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至上の無名光術師の苦難  作者: 八指犬
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6章 急ぎの式

余計な情報を排除する為に殊更場面転換を明示する事は致しません。会話の間の表現を重視し、詰まりの無い会話はそれに応じて発言が連続します。発話者が分かりにくい事も多々ありますがご容赦下さい。その代わりに「」の鍵括弧を一纏めとして同一人物の発話が描写を挟まずに連続する事はほぼ排除しております。

また、多少前後している事もありますが描写は時間順となっております。

6章 急ぎの式


1節 拙速


 「ユッミル様、こんにちは。ところで光の主宰様、この度のご成婚おめでとうございます。今回のご成婚に異議や疑念はございませんか?」

 「疑念はありますよ。何故急ぐんですか?」

 「メシャーナさんの出産の事がありますしその関連ですよ。その前にやってしまわないと次はネメッカ様となって予定が立たなくなります」

 「分かりました。話を進めます。ネメッカ様も意義や疑念は無いんですね?」

 「そうですね。ユッミルが私を好きかは疑念ですが成婚を認めるという事はそういう事ですよね」

 「そうですよ」

 「ところででしたらネメッカ様ではなくネメッカとおよび下さい、ユッミル」

 「ネメッカ、そうなると服を着ろ、あまりくっ付くな、とかそういう言い方になるが構わないのか?」

 「ええ、良いですよ」

 「ネメッカはそういえばそういう…」

 「ユッミル様、結婚式を開催しますのでそちらの話を進めます」

 「イーサ、ごめんなさい。進めて下さい」

 「開催は五日後ですね。会場も決まっています。招待状も作成中です。明後日には衣装も用意されます」

 「早いですね」

 「ええ、基本的な準備は既に着手していましたから」

 「では僕やネメッカは?」

 「ユッミル様は今日の夜にネメッカ様と共に各団の使いの方々と祝賀会を開催して頂きます。招待状は今日の午後に送付してその際にその事を伝達させますので基本的にはキッシャノさんも含めて来ると思いますよ。ネメッカ様の事ですから私も少しは参加する予定です」

 「つまり、今日は家に帰ればいいと?」

 「まあもう少し話しますし細かい話を決めてもらいますが」

 「私達の結婚式なのですから私達の意見無しでは進めませんよ。まあ私の意見は既にある程度聞いてもらっていますが」

 ユッミルは結婚式の概要の説明を受ける。

 「ところで大半の主導や主宰が出席するんですね。指揮所は大丈夫ですか?」

 「それは月の主宰様の担当を要請する事になっています。本来はシェンハ様だったのですが事の経緯から月は要請に応じてくれるでしょうから氷次第です。後は木の団に会場整備に協力頂く予定です。ただ、そこは私が手配しますのでユッミル様は気にしなくて良いです」

 「ユッミルは私の体を撫で回して時折抱き寄せてくれればいい」

 「それでイーサさん、私はもう準備に帰るべきですか?」

 「いえ、今回ばかりは光の団で準備するのでロコッサやフェノが案内しますからネメッカ様と休んでて下さい。私は招待状の最終点検と送り出しをしてきます。」

 イーサは応接室から去っていく。

 「私達は一度私の部屋に行きましょうよ」

 「そうですね」

 ユッミルは部屋に入るとネメッカの手を取ってゆっくりベッドに押し倒して抱き留める。

 「ユッミル、今日は積極的ですね。構いませんよ」

 「ネメッカ様はお美しいですね」

 「ユッミル、どうして動かないのですか?」

 「ネメッカと抱き合ってると幸せだよ」

 「私はどうすれば」

 「今は居てくれたらそれで良いよ」

 「はい」

 ユッミルはしばらくネメッカを抱き続ける。

 「ユッミル、私は軽く体を流したいので離してくれますか?」

 「分かりましたよ」

 ユッミルは相変わらずベッドに横になっている。

 「ユッミルは無防備すぎます」

 「ネメッカ様に警戒すると気が休まりません」

 「では先程のは?」

 「ネメッカ様は強引にはなさらないとは信用していますよ。その魅力的なお体で誘惑されたら時には困ります」

 「分かりましたよ」

 ネメッカは部屋の脇で体を水で流して布で軽く拭くとさっさとユッミルの方に戻ってくる。

 「ユッミル、優しく体を撫でるように吹いてくれませんか?」

 ユッミルはネメッカの手に軽く支えられながら体から水を拭っていく。そのままユッミルはネメッカを抱きしめる。

 「あれ?あっ。いや、ネメッカ様。私を操るのはやめて下さい」

 「ユッミル、さっさと襲わないと私が捕まえてしまいますよ」

 「分かりました。今はそれで良いですがそろそろ向かいませんか?」

 「外で私の背中を抱き寄せながらゆっくり歩いてくれるなら行きます」

 「普通に隣では駄目なのですか?歩きにくくないですか?」

 「ゆっくり歩くのには都合が良いでしょ。ユッミル、駄目かしら?」

 ユッミルは困惑しながらも了承する。

 塔を出るとネメッカはユッミルの腕を取り込み、自分の胸元に引き込む。

 「ネメッカ様、何を?」

 「私はユッミルにこういう触れ合いも許していると示したいのです。ユッミルは私の小汚くて分かりにくい胸なんて触りたくないかもしれませんから実際に掴むかは任せますがしんどいでしょうね」

 「いえ、さじ加減が分からないだけで興味はありますよ」

 「まあ私もユッミルに求められて高揚したら困りますから軽くお願いしますが室内では遠慮はそこまで不要ですからね」

 ユッミルはネメッカの胸ごと抱き寄せてゆっくり歩く。

 ユッミルの家に差し掛かるとネメッカの目には炎系術師がしそうな服装の女性が歩いている。ユッミルはさっさと手を離す。

 「ネメッカ様、私は姿を消しますので間違って招待したと言って帰ってもらって下さい」

 「うーん、ユッミルの意向なら仕方ありません」

 「あらっ。ネメッカ様、この度はご結婚おめでとうございます。祝賀会に火の代表として参りましたシウと申します。ユッミル様とは交友は浅いですが祝賀会は少人数開催ですので火の団としては公平性を重んじて私が出席します」

 「ユッミルの意向だとあなたでは無いようですが?」

 「そうなりますとエッヒネ様を呼べば良いんですかね?」

 「構いませんよ。エッヒネ様にユッミルとの婚姻を祝福されるのは光栄な事です」

 「ですけど対外的には困るでしょうね。ユッミル様、駄目ですか?」

 「ユッミルはいませんよ」

 「えっ、こんな時に嫁を一人にするなんてね。ですけど実際にはそうではなく後ろにいたりする気がするんですよね。」

 シウはネメッカの横から抱きつきに行く。

 「シウさん、出席で構わないのでやめて下さい」

 シウはユッミルがネメッカから離れた一瞬を狙って抱き留める。

 「ユッミル様、おめでとうございます。私もこれからも使いとしてよろしくお願いします」

 シウは続けてネメッカも軽く抱く。

 「ネメッカさんもユッミル様と結婚できて良かったわね。それに比べたら火の団の祝いの言葉なんて全く価値が無いわね」

 「いえ、ありがとうございます。ユッミル入りますよ」

 「はい、シウさんもこちらへどうぞ」

 家にはミーハとメシャーナだけであった。

 「二人だけ?」

「ええ、キッシャノさんとロコッサは光の団の人と買い物ですよ。ソヨッハはフェノに何か頼まれたみたい」

 「ユッミル、その女は?」

 「ネメッカ様にその態度は駄目だよ」

 「ユッミル、ネメッカはもう知ってる」

 「シウさん、火の術師だよ」

 「つまり、ミーハと同じ役割ね」

 「まあそうだけどこの人は大人だし僕は軽くあしらわれてるだけだよ」

 「ユッミル、それが駄目なの。火の人はユッミルを軽く見てる。ネメッカ様も困るけどユッミルを大事にしてる」

 「メシャーナさん、ユッミル様をただの火の術師が丁重に扱ってユッミル様にもネメッカ様を超える存在になったら困ると思いますよ」

 「分かりましたからメシャに面倒な事を言わないで下さい。メシャ、あの人は僕が相手をするからメシャは気にしなくていい」

 「いえ、そうはいきません。私はこのままここに住みますし」

 「はあ?」

 「一緒に寝ます。ユッミル様を射止めた気がしますので」

 「そんな事は無い」

 「そうですよ。事前に了承を得て下さい」

 「まあ変な話ですが二日後でも構わないのは構わないのですよ」

 「私は嫌だけどね」

 「えっとどうして火だけ使者を断られるのでしょう?私は何か失礼を働きましたか?」

 「分かりました。とりあえず一人の使者は受け付けます」

 「ユッミル?いえ、仕方ないですね」

 「で、準備はまだみたいね。なら座って待ちましょうか。」

 「そうですね。今日は僕は客扱いらしいしお」

 「あっ」

 「シウさん、何を?」

 「驚かなくても今はこれ以上はしませんよ。それにしてもネメッカ様は気が利きませんね。この程度はさっさとしてあげないと」

 「そうです。今はネメッカ様がいるんですからあなたにそういう出番はありません。シウ、そこをどいて下さい。ネメッカ様と座ります。」

 ネメッカがソファーに腰掛けるとユッミルは膝の上に座る。

 「シウ、隣に座っても良いですよ」

 「私を無下にしたいなら服を脱がせて手足を開かせて男みたいな体と罵倒して火の塔に帰るように言いつければいい」

 「えっと、無下にはしていませんよ。ただ、ネメッカ様の方が大事というだけです」

 「そうですね。冗談ですよ、そんな事をされたら悲しくて男性を一生愛せなくなります」

 「男性を愛したいならこの仕事はやめるべきでしょうね」

 「その、ユッミル。もういっそかじってください。変に息を吹かれると困ります」

 「そうしますね」

 「そのままでお願いします」

 ユッミルを抱くネメッカの安らぎは長くは続かない、ネメッカの耳に扉を叩く音が入ってくる。しばらく誰も反応しない。

 「ミーハさん、来客なので扉を開けて下さい」

 ミーハが扉を開けると二人いて一人は光の塔で見かけた事のある子だがもう一人は単調な服装で術師かも見た目では分かりにくい。

 「ネメッカ様、氷の術師オーネさんをお連れしました。氷の使いだそうです。ユッミル様の好みが分からないので暫定と暗に言っておられましたが」

 「氷もか、シェンハはそういう事をしないと思っていたんだが」

 「いえ、ユッミル様。シェンハ様は不在で数人の幹部の方々が相談していましたよ。指揮の招待状に関する返事はすぐ頂きましたが少し時間がかかってからオーネさんを連れていく様に言われました」

 「分かりました、急ぐなら帰っても構いません」

 光の術師は外へ出ていく。

 「さて、早速」

 「あの、好きにしていいので痛いのとか、苦しいのだけはやめて下さい」

 「あれ?どういう事?」

 「私も分かりません。オーネさん、祝賀会で苦しいとはどういう事ですか?」

 「ユッミル様は様々な団から女を徴収して女性の弱点をゆっくり長時間突いて服従させて従順にさせているという噂です。そして、そもそもその指図はネメッカ様がしているとか。私はそんな事しなくても従いますのでやめて下さい」

