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ドラゴン・レイジ  作者: 逢巳花堂


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第36話 第二ステージ

 草薙の勝利後、気絶しているアウンを船長室に残したまま、一行は甲板へと上がらされた。


 わけもわからぬまま、屋外へと出ることとなった全員は、どっぷりと暗黒に染まった海の向こうに、さらに深い漆黒の塊がそびえ立っているのを目の当たりにした。


 島だ。


 この豪華客船は、深夜の海を当てもなく航行していたわけではなかった。しっかりと、ある目的地を目指して、進路を取っていたのだ。


「皆さん! 見えてきました! あれが次の舞台、第二ステージとなる『島』です!」

「なんて名前の島だ?」


 草薙がストレートに問いかけるも、アリスはふふーん♪ と楽しそうな表情ではぐらかすだけだった。


「ええと、要するに、私達は、次はあの島の中で戦うっていうわけ?」


 イザベラに問われたアリスは、それについては元気良くハキハキと答えてきた。


「そうです! そうです! あの島内には、様々な趣向を凝らした、戦いの舞台がセッティングされています。皆さんには、その会場で戦ってもらいます!」


 島影はぐんぐん近付いてきている。もう、接岸は近いようだ。


 突然、島全体が暗闇の中で、バッと光り輝き始めた。島の各所に強力な光源があり、どうやら、それぞれが戦いの舞台となっているようだ。


 波止場にも灯りが点され、船を正確に誘導する。港へと客船の巨体は滑り込んでいき、ゆっくりと航行を停止させた。


 船から降りる前に、パンッ! とアリスは手を叩き、全員の注目を集める。


「さーて! 今度は、今後の試合についてです。島へ入る前に、決めておかないと、ですね」

「何がだ? もう対戦の順番は決まっておるだろうが」


 帝釈鵬の問いに対して、アリスは黙って首を横に振った。


「ん……? 先ほどの試合順にやるのでは、ないのか?」

「それを今から説明しますね」


 アリスはそう言ってから、耳に付けたインカムに集中し始めた。どうやら、誰かが何か指示を出しているらしい。うんうん、と頷いた後、両腕を広げて、次の出場者達へと呼びかけた。全員に通じるよう、多言語で器用に説明する。


「もうお気付きかと思いますが! このトーナメントは観戦しているVIP達がいます! そして! この第二ステージにおける対戦順は! VIP達の投票によって決定します」


 もう今さら誰も驚きはしなかった。自分達の試合が誰かに観戦されており、賭けの対象になっているであろうことは、もう誰もが気付いていたことである。


 ただ、第二ステージの試合の順番が投票で変動する、ということは、想定外であった。もしも、さっきの第一ステージで最後のほうに対戦した者が、第二ステージの最初に試合を組まれることになれば、それは大いに不利になってしまう。対戦の傷も疲れも癒えていないからだ。


「ちなみにぃ、投票の基準は、『最も期待できる対戦カード』です♪ 第二ステージで最初に対戦する組は、投票の結果『最も期待できる』と見込まれた人達、ってことですね♪ 多忙なVIP達ですから、いつどんな用事で観戦出来なくなるかわからない。早い内に見ておきたい試合、ってことになります!」


 そこまで喋ったところで、またアリスは、インカムに向かってうんうんと頷いた。


「で、さっそく、投票結果が出ました!」


 そして告げられる。第二ステージの試合の順番が。


 第一試合。イヴ・ヴァールハイトvs草薙礼司。


 第二試合。帝釈鵬vsレオニード・カシモフ。


 第三試合。イザベラ・サントスvsレザ・プラタマ。


 第四試合。ルカス・ウェーバーvsヴィディヤット・シン。


「マジかよ……」


 うんざりした様子で、草薙はぼやいた。ついさっき、アウンと激戦を終えたばかりで、まだそのダメージも回復しきっていない。てっきり、第二ステージでの順番は最後のほうになるものと思っていたのに、まさかの一番手。


 しかも、相手はあの超人イヴだ。女ヌーディストというだけでも戦いにくいのに、その上、規格外の化け物じみた身体能力を持っている。アウンには通用した練気法も、イヴ相手に効果があるかはわからない。


「わあ! もう戦えるのね! 楽しみだわ!」


 ドイツ語ではしゃいでいるイヴ。その言葉の意味は、草薙にはわからないものの、身振り手振りで、彼女が無邪気に喜んでいることだけは伝わってくる。


 いまだに鮮烈に憶えている。レディ・ジャガーが手も足も出せずに、たったの一撃、首が逆方向に捻れるくらいの威力の張り手を喰らい、絶命した瞬間を。


 ゾクリ、と背筋が震えた。それは、これまでの人生で、草薙が一度も感じることのなかった、重たく冷たい感覚。


 自分が死ぬかもしれない、という恐怖。


(馬鹿野郎!)


 グッ、と拳を握り締める。


 己自身に活を入れる。こんなところで弱気になってどうする。何のために、命懸けの戦いにわざわざ足を踏み入れたんだ。


 全ては、息子の初真のためじゃないか。


 勝つ。勝って、優勝賞金をかっさらう。金さえあれば、もう惨めな思いをしなくて済む。初真だって、高校以外に塾へ通わせることが出来るし、それで受験突破すれば、行きたい大学に進学させてやることも出来る。学費の心配もしなくていい。新大久保の築60年の狭っ苦しいボロアパートから、もっと上等な住居へ引っ越すことだって出来る。


 いいぜ、やってやろうじゃねえか。


 草薙は島影を睨みつけた。山がちな地形の、さほど大きくない島。おそらくは誰かの私有地なのだろう。でなければ、こんな無茶な興行は出来ないはずだ。


 潮風を全身に浴びながら、次のステージへ向けて、草薙は早くも体内の気を練り上げ、戦闘準備に入るのであった。

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