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第1話 ようこそD-タウンへ

 D-タウン──通称「死者の国」


 ここは死んだ魂が集まり暮らす、とてもとても不思議な街。


 私は、そこで暮らすひとりの亡霊。名前はない。


 ──ない、というより。思い出せない。


 自分が誰だったのか。

 前世でなにをしていたのか。

 思い出そうとすると、頭の奥がすうっと白くなる。


 わかっているのは、私が子供で、女の子で、若くして交通事故で死んじゃった、という事実だけ。


 不思議な街の支配人さんの言うには、死んだ時の衝撃で私の記憶が抜けたそうなのだ、そしてその記憶は戻ることはない。


 少し悲しいけど、記憶のない私に支配人さんは「ライリー」という名前をくれた。


 苗字はない。

 親が誰かもわからない。

 だから私はただの“ライリー”。


 自分の過去が気にならないかと聞かれれば、それは嘘になる。けれど──この街にいる限り、それを知る術はない。


 自分の過去について気にならないと言えば嘘になる。でも、どうしようもないことなら、受け入れるしかない。


 そう自分に言い聞かせながら、私は今日も髪を結ぶ。


「……これで、いいかな」


 パジャマを脱いで、私服に着替え、鞄を手に取り家を出る。


 今日は友達と朝ごはんを食べる予定、少し遅れそうだから小走りでいつもの喫茶店に入ると、友達を探した。


「どこだろう…雷華ちゃん」


 喫茶店をキョロキョロしながら赤い髪を探していると


「おーい! ライリー、こっちにゃん こっちこっち!」


 赤い髪に、猫の耳と尻尾を持つ雷華ちゃんが、席を立って手を振っていた。


「あ、いたいた、ごめんごめん、遅れちった」


 私は小走りで席に向かい、腰を下ろす。


 ぴょこぴょこ と頭の猫耳を動かしながらメニュー表を開くと、優香ちゃんは、猫耳をぴょこっと動かしながら、パンケーキの写真を指でなぞっていた。


「これにゃん期間限定のパンケーキ」


「すごい美味しそう」


「でしょでしょ、にしても何してたにゃん、早くしないとパンケーキ売り切れちゃんにゃん」


「ごめんって、少し髪が暴れてて…」


「別に私しか会わないんにゃし、寝癖なんて気にしなくていいにゃん」


「そういうの、よくないよ。周りの人も見てるし」


「みんな死ぬのに忙しくてみてないにゃんよ、他人の寝癖にゃんて」


「……そう……かな…そうかも、それよりパンケーキってまだあるのかな」


「うーんどうかにゃ、ゆうて混んでにゃいし、多分あるにゃん」


「そうだね……あ、店員さん」


 私は手を挙げて店員を呼ぶ。


「はーい少しお待ち下さい」


 店員がメモ用紙を手に取り足を動かしたその時だった。


 すれ違った他の客と店員が肩をぶつけた次の瞬間、その客が懐から銃を取り出し、引き金を引いた。


 バン!! 