 「ネメッカ様、巷では変な噂が流れてるらしいですよ」

 「ユッミルに指図できたらこの女性達は一掃しますよ。まあユッミルは狩りを必要としていますから仕方ないですけど」

 「服従等していません。外でよそよそしい態度を取れないという弱みは背負わせていますがお互い様です」

 「でも私はユッミルに従順ですよ」

 「噂では私がネメッカ様に虐げられているらしいですが」

 「そうですね。困った噂ですが対処はありません」

 「けどこの子は従いますと言っていましたしそれ自体は問題無いでしょう」

 「シウさん、そういう話は後ですよ。オーネさん、よろしくお願いします。たまに泊まりに来るという事ですね?」

 「いえ、ほぼ毎日です」

 「まあ連絡さえしてくれればそれでも構いませんがユッミルを怖がる人の言い分とは思えませんね」

 「えっと、氷の塔は遠いのでそんなに戻りたくはないかなと」

 「えっ」

 「ユッミル様、私なんていい子ですよ。優しくユッミル様を導いて気持ち良くさせてあげてますし。この子は何もしない気ですよ」

 「何もしない訳無いよね?別に料理とか掃除とかね。シウさんもお上手ですし派遣されたという事はね」

 「その…できません。ですよね、役立たずですよね。ですから体位好きにして構いません。私が身勝手でした」

 「それは適当にしますが術は使えないんですか?」

 「使えますが上手ではないです。ユッミル様がいないときは留守番と子守をしています」

 「子守?まさか」

 「ユッミル様にはネメッカ様と付き合う前の子がいるという噂もあります」

 「まあ外形上は間違っていないのもまた困るな。この子は子供だけど僕はまだ父親ではないよ」

 「はい?」

 「この子はメシャーナ。同居人だけど血縁関係は無い」

 「そうなんですか」

 「私とユッミルはたった三歳しか離れていないよ」

 「えっ。ユッミルさんって大人になったばかりですか?」

 「17だな」

 「私は21です。年下は年下ですか、てっきりネメッカ様と同じ位かと」

 「そうなんですよ。だから良いのかもしれません」

 「ネメッカはもう年だし大人しくしていなよ。ユッミルは私に任せて」

 「またそれですか。メシャちゃん、それはユッミルが決める事」

 「決めはしませんがネメッカ様は十分お若いですよ」

 「私は年寄りだし気軽に使い捨てて良いのよ、ユッミル様」

 「シウさんは好き放題ですから使い過ぎないようにしますよ」

 「使うですって。そう、ネメッカ以外の女は使えばいいのよ。分かってるわね」

 「分かりました。シウさんの事はそうします」

 「まあ今はそれで良いと思うわ」

 「シウさんの代わりは早めに要請しておきます。ユッミル、それまで我慢して下さい」

 「それは構いませんが結婚式には出席しますのでそれまではいますけどね」

 「ユッミル様、一度袖にすれば戻りませんけど宜しいのですか?」

 「ネメッカ様の強い意向なら止むを得ません」

 「あの、そろそろどこかに座りたいのですけど」

 「ええ、ご自由にどうぞ」

 オーネはソファーに腰を据える。ネメッカはユッミルを抱きながら壁際にゆっくり引き込む。

 「ネメッカ、あなたは塔でもユッミルといられるのだしここで位大人しくしたら?」

 「構わないのですよ、ミーハさんもユッミルにくっ付いても」

 「いや、やめておくわ。ユッミルに嫌われたくないし」

 「ユッミル、嫌なのですか?」

 「えっと、少し困ります。まあただただ待たされるこの状況もですが」

 「ユッミルが嫌ならやめておきます」

 「嫌とまでは言ってません」

 「分かっていますよ。少し寝ましょうか、私はユッミルに抱かれても面倒だとは思いませんから」

 ネメッカはユッミルと寝転がる。しかし、その後あまり間を置かずに扉が開く。

 「ロコッサさんですね。来なさい」

 ロコッサはネメッカに近づく。

 「疲れてるようですからあなたも寝ましょう」

 ロコッサはユッミルを挟んでネメッカの反対に寝転がる。

 「ロコッサさん、お疲れのようですね」

 「そうですね。少し疲れはあるかもしれません」

 「どうしたのですか?」

 「結婚式の準備を手伝っていたので」

 「えっ」

 「やはりですか?イーサが無理を頼んで申し訳ない。あなたは料理に参加しなくて構いません。一緒にユッミルに甘えてしまいましょう」

 「いえ、その」

 「ユッミル、良いですよね?」

 「どういう事ですか?」

 「木の団の術は結婚式の準備で重要な役目を担っています普通は三人とか四人でもっと時間を掛けますが今日は一人だったでしょうね」

 「いえ、途中でユッホ様も手伝いに来てくれましたし」

 「それでも大変でしょう」

 「私はユッホ様には及ばないのでそれはそうですがこうして休みはもらってるので大丈夫ですよ

 「そうですか、でしたらこのままで良さそうですね」

 しばらくするとフェノやリュッサが光術師数人と入ってくる。

 「ユッミル、あなたは良いですからね」

 「分かりました。メシャ、来て」

 ユッミルはメシャを呼び寄せると膝に乗せる。

 「ご苦労様」

 「いえ、今日はネメッカ様のお祝いですからくつろいでいて下さい」

 「そうなんですけどユッミルはあの様に小さい子が好みでして少し手伝わせて下さい」

 ネメッカやリュッサは料理を用意していく。

 「で、フェノはどうして前に立つ?」

 「護衛ですから」

 「今はいらないだろう」

 「そうですね。そもそも私は塔へ報告に戻る必要もあります。急ぎではないのですが」

 「まあ休憩するのは構わないしまあそこでも好きにしたらいい」

 「それでですね。できたら肩をほぐして頂けないかと」

 ユッミルの膝に座ったメシャーナは身を乗り出して肩に手を掛ける。

 「あっ」

 「ありがとうございます。小さな手ですけど力は強いんですね」

 「ですけどそろそろお願いしますね」

 ユッミルは静かに手早くメシャーナを膝に戻す。

 「ユッミル、そんなに私の胸が揉みたいならいつでも揉めばいいのに」

 「メシャ、簡単に手に入るものには価値が無いし逆に価値が無いものでも出し惜しまれると価値があると錯覚するものだよ。だからネメッカ様の方が価値が高い」

 「えっと、ユッミルが好きにすればいいよ」

 「ユッミル、私が出し惜しんでると言うのですか?」

 「いえいえ、節度を持たずに安売りすると価値が無いですし高く売りすぎると誰も買いません。難しいですよねというお話」

 「ですがユッミルの場合はメシャちゃんがいるんですから高くは売れません」

 「そんな事はありません。メシャでは満たされません」

 「ちょっと、ユッミル。私の方が大きいのに」

 「それはそうだけど仕方ないの。ネメッカ様は全体として魅力的。でもメシャと違って小さくないから膝には乗せられない。前が見えないからね。それぞれ魅力は違う。」

 「だったらミーハは膝に乗せれるけどやはり胸が小さいから安いの?」

 「ミーハは借り物だろう」

 「その言葉、ラーハ様に言ってもいい?」

 「それはどういう意味だ?」

 「分からないならやめておく。心配しないで」

 ユッミルが所在無げに見守っていると一人の光の術師がミーハと話すと部屋の端を移動していく。ユッミルが先を見ると女術師は服の裾を上げ始める。ユッミルは慌てて視線を逸らした。ユッミルは普通に見る事も可能でそれを知った上で術師はやっているが見ない事にした。強力な術者は短時間に余程大量に飲み食いしない限り、これが不要だ。ネメッカですら何十日も起きないし、ソヨッハも数日に一度でユッミルの家でする機会はほぼない。ロコッサも塔を往復するので少ない。メシャやミーハはよくあるがユッミルは気にしていないし本人達もそこまで興味は無い。

 「フェノ、良いのか?」

 「そうですね。そろそろ様子を見てきます」

 フェノは塔に向かう。

 「メシャ、やはりネメッカ様の相手をしないと」

 「えっ。でも、良いよ、あの人は今だけだし」

 「ネメッカ様、お相手頂けますか?」

 「ユッミル、ネメッカサマ等という名前の人を私は知りませんが?」

 「ネメッカ、頼みたい事があったけど嫌そうだしやめておく」

 ネメッカはゆったりとユッミルの方に向かう。

 「手は空いたので問題ありません。気が利かなくてすいません」

 「いえ、横に居て下さるだけで結構ですから」

 ユッミルはネメッカを軽く抱いて体を預け、目を瞑る。

 しかし、ユッミルはすぐさま立ち上がる。

 「まさか、もう飽きたの…」

 「いえ、来客です。イーサさんかも」

 「ならユッミルが立つ必要はないですよ」

 ユッミルは扉へ向かう。扉はユッミルの前で開かれる。そこに居たのはリッネであった。

 「どうされました?」

 「結婚式の前に祝賀会を催すと聞いたのでね」

 「あの、一応ですが招待したのは各団の使者という事ですが伝達を間違えたのですかね?」

 「今日は私が使者で構わないよ」

 「使者の役目は私如きの使用人でして月の主導様にその様な地位を一時的にでも与える失礼はしたくないのですが」

 「ユッミルは私に過酷な命令を与え、それを達成して初めて参加権が得られるのか?」

 「いえ、主導や主宰はできれば選出頂かない方向でお願いしたいのですが」

 「ユッミル様、あなたは私に命令できる機会を失うのですか?」

 「いえいえ、命令の内容次第であなたの不興を買うと困りますので」

 「では私が不快なものはきちんと伝えますよ」

 「分かりましたが次はネメッカ様の許可を取って下さい」

 「ではネメッカ様、構いませんか?」

 「はい、この家で寝ずに帰るのであれば構いません」

 「ユッミル様が泊まれと言わない限り、帰りますよ」

 「言いません」

 「迷わないのですね」

 「いえ、この家には確実に女性でない方の宿泊を望んでいない方がいますので」

 「確かに私もこの家に男が泊まるのは困るわね」

 「あなたもですか」

 「ええ、ユッミルがそいつに私を押し付けようとしたらユッミルに思い知らせたくなってしまうかも」

 「泊めませんから。それに火の団の許可なく追い出したり、そんな事はしませんから」

 「なるほど、理解した。それはやむを得ないな」

 しばらくするとまた扉を叩く音がする。ユッミルはやっとイーサかと思うものの、土の使いの可能性も過りつつ、扉を開ける。

 「なんだ、ルーエか」

 「ユッミル、なんだその反応は。ネメッカ様もいるのに何を期待した?」

 「いや、イーサ様が来ないと大変な仕事を押し付けたままなので安心できないと思いまして」

 「ああ、イーサか。あれは忙しいのか?」

 「どういう事です?」

 「よく分からないから曖昧な事を言うのはやめておく。それよりネメッカ様、結婚おめでとうございます。こんな男が相手ですが私は良い男を紹介できる訳でもないのでこれでもましなのかもしれませんから素直に祝福させて頂きます」

 「ルーエ、ユッミルはあなたの態度が悪いから優しくないだけです」

 「ネメッカ、それはもう良いですから」

 「はい、後はイーサを待ちましょう」

 「そうですね」

 料理自体は完成しつつあったがイーサはまだ来ない。

 「少し見てきますね」

 「駄目です、入れ違えもあり得ます」

 「分かりました。すぐに戻ります」

 「私も行きます」

 「いえ、本当にすぐですから」

 ユッミルは手早く探していく。

 「いませんね」

 「早すぎます。本当に見て来たんですか?」

 「やはり塔まで行きましょうか?」

 「いえ、それは良いですからユッミルは傍にいて下さい」

 「ネメッカ様、後はいくつかの料理に火を入れるだけなのですが」

 ネメッカはユッミルの肩を抱いているが光の術師はそんな事を全く気にせずネメッカの指示を仰ぐ。シウとミーハはネメッカが少し考え事で緩んだ隙を見て反対側に陣取る。

 「シウさん、そんな事をしなくても逃げませんよ」

 「それは私の事を楽しむという事?」

 「違いますよ。そろそろ座りますよ」

 「まあ今日は別の子の品定めに忙しいから仕方ないわよね」

 「ですがシウ様、あまりそういう事ばかり言っているとシウ様が耐えられなくなってもやめなくなるかもしれませんよ」

 「それは困るかもしれないけどあなたには無理よ」

 「そうですね。火の団の方々に問題視されたくはありませんから」

 「ああ、ネメッカがユッミル様に焦れる理由が分かった気がするわ。ただ、私の場合はあなたの事を言えないけどね。」

 しばらくするとまた扉が開く。その時、シウはユッミルに口づけをする様な仕草をイーサに見せていく。

 「あらっ、これで全員かしら?私は火の使いのシウですよ」

 「はい、火からは派遣があるとは聞いていました。それで氷からも派遣されると聞きましたが」

 ユッミルやネメッカが目線をソファーに送るとそこには眠りかけるオーネの姿が映る。

 「あちらが氷の使いのオーネさんです」

 「そうなんですか。また余程急いでいたんですね」

 「まあ仕方ないですよ」

 「いえ、少しお仕置きが必要だと思います。気が抜けてるとどうなるかご理解いただきましょう。そうですね」

 「イーサさん?」

 「ユッミル様、ここをもう少し単純な小屋にしてオーネさんは金属格子で閉じ込められている様に幻覚を見せて下さい」

 「イーサさん、何をする気ですか?」

 「ユッミル様、後は私以外の姿を消して下さい。私の姿と声を粗暴な男に変えて下さい」

 「えっと、ここは光の塔では無いので程々に願います」

 「後は鉄格子から出ようとしたら雷盾で阻んで下さいね。ユッミル様の力をご理解頂くいい機会です。お気楽にユッミル様に近づく方は怯むかもしれません」

 「仕方ないですね」

 「ユッミル様やお客様は中央でお待ち下さい。ユッミル様、緩めの放音でオーネさんを起こして下さい。」

 イーサの独演会が始まる。ユッミルの放音でオーネは目を覚ます。

 「起きたようだな、小娘」

 「ここは?あれ?」

 「はっはは、まあいずれ分かるさ。恨むならあの家の主を恨めよ。金目のものがあればそれで良かったが何もありやがらねえ。物音はした気がしたが他に誰もいねえ。だから俺らが派手に押し入っても眠りこけて居やがった馬鹿なお前を売りとばす事にした。」

 「ちょっと、ええ」

 「まずは立て。そして、服を脱げ」

 「えっと、その」

 「おい、痛いのが好みなのか?」

 オーネは服を脱いでいく。

 「脱ぎました」

 「手で耳を塞ぎながら肘を上げろ。動くんじゃねーぞ」

 イーサはオーネの体を時折触りながら細々見ていく。

 「よし、扉を開けるからついて来い。」

 イーサはオーネをユッミルの前に誘導する。ユッミルが困惑しているとイーサはユッミルを引き倒して顔をオーネの腹に突っ込ませる。オーネの幻覚は解ける。

 「えっと?」

 「オーネ様、先程のはユッミル様の幻覚でございます。ユッミル様は凄いですね。ところであなたは招待されたユッミル様の使いにもかかわらず寝ておられましたね。そうやって気を抜くとユッミル様はさっさとそういう姿にして使い捨てですよ」

 「それは困ります。使い古しても良いので捨てないで下さい」

 「とりあえず料理を食べたいので服を着て下さい」

 「まだ言いたい事があるので服はユッミル様がお持ち下さい。寝るのは構いませんが昼間の招待客がいる状況は困ります。座っていいと寝て良いは違います」

 ユッミルはオーネの服を回収してくる。

 「ユッミル様、迂闊に服を脱いだ女の人に対する罰をお願いします」

 「いや、これ以上は」

 「ユッミル様はそうやって大人しいふりをして後で襲うんですね」

 「分かりましたよ」

 ユッミルは罰を与えていく。

 「えっ。やっ。その、ごめんなさい」

 「イーサさん、もう良いですか?」

 「そうですね、続きは夜にお願いします」

 「ユッミル、何ですか、それは?」

 「ネメッカ様、イーサさんに言われただけですから」

 「私の体は不服ですか?」

 「そうかもね、私の時はこんな程度では無かったわよ」

 「そうね、オーネは私ほどは魅力が無いみたいね」

 「ネメッカ様はお忘れの様ですね、残念です」

 「そうですよ。最初の日は良かったのにあの日だけでした」

 リッネは少し驚いている。一方で光の女性術師達は料理を仕上げていく。

 「そろそろ食べませんか?」

 「はい、いくつかの料理は完成していますのでそろそろ並べても宜しいですか?」

 「構いません。ユッミル様とネメッカ様はあちらの席へ。ユッミル様のもう一方の横には公平を期して私が座ります。ネメッカ様の横はフェノさんで願います。後の席は自由です」

 光の団員は料理を並べていく。

 「皆さん、席に着いた様ですね。では本日は我が団の主導ネメッカ様と主宰のユッミル様のご成婚の祝賀会にご参加頂きありがとうございます。程なくして開催されます結婚式へのご参加とご協力をこの場をお借りして要請します。急な話でご迷惑をお掛けしますがお許し下さい。私からは以上です。ユッミル様も何か」

 「えっと、ネメッカ様との婚姻が良いものになる事を願っています。こちらにもご協力をお願いします。今回はご参加頂き感謝しています。これから一緒に生活する人ともより良い関係を築けるように努力いたします」

 「次は私ですが本当はユッミルは私だけの男と言いたいですが我慢します。皆様も程々に、良い関係を築けるようにお願いしますね」

 会の初めこそユッミルはネメッカと話しながら食べていたが徐々にシウやミーハが侵食し、メシャも居座っていく。次第に話は広がってリッネとソヨッハとも談笑していく。イーサは女術師達と主に会話しつつもユッミルの話に時折挟まっている。

