのである。
「ほれほれ、つぎつぎ掘らんか」
矢継ぎ早に指示をしてくる強欲じじいに少しイラっとしたが、出すもの出してすっきりしたシロは少し機嫌が良くなっていたので、次も掘ってやった。出てきたのは釘の山。
「それは家を建て直したときに使った廃材じゃ。なんじゃ、せっかく奇跡の犬かもと思ったのに、所詮は畜生だったか」
カチン。シロはプライドを逆なでされ、玉ねぎですら切れることのなかった何かが、音を立てて切れるのを聞いた。犬のくせに負けず嫌いなだけだったが、そこからシロは闘気を漲らせ、わき目も降らずに掘りまくっていった。出てきたのは石、石、石。あらゆるサイズ、形の石を持って強欲じじいに向けて放り投げていく。
「なんじゃ、石ころばかりじゃないか。やれやれ、こりゃがっかりじゃわい。わしはもう寝るから、何か見つけたら起こしてくれ。あまり期待はしてないがな、ふふん」
上等だコノヤロー! 何がなんでも価値のあるものを掘り出してやると、一心不乱に掘りまくるシロ。だが強欲じじいもシロも知らなかった。それらは全て貴重な金属の鉱石だったのである。金、銀、プラチナにアルミニウム、そしてオリハルコン。
時代も世界観もぶち壊した貴重なものだが、その価値を知らない者には石ころに過ぎず、掘り出しては転がし、転がしては掘りを繰り返す。意地になった子供のように掘り返していると、いつのまにやら朝日が昇り始めていた。
——しかし、シロは気が付いていなかった。彼が授かった固有スキル『ここ掘れワンワン』だが、発掘を続けるうちにどんどんレベルアップしていたのだ。『ここ掘れワンワン2』『ここ掘れワンワンV3』『ネオ』「グレート』『ファイナル』『リターンズ』『ゼロ』と、なかなか終わらないハリウッド映画のようにランクアップしていったシロのスキルは、もはや秒速で金属を掘り当てるまでに進化していたのだ。
朝、起きて家を出てきた強欲じじいは仰天。家の前にうず高く積まれた、やけにキラキラと朝日を反射する石ころの山。そして庭といわず畑といわず、数百数千と無数に掘られた穴、穴、穴。集合体恐怖症の人間が見れば卒倒するほどの状況である。
じじいは激怒した。
必ず、この加減を知らない犬を除かねばならぬと決意した。
強欲じじいには戦闘が分からぬ。
しかし、彼は知らなかった。彼の体に古より流れる血の正体を。何とは言わないしどこの滅んだ星からやってきたとも言わないが、大いなる可能性を秘めた戦闘民族の血を引いた強欲じじいは、その純粋な悪の心に宿った本気の怒りによって、伝説のナントカ人に覚醒したのだ。
怒髪天を突き、ほとばしる闘気で周囲のホコリを吹き飛ばしながらゆらりと歩き出す強欲じじい。その尋常ならざる気配にいち早く気付き、すかさず戦闘態勢に移行するシロ。怒りで覚醒した強欲じじいと、地道にスキルレベルを上げることによって指数関数的に実力を上げていたシロ。
最強のじじい対最強の犬。全宇宙の命運を賭けた戦いの幕が今、開かれようとしていた。
にらみ合う犬とじじい。ピクリとも動かぬ双方の間を、砂埃を巻き上げながら風が吹いていく。お互いに隙はない。先に動いたほうが負ける、それは本能的にどちらもが悟っていた。しかし、神はここでもいたずらをした。
「おーい、シロ、迎えに来たぞ~」
呑気な声で呼びかける正直じじいの言葉で均衡が崩れてしまったのだ。つい左右に触れてしまう尻尾。しかしそのわずかな重心移動を見逃す強欲じじいではなかった。
「年貢の納め時じゃ! わしの敷地を穴だらけにした罪、命をもって償うがよい!」
