多分目的地はこの奥だ
スティッグレイブ古墳の外では、ゼンチィを追ってアスカ=ウィスタプランとゲン=アルクソウドが迫っている。これをオッグ=アイランダーが紫色の勇者『覇王の長子』で防いでいる間に、ゼンチィが古墳の奥に進む。
その後を、囚われのマーモ=クレイマスタがついていく。魑魅魍魎が徘徊する古墳の内部である。隙をついて古墳の奥に眠る主の御霊を我が物とし、その力を持って古墳やゼンチィから逃げ出そうという作戦だ。これにゼンチィは気付いていない。
イチかバチかである。
逃走の決行を、先延ばししたともいう。
マーモ
「ひゃっ!」
突然現れた小妖怪を、ゼンチィが庇って、その守護霊、異形の僧侶『大鼻』で叩き伏せる。ゼンチィの守護霊は、オッグのそれほど強力ではない。生時の原型をとどめていない浮遊霊の如き小妖怪でも一撃で斃せるほどの腕力がない。
そこで攻撃力を増すために、オッグから霊刀を預かっていたのだが、それは護身用にとマーモに渡してしまった。
マーモ
「あの、刀は返します。 その方が、妖怪を駆除できるのでは?」
ゼンチィ
「そいつはいけねぇ。 その小刀は、オイラがアンタに預けたんだ。 アンタは、武器無しに、どうやって妖怪から身を守るんでぃ?」
マーモ
「私に武術の心得はありません。 ですから私に小刀を預けても宝の持ち腐れです。 私のことは心配しないでください。 簡単に妖怪に襲われないよう、貴方の側を離れません」
マーモは、極度に妖怪を恐れているのだ。敵であり、弱小の守護霊でも、その術者のゼンチィだけが、今は頼りである。そこでマーモは、恥も外聞も捨て、ピタリとゼンチィに寄り添った。
これが、ゼンチィを調子づかせた。
霊刀がゼンチィに返されところで、3体の小妖怪が現れた。
ゼンチィの『大鼻』は、霊刀の力を借りて、小妖怪程度であれば一撃で斃せるぐらいの戦闘力となった。
そして、玄室の前にたどり着く。
目の前に、巨大な石の壁がある。荘厳に装飾された、石の扉だ。玄室は、その石扉の先にある。
その石の隙間から、かすかに霊気が漏れているのがハッキリ分かる。本当にわずかな隙間から、霊気があふれているのである。沈着冷静な者であれば、その石扉の向こう側が、おびただしい霊気で満たされていることを、容易に推測できるだろう。
だが、ゼンチィは教養に乏しいし、マーモは恐怖で平静を欠いている。その先の霊気が危険な水準の量に達していることを想像できないでいた。ただ石扉の荘厳さに目を奪われ、この先が玄室であると確信するのみである。
ゼンチィ
「多分、目的地は、この奥だ」
マーモ
「その、ようですね」
ゼンチィ
「開けてみる」
ゼンチィが、『大鼻』に石扉を開けさせようとする。しかし、非力な『大鼻』では、石扉は容易に動かない。
この奥に、古墳の主がいる。
ゼンチィは思う――その御魂を自分のものにする――
マーモも思った――その御魂を自分のものにする――そのために、石扉が開けばゼンチィよりも先に入る。
止まれ! 私の両足の震!
彼女が震えていることにも気付かずに、ゼンチィは、ひたすら『大鼻』にありったけの霊気をこめ、重い石扉を開けようと奮闘した。
それでも石扉がビクともしないので、今度は霊刀を手にとり、これを思い切り石扉に突き付けた。
霊刀には、守護霊の持つ霊力を増幅させる効果がある。
霊刀の刃が深く突き刺さり、そこを起点に石扉に放射状の亀裂が走る。
石扉が破裂した。それは、『大鼻』に霊刀を突きつけられて破壊されたのではない。これで石扉の強度が落ちて、中の霊気を押さえきれなくなって破裂したのであった。