 「ユッミル様は他の術が使えるとしたらどの術が良いですか?」

 「氷ですかね」

 「ユッミル、やはり見せてくれる女が良いんですね」

 「ネメッカ様?」

 「分かりましたがどうしてオーネさんが?」

 「えっと、氷の術が優秀と思っているだけですよ」

 「そういう事ですか」

 「でしたらユッミル様が女目当てで入団するとしたらどちらなの?」

 「光以外ですよね。やはり火でしょう。女性が多いですから」

 「それで手当たり次第に手を出すと」

 「シウさん、嫌ならやめても構いませんよ」

 「申し訳ございません。言う事を聞きますのでそれだけはやめて下さい」

 「シウさん、演技が下手ですね」

 「ユッミル様、どうして強気に出て私を服従させないのです?」

 「無理ですからね」

 「忠誠心を疑っておいでのようで。どんな形のお相手も致しますのでご要望下さい」

 「今日はネメッカ様がいるので不可能です」

 「そうですね、駄目そうですね」

 ユッミルは一度嘆息しつつも食事を食べていく。

 「皆様、時間は大丈夫ですか?イーサ様も?」

 「ええ、問題ありません。泊まっても問題は無いでしょう」

 「ちょっと、ユッミル?やはり」

 「イーサさん、これで済まなくても構わないのですか?」

 「前にも申しましたがネメッカ様の機嫌を損ねますよ」

 「今はそうですね。ですがネメッカが寝てしまえば後は幻覚でどうにもなります」

 「分かりました。泊まるのはやめましょう。元々、そういうつもりではありませんでしたから」

 「それは知っていますよ。それよりも離して頂けますか?」

 「何の事ですか?ユッミル様が離れようとしないだけですのに」

 「イーサさんに乱暴は働けないので抜けれません」

 「いきなり粗暴に体を掴むのも十分乱暴でしょう。それに私はユッミル様との触れ合いを拒否できませんね。主宰様の機嫌を損ねたくは無い」

 「それを言うと意味が無い気がしますが私もそれは同じですよ」

 「分かりました、では私が言います。二人ともお互い離しなさい。そして、ユッミルは私に同じ事をしなさい」

 ユッミルとイーサは接触を解く。

 「ネメッカ様、あなたのご命令ですがお美しい体に怖気づいて手が出せません」

 「ユッミル」

 ユッミルはネメッカを軽く抱くとすぐさま食事に戻る。

 「申し訳ありませんが今は食欲が勝っていますので」

 「まあ良いです」

 光術師が度々部屋の隅に消えていく事以外は平和に事が運んでいく。

 「それでは私は帰ります。その前に皆さんでできる限りは片づけますよ」

 イーサは光術師と食事がなくなった皿だけを片づけてから帰っていく。護衛としてフェノが同行する。

 「それでは私も帰ります。今日は楽しい会にお招きして頂き感謝する」

 「リッネ様、名残惜しいですが時間とあらば仕方ないです。また今度」

 「ええ、結婚式は出席できると思う。月の主宰は出席しないから心配しないで欲しい。ではまた」

 リッネもユッミルの家を後にする。ネメッカはユッミルの事を見守っている。

 「どうしたんですか?」

 「いえ、ユッミルの事を抱きたくて仕方ないのでごめんなさい」

 ネメッカはユッミルを強く抱いて胸の中で激しく転がした。

 「ネメッカ様、困りますよ」

 「ユッミル、私は悪い子ですから手を握っておかないと駄目ですよ」

 ネメッカは両手を差し出すとユッミルは素直に強く掴む。

 「ユッミル、悪い子の手は後ろに回さないと。もっと近づいて下さい」

 ネメッカはユッミルを膝の上に乗せて対面する。

 「ユッミル、服を脱がせた方が色々やりやすいですよ」

 「両手が塞がってるからできないよ、ネメッカさんは変な事を言わないで」

 「私は反省してるから片手でも従うから離しても大丈夫」

 ユッミルは片手を離す。

 「ユッミル、今日は特別ですから好きに触って良いですよ」

 「嫌じゃないの?」

 「嫌なら言いますからすぐにやめて下さいね」

 「分かった」

 ユッミルは顔をネメッカの胸に寄せてゆっくり揉んでいく。

 「ネ、ネメッカ、どういう事?」

 「あの、私なら、ユッミルをその気に、させれるという事ですよ」

 「でもユッミルの様子、明らかにおかしいよね」

 「ネメッカ様、お酒に頼るなんて悲しくならないの?」

 「大丈夫よ、最初はお酒では無くてユッミルにしてもらいましたから」

 「まあ昨日、私としたばかりだしそうでもしないと無理そうなのはそうだけど」

 ユッミルはネメッカの胸元で眠そうにしている。

 「ユッミル、私もそろそろ寝たいけど寝る時は服が邪魔だから脱がせてから一緒に寝よ」

 「そうなんだ、分かった」

 ユッミルはネメッカの服を脱がせていく。

 「ユッミル、私のもす…」

 「ミーハちゃんも脱がせて欲しいんだって」

 「ちょっ、いや、これで良いのよね」

 「ユッミルちゃん、私も脱がせて」

 「うん、シウちゃんの服は脱がせやすいからね」

 「私も」

 「メシャは服着て寝ないと駄目。寝るよ、メシャ、シウちゃん」

 「ちょっと、ユッミル。私は」

 「ネメッカはルーユちゃんと寝なさい」

 「どうして?」

 「ルーユちゃんが僕と君が仲良いと怒るの」

 ユッミルはシウとメシャーナと布団に入る。

 「なっ、えっ、あっ」

 「ユッミルちゃん、やはり積極的ね」

 「ルーエ、隠れて居なさい」

 ネメッカはユッミルの枕元に座る。

 「シウさん代わって下さい」

 「ユッミル様に聞けば?」

 「ユッミル、ルーエは帰ったけどシウさんが良いの?」

 「ううん、ネメッカ」

 「仕方ないですね」

 シウはユッミルの横を譲る。

 「ユッミル、私の体で遊んで良いですよ」

 「それでは私は向こうの様子を見て来ます」

 「構いませんが音を立てずに入りなさい」

 「どうしてですか?」

 「ユッミル様とネメッカ様の邪魔になりますから」

 未明、ユッミルが起きるとユッミルは裸のネメッカの上に乗っている。横にも裸のシウが寝ている。ユッミルはネメッカを抱きなおすとまた眠っていく。




 2節 準備


 翌朝、ユッミルが目を覚ますと状況に変わりは無かった。静かにネメッカから降りるとシウの足を軽く開いて足元に座って体に手を掛け、放音でシウを起こす。ユッミルは気まずそうな演技をする。

 「ああ、ユッミル様。私は駄目ですね。お楽しみの邪魔をしました。後ろを向くのでそれも楽しんで下さい」

 シウは足元にいるユッミルを避ける為に足を一度曲げてさっさとうつ伏せになる。

 「別に起きたいなら起きれば良いですよ」

 ユッミルはそう返答しつつも呆気に取られている。

 「今日である必要はありませんが仕事ですからお願いしますね」

 ユッミルは数分だけ仕事をするとネメッカを抱く。ネメッカは起きてしまったが寝たふりをしてしばらくいてその後、ユッミルを抱き返す。

 「ネメッカ様、起きてるんですか?」

 「はい、今起きましたよ」

 「昨日はよく憶えていないのですけど」

 「はい。密かに酒を飲ませましたから分かってて受け入れたのですからユッミルは気にしなくていいです」

 「いえ、ネメッカ様のせいで僕の欲が丸出しでした。困ります」

 「ごめんなさい。お仕置きして下さい」

 「良いですけどそのお仕置きはネメッカ様が嫌な事なのですから今後は以前していた事でも控えます」

 「分かりました。ユッミル、手を貸して下さい。ここは困りますので今回はお願いします」

 ネメッカは声を押し殺す。

 「ユッミル相手なら恥ずかしいで済みますけど他の相手なら屈辱ですね」

 「僕に愛想をつかせば屈辱に変わりますね。嫌われない様にします」

 「ユッミル、やりすぎですよ。お詫びに口を貸して下さい」

 「身勝手ですけど今のネメッカ様は色気が普段よりもあります。お腹に膨らみがあって大変な最中という事に気付けなければ無遠慮に強制的に襲ってしまう所です」

 「分かりました、産むまで我慢しますよ」

 ネメッカとシウは平然とユッミルと朝食を取るがメシャーナとミーハは少し機嫌が悪く、ソヨッハとロコッサは困惑している。オーネは単に眠そうだ。

 「ソヨッハさん、本当に負担を掛けますけど今日もお願いします。塔にご一緒して下さい」

 ユッミルとソヨッハとネメッカとリュッサは塔に向かう。塔に着くとソヨッハとリュッサは主宰部屋に休息に向かう。

 「イーサ、おはようございます。とりあえず、応接室で話しましょう」

 ネメッカはユッミルと組んだ腕を離さずに連れていく。

 「イーサ、作戦は失敗です。何が酒を飲ませれば襲ってくるですか?何も起きませんでしたよ」

 「ネメッカ様から襲えば良かったのでは?」

 「それはまだです。それにユッミルが私の体に興味を示したので待ちましたが私の体を軽く触って遊ぶだけでした。ユッミルは酒で子供に返っただけです。それはそれで可愛かったですが男にはなりませんでした」

 「いえ、最近は他の女性とそういう機会に嫌という程恵まれていますからネメッカ様には癒しを求めたのかもしれません」

 「イーサ様、いい加減にして下さい。私がネメッカ様に怖い存在と思われたらあなたも困るかもしれませんよ」

 「まさか、ユッミル様は酔うとネメッカ様の体を食いちぎるのですか?」

 「そこまではしないと思いますが」

 「そんな訳の分からない話は良いです。とにかく黙って抱いて欲しいのに中々してくれないのが悩みです」

 「それは分かりましたがそろそろ結婚式の話を進めます。この後はシーリュノ様が来ますので早く済ませましょう。とりあえず今は衣装の試着ですね。一度上で別の進捗状況を確認してきますからその間にさっさと着ておいて下さい」

 イーサは部屋を出ていく。

 「ユッミル、これは一人では着れません」

 「分かりました」

 ユッミルはネメッカの後ろに回る。

 「ああ、この紐ですか。短いですね」

 「えっと、遠慮なく引いて下さい」

 「ああ、そうですね」

 「思ったよりきついですね」

 「もう少しですが重いです」

 「もう少し、その内向きに」

 「そうですね。でも少し上は」

 「それは駄目です」

 「ちょっと痛いかもしれませんけど引きます」

 「お願いします」

 ユッミルは辛うじて紐を結ぶ。

 「できましたよ」

 「ユッミル、でしたら私の胸を激しく揉んで下さい」

 「えっと、衣装が皺になってしまいます」

 「そうですか、ユッミルは私が大勢の前で服が脱げてしまえばいいと言うのですね」

 「分かりましたよ」

 ユッミルがネメッカの胸をゆっくり押す等していると胸がはだけていく。

 「ネメッカ様、これに何の意味が?」

 「大丈夫そうですね。そういうのは式が終わってからですね」

 「分かってますよ」

 イーサが部屋に戻ってくる。イーサは二人の衣装を軽く見ていく。

 「はい、大丈夫そうですね。そろそろシーリュノ様がおこしですから着替えなおしましょう」

 ユッミルはさっさと着替え終える。

 「ユッミル、一人では脱げません」

 「イーサさんに頼めばいいでしょう」

 「ですけどユッミルにしてもらう方が良いですからお願いします」

 「まあ良いですけど」

 服装の一件を終えて応接室を出て入り口の方を見ると既にシーリュノがいる。

 「ユッミルさん、この度は結婚式という事でおめでとうございます。もちろん、私も主導も出席いたしますので」

 シーリュノは普段と服装が違う。ユッミルから見ればかなり露出度が高く見える。

 「ありがとうございます」

 「ええ、本当に良かったわね」

 シーリュノは短時間ながらユッミルを抱き込む。その後、ネメッカも抱き込んでいく。

 「お祝いありがとうございます」

 「いえ、そろそろ行きましょうか」

 「はい、会場の下見はついでになりそうですね」

 塔を出て街中を歩き始めるとネメッカだけでなくシーリュノもユッミルの腕を抱き込んでいく。

 「シーリュノ様、どうしたのですか?」

 「何の話ですか?」

 「そうです。腕を組むのは私とだけであるべきです」

 「えっと、ソヨッハちゃんとこうやって歩かないの?」

 「歩きません」

 「そうですか」

 シーリュノはユッミルの手を離す。ユッミルが会場に着くとユッホが術を使っている。

 「ユッホ、私が代わりますからユッミル様の相手を願います」

 「はい、休ませてもらいます」

 ネメッカは少し表情を歪める。

 「ユッミル様、お久しぶりです」

 「そこまで久しぶりでもないような」

 「私は数日もユッミル様がいないと寂しいのでついついこういう言い方をしてしまいます」

 「そうですね」

 「ユッミル様、あれが木の主宰の実力ですよ。シーリュノ様、お願いします」

 よく分からない詠唱をシーリュノが行うと幼木が一気に成長していく。

 「一応、ユッホの出番を残しておきましたよ。今日は帰って明日から頑張りなさい」

 会場近くでユッホとシーリュノとは別れてお互いの塔へ戻っていく。

 「さて、ユッミル様。明日も準備があります。万が一雨が降っては困りますのでご宿泊頂けますか?」

 「それは構いませんが主宰部屋はリュッサが泊まりますよね?」

 「はい、ネメッカ様、ユッミル様は本日は宿舎に泊まります。余程の事は止めますが構いませんか?」

 「あの、イーサ。私はユッミルを喜んで他の女に預けてる訳ではないですからね。ユッミルが団内で少しでも関係が深められる様に仕方なく許可します。まあユッミルはその方が良いのかもしれませんけど」

 「それは分かっていますよ。こんな気遣いの無い男と付き合ってやるのにそんな男に他の女との関係を認めるなんて私の美しさを考えれば不釣り合いだと思っているんですよね」

 「ユッミル、いい加減に怒りますよ」

 「いえ、その怒りはイーサ様に向けるべきかと」

 「ユッミル様が手早く女性と仲良くできれば良いのですがネメッカ様ですらすぐにこういう関係を築いた訳ではありません。ユッミル様のお言葉を借りれば来たばかりの男が関係を拒むとは生意気という反応を関係を最大限認める女の決定権を許す男に変えていく事です」

 「分かっていますから拒否してはいません」

 「分かりましたよ。私はユッミルに不本意さを訴えているだけです」

 ユッミルやネメッカにイーサとルーエ、フェノとリュッサも塔の食堂で夕食に同席している。

 「ユッミル様、結婚式の準備はまだ終わっていませんからお遊びになるのは程々に」

 「リュッサさん、ユッミル様に大きな手間は取らせない様に手配しております」

 「イーサ、まさか」

 「まあ隠しようもないですよ。わざわざいう事でもないと思いますが」

 「ユッミル様、私もいる事をお忘れなきよう。私はネメッカ様とは違い人数は問題とは思っていません。ただ、私も役目を担う事が出来ますよ」

 「ありがとうございます」

 夕食を終えるとイーサと宿舎に向かう。宿舎には何人かの女性が寝ている。

 「今日は徹夜作業もいくつか存在していますので作業者には昼間の間に仮眠してもらいましたのでここにいる人達は全員願います」

 「四人もいますけど?」

 「全員ですよ。それに五人です。私としてもこれ以上ユッミル様に距離を置かれる位であればユッミル様の側室になってしまう方が楽だと思いまして」

 「イーサさん、何を言っているんですか?」

 「ここにいる五人の女はユッミル様が服の内に入ってくるのをお待ちです。一応、時間はとってますし眠くなっても宿舎の前で見張りとして仮眠するように命じてはいますがあまり遅いのは望ましくはありません。何人かだけ相手をしないという不公平も望ましくありません」

 「はあ、さっさと外に住んでメシャちゃんを呼び込んでしまえば良かった」

 「まあ私は反発してしまったのでイーサさんのやり口には口が出せません」

 「私にはルーエ位の関係性を持って欲しいですね。その点で言えば子供で固めればそういう心配は無くなりますかね」

 「それはそうですが子供も永久に子供ではないので問題を先延ばしにするだけかと」

 「では成長する前に」

 「それは身勝手というものでしょう。それにネメッカ様が手を取って願い出ればユッミル様はやめると思いますよ」

 「そうですね。気にしない様に努力しないと」

 「ユッミル、やはり塔でしてるのかしら?」

 「リュッサは今日は向こうと一定いたよ。ユッミルさんは無理にしないしリュッサさんも優しい人だし」

 「そうだけどユッミルって最近、ネメッカに限らず誰かと寝てるしね。ネメッカやその付き人だけとは限らないわ。あのフェノって側近も油断ならないわね」

 「そのフェノさんは宿舎の見張りだしユッミルさんは用事がある人とはしないと思う」

 「けどあの女が交代要員を用意して迫ればユッミルは折れるわね。残念だけどネメッカ以外には止めれない」

 「ミーハの口も閉じたいわね」

 「閉じても実際にはそうよ。けどネメッカ以外ではあなたが頼んだら少しは効果があると思うけどね」

 「そうかもしれないけど言えないよ」

 「そうね。あなたは勝手にやった上に付き合ってもいない。けど私はそれ以下よ。まあそれ以上だとラーハ様の許可がいるし簡単ではないけどね」

 「リッネ様、お帰りは今ですか。調査、ご苦労様です」

 「ああ、テーファか。珍しいね。大丈夫だよ、まああまり進展は無いがね」

 「ところで今日もキッシャノはこちらですがユッミル様との関係が良くないならやはり私が担当しても良いですか?」

 「いえ、向こうは結婚式の準備で忙しい。少なくともそれまではそういう変更を申し出る負担は避けたい」

 「分かりました。少し待ちます」

 「ユッミル様、ありがとうございます。こういう事をして子供が出来てしまうとそれはそれで問題が起きますが私も女ですしユッミル様に興味が無い訳でもありませんし人に指図してばかりの女とも思われたくはありません」

