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第20話 判決

「猿渡彩香。その共犯者であるライリー。私は今よりそんな君達の処遇を決める」


 先程の空気を吹き飛ばすように仮面から少し見える目が恐ろしく尖り、私達を睨みつけた。


「さっきの説明で理解したと思うが」


 どの


「…………」


「…………」


「…ん?あ〜あ脱線して、先程の説明がわからないか。空間拡張技術のことだ、君達はここから逃げることはできない、無駄な抵抗はやめたまえ」


 管理人さんが無駄に話を脱線させるから若干忘れてたけど、私達普通に大ピンチだよね…これ。


 逃げ場なんてない。そもそも脱線するのも逃げ場を完全に塞いだという余裕があるからしている様な気がする。


「は、はい」


「………」


「この一件別にクローシスに一任しても良さそうだったが、少々状況が変わってね、まぁ…君達には関係ない話だ、気にしないでくれ」


 スリーサイズをバラされて気が立ってる猿渡さんは眉間に皺を寄せ、動物の威嚇みたいに歯を見せながら声を上げる。


「気にするなって…今から殺す人間に教える意味はないって奴」


 だいぶイラついてるな猿渡さん、まぁ…気持ちはわかるけど、でもここで管理人さんの怒りを買うのはまずいよね。


 今頃だけど管理人さんの好感度をあげないと。助かる可能性がほぼゼロでも、もがかないと。


「さ、猿渡さん、そう言う言い方は…」


「別に今から殺されるってのに、のんびり敬語とか使う意味ないでしょ…死ぬ前に言いたいこと言うぐらいいいでしょ」


「で、でも…」


「構わないさ、騒ごうか黙ってようがどっちでも、別に処刑場が静かである必要性はないし、遺言の一つ覚えられないほど脳のメモリが少ないわけではないからね」


「それなら言わせてもらいますけど」


「なにをかな、私は無実という妄言かい」


「私は罪を否定する気はない、この街に勝手に入ったのは事実、それが罪なら私は従う。けどライリーは共犯者でもなんでもない、私とは関係ない一般人よ」


「猿渡さん………」


 こんな状況なのに、私を守ろうとしてる、でも…


「その、私クローシスさんにナイフ投げつけたし、共犯者宣言もしちゃったし、なんなら図書館小麦粉にしたから関係ないは通じ…」


「黙ってなさいよ、言わなくていいでしょそんなこと」


「そうだけど」


「とにかく死ぬなら私だけでいい」


「ははは、面白いことを言うね、殺す…殺すか」


 仮面の向こうの表情が緩み、笑い声と共に笑みを浮かべた。


「なに、言葉の定義が違う?殺すじゃなくて魂ごと抹消するって言い方が正しいの」


「クローシスの脅しがかなり効いているな」


 半笑いでそう言いながらクローシスさんの方を向いた。


「効かなきゃ街の治安は守れんだろ。それともメイド服着てガラガラ持ちながら仕事した方がいいか」


「やめてくれ君に女性としての魅力はないし、とても笑えん冗談だ」


「私は芸人じゃないからな」


「そんな君にはこの本をあげよう」


 そう言いながらパンパンと手を叩くと、床から機械のアームが現れ、さっき本棚に戻した「面白くなれる会話術」を取るとクローシスさんに渡して床に収納された。


「………」


「どうぞ」


 クローシスさんは何も言わず静かに本のページを開き読み始めた。……読むんだ。


「脅しじゃないってどう言う意味」


「言葉通りさ、別に私は君達を殺すつもりはない、そもそも殺す価値がない、まぁ生かしておく価値もないんだが」


「どっちなんですか…それ?」


「君達がここで死にたいと言うなら、殺してあげよう、だが別に死にたいわけではないだろ。猿渡彩香…君に対する罪はただ一つ」


「一つ」


「永遠にこの街への侵入を禁止する」


「……禁止するって」


 猿渡さんは鳩が豆鉄砲をくらったみたいに、あっけにとられキョトンとした表情を浮かべた。


「不服かね」


「いや、別に不満とかじゃなく、つまり私は家に帰れるの?」


「そうだよ」


「そこのミイラ女が言ってた拷問とか尋問とかしないの」


「予定では尋問後に帰す予定だったが、訳あってその必要がなくなった」


「え?待ってください、じゃあ猿渡さん最初から帰れたんですか、私てっきり帰れないとばかり」


