第3話 映画館
娯楽町──ドリームライズ。
死者の国にある娯楽を中心とした町。
ゲームセンターや映画館、古本屋に子ども向けのキッザニアまで、なんでも揃った“遊びの街”だ。とにかく、いろいろある。本当に、いろいろ。
その中にある映画館に、私は猿渡さんと二人でやって来た。
「なんだが煌びやかな場所ね、死者の国だからもっとジメジメと言うか湿っぽい感じだと思ってた」
「死んでまでそんな所に居たくないよ」
そんな事を話しながら中に入ると、やたらと広い空間が広がっていた。客の数はまばらだけど、それ以上に広さが目立つ。
「広いわね……外観からは想像できない」
「空間拡張技術ってやつだよ。閉鎖空間なら、いくらでも広げられるんだって」
「な、なにそれ…あ、あの世ってすごいのね。でも……ポスターとか何も貼ってないのね。上映中の映画もわからないし」
「たぶん、猿渡さんが言う“映画”とはちょっと違うかも。ここは、この街に住む人の“人生”を上映する場所なんだ」
「……人生?」
「うん。この街で暮らす条件のひとつが、“生前の記憶をここに保管すること”なんだって」
「生前の記憶を保管? なんでそんな事を」
「理由はわかんないけど、多分ほら長く存在してると過去のことなんて忘れちゃうじゃん」
「そんな理由? と言うか保管した記憶が映画として公開されてるの」
「一応公開・非公開は選べるよ。まあ、私にはそもそも記憶がないけど」
「へー……だけどそれ倫理的にアウトじゃない」
「そうかな…そうかも」
「……つまり、本当に実際に起きた人生を全部記録してるの? なんか、誰かの人生を覗き見してるみたいで、ちょっと怖いね」
「そうかな?ここではそれが普通なんだよ、死んだあとに、自分がどんな人だったか思い出すために必要な事なんだ」
「なるほど……ね、変わった町ね」
「だよね、で見たい記録はこのタブレットで検索できるよ。えっと……“猿渡”だよね」
私は受付に設置された検索パネルに「猿渡」と入力する。
画面にはずらっと名前が並んだ。苗字だけだから、予想通り多い。
「下の名前も入れた方がいいかも……あれ、えーっとご両親の名前って何だっけ?」
そう聞くよりも猿渡さんはタブレットに表示された名前を見つめる。
「猿渡 和大、一海、焼野、穴名、流目……って、違う。どれも違うわね」
「非公開になってるのかも、ごめんね、ここならあると思ったんだけど……」
「いいよ、そこまで期待してたわけじゃないし……って、あれ?」
「名前あった?」
猿渡さんが急に別のパネルをタップする。表示されたのは「イチオシ人生映画一覧」。
「これ、すごい……教科書で見た名前ばかり。全部観られるの? これ本当に本人の人生?編集じゃなくて?」
「うん、映画館だし公開設定ならね」
「うわー……観たい観たい。えっと、J.M.デマティス? 誰だろ……え、嘘……マッカーサーとヒト——」
……寄り道してる場合じゃない気がするけど…いいのかな。
「家族はいいの?」
「どうせ見つからないなら、少しぐらい楽しませてよ。ここまで来るの、大変だったんだから」
「……まあ、私はいいけど。何観る?」
「んー……エジソンとか……あ、円谷英」
「時間はあるから、ゆっくり選んでよ。私、ポップコーンとジュース買ってくる。何味がいい?」
「キャラメルとメロンソーダ! あ、それと…ん?スティーブンノーマットって…」
「知り合い? と言うか味の好み一緒じゃん、オッケー、ちょっと待っててね」
ポップコーンの香ばしい匂いが漂う売店へ向かいながら、私はふと思った。
猿渡さん私より年上 (たぶん)なのに子供みたいにはしゃいでる、そんなに有名な人達なのかな、私は全然知らないけど。
「何にしようかな…有名人だらけだよ」
なんか…こうやって猿渡さんの後ろ姿を見ていると、なんだか不思議な気持ちになる。
初めて会ったはずなのに、知らない誰かを思い出すような…なんとも言えない気持ちが込み上げてくる。
「……ま、いっか、久しぶりだな映画館だし、匂いだけでお腹が空いてくる」
ぐ〜う
……そう言えば朝ごはん食べてなかった、優香ちゃん今ごろ私のパンケーキを食べ終わってまた暇なしバンジーみたいな危険なことしてるのかな。
それにしてもあのパンケーキ、一口でもいただけばよかった。
腹いせじゃないけど、とりあえずポップコーンだけじゃなくていろいろ買おう。
「えーっとチェロスにナチョスに…ポテトもいこう、太っちゃうかな」
別にこれぐらいいいよね。もはや映画より軽食メインな気もするけど、大丈夫だよね。
「これとこれと…後これも、えへへ……食べすぎかな」
注文後、パネル横の小さな扉が開いて商品が出てくる。相変わらずいい匂い。でも、誰が作ってるんだろう。シェフが中にいる様な感じはしないし…機械かな?
「……よいしょっと。ちょっと重い……まあ、お米より軽いから平気か」
席に戻ると、猿渡さんが画面を見つめていた。
「見るの、決まった?」
「うん。やっぱり、ダルベーニャのやつ観ることにした。そういえば、料金って——」
「いいよ、私が出す。代わりにこれ持って」
「ありがと……って、ほんとにいっぱい買ったね」
2人分のお金を入れると、壁に埋め込まれた扉が現れる。
ギギギと言うそれっぽい音声をスピーカーから流しながら、ゆっくりと扉を開き、まるでステージのような小さな劇場空間が姿を現す。
「超技術の割にこのドア建て付け悪いわね」
「あ、これ気分出すための音声だよ」
「無駄なところで手が凝ってるわね」
「さあ、行こう。5分後に上映スタートだって」
「……にしてもあの世って、思ってたより未来都市みたいね」
「え? 現世もこんな感じなんじゃないの?」
「ううん、もう少しレトロかな、こっちの方がずっと未来っぽいよ」