 「それは少し思っていましたがそういう人も必要ですよ」

 「ですがユッミル様、随分丁寧な扱いには感謝しますが私は今日は夜の相手役です。そうした扱いは役不足という宣告ですか?」

 「そうやって口車に乗せて私の丸出しの欲望を把握して管理する気でしょう」

 「ユッミル様は慎重なので私から行きますが必ず黙って返礼して下さいね」

 「そろそろ迎えに行きます」

 「お待ち下さい、邪魔をするとイーサ様の顔を潰しますよ」

 「それはそうだけど」

 「そろそろ良さそうですね」

 「はい、名残惜しいですがいずれは終えないといけません」

 「これ以降はユッミル様がお誘い下さいね。しばらく空きますが宿舎でのこれは度々しますよ。ネメッカ様を呼びます。皆さん、ユッミル様をお願いします。」

 イーサは服を羽織るように纏うと宿舎を出る。それを見ていたユッミルの周りには4人の女性がやってくる。

 「イーサさんが言ってましたけどユッミル様はネメッカ様に隠し事がしたくないそうなのでどうぞ私達の体で遊んで下さい」

 ユッミルが四人の術師と戯れているとネメッカが宿舎にやってくる。

 「ユッミル、私が相手しますから来て下さい」

 「せっかくこの子達が相手してくれているので拒めません」

 「あなたはまだ足りないのですか?」

 「いえ、ネメッカ様だけでも十分ですが誘われてしまうとどうも断れない」

 「それは分かっていますけどね」

 ユッミルはしばらくすると寝床から抜ける。その後、ネメッカを抱きながら押し倒す。

 「ネメッカ様は誘わなくても襲いますよ」

 「分かってます」

 イーサも戻ってきて悠然と服を着なおしていく。

 「ユッミル、急にどうしたのですか?」

 「いえ、とりあえずネメッカ様の部屋に行きませんか?」

 「駄目です、ルーエがいます」

 「ですがこ…」

 ユッミルは頭を抱える。宿舎の入り口に五人程の女性術師が立っている。

 「そういう事ですか」

 二人は宿舎を出るが三人は向かってくる。

 「イーサさん、私達に作業を押し付けて裏ではこんな行事をしていたんですね。ネメッカ様も止めないとは」

 「表立って募る訳にも行きませんでしたが希望者には適正な選抜を致しましたよ」

 「まあ受け付けてしまったのは僕とネメッカ様ですから今後は…」

 「ユッミル様は悪くないですよ。こういう役回りなのですから」

 「えっと」

 「あなた達、何をする気ですか?」

 「ネメッカ様、そこの四人が良くて私達は何が駄目なんですか?」

 「僕が疲れたので今度という事で」

 「でも結婚式前だから四人も相手にしたという事は今後は困るんじゃないですか?」

 「それはそうですが」

 「私達も結婚後はあれですから今しかないかもしれませんよ」

 「それなら今もやめましょうよ」

 「だからそこの四人が良くて私達は何が駄目なんですか?私達は魅力的では無いんですか?」

 「あなたも良いんですね?」

 「はい」

 ユッミルは事を済ませると幻術ですり抜けてネメッカを抱えて主導部屋に連れ込む。

 「寝る場所が無いのでここで泊めて頂けませんか?」

 「元々はその予定でしたがユッミルには困りましたね」

 「ネメッカ様、申し訳ありません」

 「とりあえず主宰部屋で服を着てきて下さい。問題はそこかもしれません。リュッサさんに手を出したら別れますからね」

 ユッミルはリュッサを起こさない様に足音を消して主宰部屋から服を回収してくる。

 「ユッミル、寝ますよ。ただ、今日位は私が快適に寝る為のベッドになってもらいますね」

 よく見るとネメッカは服を着ていない。

 「具体的にどうすれば?」

 「自分で考えて下さい」

 「あの、その、でしたら私の腕を枕にするのは?」

 「そうですか、まずはやってみましょう」

 ユッミルは奥に寝転がると腕を差し出す。

 「まあ悪くは無い気もしますが駄目ですね」

 ネメッカは頭を上げて腕を抜かせる。

 「私を抱いて寝るとか」

 「少し重いかもしれませんからね」

 「横ですよ」

 「でしたらユッミルが横から抱けばいい」

 ユッミルはネメッカを抱く。

 「ユッミルはそれが好きみたいですけど今日は駄目ですよ、もう少し体の下に行って下さい」

 「はい」

 「下がりすぎです」

 「えっと、目の前ですよ」

 「多少は構いません。あなたは布団なのですから足も使って抱いて下さい」

 「これだとネメッカ様を縛っている感じにもなりかねないのですが」

 「構いませんが今日は絶対に襲わないで下さいね。今回の反省として今日は我慢して下さい」

 ユッミルとネメッカは眠りにつく。

 朝、目が覚めるとユッミルは顔がネメッカの胸に乗っている。

 「ユッミル、我慢できなかったんですか?」

 「寝てる間はどうにもならなかったですね」

 「それは構いませんが夜の様な事はこれきりにして下さい」

 「それはイーサさんに言って下さい。そもそもイーサさんはあなたの側近です。あの人は人を操るのが上手いですからネメッカ様が禁止して下さい」

 「まあとりあえず結婚式前は何もしないでしょうね。後、しばらくは許可しないのでイーサは何もしませんよ」

 「ネメッカ様もイーサさんに甘いですよね?」

 「否定はできません。苦労を掛けているので強くは言えないです。一応、今回も考えあっての事」

 ユッミルとネメッカは朝食を食べに食堂へ向かう。イーサとルーエとフェノにリュッサもいるが昨日の宿舎の面々も何人かいる。側近四人だけでなく宿舎の面々も同席して朝食を食べ始める。

 「ユッミル様、昨日は申し訳ありませんでした。いい機会だと思ったので強引になりすぎまして」

 「いえ、良くもありませんが言っても仕方ありません。しかし、光の団がこんなだとは思いませんでした」

 「仕方ないですよ、光の女は男性と縁が無い」

 「そうですか、ではどんな女性が男性に好まれるんです?」

 「そうですね、良く家事ができるとかですね。もちろん、優秀な術師も好まれますよ」

 「ネメッカ様位という事ですか」

 「私は辛うじてですよ。でもユッミルで良かったです」

 「そうですね。ユッミル様を狙う人は多いですよ」

 「いや、もうここの主導と結婚済み」

 「ええ、ですが隙があるとなればああなります。私は幹部ですがついつい我慢できませんでした」

 「あっ。」

 「ユッミル、ごめんなさい。こんな団で。ですが冒険者の女性は中々難しいのですよ」

 「まあ驚きましたが気にはしていません」

 「私もあの時は怒ってしまいましたけど大丈夫です。悪いのはイーサです」

 「そうですね。そういう事で丸く収まるのであればそれで構いません」

 「まあ懲りないので意味は無いわね」

 その後、昼まで結婚式の用意をイーサの指揮の下でフェノやモヌーユも加わって結婚式の準備を進める。と言っても明日と明後日の会場設営からまた本格化であり、今日は束の間の休息で作業も少ない。そうした事情からモヌーユを筆頭に女性陣はユッミルの方に集まっていく。その後、機嫌が悪くなったネメッカがユッミルを抱き寄せると作業を再開していく。昼食を終えるとユッミルはさっさと帰るように言われる。戻るとキッシャノが戻っていてユッミルに祝意を伝える。

 「ユッミル、そんな事より夕食はまだだし寝てようよ」

 「そうね、昼間からでもたまには良いわよね」

 「シウさん、服は着ていて下さい。所でシウさんは服を着て誘惑する自信が無いんですか?」

 「ふーん、いえ、ユッミルさんがその方が良いと思ったんだけど。そうね、たまには着たままでも面白いわよね」

 「ユッミル、何か危ないわよ。謝って大人しくしてもらって」

 「メシャ?そうだね」

 ユッミルはシウを強く抱きしめる。

 「ごめんなさい。お願いですから大人しくして下さい。そう約束するまで離しません」

 「離さないの?それだと約束したくないわね」

 「分かりました。とにかくお願いします。結婚式を終えるまで昼間は控えて下さい」

 ユッミルはメシャと寝ながら時折話をしている。しばらくすると帰還したミーハも加わる。ソヨッハも夕食前には帰ってくる。

 ユッミルはキッシャノやソヨッハと夕食の準備を進めていく。夕食を終える。

 「ユッミルさん、満腹で動く気が起きないから私を風呂に入れて下さい。好きにして良いので服を脱がせるのも体を洗うのもお任せします」

 「ユッミル、そんな女は放っておいて私とメシャと入ろう」

 「いや、でもシウさんをこのまま放っておくのは問題」

 「ユッミルが相手をしなければ良いでしょ」

 「今日はそれで良いかもしれないがずっとは無理」

 「まあそうだけど」

 「あらっ、私の対策という割には私がいるのに話をするのね」

 「どうすれば良いかな?」

 「自然にしたいようにすれば良いのよ」

 「うーん、足とかどこか一か所にずっと纏わり付けば気持ち悪くて逃げ帰りそう」

 「それは困る。それで撃退できなかったらもっと困る」

 「そうね。ユッミル、私がシウの事を見て弱点とか探るから今日は相手して」

 「そうだね。そういう訳なのでシウさん、さっさと脱いで入りますよ」

 ユッミルはシウの言う通り服を脱がせて風呂に入らせる。体も洗い、服を着せようとするが無いと言われて諦める。ミーハの処置を済ませるとシウとメシャを両脇にして寝床に入る。

 「ユッミルさん、私の立場は立場なのですから抱いて下さいますよね?」

 「あの、今日は構いませんが毎日は無理ですよ」

 「どうして?」

 「同じ立場の方が他にもいます」

 「けど水の子はともかく他の子は積極的では無い様に見えるのだけど」

 「そうですね。ですが昨日の様に光の塔に泊まる事もあります」

 「ああ、それは構いません。あくまでネメッカさんとの円満な関係が前提ですわよ。その上でネメッカさんばかりだと飽きるでしょうし私を使ってしまえばいい」

 「なら今日は疲れてるので遠慮したいのですが?」

 「でしたら私の体を抱いても良いのですよ、私は動きませんからお好きな体勢でどうぞ」

 「シウさんは大きすぎるのでメシャを抱きますね」

 「足位開きますよ」

 「遠慮します」

 「なら一度試してから決めて下さい」

 「足が邪魔なのでやはり遠慮します」

 「私は気持ちが良いのでユッミル様を離したく無くなって来ますね」

 シウはユッミルを抱きしめる。ユッミルは色々するがシウの反応は概ね肯定的で諦める。しばらくするとシウとユッミルは寝たがユッミルは少し後に起きたので密かにシウから抜け出してメシャーナを抱いて寝直す。

 ユッミルは朝早く目を覚ます。メシャーナを静かに離すと立って全員を軽く見回す。ユッミルがソファーに座って休んでいると近くの布団が微妙に動いている。

 「オーネさん、おはよう」

 「ええ、ああユッミル様おはようございます」

 「まだ寝るの?」

 「いえ、その起きます」

 オーネは布団から出るが体を縮めている。

 「えっと、寒いの?」

 「そうではないです、大丈夫です」

 「そう?まあ良いよ、寒ければ布団に入りなよ」

 ユッミルは台所で朝食の準備をしていく。

 「あれ?」

 オーネはソファーに座り込む。ユッミルは作業が一段落するとその様子が気になったので近づいていく。するとオーネは体をまた縮める。

 「ん?」

 「その、いつでも構いません。私も頑張って慣れます」

 「えっと、何?朝食手伝ってくれるの?」

 「えっ。」

 「違うの?」

 「その、私もお相手します」

 「あの、そういう事ですか。無理に相手をしてくれなくて結構ですよ。シウさんは好きでやってるだけですし月の人とは全くしていません」

 「えっ、氷の人達からはそういう要求があるから受け入れろと」

 「まあそうなりますよね。ですが僕の場合はもう数人相手がいるので手一杯なので当面はオーネさんが相手をしなくても大丈夫ですよ」

 「あの、慣れないので緊張しますけど決して嫌では無いですから氷の人には言いつけないで下さい」

 「分かりました」

 朝食後に出かけようとすると塔に向かう途中でフェノが待っていて結婚式会場に連れていかれる。

 「イーサさん、おはようございます」

 「おはようございます、お呼び立てして申し訳ないです」

 「ネメッカ様は?」

 「留守番ですね」

 「イーサ様はやはりお姫様を塔に幽閉しておくんですね」

 「ですが姫の保護者はユッミル様になりつつありますよ。それよりも今日はこの会場の設営の警備をお願いします。何も無いとは思いますがそれ以上に怠慢な人間の報告を願います。今日は作業が少ないから多少は致し方ないのですが。後はここは休憩所ですので話し相手を適度にして下さい。では私は指揮に戻ります」

 イーサは会場の外郭を回り始める。それを見ているといつの間にかユッミルが座る簡易のベンチの近くには二人の光術師がいて一人は一昨日の相手の一人である。

 「ユッミル様、先日はありがとうございました」

 「いえ、作業はどうですか?」

 「はい、今日は大した作業ではありません。忙しいのは明日の午後らしいです。少し疲れたので肩を借りて良いですか?」

 「えっと、大した作業では無いのでは?」

 「いえ、あまり寝てないのです」

 「まあ良いですよ」

 「ユッミル様、私は疲れてないのでむしろユッミル様が肩を借りて良いですよ」

 もう一人の術師はユッミルの手を取る。

 「交代ですよ」

 「はい」

 「いえ、ユッミル様ではありません」

 「えー、もう時間なの?」

 「そうね」

 「ユッミル様、またね」

 ユッミルは五組程の二人組の女性術師の休憩に付き添った。

 「ユッミル様」

 「今度は、フェノか」

 「えっと、よく分かりませんが警備は私が引き継ぎますのでイーサ様と一度昼食に塔に引き上げて下さい」

 ルーエと少し話したイーサはユッミルに近づいてくる。

 「では私達は一度塔に戻ってネメッカ様と昼食を食べましょうか」

 「そうですね」

 イーサとユッミルは塔に向かう。

 「イーサさん、大丈夫ですか?」

 「どうしました?」

 「僕には警戒しないんですか?」

 「前にも言いましたがネメッカ様と疎遠でない限りは問題ありません」

 「ですが一度してしまった以上はもう一度と思うかもしれませんよ」

 「そうなんですか?とてもそうは見えません」

 「そうですね、イーサさんは流石です。何人か相手したついでですからそこまで印象は無いんですよね。ネメッカ様には敵いませんね」

 「それで良いのですよ」

 ユッミルはイーサとネメッカとロコッサと昼食を取ると微妙に不機嫌なネメッカに見送られて会場に戻る。

 「ユッミル様、午後は頃合いを見て塔にお帰り下さい。塔に帰ったらネメッカ様は会場に来ますのでネメッカ様の帰還を塔でお待ち下さい。明日は木だけでは無くいくつかの団も援軍に来ますからユッミル様も自由に顔を出して下さい」

 ユッミルが塔に戻るとネメッカが待っている。

 「ユッミル、今から行くんですがこれだとまるでユッミルを避けてるみたいですね、本当にイーサは酷いです。留守番、お願いしますね」

 「はい、分かってますよ」

 ネメッカを見送って上に登ろうとする。

 「ユッミル様、イーサ様が作業の休憩は宿舎でユッミル様が団員との交友を深める為にお相手して下さるという事なのでお願いします」

 「分かりましたが一度主導部屋等の見回りをしないといけないので」

 「私もついていきましょうか?」

 「いえ、宿舎でお待ち下さい」

 「あの、私は団員ですし不審な行動を取れば縛ってお仕置きすればいいのですから何も心配は無いと思いますが?」

 「いえ、その方が早いと思いますよ」

 「そうですよね、失礼しました」

 ユッミルは主導部屋を一応点検し、ミヨーナと少し話すと宿舎に戻る。

 「それにしてもイーサさんは」

 「私は戻りますね」

 「えっと。はい」

 「ユッミル様、私達の仮眠にお付き合い頂けますか?」

 「私はそこまで眠くは無いですが構いませんよ」

 ユッミルは先に中央に寝転がる。

 「ありがとうございます、ユッミル様」

 「失礼します、ユッミル様」

 女性術師は早速ユッミルの肩を抱く。

 「イーサさんはなんと?」

 「ユッミル様と仲良くと」

 「気にしなくて良いですよ」

 「何の話です?」

 「えっと普段はネメッカ様がいるのでユッミル様にはあまり馴れ馴れしくできないので良い機会ですよね」

 「あなた方はネメッカ様をどう見てるのですか?」

 「はい、素晴らしい方ですよ。気配りもできますしお力もあります。ユッミル様も素晴らしいお方ですからネメッカ様が気に入られて当然です」

 「そういう事か」

 「どうしました?」

 「いや、何でもありません」

 夕食前にイーサが戻ってくる。

「ユッミル様、夕食を食べませんか?」

 「構いませんがこれ以上宿舎は駄目ですよ」

 「流石に募集はしておりません。やれと言えばやりますが」

 「言いませんよ」

 ユッミルが食堂に行くとネメッカは先に食べ始めている。

 「ユッミルも食べましょう」

 「そうですね」

 夕食を終える。

 「ユッミル、部屋に来て下さいよ」

 「ああ、はい」

 ネメッカはユッミルに抱きつく。

 ネメッカは主導部屋に入るとユッミルの胸元に顔を埋める。

 「今日は疲れたのでユッミルを誘えませんけど冷めた訳ではないので勝手に体を使っても構いませんよ」

 ユッミルはネメッカを布団に入れて帰ろうとするが戻ってネメッカを抱いて寝る。

 ユッミルが目を覚ますと手が動かせない。

 「ああ、目が覚めたんですね。それにしてもユッミルは私が無防備と分かるとこんな所にまで手を突っ込むんですね」

 「ネメッカ様、あなたが挟んでますよね?」

 「ユッミルは遠慮深いですけど私が引き入れてますから遠慮せずにもっと良いですよ」

 「いえ、そこまで突っ込んではいないです」

 「嫌ですか?」

 「いえ手に自由が無いのは上にこんな状況は変な気分です」

 「離しますが続きを少しはお願いしますね」

 朝食を食べるとネメッカと一緒に会場に向かう。イーサは留守番である。設置作業の主力の土の幹部や複数の団の術師と挨拶を交わしていくネメッカは主に光の団員と話をしている。