 と言う乾いた銃声が店内に響び、キーンと言う耳鳴りで一瞬音が聞こえなくなる。


 倒れた店員の身体から血が流れ、床に広がっていく。


「…………」


「………あ〜あ」


「クソが」


 客はそう言いながら死体に向かって唾を吐きかけ店を出る。


 ……そんな事が起こったけれど、私を含めて、店にいる誰も騒がない驚かった。


 いや驚いた人は、確かにいた。


 でも驚いたのは“撃たれたこと”じゃなくて、耳鳴りを起こす大きな銃声に驚いただけだった。


「あ〜あ、やっちゃったねライリー」


「わ、私じゃないからね、今の」


 お店を掃除していた5体のお掃除ロボットが現れ、死体を5秒もたたずに片付けるとすぐにどこかに行ってしまう。


「……あのロボットって片付けた後どこに行ってるんだろう」


「んにゃ?しらにゃーい、にしてもみんな血の気が多いにゃん」


「だ、だよねハハハ」


「すみません、ご注文は?」


 さっき殺された店員が、何事もなかったかのように店の奥から現れ、メモを手に注文を取りに来る。


「……パンケーキ、期間限定のやつをください」


「私も同じ奴にゃん」


「かしこまりました、少しお待ちください」


 私たちは何事もなかったようにパンケーキを注文し、店員さんはパンケーキを作りに店の奥に消える。


「あ〜あ〜……まだ耳キーンってする」


「やるならサイレンサーにして欲しいにゃん、大きい音は耳によくないにゃん」


「そう言えば…前から聞きたかったけど、耳4つあるけどどれが本物?」


「全部にゃん」


「電話出る時ってどの耳で出るの」


「気分にゃん」


「耳く…」


「もういいにゃん耳の話はそれより、話題変えよ話題、そうにゃん昨日の話にゃんけど」


「ねえ前から思ってたけど語尾どうにかならない?」


「ならにゃい」


「そうなんだ、昨日何かしたの?」


「紐なしバンジー!」


「えぇ……」


「めっちゃ高いところからさ、もう“ドーン!”って落ちたにゃん、綺麗に着地できると思ったにゃんけど…失敗しちゃって」


「着地って…どれぐらいの高さから落ちたの」


「えーっと100m」


「できるわけないじゃん、そもそも何でバンジーなんて」


「紐ないからただの飛び込みにゃん」


「助かるわけないのに…何でそんなことしたの」


「ほらよく言うにゃん、猫は高いところから落ちても大丈夫って」


「猫ちゃんでも7mで死んじゃうよ」


「へ〜そんにゃんだ、でも死んでも何回でも死ねるし問題ないにゃん、何事もチャレンジにゃん。ライリーも一回試してみたらどうにゃん紐なしバンジー」


「え、やだ」


「にゃんで?ここは死者の国にゃんよ、死んでも死なないにゃん」


「そう…なんだけど、でも怖くない」


「でもにゃんでも出来るにゃん、電線に触れたり、燃える火に突っ込んでも問題ないにゃん」


「好奇心は猫を殺すよ」


「もう死んでるにゃん」


「そうだったね……ん?」


「どうかした?」


「いや、あれ……」


 何の気なしに私は窓の外に視線を向けた。


 ピンク色の髪の女の人が走っている。

 私より少し年上──高校生くらい。


 見たことがない。

 記憶のどこにもない。


 それなのに、どこかで会ったことがあるような、不思議な感覚が胸に広がる。なんなんだろう…これ……


 そんな彼女は、数人のヤンキーに追われていた。


「オラオラオラァ!」


「走れ走れぇ! フハハハハ!!」



「……あの人、追われてる」


「ん?あれわ…あ〜ああれはロッキングクルーにゃんね」


「へー誰?」


「ここら辺にいる半グレヤンキークラブにゃん、ああにゃって1人でいる女の子を付け狙ってるにゃん」


「へ〜……きも」


「うんきもいにゃん」



「お客様、パンケーキです」


 パンケーキが机の上に置かれる、ナイフを手に取ろうと視線を窓際に向けると視界の端っこに腰の曲がったおばあちゃんが見えた。


 そんなおばあちゃんがゆっくり信号を渡っていると…信号が赤になり──


 車が、そのおばあちゃんを轢き殺した。車はそのまま他の車に突っ込み、ガードレールに激突、ほんの数秒で玉突き事故の連続で大事故に…


「あちゃ〜大事故だ」


 お掃除ロボットが現れ、慣れた手つきで事故現場の片付けを始める。


 するとさっき轢かれたおばあちゃんが、再びその場に現れ、運転手と口論を始めた。


 そんなおばあちゃんを押し除けピンク髪の女性は…えーっとロッキングクルー?とか言う半グレ集団から逃げる。


「…………」


「……いただきにゃーす、うーん。このパンケーキ、すごく美味しいよ。ライリー、食べないならもらっちゃうよ?」


「大丈夫かな、あの人」


「ん?大丈夫じゃにゃい、あいつら殺す以外にとくにしにゃいし」


「それって…問題じゃあ……」


「え?にゃにが?別に死ぬだけにゃん」


「そう…かな……」


「ライリー?」


 目の前のとても大きなパンケーキよりも逃げる少女に目線がいく。


「どったの?」


「……ごめん、優香ちゃん」


 私は財布からお金を取り出して机の上に置き、そのまま店を出た。


「え? どこ行くの? パンケーキは……って……まあいいや、いただきます!」


 なんで、外に出たんだろう?