せっかくの隙を長台詞で台無しにした強欲じじいが飛び掛かる。すでに迎撃態勢を整えたシロが迎え撃つ。交差する一閃と一閃。刹那を置き去りにする、ミリ秒単位の一撃がお互いを捉えた。
「し、シロ?」
正直じじいが姿を現したとき、全ての決着はついていた。膝をつき、鼻を押さえて悶絶する強欲じじい。すれ違いざま、尻の穴ダイレクトアタックを食らった強欲じじいは強烈な匂いでのたうち回っていたのだ。先ほどまで漏れ出ていた闘気はすでにない。
「シロ、お前、老人虐待したのか……⁉」
身も蓋もなかった。しかし、そんなシロは犬的にふっと微笑んだ後、ゆっくりと崩れ落ちた。
「シロ!」
駆け寄るじじい。すかさず抱き上げるが、シロの体にすでに力はない。徹夜で穴を掘りまくり、そして最後の力で尻をぶつけた結果、なんだかんだで体の限界が来ていたのだ。自らの最後を悟ったシロは、鼻を鳴らして正直じじいの膝に頭をこすりつけた。
短い時間だったが、悪くなかったぜ。どうせ伝わらないと思ってニヒルに微笑んだが、じじいは涙を流しながらシロに語り掛けた。
「わしもじゃ。お前と一緒に過ごした時間、楽しかったぞ」
「そんな、まさか……」
「あぁ、どうやらお前の最後の力が、わしのよく分からん何かを刺激して、固有スキル『シロと意思疎通』を目覚めさせたようじゃ」
「限定的過ぎる……」
さらに脱力し、体から命が燃え尽きていこうとする兆候を感じ取るシロ。彼はじじいに向けて最後の言葉を告げる。
「じじいに告ぐ。俺が掘りあげたあの少し乳白色に輝く石。あれで臼を作るんだ。そしてじじいが今畑で作っている大豆をすりつぶし、庭にある枯れ木にまくが良い」
「貴様! 今までわしのことをじじい呼ばわりしていたのか!」
「今そっちかい!」
「あ、いや。うん、それどころではなかったな。それで、大豆の粉を枯れ木にまいて何か意味があるとでも言うのか?」
「きっといいことあるヨ☆」
「曖昧かつ軽すぎるぞ!」
「俺もここまでだ。だが俺とて神に選ばれし犬。ただでは終わらん。最後の力を振り絞り、古より禁忌の術とされてきた禁断魔法を使って転生する! さらば、じじい! またどこかの時代で会おう! リーンカーネーション!」
その言葉とともにシロの体は光に包まれた。目もくらまんばかりにまばゆい光に目をそらすじじい。光がおさまり、もう一度目を開けたときには、シロの姿はなかった。
「シロ……シロォ……。人のことをじじい呼ばわりするなぁ……」
* * *
ここは……どこだ。シロは目覚めた。周囲を見渡しても、天も白く地も白く、地平線だけが黒く一直線に伸びている。描画が楽そうだ。そんなことを考えていると、背後から声が聞こえた。
「ここは天界と地上の狭間。シロよ、今までよく頑張りました。わたしが新世界の神です」
ノート持ってないよな? なんで普通に神と名乗ってはいけないのかが謎だったが、シロはそんなことを全て横に投げ捨て、まずは神の足を噛んだ。
「いったい! 何するんですか!」
「やかましい! 言葉は通じねーわ、何すればいいか分かんねーわ、送り出すなら送り出すでちゃんと説明するかチュートリアルくらい用意しやがれ! おかげでどれだけ苦労したと思ってるんだ!」
「ちゃんとじじいのほうにもスキル『シロと意思疎通』を授けておいたでしょう!」
「覚醒が遅すぎる! なんで最後の最後なんだよ!」
「やれやれ、文句が多いですね。でもいろいろ苦労させてしまったのは申し訳なかったです。なので次の転生先では何もしなくていいよう、優良物件を選んでおきましたよ」