 「ユッミル、午後から指揮所ですよね?早いですけどお昼にしましょう」

 「えっと、ん?」

 「早くして下さい」

 金属系の弁当箱が二つ並んでいる。

 「ユッミル、私が食べさせますからユッミルは私を支えながら顔を近くにおいていれば良いです」

 ネメッカはユッミルの口に料理を運んでいく。料理の味は十分に美味しいが後半は徐々に自分で食べれない不自由さが襲いつつも楽しい食事を終え、指揮所に向かう。指揮所からよく見ると空は曇っている。魔族軍は完全に消沈しており、襲撃の気配は全くない。

 「ユッミル、お帰り」

 「はい、シウさん」

 「ユッミルがいなくて寂しかったわ」

 「えっと、今日の指揮所の幹部担当は火でしたよ」

 「えっ。そうなの?」

 「はい」

 「バッソー様も余計な…いや、エッヒネかしら?」

 「けどまあ都合のいい時だけ指揮所出勤は中々難しいのでは?」

 「そうね。ユッミルとの指揮所勤務を目指してここに入り浸るのは結婚式の後はやめます。団と話を付けますから待ってて下さいね」

 「はい」

 ソヨッハとメシャとミーハが寄ってくる。

 「ユッミル、待ってたよ」

 「えっ、ありがとう」

 「はい、今日はこちらと聞いてましたので。オーネさんとキッシャノさんはもう寝ましたけど」

 「まあ気にはしないよ」

 「ユッミル、あげる」

 メシャーナにしては珍しい行為にユッミルは違和感を覚えつつユッミルもメシャーナにお返しをしていく。

 皿の上の食事が片付いてそろそろ終えかけている時にミーハは寄ってくる。

 「あの、ユッミル。今夜はお願いできないかな?」

 「うんとまあミーハが乗り気なら構わないよ」

 「それで今回はシウとそれにソヨッハもなんだけど」

 「そっか、ねえ、ソヨッハ、ミーハやシウに脅されたりはしてない?」

 「いえ、そんな事は無いです」

 「ふーん、ユッミルはソヨッハだけが嫌なの?」

 「いやいや、皆もしてるからって理由で団の方針的にもそこまで肯定されてるか分からない事はして良いかは分からない」

 「嫌なんですか?」

 「嫌というかシーリュノ様の真意が分からないし老い先短いシウさんならともかく他の男との可能性もある子にはあまり手を出したくないかなと」

 「ユッミル様、あなたは老いぼれに欲情した可哀想な人なんですね」

 「シウさんは黙ってて下さい」

 「というかミーハも何か嫌な事を言われた気もするんだけど」

 「ラーハ様のせいであってミーハは悪くないから」

 「いえ、して下さい。シーリュノ様にはきちんと説明しますから」

 「こういう事ってそういう感じでも…けど、分かったよ。ああ、メシャはミーハに懐柔されたんだね」

 「まあでも言える話でも無いし」

 「もうそのことは気にしなくていい」

 「はあ、今日もユッミルの家に泊まりに行けば良かった。心配です」

 「ネメッカ様、それでは側室の意味がありません」

 「イーサ、仕方なく側室みたいになるのを認めているだけで側室では無いですからね」

 「それはユッミル様に言って下さい」

 「それが出来れば苦労しません」

 「シウさん、そろそろミーハを寝かせるので一度待って下さい」

 「えっ、私だけ退場?」

 「仕方ないだろ」

 ユッミルはミーハを抱きかかえて縛るとシウとソヨッハの方へ戻る。

 「ユッミルさん、私もまだ行けます」

 「はい、お願いします」

 ユッミルが目を覚ますとソヨッハを抱いてシウの体を触っている。少し時間が遅いので慌てて食事をしようとする。

 「あの、今日は私達も行きますから急がないで良いですよ」

 結局、ユッミルは家からメシャーナとロコッサ以外で連れ立って会場に向かう。

 「あの、結婚式本番は明日だよ」

 「はい、ですけど今日位は準備を手伝いますわ」

 会場に着くとネメッカとイーサもいる。しばらくするとバッソーとグルードにツーシュンとシーリュノが連れ立ってやってくる。指揮所の当番はシェンハであり、リッネも来ているようで遠目に見える。

 「ユッミル、おはよう」

 「前日だからと言ってこういう方達にわざわざ来ていただくのは」

 「まさか、私は頼んでませんよ」

 「ははは、わしは大きな建造物の設計や補強改造は趣味なのでな」

 「俺も土が会場設営を仕切っているから応援に来ているに過ぎない。気にしないで良い」

 「それなら良かったです。ツーシュン様もありがとうございます」

 「ユッミル様?私は?」

 「あの、シーリュノ様はネメッカ様と懇意の様なのでネメッカ様が謝意を伝えれば十分かと思いまして」

 「ユッミル様?」

 「いえ、冗談です。シーリュノ様にも感謝しています。先日もありがとうございました」

 「ユッミル、久しぶりだね」

 「そうですかね」

 「相変わらず賑やかに女の子が控えてるね。末席に加わりたいよ」

 「ご冗談を立場は逆ですよ。所で調査はどうです?」

 「あまり順調ではないね。けど今日と明日は重要だから中止したよ」

 「ありがとうございます。所で昨日は雲を見たのですが雨は大丈夫ですかね?」

 「それは大丈夫だよ。ただ、五日もすればいよいよ雨季だね」

 「リッネ様も流石に雨季は活動しませんよね?」

 「ああ、本格化されると霊族相手には不利だからね」

 「本当に面倒な事を押し付けてしまって」

 「大丈夫だよ。それより明日の式はうまく行くと良いね」

 「そうですね」

 

 

 

 

 

3節 前夜


 「何かだいぶ全容が見えてきましたがこの壇上の両側の向かい合う席の並びは私とネメッカ様それぞれの係累の席という事ですか?」

 「いえ、まあ係累がいればですが今回は双方ともそうでもないですしその様な分けるという話は無いですよ」

 「そうですか」

 「はい、壇上から見て右手は係累も含めて嫁と婿の近親者や同僚、つまり、光の団内の側近や友人にその他関係者ですよ。とにかく光でネメッカ様やユッミル様と交友が深い人達が陣取ります」

 「で、左は?」

 「そうですね。ユッミル様が今も引き連れておられる他の団の使いの方の席ですよ」

 「えっと、おかしくないですか?」

 「何がです?」

 「ああ、ネメッカ様向けの使いも含まれるんですね」

 「いえ、その様な枠はございません」

 「そうですか、でしたら何故こんなに席の数が多いのですか?」

 「それはですね。その、火の団の側室がシウ様を含めて三人ですから他の団も公平を期して三人までと通達したからですよ」

 「つまり、当日はたくさんの空席になる訳ですね。まあ少し体裁が悪い気もしますがやむを得ませんね」

 「いえ、その、空席はそんなに無いですよ」

 「は?」

 「火だけでなく水ももう三枠を決定したご様子ですし木はユッホ様もそこに出席すると伺っております。メシャーナ様も土の枠として加わりますし土もメシャーナ様以外にも用意する様ですよ。月と氷も二枠は使うとの意向です」

 「ああ、氷はディユ君とオーネさんですね」

 「いえ、氷を含めて全員女性ですよ」

 「はあ、あの、そんな事をしたら僕がどう見られるか分かってますか?」

 「各団に人気や人望のある方と見えるかと」

 「六つの団から三人ずつ20人近い女性と交友する女好きにしか見えないでしょう」

 「そうも見えるかもしれませんね」

 「いや、そうとしか見えないでしょう」

 「ですが月の出席者は現状二人との事ですし木もそうですから20人に近くはなりません。ただ、どの団も二人は用意するご様子ですから14人は確定ですね」

 「ネメッカ様、良いのですか?」

 「流石にその人数ともなると形式上にしか見えないので大丈夫だと思いますよ」

 「特にそこのシウさんさえ大人しくしてくれれば問題ありません」

 「まあ水の方は主導様の前で愚かな事はしそうにないですし私に警戒するのは理解しますが結婚式では何もしませんよ」

 「とりあえずありがとうございます」

 「ユッミル様、私はあなたと寝るのを楽しんでいるだけです。ネメッカ様みたいに昼間に遊ぶ事は今は興味がありません」

 「それは良かったです」

 「では後はオーネさんが居眠りさえしなければ問題は無さそうですね」

 「そうかしら?何処かの団がとんでもない女を送り込むかもしれないわよ」

 「まさか大体、とんでもない女なんてそんなに数がいないからとんでもない女なんですから流石にシェンハ様があそこに座る筈もないんですからそうでなければ噂話の種になる様な事すら無いでしょう」

 「だと良いわね」

 「シウさん、脅さないで下さい」

 「ユッミル、この女には惑わされては駄目ですよ」

 ネメッカは子供を保護する様にユッミルを抱き寄せる。

 「ネメッカ様、大丈夫ですから。それよりメシャの出席ですか、イーサさんが調整したんですか?」

 「ええ、私もですがエッヒネ様から打診もあったので積極的に仲介頂きました。どうやら彼女がユッミル様の冒険に同行できるよう計らう意向が強い様ですね」

 「はい、知っています。いずれはそうなるでしょう」

 「そうだ、ユッミル。壇上に一度上がりませんか?そこの人達はちょうどいいですから側室の所に並んでみて下さい」

 「そうですね」

 ユッミルはネメッカに手を引かれて壇上に上がる。イーサは光の団の席の前列中央寄りに堂々と立っている。側室席ではシウやミーハがいつも通りに牽制しつつ、探りながら表面上は楽しそうな会話をしている。リッネはキッシャノと談笑している。ツーシュンはいつの間にか壇上脇の木の生育に協力し、ユッホは休憩としてソヨッハの近くに座る。それを見たユッミルはソヨッハに声を掛けに行く。

 「ユッホさん、お疲れ様です」

 「いえ、感謝してくれるならまた来てくださいね。ユッミル様とやりあうのは楽しみですから」

 「ありがとうございます」

 「所で光団内の使いの問題は解決したんですか?」

 「はい、当面は問題無いかと。本当に光の団の影の主導の力は強いですから」

 「ユッミル様、私の事を何か話していますか?」

 イーサは中央の通路を横切ってくる。

 「お待ち下さい。ここは他の団の使いの場所、イーサ様が他の団に引き抜かれるなんて困りますから縁起として来ないで頂けますか?」

 「そういう事でしたら仕方ないですがあまり私の変な噂はおやめ下さいね」

 「少し位言いたくなります」

 「わかりました、深い意味は無いと思っておきます。所でその縁起で言えばリッネ様はユッミル様の側室という形に近づいた事になるのでしょうか?」

 「イーサ様、お願いですからそんな発言はおやめ下さい。」

 ユッミルはイーサに迫る様に懇願する。

 「ユッミル、イーサはまた何かしたんですか?」

 「そうですけどネメッカ様は気にしなくていいです」

 「本当にネメッカ様以外は油断ならないです」

 「ユッミル、そんな事を言わなくても十分に関係は深まってますよ」

 「ありがとうございます」

 「ただ、その低姿勢は困りますけど」

 ユッミル達は昼食の為に塔に戻る。今回はソヨッハとユッホも光の塔に向かう。木の団と光の団は回数は少ないが相互に食堂や宿舎の出入りの実績はあるのでそれを聞いたユッミルは特に反対せずに二人を受け入れた。

 「ユッミル様、ご苦労様です」

 「ああ、フェノか。こちらこそ留守番ばかりで悪いね」

 「いえ、ですが当日は私も行きます。先頭はイーサ様ですが私も二番手として堂々と光の団員として振る舞います」

 「まあ静かにね」

 「はい、主役の二人を堂々と引き立てます」

 「で、ここにいる女性達も」

 「はい、並びますね。光の団は木の団と月の団に塔の警備を依頼して大半の団員が出席します。」

 「月?」

 「はい、リッネ様が志願下さいましてね。ネメッカ様とリッネ様の関係は深くないですが地理的に近いので一般団員の交流は御座いますし一般団員はお互いに印象は良いので特に異論はありませんでしたよ」

 「そうなんですか」

 「話が逸れましたが全員は光の団の席に並びません。ユッミル様が指導した子供とユッミル様と関係が深い女性だけです」

 ネメッカとユッミルは一瞬頭を抱える。

 「イーサ、まあ良いですけどそんな区切りは必要ですか?」

 「ちょうどいい区切りがあるのですからそうすればいい」

 「まあそれはそうですけど」

 「イーサ、まさか私がユッミルを持ち去るとでも思ってるんですか?」

 「あっ」

 「いえ、そんな事は無いです。むしろユッミル様が他の団の女性に惑わされて実質的にその団の手駒になられる事を懸念しているだけですよ」

 「でしたらシウさんみたいなのだけを拒む事は出来ないのですから一律で止めればいい」

 「いえ、シウさんは警戒していません。火はそういう企みをできるような団の現況ではないですよ。まして主流派でもないシウさんはそういう問題は無い」

 「では誰が?」

 「いえ、今の人達は私も選定を見ていますので問題ないですが今回は結婚の件で有耶無耶に受け付けたので少し見極めが追い付いていない」

 「オーネさんも」

 「まあ大丈夫でしょう」

 「そうですね」

 ユッミルは昼からも会場に出向いたがいよいよ完成していた。午後には七つの団の合同警備隊を発足させて光からはルーエとフェノが参加し、主力は氷と土に月と火である。珍しく水も数人の幹部を派遣して本当に全団の合同警備が実施される。しばらくしてネメッカが来るとミーハとムヒューエやシウにエッヒネもやってくる。

 「エッヒネ様、ご無沙汰しております」

 「こちらこそ、ユッミル様」

 「今日はどうして?」

 「ああ、ユッミル様は団の風習には疎いのですよ。私が説明します。私達は無性の町にも増して各術を伝統的に尊重してきましたから結婚式という大事な行事でもそれを取り入れます。つまり、結婚式の装飾に各団の術の自然要素を取り入れるのが伝統なのです。あの木もそういう事です。土の術師にも協力頂きましたし水の団にも火の団にもご協力頂きます」

 「はい、ですから私はシウとユッミル様の為に点火しに来たのですよ」

 「そうですか、ありがとうございます」

 「そういえば木が二本に増えてる」

 「まあ今回はツーシュン様とシーリュノ様やその側近の方々がいたので二本目はかなりあっさり立っていました。私も流石に驚きました」

 「ええ、火は会場を激しく燃やす訳にはいかないので静かな装飾になりますが」

 「水も大した事はありません。土の団の整備あっての水路への水入れになる訳ですから」

 「で、氷は私がやるわ」

 「えっ。シェンハ様?」

 「仕方ないでしょ、ユッミルに交友関係なんて期待できないのだから少しでも組んだ事がある私しかいないでしょ。私は失敗しないし溶けても困るから当日だけどね。明日楽しみにしていなさい」