 自分でもわからないし、理由なんて多分ない。ただ1つあるとするなら“何かが始まりそうな気がした”から。


 私は何もない空間に、バイクに跨るような動作を取ると、何もない空間に部品が現れバイクを作り出す。


 支配人さんは、君が願う事なら全てが現実になると、君はなんでも出来ると言った。


 この能力は現実の基礎となる分子を編集し整える力。


 でも正直、どこまで出来るのかは私にもよくわからない。それに使い方を間違えれば自分の身を滅ぼすとも言っていた。


「……うん、いける」


 私はハンドルを握りエンジンをふかすと勢いよく、バイクを走らせた。


 何故かわからないけど、あのピンク髪の人を追わなきゃいけない。そんな気がしたから、私の中の勘と言うか本能の様なものがそうすべきだと教えてくれている。


 きっと多分この行動は間違ってない。


 ハンドルを動かし曲がり角を曲がる。


「──いた、見つけた」


 バイクを走らせ、彼女を見つける。


 彼女は、車道のど真ん中を走っていた。後ろからはヤンキーたちが迫ってくる。


「はぁ、はぁ……もう最悪……なんなの、この街っ!」


「おらぁ! 死ねえ!」


 私は腕を伸ばし片目を閉じよく狙いを定める。


「えい」


 ヤンキー達の少し先に警察が使ってそうなストッパーを作り出す。


「おい、前見ろ!!」


 ヤンキーのひとりが叫ぶが手遅れ、作成したストッパーがヤンキー達のバイクに絡まりバイクを静止させる。


「なんだこれ!? 止まったぞ!」


「くそっ、動かねぇ!」


 バイクが止まり、混乱するヤンキー達。今ならいける。


 その隙に私はバイクを消し、彼女に近づいて手を取った。


「大丈夫ですか」


「……はぁ…はぁ……あ、たんた誰?」


 手を握りしめ、彼女が顔を上げて目が合った瞬間、

 胸の奥が、ぎゅっと掴まれた気がした。


 理由はわからない。頭の中が真っ白になって心臓の鼓動が勝手に速くなる。


 理由はわからないけど、とにかく彼女から目を逸らせなかった。


「…な、なによ、なんか言いなさいよ」


「わ、私は…え、えーっと」


「くっそ…なんだこのストッパー」


「バイクが動かねえ、これ取れんのか」


「このストッパー…虫の体液みたいな緑髪の女のせいか」


「む、虫の体液!?ちょっともう少しいい感想あるでしょ」


「ねえよ!!」

「リーダーあの女を…」

「まあいい…キッショい髪色の女も」


 あの半グレヤンキー共…好き勝手いいやがって、でも5人も相手にするのは難しそうだし、そもそも喧嘩なんてしたくないし……ここは逃げよう。


「ついてきて」


「ちょっと…」


 彼女の手を強く握り、路地裏へと駆け込む。


「逃すか追え!!」

「両方ともぶっ殺せ」


 ヤンキーたちもバイクから降りて、追いかけてくる、流石に私のスピードだと…このままだと追いつかれる。


「なら」


 私は路地裏の入口に壁を作成し、建物の外壁に梯子を作成する。


「大丈夫?上がれる」


「そ、それぐらい大丈夫よ、にしても凄い力わねそれ」


「そ、そうかな…ってそんなことより早く登って」


 彼女と一緒に梯子に手を伸ばし上に登る。


 金属製の梯子は、途中から汗で滑りそうになる。これなら掴みやすい素材にしておけばよかった……掴みやすい素材ってなんだろう、木?プラスチック?


 そんな事を考えながら、どうにか登り切った私たちは、屋上に身体を投げ出すようにして倒れ込む。


「はあ…はあ…はあはあ…」


 久しぶりに運動したせいで息が上手く吸えず、自然と胸が上下に激しく波打つ。


「大丈夫あんた」


「はぁはぁ…も、だ、大丈夫です」


 下を見てみるとヤンキーは諦めて帰って行く姿が見えた、それを見て少しだけ安堵した。


「よかった…だ、大丈夫…ですか、えーっとケガありませんか?」


「……ありがとう。まさか、この街の人に助けられるとは思ってなかった」


「まあ……みんな少し、変わってるから」


「少しどころじゃないでしょ……ほんと、どうなってるのよこの街、はるばるこの街に来たのに」


 はるばる?


「え、えーっと最近ここに来たんだ……死因はなに?」


「死んでるわけないじゃん」


「……え?」


 私は思わず彼女の顔を見つめた。


「ここは“死者の世界”だよ……?」


「私は──猿渡彩香。日本から、歩いてここに来たの」

投稿予定マップ


4/4

専門用語146〜149 21:19


4/5

1* 7:30

第2話 私の家 8:30

第3話 映画館 9:00

キャラクター解説157〜159 ライリーなど 10:00

第4話 娯楽町 11:00

23* 11:10

第4.5話 図書館 13:10

2* 14:00

第5話 再会 15:00

第6話 博物館 17:00

26* 18:00

第7話 フードコート 19:00

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― 新着の感想 ―
死んだ者達が集まる街「D-タウン」なのに歩いて!?と衝撃的な一話でした。
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