「不動産屋のセールスか。ほんと、頼むよ。もう一日中穴掘るとかマジ勘弁」
「分かりました。それでは転生の儀を始めます」
「えらくあっさりだな」
「尺の都合です」
シロはツッコミを入れようとしたが、それも間に合わずまたしても光に包まれた。そしてまた犬として違う時代に産まれ、そこでは『ハチ公』と呼ばれることになるが、それはまた別のお話。
* * *
シロの遺言通り、じじいはシロが掘りだした乳白色に輝く石を拾い集め、それをあーだこーだして錬成し、形を整えて臼を作り上げた。
ちなみに隣の強欲じじいは、シロとの戦いで鼻と腰をやられ、厚生労働代官所から要介護者の認定を受けることになってしまった。
そしてシロの言葉に従って、畑で採れた大豆を乾燥させて臼で引き、粉にするじじい。なんだか美味しそうな匂いのするこの粉を枯れ木に振りかけてどうなるのか、じじいには皆目見当もつかなかったが、正直しか取り柄のないじじいの脳内にはシロの言葉に従うというT-800のようなプログラムしか存在していない。
さっそく枯れ木の前にしっかりとした足場を組み立て、命綱をつけたじじいは指を差しながら叫んだ。
「安全帯ヨシ! 足元確認ヨシ!」
そして手に持った木の器いっぱいに入った大豆の粉を手につかみ、枯れ木に向かって思いっきり振りかけた。
「枯れ木に花を~咲かせましょ~♪」
じじいはご機嫌だった。きっと花が咲くだろう。だってシロの遺言なんだもん。そう願いひたすらまいたのだ。
何も起きませんでした。
でもひたすらまきました。途中から涙目になりながらも、まき続けました。
やがて枯れ木は真っ白になりました。
「シロの……バカぁ!」
じじいは梯子から下りると、小屋に走って帰り、そのまま布団をかぶって眠ってしまった。
——翌朝、泣きはらした目をこすりながら外に出たじじいは、信じられない光景を目にした。心が明るくなり、奇跡は本当にあるんだと思わせてくれる、幻想的な光景。
木には無数の鳥が群がり、夢中になって大豆の粉をついばんでいたのだ。人間であるじじいが近づき、仲間を一羽捕まえても誰も気にしないほど夢中になっている。まるで猫にマタタビを与えたときのように、陶酔状態で粉をついばむ多種多様な鳥たち。虫が一匹もついてないのが不思議だが、木の表面が見えなくなるほどまいたおかげもあり、連日鳥の群れが途絶えることはなかった。じじいは鶏肉に困ることがなくなったということでもあるが、同時にそれだけ鳥を夢中にさせる味というものがどんなものか、気になって仕方がない。
試しに大豆の粉を舐めてみたが、人間にはその美味しさが分からない。しかし、普通に大豆を臼でひいただけでは鳥が集まってこないので、シロの遺言で作った臼には何か特別な力があるのは確かだ。
そこでじじいは自分の家をラボに改造し、以後の余生を研究に打ち込むことになる。そして最晩年、じじいはとうとう人間にも適用できる粉を発見した。それはとある食材から旨味成分を取り出すことにより、あらゆる料理の味を引き立てる摩訶不思議な調味料としてもてはやされ、じじいは起業する。幸い要介護度5に認定された強欲じじいの土地にシロがオリハルコンと呼んでいた鉱石はまだあったので、特製臼を量産し、株式公開した末に創業者利益を得たじじいは末永く幸せな余生を過ごすことができましたとさ。
ちなみにじじい特製の粉は『シロの素』として一世を風靡し、幕末の動乱で資料と臼が失われてロストテクノロジーになるまで、庶民の食卓に必須だったとかそうじゃなかったとか。
————おしまい————