 ユッミルが見守っていると少し珍妙ながら個性的な装飾が壇上周辺に完成していく。

 「そう、こんな感じになるのね。私も初めてだけど明日の感じは掴めたから最後は任せなさい」

 「いえ、シェンハ様。最後はユッミル様がやりますから心配なさらず」

 「えっ。いや、一応主役よね?」

 「まあ構わないですがそれで良いのですか?」

 「もちろん、リュッサやモユーヌにも細々と手伝ってもらいますがフェノさんには警備に気を配ってもらいたいですしルーエはそういう戦力にはなりません。キョーク様ですら協力させますが少々今回は規模が大きいのでユッミル様の手無しには回らないのです」

 「私は?」

 「いりません。ネメッカ様が上の空で出席なさるとあらぬ噂を招きます」

 「ユッミルは大丈夫なのですか?」

 「ええ、ユッミル様なら片手間ですよね?」

 「まあ問題ないです」

 「私もそれなりの術は使えますよ」

 「いえいえ、そうであってもあくまでネメッカ様が主役ですから」

 「それを言えばユッミルも主役ですよ」

 「ですがネメッカ様では手が足りません。二人が手間を掛けるよりは一人が手間を掛ける方が良いという判断です。光の主導と主宰が結婚などという例は多くないでしょうから仕方ないですよ。ユッミル様、間違って雷撃を打たないようにお願いしますよ」

 「そうですね、シェンハ様は打っても大丈夫そうですけど気を付けますね」

 「ユッミル、良いけどそんな事をしたらあなたは凍るわよ」

 「あなたこそやりすぎてネメッカ様を凍らせたら許さないですよ」

 「そんな事しないわよ」

 「冗談ですよ」

 「でしたらせめてユッミル、あなたの術に私の意見を取り入れて下さい」

 「それは構いませんよ」

 ネメッカは壇上から少し引いて光の術を使ってユッミルと相談している。

 「親心ですか?」

 「エッヒネ様、いきなりなんですか?私は二人より少し年上ですけどそういう年ではありません」

 「知ってますよ。まあユッミルさんはあなたが面倒を見なくても強いですし私も含めて面倒を見ようとする人は多いですしね」

 「そんな偉そうな考えはありませんし少なくともお互い様ですよ。ユッミル様がネメッカ様の事ばかり気に掛ける訳にはいかないのですから多少は配慮していますがそれ以上は何もありませんよ」

 「まあそれで良いと思いますよ。ユッミルは言うまでもなくネメッカ様にも快適に暮らして頂かないと私も困りますからお願いしますね」

 「エッヒネ様は強欲ですね」

 「はい、否定はしません」

 イーサとフェノはユッホを連れて塔に戻り、ユッミルと同居人はネメッカと共にユッミルの家に戻り、夕食を共にする。

 「えっと、メシャ。明日の結婚式、来れるか?」

 「良いの?」

 「ユッミルこそ良いの?」

 「私が正式に側室になったら私はユッミルの妻だからしかもそろそろ子供もできるし他の男に押し付けて厄介払いできなくなるよ」

 「何を勘違いしている?僕は君がきっと自分から旅立つと思っているよ。その際に躊躇いはいらない。正式に側室になっても君は団のしがらみは無い、迷わず解消して構わないよ」

 「私はユッミルに追い出されなければいるよ、一緒に」

 「まあとにかくメシャちゃんも来てくれるんですね。良かった」

 「ユッミル、私はそろそろ大人になるしネメッカもいずれは老人。乗り換えてきて良いからね」

 「メシャ、エッヒネ様はネメッカ様より10近く上だがまだまだあんなのだぞ。そんな考えは捨てた方が良い。」

 「ユッミルはエッヒネさんの作られた表情とかあの服装に騙されてるだけで年寄りだよ」

 「うん、エッヒネさんの話ばかりするとネメッカさんに悪いからやめよう。とにかく土の団員として出席してね」

 「うん、大丈夫。本当はユッミルの小間使いなのにね」

 「メシャ、そういう冗談はやめてね」

 「うん、言ってみただけ」

 夕食を終えるとソヨッハとネメッカとロコッサと共にユッミルは塔に向かう。

 塔に戻るとイーサとフェノが待っている。

 「少しお時間よろしいでしょうか?」

 「えっと」

 「二人共ですよ」

 四人は応接室に向かう。

 「ようやく準備は終わりました。会場にはエッヒネ様を中心とした火の人達が料理を振る舞って下さっているので警備隊の士気は問題ありません。今は団に所属しない元火の男性も応援に来て下さってるようなので量を捌くという面も問題ありません」

 「イーサ?」

 「そういう事なのでやっと無事にネメッカ様は結婚式を迎えられます。ネメッカ様は頑固です。ユッミル様は口では頑固な言い草をしていますがきちんと妥協できます。しかし、ネメッカ様は結婚するのは前まで全く無理だと思っていました。私と違って性格も良好なのに勿体ないと常々思っていましたがやっとです」

 「ユッミル様、私は向こうの二人ほど深い関係ではないがこれを機にああなれる、いや、私はユッミル様の冒険を支えるのだからあんな感じだけではないがとにかく今後の関係が良くなる事を願っているし今回の結婚も祝う所存だ。一番の側近として労いを形で示させて頂く」

 イーサはネメッカを、フェノはユッミルをそれぞれ抱擁する。ネメッカはイーサを抱き返す。

 「ユッミル、あなたはフェノを抱いてはいけませんからね。意味が変わります」

 「ネメッカ様、フェノは側近です。そんな意味は断固ありませんので礼儀としてきちんと抱き返します」

 ユッミルもフェノを抱き返す。ネメッカは少し嘆息するものの穏やかな表情でイーサとユッミルを見守っている。

 応接室を出て二階に上がると月や木の団員が少数ながらいる。明日は光の塔には少数の団員のみを残して塔には月や木が応援として今回限りで警備を担ってくれる様だ。普段は元々ネメッカが主力の脆弱な防衛でネメッカが留守の際はルーエが最後の砦という貧弱さだったが今やフェノやユッミルがいて普段はこんな事は不要だが流石に明日は全員いない上に雨季で元々人は少ない。もっともイーサも魔石制作を口実に留守番要員をお願いしたが戦力という面ではあまり意味が無く必然的に木や月の応援を頼む事になった。もちろん、交代制であり、一番欲しいのは開催中なので明日はもっと増える。今いるのは夜中の要員と未明の要員で未明の要員には宿舎で就寝してもらっている。明けた後の要員は当然ながら各団で泊まるのであり、イーサはユッホやキッシャノを通じた月の護衛担当と相談して未明までの要員は慎重に選定させた。イーサはそれでも心配そうに目を配っている。一方のフェノは呑気にユッミルの肩を持ち上げそうな勢いで急かすように階段を上がらせている。三階の宿舎の階に着くとユッホとパータナにソヨッハの木の団の面々とキッシャノと月の護衛担当でリッネの側近でもあるデュフォーネが挨拶に来る。

 「初めましてユッミル様、デュフォーネと申します。リッネ様の命により、今回の結婚式に伴う光の団の留守の一翼を担います。よろしくお願いしますね」

 「同じく木の団のユッホです。イーサさんの要請で女性中心ですけど優秀な人を連れてきましたのでご安心下さい」

 「イーサさん?」

 「ネメッカ様の安全に配慮した結果ですが問題はありますか?」

 「私の安全は?」

 「そんなものは不要でしょう。あなたは強いしネメッカ様より遥かに強い幻術が使えて逃げるのは容易」

 「そうですね。まさか変な事は目論んでませんよね?」

 「今回はあり得ません。それと私はあくまで光の団内での交友を推進しているだけです。はい、ユッホ様もデュフォーネ様も問題は無いので今日の夜から明日にかけてお願いします」

 「という事はユッホ様は結婚式に欠席ですか?」

 「いえ、今回は木と月の合同警備隊で何人かが交代で指揮を執ります。私は今から寝て未明から指揮を取ってユッミル様よりは遅いですが開始までには向かって出席しますよ。パータナには午前中は残ってもらいますが私はシーリュノ様と共に出席します」

 「私は午後からの出席となりますがご理解頂きたい」

 「いえ、どちらにしても結婚式に貢献なり、参加いただく事には感謝していますよ」

 「ではお二人の就寝を遅らせて結婚式に支障を来しても仕方ないのでこれで失礼して警備に戻ります」

 「はい、ありがとうございます」

 「すまない、本来は私の役割なのだがそれ以上にユッミル様を最初から最後まで見届けなければならない」

 「えっと、あなたは側近さんですよね?」

 「いやまあ一応、弱くは無いよ。けどフェノ、良いから行くよ」

 四人は上の階に登る。

 「ユッミル、流石に前夜は大人しくするし一緒にも寝ないので少し話してから戻りませんか?」

 ユッミルはフェノを先に戻らせて主導部屋に入る。ユッミルは身構えたがネメッカは今回の婚姻に関する謝辞を丁寧に述べて軽く抱擁して明日の結婚式への期待を述べてユッミルを送り出すという極めて丁寧な淑女的な対応であり、ユッミルはすんなり主宰部屋に向かう。

 「あれ?ロコッサ?」

 「ああ、来たらいたんだ」

 「どうしたの?」

 「帰ろうと思ったんだけど明日は人通りが多いし私みたいな遅い子でもユッミルさんなら連れて行ってくれそうだと思ったから」

 「そっか、フェノもいるから二人で連れていくね。フェノは一見駄目そうだけどちゃんと教えたらできる子だから」

 「ありがとうございます」

 「とにかく寝ようか」

 「いえ、その前に風呂です」

 「あのだな、僕の様な少し強い術師は短期間で汚れない。まして最近は森に行っていない」

 「いえ、結婚式の前日ですから入るべきです。私が襲うのが心配でしたら縛り上げても構いませんからお浸かり下さい」

 「分かったがフェノ如きを怖がらない。帯剣していないお前は脅威ではない。脱いで不帯剣が確定すれば問題無い」

 ユッミルとフェノは並んで桶に入る。遅れてロコッサも入ってくる。フェノはユッミルの方に体を傾けて全体的に寄せてくるがユッミルは少し遠慮がちなロコッサの方に気を取られていく。ただ、ユッミルは何とか気を入れ直す。

 「フェノ、君はいつから光の術を自分が使えると知った?」

 「4年程前の11位の時ですね」

 「11?つまり、今は15、とてもそうは…いや、妥当か」

 ユッミルはフェノの行動と言動に納得した。

 「はい、たまたま一人の時に自覚したので光の評判を聞いて隠しながら時々いくつかの団や森で少し鍛えましたが基本的には無性の町で割の良い力仕事をしていました」

 「で、最近いきなり現れた謎の雷撃が使えるだけの雑魚剣士が光の主宰になったと聞いて自分でも光を支配できると思ってそいつを襲いに来たと」

 「違います。そうであればネメッカ様しかいない時に襲えばいいでしょう。あんな弱弱しい集団を支配して喜ぶ程落ちぶれてはおりません。ユッミル様もネメッカ様の勧誘をいたく渋ったそうですけど理由は似た様なものです。」

 「なるほどまあ分からないでもないがなら何故あんな事を?」

 「ユッミル様と直接交渉がしたかったのですが機会を伺っていたら咄嗟にああいう行動になってしまいました」

 「つまり、あえて負けたのか?」

 「そうではありませんが勝てないのは最初から理解していました。仮に勝っても何かしらこじつけて部下になるつもりでしたよ。ユッミル様やその他に私が命令しても上手く行かない事位は分かります」

 「はあ、なら普通に」

 「できませんでした」

 「まあ良いよ。僕は人に聞いておきながらあれだけど術が使える様になった理由は覚えていないしそもそも雷撃も特に苦労はせず使えた。だからこそ人が術を使える様になった経緯はどうしても興味を持ってしまう」

 「でも私も何でもない日に何となく使ったら左右の耳で音量が違う音を作れて、それで音や光の術が色々使えるって分かっただけですよ」

 「そうなんだね。ありがとう」

 「それでたまには私もメシャちゃんみたいに可愛がって下さい」

 「ああ、そうだね。そのままは無理だけどね」

 ユッミルはもうロコッサがユッミルの胸元に陣取っていたのでそのまま軽く抱く。メシャと違って巨乳ではないのですんなり深く入っても余裕があって腰と胸の間位に程よく手が掛かる。危うくへその下に手を置いたり、ロコッサを膝に送り込みかけたがいつの間にかロコッサが首をユッミルの肩に据えて手を抱き込んでいく。ユッミルもロコッサの下半身が不安定そうだったので空いた手で膝を抱き寄せる。ロコッサは穏やかな表情でユッミルの方を向く。ユッミルは何となく安堵する。

 「ああ、ずるいです。私も抱き締めて下さい」

 「黙れ、お前は側近だろう。静かにしろ」

 「分かりました、順番を待ちます」

 「同じ事はしないからな?」

 「構いません」

 ロコッサを先に上がらせるとユッミルは面倒だったのでフェノを雑く抱きかかえる。少し危険な接触が存在したが深くはなくユッミルはあまり気にせずさっさと上がる。

 「髪位拭いてあげようか?」

 「お願いします」

 ユッミルはメシャーナにやる様に髪を丁寧に拭いていく。

 「どう?」

 「はい、手慣れてますね。けど背中に、ですね、」

 「あっ。あと少しだね」

 「はい」

 ユッミルは慌てて服を着る。

 「ユッミル様に誘われるなんて羨ましい」

 「フェノ、その話を蒸し返すな」

 「怖いですね。でもそんな事しなくてもユッミル様が襲えば黙りますよ」

 「お前を殺せと?」

 「いえいえ、この話の流れで私が今、服を着てないという事ですから襲うというのはそういう意味ですよ」

 「遠慮する」

 「何故ですか?イーサ様も団内の交友に有効と言ってましたよね?」

 「お前はそのそれで深まるとかは無いだろう」

 「確かに忠誠心には無関係ですが意欲が上がったりとかもあるかもしれませんし」

 「今日は特に無いが今後も薄い。所で僕は知っての通りネメッカ様と結婚するし各団の都合で他にも何人かとそういう行為をしている。そういう事が必ずしも強い関係になっている訳ではないしむしろそういう関係がないと保てない関係とみる事もできる。それで君はどうなりたい?」

 「そうですね、しばらく考えます」

 「じゃあ服を着て三人で寝よう」

 三人は寝てしまうがまだ夜明けには程遠い時間にユッミルだけネメッカに起こされる。ユッミルは話があるという事で主導部屋と主宰部屋の間で小さな声で話をする。ネメッカはさっさと音が漏れない術を使う。

 「僕がやります」

 「格の違いを見せられてますね」

 「それよりどうかしたのですか?」

 「ユッミル、側室を増やしていいですか?」

 「その言い方はどうかと思いますが構いませんよ」

 「ですがどうしてその話を。しかも音まで」

 「そう、イーサには内緒です。このままだと私達夫婦はイーサに乗っ取られます」

 「その懸念は分かりますがそれが何故新しい側室…使いの独自選定なのですか?」

 「急ぐので詳細は避けますが彼女と私は目的が近い。イーサとは違います」

 「それは分かりましたがどちらに?」

 「宿舎ですね。その、私は望んでる訳ではありませんがいずれにしても全くさせない事もできないのでその人とは制約を掛けませんので好きにして下さい。どちらにしても私としてもいずれはしてくれた方が良いと思ってます」