「ただのクローシスの脅しだよ」


「私はその気だったがな、巣に入った虫を糸を解いて帰すほど私は甘くない」


「少々考え方が血生臭くて古いな、そろそろ新しい価値観をアップデートをするべきじゃないのかな」


「私が何百年前から生きてると思う、今の価値観をアップデート出来るほど私は新しくはないんだ」


「それなら機種変更をオススメするが」


「丁重にお断りする、私は永遠にタイプライターでいい」


「そうかい」


 もしかすると管理人さんが来なかったら、私達クローシスさんに殺されてたのかな。


 管理人さんが来て絶体絶命な状況だと思ったけど、逆に救われてる。


「まぁ今の会話でなんとなくわかったかもしれないが、私と彼女の価値観は大きく違う

こういう結果になったのはそういう価値観の違いと上下関係さ」


「それは…わかったけど、いいのか?その…情報機密とか」


「そう…ですよね、だって猿渡さん死後の世界を見た人だし」


「確かに死後の世界に来たことは事実だがどうやって証明する、君達は宇宙人を見たと言う人間の言葉を本気で信じるか

下北沢でタイムスリップ出来る事を信じるか、つちのこやカッパやイエティを信じるか、この街はそれらと同じだよ、言ったところで誰も信じやしない」


 確かにそれもそうだよね、写真とか映像とか撮っても作り物だと思われそうだし。


「君1人外に出した程度何の問題もない、しかし問題は君ではなく…隣のライリーさ」


「………」


「………」


 全員の視線が私に集まる。


「……え?私…ですか」


 脱線しまくるし、猿渡さんの話がメインだと思って普通に油断してた。


 え、私、私の話?


「私が…なにか」


「ライリー…君は自分の意思でクローシスに反旗した、そしてその理由は猿渡の命を守るとかの人助け的な動機ではなく

自身の過去を知りたいと言う自己的な動機、この街の住人でありながら外に出たいと思っている事実」


「それは…」


「ライリーよ君に聞くが君は街の外に出たいのかな」


 ど、どう答えればいいんだろう、これは何を言うのが正解なんだろう、確かに私は外に出たい、出たいけど…管理人さんはそれを許すのかな。


 そもそも私出れるのかな。


 それに出れたとして、どうするの。


 この街に不満や不自由は感じたことはない、いや…まぁ周りが血生臭いのは嫌と言えば嫌だけど、それを理由に出て行きたくなるほどじゃない。


 街の外に出て、本当に私の過去が見つかるのかな、そもそも外に出てうまくやっていけるの


「……ライリー」


 猿渡さんが私の顔を見つめる。私はそんな猿渡さんに顔を向ける。


「猿渡さん…私…どう答えればいいのかな、今言うことじゃないのは分かってるけど、私、どうしたいんだろう」


「私が言えた立場じゃないけど、そう言うのは自分で決める物よ」


「そう…だよね」


「私は何も言うつもりはないから」


「うん」


「だって私が何か言ってライリーの人生が壊れてもその責任を取れるほどの力はない

ライリーは自分を共犯者て言ってくれたけど、記憶の件がなければ、私はただの他人であることを忘れないで」


 いつも通りのぶっきらぼうな言い方、だけど…猿渡さんは突き放してるんじゃないのがなんとなく分かる。


 それが余計に、ちゃんと自分で決めなきゃいけない気持ちにさせる。


 そうだこれは私の人生だ


「わかった」


 どんな選択であっても、それを選んだのは猿渡さんでも管理人さんでもない私自身、だから私は…この選択で後悔したくない。


「……この歳にこの選択は酷だったかな」


「1ついいですか」


「何か聞きたいことがあるのかね」


「この街にいたら私の記憶は戻りますか」


「…過去に私は戻ると言ったが、正直な話をするのであれば、永遠に戻ることはない

過去に戻ると発言したのはこの街に来たばかりの君に恐怖や不安を感じて欲しくなかったからだ。あの時嘘をついた事をここで詫びよう」


 その言葉は、痛いというより静かだった。


「ありがとうございます、記憶が戻らないなら…私は…」


 私は…


 緊張からか心臓の鼓動が今まで以上に激しくなって、口が震えて冷や汗が止まらない、けど私は…私は


「私はこの街を出たいです」

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