第6話 博物館
旧友との再会で気が立っている猿渡さんの手を引いて、私は図書館の近くにある大きな博物館へ来た。
この博物館には様々な歴史的価値のある物などが保管されている。
えーっと、恐竜の化石、正体のよく分からない展示品、展望台、歴史に残る能力者の展示、世界の植物展示、魔術関係――とにかく色々。
「そう、ここはミュージアムコレクションだよ」
私は満面の笑みで建物を指差したが、横の彩香さんはまるで親に無理やり興味のない場所に連れてこられた子供の様なテンションだった。
「……へぇ」
「ちょ、なんでそんなテンション低いの?」
「別に。私、こういう“かつやま恐竜の森”みたいな施設、興味ないし」
「か、かつやま……?」
「っていうか、博物館なんて古臭いボンクラの集まりでしょ?」
「そんなことないし言いすぎだよ、言葉強すぎだよ。ただ博物館だって、ちゃんと楽しいとこだよ!」
「私は両親を探しに来たの。こんなとこに寄ってる場合じゃ——」
言いかけた彼女の手を、私はぎゅっと握る。
「なに」
「ちょっとだけ、先っぽだけでいいから寄っていこうよ 私、今日ここに来る予定だったんだし」
「なに…あんた予定があったの」
「ありますよ私死ぬのが怖いからこう言う場所で暇を潰すしかないんですよ」
「なら、私が帰った後に行けばいいじゃない」
「そもそも今日友達と約束があって! それに、ここ絶対にほんとに楽しいんですから!」
私は両手で彩香さんの手を包むように握って、上目遣いで見つめて、能力で目元を少しだけ潤ませる。涙っぽく見える程度に
ウルウルの小鹿アイ作戦! 雷華ちゃんが教えてくれた、可愛い交渉術。名前ダサいけど、この作戦が効かなかった人はいない…らしい
私初めて使ったから成功率知らないけど…とにかくこの作戦が失敗することはない
「……そのわざとらしい顔、ウザい。やめて」
「え、ええ…」
効かなかった。
「くそ……効かないか」
「何が」
「ごめんこっちの話、はぁ…ラフェットさんに謝るか、こうなったら初めての死で……」
「どんな友達と待ち合わせしてんのよ……はぁまあ、いいわ。こっちも付き合わせてるし」
「え!? 行ってくれるの!?」
「ほんの数日で親が見つかるなんて思ってないし……気分転換も悪くないかもね、それに先客がいるなら仕方ないわ」
「・゜゜・:.。..。.:・’(゜▽゜)’・:.。. .。.:・゜゜・」
「だからその顔やめて、けたくり入れたくなるから」
「そんなに変ですか」
「変じゃないのイラつくの」
「どこらへんが」
「うーん、ぶりっ子みたいな所」
「そんなぁ〜」
そう言いながら私の手を引き博物館に入館する。
ミュージアム・コレクションの中は、映画館と図書館で使われていた空間拡張技術が使われていて広々としていた。
ロビーは体育館くらいの広さがあり、中央には巨大な赤い恐竜が入ったゲージが鎮座している。
左右には売店と展示エリアへのゲートが並び、光るパネルが矢印と文字で行き先を示していた。
「……へぇ…広いわね」
「空間拡張技術が使われてるからね」
「なんだっけそれ」
「説明したじゃん」
「そうだっけ? でも何回も説明するに越した事ないよ、最近の読者は1回だけしか出てない話は覚えてないらしいから」
「でも説明って言っても、空間拡張技術って名前で説明しなくてもわかるよね」
「それもそうね。それにしても思ったより、面白そうじゃない」
「でしょでしょ!」
「でも、受付もいないのね」
「ここ無料だし、破壊行為は禁止されてるからね」
「殺し合いOKな街で、破壊はNG……?」
「なんでもルールってあるもんだよ。壊したい人は、壊していい場所でやればいいし」
「……やっぱりこの街、変だわ」
やっぱりそうだよね、猿渡さんが言うから間違いないか。
「にしてもこの恐竜……すごいわね。映像技術なの?」
「あれはね、ミュージアムのマスコット“コレクソー”。名前の由来は——」
「コレクションとダイナソーでしょ? 」
「よくわかったね」
「言わなくても分かる。っていうか、本当に映像? すごいリアルね」
「気になるなら、エサあげてみる?」
「は? 映像相手にエサ?」
私は黙って、ゲージ前に置いてある人工肉を手に取った。
「おーい、コレクソー!」
肉を振ると、恐竜はのしのしと近づいて来る。
「いい子だねぇ、あげるからね、待ってね」
「何してんの」
「え?エサやりだけど」
「映像相手に?」
「何言ってるの猿渡さんこれ映像じゃないよ」
そう言いながらゲージの中で待っているコレクソーにお肉を投げつけ、コレクソーはその肉を見事にパクっと丸呑みにする。
「…………な、なるほどそう言う機械なのね、アニマトロニクスだっけ、よくできたき…」
もぐもぐとコレクソーは食べ終わると近づきガオォォ! といつものしてくれる大迫力の咆哮をしてくれた。
コレクソーがしてくれるファンサ。嬉しいけど唾飛ぶし整えた髪が乱れるからあまりやらないで欲しいかな。
そう思いながら猿渡さんの方を見るとギャグ漫画みたいに口を大きく開けて驚いてた。
「こ、こ、こ、こ、これ……生きて……るの!?」
「うん、生きてるよ」
「待って、意味わかんない! なんで“生きた恐竜”が展示されてんの!? ここ“死者の国”でしょ!?」
「だから、コレクソーも“死んだ”んだよ。幽霊恐竜」
「……ってことは、こいつ……白亜紀の本物ってこと!?」
「うん。……ていうか、さっき“生きてる”って言ったけど、私たちも似たようなもんじゃん。肉体あるけど死んでる、みたいな」
「……他の恐竜は?」
「魂が消滅した……っていう“設定”らしいよ」
「設定って……もうそれでいいや疲れたし……。そういえば、この街の人たちって、寿命とかあるの?」
「一応、あるらしいよ。時間で決まるんじゃなくて、精神とか、肉体の状態とか、死ぬ前の罪の重さとか……色んな条件で、滞在できる時間が決まるって」
「で、その時間が来たら?」
コツ、コツ…
「……何もないわよ……」
コツ、コツ……。
階段の上から、ゆっくりと靴音が聞こえてきた。
白いワンピースを着た、どこか修道院のシスターのような雰囲気の少女が、静かにバケツを持って階段を降りてくる。
彼女の肌は雪のように白く、眠いのか常に半面だけどその瞳にはサファイアのような澄んだ青色。身長は140cmほどで私より小さい。
「……誰?」
その少女はバケツをそっと地面に置くと、彩香さんに向かって小さくお辞儀をした。
「………どうも。本日はイベントなどありませんが……ごゆっくり、お楽しみくださいませ………」