 「えっ」

 「私も会って寝床に連れ込んだ初日にしてしまいましたし構いません。強制もしませんがとりあえず好きにして良いですから行って下さい」

 ネメッカは非常に珍しく頬を赤く染めている。ユッミルが階段を下りていくと途中にいたのは見覚えが少しある顔だった。その女性はさっとユッミルに体を寄せる。

 「お久しぶりです。テーファです。ネメッカ様からの要望ですので私達の姿や音をユッミル様の術でお消し頂けますか?宿舎に寝床を確保しております」

 「主宰…そうですね。向かいましょう」

 ユッミルが音と光を消したお蔭か特に誰も気づく事は無い。ユッホも含めてぐっすり寝ている。それでもユッミルは音と光を遮断してテーファの発言を促す。

 「苦労を掛けて申し訳ありません。またこの様な折にこういう事になってしまい少し迷惑かとも思うのですがお願いします」

 「ネメッカ様の頼みですので問題はありません」

 「この前も話した様に私は幹部ですが月の中枢ではありません。キッシャノさんはリッネ様の信頼が厚いですがユッミル様との関係は普通です。リッネ様はキッシャノさんがユッミル様のお付きに不満があるのは知っているので後任の選定をしています。私も立候補していますがリッネ様は決めかねています」

 「無理もない話ですね。月は真面目な方も多い」

 「そうですね。私はそういう女ではないですよ。キッシャノさんではユッミル様の状況把握が上手く行っていないのでリッネ様は困っています。そこで私が使いになってユッミル様の印象についてユッミル様と相談した上でリッネ様に伝えます。そうすればリッネ様の意向を間接的に動かせますし拙速な行動を止める事ができます」

 ユッミルはネメッカがイーサに隠して行動を起こした理由を察して迷う。

 「それに関する答えをすぐには…」

 テーファはユッミルを軽く引いて自分はベッドに横たわる。

 「それもそうですがネメッカ様に良いと言われたのでもうその気分から抜けれないので早く解放頂けませんか?」

 「えっと、返答はまだしていませんが?」

 「いえ、もう側室に関しては決定なのですから問題はありません。例の件に関して実行するかはユッミル様やネメッカ様の判断に任せます。それよりもお願いします。都合だけならキッシャノさんの様に振る舞うんですから分かって下さい」

 「いえまあテーファ様もネメッカ様に負けない位お美しい方ですがいきなりと言いますか急なので心の準備が中々」

 「ユッミル様、私は珍しいのかもしれませんが力をひけらかす方は好みではないですけどユッミル様はどうなのですか?」

 「いえいえ私も主宰である以上弱いと言う訳にはいきませんから強く振る舞っていますよ」

 テーファは起きてユッミルを優しく抱き寄せる。

 「でもリッネ様には弱いと言ってましたね。私はそっちが本来のユッミル様だと思っていますよ」

 「そうですね、リッネ様よりは弱いですから」

 「やはり中々口説かせてくれませんね。では私は嫌いですか?どんな女だと思ってます?」

 「中々難しい質問ですね。柔和で穏やかな方ですかね。そういう方は嫌いではないですよ」

 「ユッミル様は私が今、その気になっているのを分かってて意地悪ですね。ですが嫌なら断ればいい。なのに私を諦めさせようとしていますね」

 「あの、その、やめて下さい。本当はその気です。先程まではテーファの体を含めた見た目の魅力に惹かれていましたが話していくうちにネメッカ様に似て性格も好ましいと思っていますがであればこそこういう形は望ましいとは言えないかなと」

 「側室がですか?いえ、ネメッカ様に不満は無さそうですし策略の事ですね?」

 「はい、その通りです」

 「ですから策略はついでです。先程の策で私が得る利益は何だとお思いですか?」

 テーファはユッミルの膝に軽く乗って迫っている。

 「分かりません」

 「私は何か随分若い内から団に所属したせいか恋に疎くいくつか恋の話を聞いてもそこまで共感しませんでしたがネメッカ様とユッミル様の話には惹かれてしまいましたので」

 「ですけどネメッカ様と同じ扱いはできません」

 「あくまで代わりですよ。ましてあの子から奪うなんてそんな自虐行為は頼まれてもしませんしユッミル様が二人の面倒を見てくれるのが良いのです。ただ、私だけ愛されないのは悲しいですし行動でも示して欲しいです」

 「テーファさんもネメッカ様共々男をその気にさせるのが本当にお上手ですね」

 「ネメッカ様、寝ないのですか?随分、機嫌が宜しいですね。結婚式が楽し…」

 ネメッカはイーサを見て少し気まずそうな顔をしてしまう。

 「ええ、まあ」

 「私に対して今更そんな顔はしなくて良いですよ」

 「そうですね、けど明日も早いですし寝ましょう」

 テーファはいつの間にか寝ている。ユッミルはその姿に一瞬見とれそうになったが我に返り、そろそろ未明の要員との交代時間である可能性等がよぎる。ユッミルならテーファをいない事にはできるがテーファが担当だった場合は誰かが起こしに来る。幻術を作る事は可能だが実態は無く触ろうとされれば分かってしまう。起こすのだから体を揺するだろう。ネメッカの杜撰な計画に頭を抱えながら思案する。いずれにしてもテーファの役割が分かっていない以上演じさせるのも困難を伴う。ユッミルは名残惜しくも起こそうとする。が、起きない。幸せそうに寝ている。放音を使うが起きない。罪悪感を感じつつも敏感そうな所を触るが起きる気配は無い。ユッミルは仕方なくテーファに服を雑に着せ、目を離さないように宿舎の入り口から辛うじて上の階を見るがネメッカが廊下にいる様子は無い。

 「ユッホさん」

 ユッホは眠そうだ。ユッミルは少々申し訳なく思いつつも呼びかける。

 「ユッミル様、流石に今日は困ります。後には警備も控えていますし」

 「ユッホさん、もしかしてあそこに寝ている方も未明の警備担当ですか?」

 「はい、デュフォーネさんは面倒そうでしたけど」

 「未明の警備はユッホさんが指揮を取るんでしたよね?」

 「はい」

 「あそこの方は少し体調が優れないのでいなくても構いませんか?」

 「それは構いませんが治しますよ」

 「いえ疲れているだけで眠れば」

 「それこそ治しますよ」

 「それはそうですが結婚式の出席を望んでいますので僕が連れていきたいのですが?そして、重要な方なので寝かせて上げたいかなと」

 「分かりました。彼女は武器を積極的に使わないので少し難しいと思っていましたし構いません」

 「ありがとうございます。後は消しますから」

 しばらくして交代時間がやってくる。ユッミルとユッホは辛うじて誤魔化し、夜中の担当が寝静まったのを確認するとユッミルはフェノとロコッサの間に静かに戻る。

 

 

 

 

 4節 当日


 ユッミルは聞き慣れたネメッカの声で目覚める。

 「おはようございます。ユッミル。待ちに待った結婚式ですね」

 「そうですね。とりあえず起きます」

 ネメッカは動かない。ユッミルは何となくネメッカを跨ぐのに気が引けて体を起こして止まる。

 「ユッミル、あなたは私のものですが私もあなたのものなのですから丁寧な口調はいい加減にして下さい」

 「あの、ネメッカも十分丁寧だろう」

 「私はユッミルにそういうのが好きと言われましたからね」

 「そう来ますか、ネメッカ。ですがネメッカ、私がそういう口調をしたのは脅したり、要求した時ですよ」

 「私には強気なユッミルは歓迎ですよ」

 「ではとりあえずそこをどけ。通れないだろう」

 「そういう時は女性らしい所を掴みに行って無闇に簡単に触らせたくない奥ゆかしい女を演じなければならない私が仕方なく避ける習性を利用してどかせるんですよ。私を無視できないユッミルは優しいですね」

 「こんな事では遅れますよ」

 「いえ、時間は十分にあります」

 「テーファさん放置して良いんですか?」

 「その事ですがいずれはイーサにも話さなければならないですし例の事は伏せてありますが側室化計画はばれました。ユッミルが私の同意の下で踏み切った事はばれました。かなり怒っています。三人に。」

 ユッミルとネメッカにロコッサとフェノは楽しそうに朝食を食べる。リュッサは特に変わった様子は無い。イーサも表情は変わりない。朝食を終えるとイーサは階段を降りようとする。

 「あの、上」

 「どうしたのですか?ユッミル様、はっきりお願いします」

 「そういえばソヨッハはまだ寝てますよね?」

 「まさか、ユッホ様に運搬できる朝食を渡すついでに談笑してもらっています。急いではいませんが無用に塔にいる理由もありません」

 「忘れ物の確認とか」

 「フェノ」

 「待て、お前は誰の部下だ?」

 「それはそうですがそれはあまり意味が無い気がしますよ」

 「そうですね、宿舎に大事な客人がいて起こすと約束したので少し待って下さい」

 「ええ、そういう必要な用件があるなら躊躇わずに私に言ってくれればいいのに。私も行きますよ」

 リュッサとフェノとロコッサを2階に残し、イーサとネメッカと3階の宿舎に向かう。

 「騒いでも駄目ですから私が手早く行ってきますから二人は待っていて下さい」

 「昨日の夜は賑やかだった様ですね。各団の様に側室だけではなくああいう事も駆け込むとは?私も人の事は言えませんが前日にするのは驚きましたね。しかも主導したのはネメッカ様だそうで。まあそれは大事でもない側近の私には言えませんよね。そうそう、私はたまたま拭くものを持っております。テーファ様のお体は少々汚れておりましたから責任を取ってユッミル様が処置なさっては如何です。そのままで出かけさせるのはあんまりでしょう」

 ユッミルとネメッカは顔が強く紅潮している。

 「そうですね。責任を取ります」

 ユッミルはテーファを起こそうとしたが何故か起きないので処置をすると背中に背負う。

 「ユッミル。でも、優しくお願いしますね」

 ネメッカはユッミルから布を受け取ると素早く主導部屋に置いて戻ってくる。

 ユッミルは二階でフェノ達と再度合流し、塔の前で待っていたソヨッハとも合流し、家に向かうと途中でメシャーナ達と合流するとメシャーナは早速ユッミルの懐に陣取る。ネメッカとシウはすかさず横に陣取る。ネメッカはついでにユッミルがテーファを落とさない様に軽く支える。ユッミルもテーファを落とさない様にシウを制止しつつメシャーナを背中を押したり、引いたりして調整する。そのユッミルが文字通り女性に囲まれる姿は言うまでもなくユッミルの懸念通りのユッミルの評判を著しく助長したがユッミル自身はテーファが気掛かりで忘れていた。

 会場に到着するとリッネとシェンハにキッシャノは既にいる。キッシャノとリッネは側室席に座っている。ユッミルは驚きつつもそこに寄って行ってテーファを預ける。

 「行くわよ、ユッミル」

 シェンハが叫ぶとそれなりに高い氷柱が五本ほど立つ。

 「やりすぎです。というか中央のは明らかに邪魔です」

 「そこの火の女、今回のは戦闘用じゃないからあなたでも消せるわよ。まさかその距離とはいえ外さないわよね?」

 「シェンハ様、困ります」

 「きちんと消火するわよ」

 「いい加減にしろ、シェンハ。そんな事に意味は無い。やり直しだ」

 多数の雷光が駆け巡り、いつの間にか湯気が湧いて氷は霧散した

 シェンハは大人しく二本の氷柱を作って待つ事にした。

 「こちらです」

 壇の裏の壁は二人の着替え場所であるが当然の様に広くない上に共用である。ただ、二人は手慣れた様にさっさと着替えて二人で戻ってくる。シェンハとリッネは少し驚いている。ユッミルはネメッカやイーサとユッミルの幻術について打ち合わせを始め、程なくリュッサもロコッサも加わる。フェノは子供達を迎えに行く。その流れを見ていたリッネも手伝う事になり、二人は一度会場を後にする。光の術師も集まってきてイーサの指揮の下会場の入場整理を行うがそれは形式的で本命は迅速な側室席の出欠確認であった。火と水の三枠と月と木の二枠は確定であり、イーサは期待せずに腰を上げた。

 「シェンハ様、氷がこちらの席をどうするかは…」

 「悪いわね、私はそういうのは関知していない」

 ユッミルは側室席にやってきてメシャーナを気に掛けている。ネメッカとイーサは少し話をしている。ユッミルの横では眠りにつくテーファをキッシャノが怪訝な顔で見ている。

 「ユッミル、そろそろすれば?」

 「いえ、一応は何人かでしますから到着を待ちます」

 そうしているうちにミーハとソヨッハも寄ってくる。シウは時折周りを見る程度でどっしり座っている。オーネは一応起きてはいる。眠い訳ではないが目に力は無い。

 そうしていると火の二人がやってくる。

 「ああ、あなた達ですか。」

 「何ですか、その扱い」

 「やはり二人というのがまずかったのよ」

 「そうかもしれませんね」

 「いえ、単に態々出かけるのが億劫なだけかと。この前は光の団内では三人と楽しく過ごしましたし」

 「イーサさん、あなたの目利きが良かった…」

 「ユッミル様、酷いです」

 「うーん、でもよく考えたら場所とか時間で上手く乗せられた気がしますね」

 「でもマッラと違って正直に駄目な事を言ってくれるのは良いわよ」

 「あの、同居人が増えてる事は把握してるんですか?」

 「木と水にシウ様と月の人はいる程度は知ってますよ」

 「そうですね。氷も結婚式を機に派遣してきましたし枠を新たに決めた団もある様です。もう全員の相手は困難を来していますからキッシャノさんみたいに真面目に仕事だけする人を派遣しないとこうやって不満を述べる方が増えると思いますが?ねえ、イーサさん」

 「いえ、現状で不満を述べているのはマッラ様だけなのでは?」

 「言えないだけかもしれませんよ」

 「私は好き放題やってるから不満は無いのは知ってるでしょう」

 「シウさんはそうでしょうね」

 「えっと、私はちゃんと相手してもらってるよ」

 「私も大丈夫です。今で十分です」

 「うん、ソヨッハはそういう方じゃないしね」

 「その点でいえばオーネ様も大丈夫でしょう。ですから問題ありません」

 「今はたまたまマッラさんだけですけどね」

 「ですが甘い選定で付け焼刃の二人を選定した火の団が悪いですよ」

 「イーサさん」

 「ちょっと、ユッミル様は良いけどあなたは何?」

 「いえ、シウさんの様に積極的に動いておられないのですから仕方ないでしょう。しかし、それは火の方針でしょう。ですから不満はユッミル様ではなく火の団に願います」

 「そうね、分かってるじゃない。そうよ、悪いのはバッソーとエッヒネよ。まあそれなりの給金が出てるから文句は言えないけど」

 「まあイーサさんはそこまで出さなそうですけど」

 「あれ自体は出してないですよ。出す口実もあんな事に振れる袖もございません。リュッサ様の傍仕えとしての給与はありますがそこまで高いものではございませんし事前に約束した事もありません。そんな形では趣旨が変わってしまいます」

 「そうですか、まあ確かにおかしいですね」

 「それよりも遅いですね。刻限はまだですが全員ぎりぎりというのも妙な」

 「あの、ネメッカ様の周りにいて男性があなたしかいないという事はユッミルさんだよね?」

 「ええ」

 「えっと、いちにさ…第12夫人に今日からなりますフーニャです。よろしくお願いします」

 「ちょっと待て。数えてはいけない人を数えるな。普通に服装からしてあり得ない人もいるだろう。その人は光の主導の第一側近で場合によっては主宰より偉い。」

 「じゃあ一段上がって11番目ですね。良かったです」

 「いや、ネメッカ様が一番以外は特に序列は無い」

 「知ってますよ。まあ言えませんよね、これだけ居たらネメッカ様以外でも偏りは出ます。後から来ちゃいましたから第五夫人位が限界でしょうね」

 「お願いですからそういう言い分は」

 「分かりました。とにかく私も同居します。仕事もこなします。まあそれはその時ですね」

 「ん?」

 ユッミルは吸い寄せられる様にネメッカの元へ向かう。

 「何か騒がしかったですけど大変そうですね」

 「あの、他人事の様ですけど側室が増えたんですよ」

 「まあでも五人より増えたらもうそれ以上は変わらない気もしますけどね」

 「そういうのは構いませんが各団最低二人という事は水や木からも一人は来るという事ですよ。水はさらにもう一人です」

 「ですがその人達は同居はしないかもしれませんよ」

 「だと良いのですが」

 「ユッミルさん、ネメッカ様とのご成婚おめでとうございます」

 「あれ?入場はまだなんじゃ?」

 式場は外周に警備兵を配置した上で壇上と側室席と側近席と前数列以外の席の後ろにも警備兵がいる。光の団が発行した各団に配られた三枚の招待札の保有者と主導と主宰のみが開催前は入場できる事になっている。そして、会場の周りは光の団が黒い幕の様な幻術魔法で中を隠しており、早く来た入場者は後ろの席に案内されたり、前列の重要な人達は光の幹部が相手をしている。

