第24話 飛翔
人が集まる信号から少し離れた位置で私達は信号が変わるのを待っていた。
ああやって信号を待つのが当たり前なんだろうけど、やっぱりまだ私には無理かな。
「その…ごめんなさい猿渡さん」
「別にいいよこれぐらい、それに気持ちわからなくはないもん、あんなに人多いと怖いもんね」
「は、はい」
「なんの問題もないよ、名古屋の信号は長いし、この距離でも全然余裕で渡れる」
「そうなんですね、それにしてもずっと気になってたんですけど、このオブジェクトなんですか」
この街に来てからずっと気になっていた、謎のオブジェクトを指さす。
なんと説明すればいいのかわからない、銀色で円錐型?でいいのかな、巨人を殺せそうなぐらいトキントキンに尖ってる巨大なオブジェクトが道路の真ん中に鎮座している。
なんかの装置とか思ったけど、パッと見た感じそんな感じはしない、ただデカい謎のオブジェクトがそこにある。
「なんなんですか?あれ? ビームとか出そうですけど、なんかの兵器か何かですか」
「ふふふ」
「え、なんでいきなり笑ったんですか」
「いやごめん、兵器とか言い出すからちょっと笑っちゃった」
「じゃあなんなんですかあれ、まさかあの尖った所から怪電波みたいな物を出して人間の攻撃性を消してるとか、それなら武器を持ってないのも納得が…」
「ふふふ、そんなんじゃないって、あれは…えーっと名前なんだっけな、飛翔だっけな」
「飛翔!? って事はあれ飛ぶんですか」
「ꉂꉂ(ᵔᗜᵔ╬)ァ,、'」
猿渡さんが自分の体を叩くぐらい大爆笑してる。え、なに…私そんなに面白いこと言った?
「イヒヒヒヒヒ、ホホホホホホホ」
というか笑いすぎて魔女みたいな声になってるし。
「もう、笑わないでくださいよ」
「いや、ごwめwんww、あれ見てあんな感想出るとは思わなかったから」
「ムー あれなんなんです」
「あれは名古屋駅のオブジェクトの1つ、ただのオブジェクトだからライリーの言ってるみたいな空飛んだりビームが出たりしないよ」
「そう…なんですか…」
「なに、どうしていきなりテンション下がったの」
「いや…ビーム出る所見たかったな…って」
「出るわけないじゃん」
「でもでも、それならなんであんなの作ったんですか」
「そんなの知らないわよ、まあでも観光名物として作ったんじゃない、今や飛翔は名古屋駅を代表する観光名物だし」
※2022年撤去済み
「飛翔=名古屋駅 名古屋駅=飛翔みたいなところあるし」
※2022年撤去済み
「名古屋駅の不滅の象徴だよ」
※2022年撤去済み
「飛翔のない名古屋駅なんて、醤油のない寿司、つゆないざるそばみたいなもんよ」
※2022年撤去済み
「そう…なんですね、確かにすごい迫力ですね。これ以外にもあるんですか」
「えーっとね、銀時計 金時計 ななちゃん人形に……ああこれだけか、まあ探せば色々あるよ」
「そんなに色々あるんですねこの街」
「まぁ県都だしね、信号変わったよ、人いっぱいいるから逸れないでね」
そう言うと猿渡さんは私の手を握り、交差点へと連れていく。
交差点は人が多くて落ち着かない、こう…いつか襲われるんじゃないかと思うとモヤモヤする。けど猿渡さんと手を繋いでるとどこか落ち着く。
なんなんだろう、この安心感。頼れる人がいることの安心感が気持ちを落ち着かせる。
「ありがとうございます猿渡さん」
「だから良いって、慣れるまでこうしてあげる」
「はい」
私は手を握る力を弱め横断歩道を渡り切る、ただ横断歩道を渡っただけなのに、私の心臓はまるで運動した後みたいに激しく動いていた。
少し疲れた様子を見て猿渡さん人の少なめな所まで手を引き、しゃがんで私と目を合わせる。
「大丈夫?」
「…大丈夫ですよ、このぐらいただ横断歩道渡っただけですよ、こんなの全然…怖くないですよ」
「それなら良いけど、少し休憩しよ。次の電車調べないといけないし」
そう言うとスマホを取り出し壁に背もたれをついた。
猿渡さんが気を遣ってくれたのに、強がりで嘘言っちゃったな、別に怖いぐらい言えばいいのに、何してるんだろう私。
「ん? そう言えば今からどこにいくんですか」
「私の実家」
「猿渡さんの実家ですか?それまたどうして」
「ラフェットに言われたことを確かめに行く」
「ラフェットさんに言われたことって……あ…」
私の頭にラフェットさんの言葉が響き渡る。
(……ねぇ、そもそもあなたの親は本当に死んでいるの……最初から死んでないんじゃないかしら……親が子供に嘘をつくのはよくあることじゃないの……)
猿渡さんの言ってるのは多分この事だな、ラフェットさん言葉には出してないけど、「お前の本当の親はお前を捨てた」て態度に出てるんだよなぁ
「その…あまり気を落とさないでください」
「落としてないわよ。あの子の言葉は全部本当で事実よ。両親の話をするとおじさんはすごく怖いの
だからいつしか両親の話を口に出すことをしなかった、怒られるのを恐れておじさんと話そうとしなかった」
「そうなんですか」
「ええ、きっとおじさんのそういう態度が逆に両親に会いたい気持ちを増幅させたんだと思うし、私の両親探しは一種の反抗期だったんだと思う
けど、恐れてやるべきことに目を背けてた、だからちゃんと向き合おうと思うんだ」
そう言いながら優しく微笑んだ
反抗期、という言葉で片付けるには重すぎる気もした。でも猿渡さんがそう呼ぶなら、それはきっと自分なりに整理した答えなんだと思った。
「それにもう反抗期を終わらせないとね」
「私も何か手伝えることがあるなら手伝います」
「ないと思うけど…その時はよろしく頼むわ」
「任せてください、私と猿渡さんはもうパートナーみたいなもんですから、なんでも任せてください、私も任せますから」
「ふふふ、そうね相棒」
そう言うと私達は一緒に笑い合った。
さっきまで渡っていた横断歩道の信号が赤に変わった、駆け足で進んでいた人達が何故か赤信号になった瞬間ゆっくりと横断歩道を渡る。
私にはその光景が異質に見える、信号が変われば車が通るのに、それなのに赤信号をゆっくり渡る光景は違和感がある。
たぶんこの世界には「車は自分を轢かない」「他人は自分を襲わない」っていう前提があるんだと思う。
みんながみんな、人に襲われることを過小評価してるんだ。
そういう常識が、ここでは空気みたいに共有されて、集団の常識になっている。私には理解できない常識だ。
でも…この常識も光景にもいつか慣れる日が来るのかな。




