この身体がそう言っている
スティッグレイブ古墳――
名前が伝わっていない古の大女王が眠っており、昼は人が築き夜は神が築いたといわれている。
その古墳の中から、ゼンチィが出て来た。入る前と、明らかに身にまとう霊気の桁が違う。古の女王の御魂の加護が得られたということだろうか。
オッグ
「やったか、ゼンチィ! やったのか? ……ゼンチィ?」
出て来たゼンチィが無表情、無反応である。
その後ろから、マーモ=クレイマスタがヨロヨロと現れた。
オッグ=アイランダーが、今にも倒れそうなマーモを支え、胸倉をつかんで問う。
オッグ
「おい女! どうした? 中で何があった?」
すっかり怯え切ってしまったマーモは、まともに声を出すことができない。これでオッグは、何が起きたのか、だいたいの想像がついた。
ゼンチィは、古墳の主を目覚めさせたのだ。
そして、古墳の主の霊に、己の魂を喰らわれてしまったのだ。
こうなると、元の身体は古の霊に乗っ取られ、いずれ妖怪と化してしまうのである。
そのゼンチィの方は、ポク、ポクと、ゆっくりと歩いて行き、すぐに立ち止まって空を見上げた。
ゼンチィ
「まぶしい……」
オッグ
「ゼンチィ……正気が、残っているのか?」
ゼンチィ
「オッグ――アイランダー」
彼はオッグの名を口にした。だがそれは、オッグの呼びかけに応じたというより、身体の主のゼンチィの記憶を読んでいるかのようだ。
何か――やばくなって出て来た?
そう思ったアスカは、態勢を立て直し、守護霊、紅蓮の戦士『不動の解脱者』をゼンチィに向かわせる。
こういう時は、敵が安定する前に先制攻撃を仕掛けるに限る。
『不動の解脱者』が数発の手拳を食らわせると、ゼンチィの身体は激しく吹っ飛ばされ、オッグは彼を受け止めてやった。
アスカ
「フッ、口ほどにもないわね。 いきなり古墳の中から出て来たから、どんな奴かとビビったけど、大したことはないようよ」
ゲン
「待って、アスカさん! 『不動の解脱者』の手拳ラッシュを受けても、奴は無傷のようだ。 気を付けてッ!」
吹っ飛ばされたゼンチィの方は、ゆっくりとオッグと目を合わす。
ゼンチィ
「オッグ=アイランダー。 何者なのだ……あいつらは?」
声色こそゼンチィそのものであるが、その言葉遣いは、飾らない少年らしい彼のソレとはまったく違う。
やはり、魂を喰われてしまっているのか――
どうする? どう答える?
その中にあるは、最強力の霊、是非とも味方にしたいところであるが、それでゼンチィはどうなるのか?
オッグが返答に窮していると、ゼンチィが再び口を開いた。
ゼンチィ
「敵なのだろう? この身体が、そう言っている」
その身体は、間違いなく、ゼンチィのものだ。
「この身体がそう言っている」というのは、古墳の主の霊が、身体の主のゼンチィと対話しているということか?
ならば、ゼンチィの魂はまだ、この身体の中で生きている?
そこでオッグは、ゼンチィの身体を乗っ取った古墳の主と戦うのではなく、これを懐柔する策を選択した。
オッグ
「その通りでございます。 彼らは、我らが大望の障害となる者たちです。 主の霊力で、彼らを葬っていただきたい」
ゼンチィ
「承知した……」
ゼンチィは立ち上がり、アスカに向かってゆっくりと歩いていく。
アスカ
「な、何よ……」
アスカ、守護霊を召喚。
ゼンチィが、その射程に入って来るや、無数の手拳ラッシュを食らわした。
しかし、どんなにアスカの『不動の解脱者』が手拳を叩きつけても、ゼンチィの方はびくともしない。
逆にアスカの守護霊の顔面に張り手一発、その一撃で『不動の解脱者』は大きく投げ飛ばされることになった。
守護霊がダメージを受けると、その衝撃が術者に伝わる。ゼンチィの張り手はアスカの顔面を大きく揺すぶることになり、彼女は数歩、後ろによろめいた。
ゼンチィ
「弱い」
そしてゼンチィは軽く息を吸い込み、そしてフッと吐き出すと、その口から業火がボウと吹きだした。
アスカの守護霊は、紅蓮の戦士と語るその文字通り、紅蓮の炎に包まれた。