 「水の二人目の側室は私です」

 「えっ」

 「はい」

 「ムヒューエさんが?」

 「私は最初に連絡係と言いましたがそういう意味でした」

 「紛らわしい」

 「ユッミル様がその気になればそれで良いとラーハ様はおっしゃりましたが」

 「無理ですよ」

 「はい、ですので今は同居しませんがそうなった場合には躊躇なくミーハと同じ様に扱って下さい。遠慮されても困ります」

 ムヒューエもミーハの隣に座る。ちなみにどうしても席には物理的な配置が存在し、各団の使いの席は三席が六列の形になっており、火、木、月、水、氷、土の順である。そうした都合上、何となく火の一番中央寄りに陣取るシウが何か筆頭側室みたいな位置取りで並んでいる。当然ながらその後ろはソヨッハである。その後ろはテーファでその後ろはミーハという順だ。オーネは中央に陣取っている。

 「ユッミル様、ただいま戻りました」

 「おお、凄い。流石、主導の結婚式だね」

 「そうそう、ユッミル様、おめでとう」

 「そうだね、ありがとう」

 「ネメッカ様、可愛い」

 子供達は多くがネメッカの方に集まる。

 「ユッミルさん、久しぶり」

 「ああ、サッネハだね。どう?」

 「はい、まだまだですけど狩りに行ける様になってますよ」

 「えっ。そうなの?」

 「もちろん、奥には行けませんし今は雨季なので魔石を作ってますけど」

 「私はユッミル様に主導になって欲しいです」

 「それは言わないでね」

 「分かってますよ。ユッミル様はネメッカ様に甘いですね」

 「それは否定できないね」

 「ユッミル様もお姉さん達の相手ばかりしてないで雨季が明けたら少しはまた教えて下さいね」

 「僕はいつでも歓迎だよ」

 「そう言ってますけど先に底上げする気でしょ?一通り。私の次の番はだいぶ先そうですね」

 「そうだね。けどやる気があればあれで十分とも思うからね。確かにそれすらやってないのは駄目だったね。けどね、イーサさんは優秀な術が使えないから別の事で頑張ろうとしたんだしその別の事は本当に役に立ってるからね」

 「まあ子供にはイーサさんの大変さは分からないしやっぱりユッミルさんが主導をやってと思うよ」

 「分かったから」

 「ユッミルさん、ミヨは無視ですか?」

 「えっと、そんなつもりは無いよ」

 「そうそう、難しい話かもしれないけどあなたも混ざりたいならどうぞ」

 「ユッミルさん、まずはおめでとう。これで私も正式に側室ね」

 「そんな話は無い」

 「冗談だよ」

 「ユッミルさんも大変ね」

 「うん、サッネハは本当に必要な時だけ頼ってくれればいいからね」

 「私もユッミルに頼ってはないよ」

 「そうだね、僕が話し相手になってもらったりしてるだけだよね」

 「でもサッネハ位しか今は上手く行っていないからね」

 「それは私もごめんなさい」

 「謝らなくていい。君は入って間もない上にすぐ雨季に入ったから。むしろそんな事で自分が悪いなんて思われると困る」

 「ありがとう、ユッミルさん」

 「後はアーティユだっけか。あの子は才能があったし一回りしたらもう少し見てあげたいね」

 「ああ、でもアーティユは最近、塔に来ていないの」

 「いや、まあ君もあまり見かけないけど?」

 「私は昼しか塔に寄らないし毎日でもないので。しかも最近のユッミル様はお姉様達のお相手に忙しい様でしたし」

 「そうか、まあ確実に冒険者にしてやれる訳でもない。ただ、言っておくがイーサさんには中々逆らえないから仕方ない」

 「はあ、私もですけど皆、モヌーユの自然体振りを見習って欲しいですね」

 よく見るとモヌーユは一人だけ座っている。ユッミルが我に返って側室席を見ると随分埋まっている。よく見ると水の奥にはシャーネがいる。土もメシャーナ含めて三人揃っているし氷もオーネを含めて三人いる。月は眠っているテーファとキッシャノ。木はロコッサの隣にユッホがいる。

 「なっ」

 ユッミルは慌ててソヨッハの方に駆け寄る。

 「ユッホさん、どういうつもりですか?」

 「そうね、資格がある事が分かったからいるんですよ。ユッミル様で良かったです」

 「まさか」

 「話は後にしましょう」

 「シャーネ、」

 シャーネは顔を背ける。ユッミルは残念がったが重要な事を思い出してソヨッハの後ろの席に目を向ける。

 「テーファさん」

 「ユッミル、服を脱がせば起きるんじゃない?」

 「それは無い」

 そう言いつつ肩を揺するが中々起きない。ネメッカが寄ってくる。

 「そうですね。ユッミル、テーファの耳元でテーファの浮気を疑って下さい。私なら飛び起きます」

 「えっ」

 「お願いします」

 「テーファさん、そんな男が良かったんですか?やはりネメッカ様以外は駄目なんですね。ざ」

 テーファはユッミルを軽く抱きながら起きる。

 「あれ?ああ、もう会場?ユッミル様」

 「起きたみたいですね」

 「あれ?確か私」

 「テーファ、少し三人で話しましょう。行きますよ、ユッミルも」

 三人は壇上の裏に回る。

 「テーファ、覚えてますか?」

 「はい、ユッミル様がしっかり襲ってくれた気がします。説得に少し苦労した気もしますが」

 「ええ、その認識で合ってます。本当に良かったです」

 「ネメッカ様はやはり負担だからその重荷を半減できたという事ですか?」

 「ユッミル、そんな事を言っているとそうでないと証明する為に五日間位重荷を授けてもらいましょうか?」

 「そうですね、すいません。ですがネメッカ様が喜ぶ理由がわかりません」

 「他よりは断然に信用できるからですよ。」

 「それだけには見えませんが」

 「そうかもしれませんが上手く言えませんね」

 「ユッミル様、お相手頂けて幸いです。形上は月の使いですが実質的には二番手の妻として扱って頂けると嬉しいです。心の準備もあるでしょうからすぐにとは言いませんが是非」

 「ん?えっ」

 「ユッミル、これは私の意向ですがテーファの事は気に入ってないのですか?」

 「そうではありませんがテーファさんはかなり魅力的ですのでネメッカ様から心が離れる心配はしないのですか?」

 「ユッミルはテーファと私に優劣を付けられるのですか?強いて言えば会う機会が多いのが同じ団の私ですね」

 「知りませんよ。昨日はネメッカ様より楽しませてもらったかもしれませんね」

 「ユッミル、私に嫉妬させようとして可愛いですね」

 ネメッカはユッミルを抱く。テーファも遠慮がちに近づいてくる。

 「テ、いえ、そろそろ戻らないと不審ですよ」

 「そうね」

 壇上の一室の入り口の幕をテーファが横に引いていくとそこにはイーサとフェノがいる。

 「テーファ、あなたは行って下さい」

 テーファは席に戻っていく。

 「ユッミル、悪魔が来て怖いので抱き寄せて下さい」

 「悪魔の退治法を教えてくれませんか?」

 「分かりません」

 「それは怖いですね」

 「例の件に関しては式を終えてからですからご心配なく。それよりユッミル様、光の団の術師の配置が整いましたのでお越し下さい。ネメッカ様は私とここで待ちます」

 ユッミルはリュッサから説明を受けて術を設置していく。中級魔石にその術を十数回込めて緊急発動用の術としてルーエが管理する事になった。イーサはユッミルに近づくといきなり体を寄せてくる。

 「えっ」

 「ユッミル様、一応お聞きしますが私に紹介していない知り合いがあそこにいるならご紹介頂けますか?あまり大きな声はご遠慮頂きたいので離れないで下さいね」

 「火の二人は知ってますよね?」

 「そうですね」

 「でしたら水の二人でしょうね。一人はミーハさんを連れてくる際に最初に接触してきたムヒューエさんですがミーハさんの代理を務める可能性を示唆されました。その隣は私が無性の町で見つけた水術師でラーハ様に保護を依頼しました」

 「他にはいませんか?」

 「今日、自己紹介された方はいますが」

 「ああ、それは後で構いません」

 「ですがテーファ様にレミーカ様もいるのですか?シウ様もですが少し幹部率が高い。いえ、ムヒューエ様にユッホ様もですからあらぬ噂を招くのは避けれそうにありませんよ。本当にイーナ様がいなくて良かったです。一人でも主宰も座ろうものなら大騒ぎですよ」

 「キッシャノさんは?」

 「まあリッネ様の側近ですから事務的にしか見えないでしょう」

 「でしたらユッホ様やムヒューエ様も同じでしょう」

 「まあそうなのですがあの二人は本当に側近中の側近ですから単なる連絡係とは思われないでしょう」

 「まあそうですがあらぬ噂にはなりそうにないでしょう。テーファ様はよく分かりませんがシウさんは気まぐれ程度にしか思われないのでは?」

 「あの、そうではなくシウ様とテーファ様はそれなりに男性に人気が高いのですよ。ネメッカ様と違って男を拒否した等という話は無いですから。ユッホ様とレミーカ様は団内での人望が厚い」

 「えっ。ユッホ様はともかく土はどうして?」

 「それは私も計りかねます。ですが後です。時間ですので指揮を執ります。フェノ、行きますよ。ユッミル様も合図ともに袖から術を使って下さい」

 「分かりました」

 「開場します」

 フェノは放音で決めておいた音を会場に散らばる光術師に送る。見かねたユッミルは傍受して複製してさっさと伝える。光術師の作った擬似的な幕は消え会場は開く。壇上にはフェノとイーサが立っている。シェンハは氷柱の管理という体で壇上右手で立っている。リッネはキッシャノと話し、シーリュノもユッホと話している。ツーシュンやバッソーにグルードは最前列に大人しく座っている。エッヒネは急いで席に向かってくる。会場は屋外で壇上の奥は警備兵がいて立ち入れないし使いの席や側近席の後ろにも一定の囲いは存在し前の方も囲ってはいるがそれより後ろは特に制限は無い。警備兵の役割は不審人物を前の方にいる実力者に通達する事とも言える。

 「おいおい、テーファだぞ。男っ気が無さそうだったのに」

 「無垢な子だと思ってたのに」

 「けど単なる連絡係だろ」

 「だが奴がその気になれば機会はあるだろ」

 「それにあのネメッカも確保した奴だぞ」

 「火の幹部の綺麗な女もいる」

 「エッヒネ様と言い火は何故いきなり出てきた奴に」

 「もしかして火は弱みとか握られてるんじゃ?」

 「ユッホ様、どうして」

 「それよりも多くないか、あの人数」

 「ああ、連絡係なら一人か二人だけでいい」

 「よく分からないが三人いる団は少なくとも一人はそういう要員がいるという事」

 「ならテーファさんは違う可能性も残るのか」

 「まあ形上はな。が、火や水は確定だな」

 「だよな、ユッホさんはシーリュノ様の信頼も厚い」

 「火の三人はシウ様以外も上々だぞ。あの中の一人はそうなのか」

 「水は一人は幹部だが残り二人は幼くないか?ラーハ様は結構入念に調べるって聞くし」

 「光の主宰は幼い子が好みか」

 「けどならエッヒネ様とは何もなくか?」

 「そうなんじゃないか?」

 「土や氷に木にもそれらしいのがいるし」

 「だとすればあの火の三人は興味無しってか、ネメッカも大変だな」

 「ユッミル、公衆の面前だからと我慢する必要は無いどころかむしろそうであればこそやった方が良い気がしますよ」

 「何をですか?」

 「不必要に私の体を触るとかですよ」

 「ネメッカ様、それは噂を増やすだけです」

 「ユッミル、この期に及んでまだ様ですか?」

 「それは申し訳ないですが不必要に触ったりはしません」

 完全に会場が騒がしい中、時間的には式の開始が迫っている。

 「大丈夫ですか、イーサさん?頑張って下さい」

 「問題ありません」

 放音でこっそり会話していく。イーサは話し始めるが中々収まらない。ユッミルは溜息をつきながら歪曲視野を多数活用して状況を把握し、遮音を使って擬似的に野次馬を一度黙らせる。その上でイーサの声の音源を数個増やす。

 「おいおい、これ」

 「音の制御って言えば光の誰かだよな」

 「新主宰か。新郎自ら大変だな。」

 「まあ少し静かにしてやるか」

 イーサの挨拶は終わり。夫婦が現れる。式としては術師協会や各団からの祝意にユッミルやネメッカが適切に返事をしていく形式的なものが午前の第一部で無事に終了する。一度昼食の時間として再び擬似幕が張られる。

 「今回は遅刻はしていませんけどぎりぎりでしたから挨拶が遅れましたわね。結婚おめでとう。私にとっても悪い話ではないから偽りではない言葉よ。後、いずれは二人もよろしくね。急な話ではないけど」

 「私は忙しいので挨拶が遅れましたけど。ユッミルさん、おめでとう。ネメッカさんも。これからもよろしくね」

 「いえ、先程挨拶頂きましたよ」

 「あれは団としてよ。個人としてもよろしくね。最近は組んでくれないしね。寂しいわ」

 「単に雨季だからですよ」

 「そうだと良いけどね」

 「意外とシーリュノさんがしてくれないので私が代わりに致しますが我々木の首脳部は団としてもですがそれぞれ個人としてもユッミルさんとの交友を重視しています。これからもよろしくお願いします」

 「ネメッカ様とは違うんですか?」

 「まさか。改めて言うまでもないという意味ですよ」

 ユッミルが何気なく他の主導級を探しているとリッネは遂に席に座っている。食事が運ばれてくるとシーリュノもユッホの隣に座ってしまう。これで側室席は完全に埋まってしまう。ユッミルは現実から目を逸らす様に光の団の席に向かう。光の団の席は元々空席も多くフェノとイーサの真後ろで夫婦の茶番劇が繰り広げられていく。一方でシェンハは楽しそうに氷柱を加工して凝った装飾を組み上げていく。

しばらくすると第二部が始まるがそれは興行であり、各団やイーサが手配した演者が芸を披露していく。ユッミル達は目立つ所に並んで座って手を組んで仲良しを宣伝していく機会だがユッミルは密かに抜け出し木に登って草原を偵察する。何も無かったのですぐに戻ってネメッカは本物の手を握る事ができた。この偵察は光と火と月の協議の結果である。月の主宰の力不足を心配しつつも式には出席したいリッネとこの式で警備が緩む心配をした火と万全な開催を目指すイーサの利害一致の結果であった。そのリッネは側室席にいた訳だがそれはリッネのキッシャノへの信頼と解釈されて誰も何も思わなかった。

芸自体は土の団が人形を戦わせたり、月の団は模擬試合をし、氷の団が壇上近くにシェンハがいる事を使って敢えて防御術に失敗してシェンハにかなり高難度の防御をさせて会場を沸かせたり、光の団の前評判の低さから光の団の少年少女の光の術での空中お絵かきも意外と盛り上がる等した。

 「ユッミルのお蔭ですね。光の出し物は盛況でしたよ」

 「はい、上手く行って良かったですね」

 「ユッミル、最後のは嫌なんですか?」

 「いえ、ネメッカ様に愛のお言葉を頂く恵まれた大した事の無い男はあまり良い感情を持たれそうに無いなと思いまして」

 「本当にそれだけですか?」

 「まあ一番はそれですよ」

 第二部も平和に幕を閉じ結婚式はいよいよ佳境であった。その後の休憩はこの式で唯一時間限定で露店が営業しており、形式上幕を下ろしてはいるがあまり厳密では無い。最後の部は時間自体は長くないが今回の場合は完全に最も重要であり、ユッミルの悩みの種である。ユッミルにとっては頭の痛い幕間となっている。

 

 

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