引きこもりの運命は魂に染み付いるようでそうは変わらない @ プロローグに代えて
死神の手違いで肉体を失ったオレは、どこかの世界の聖武天皇に転生したようだ。
名前や服装が洋風だったので、聖武天皇の時代そのものにタイムスリップしたわけではなさそうだ。その時代のパラレルワールドとも言うべき異世界に転生したようだ。
それからしばらく、オレは皇族の一人として、何一つ不自由のない生活を送った。引きこもりの中学生が、一転、勝ち組だ。
オレが住むこの屋敷の主人は、フヒト=ウィスタプランという。どうもウィスタプランというのが、藤原家のことらしい。
家人の会話から、オレの父親はフヒトではなく、時の皇帝であることが分かった。その皇帝の名がカールであると後に知る。おそらく、文武天皇だろう。親父がオレに、まったく会おうとしないのが、気になるところだ。
赤ん坊のオレに乳をくれるのが、ミチヨ=ドグブリードという女性だ。フヒトの妻の1人らしい。
親父のカール帝が死ぬと、その母親、オレにとっては祖母にあたるのが皇帝、女帝となった。この頃、ミチヨは、女帝から、マンダリナという姓を賜った。これも歴史どおり。県犬養三千代が次代の元明天皇から橘姓を賜ったのと同じだ。
ところがこの頃から、なぜかオレの人生が下り坂となる。
いつも間にか、オレは、家の誰からも煙たがられるようになっていた。どうしてそうなったのか、未だに分からない。たまに、フヒトとミチヨの娘のアスカや、その従姉妹のヒロミが遊びに来るくらいだ。
こう誰からも話しかけられないでいると、オレの友達は、フヒトが集めた蔵書類ばかりとなる。幸いにして、オレには転生前に貪った歴史知識が相当に残っていた。だから、書庫にこもってフヒトの蔵書を読みこなすことも、あまり苦にならなかった。
ところがこれが、さらに悪い方向に向かわせた。オレが年齢に似合わない書物を読みこなすものだから、周囲の者はますます気味悪がって、オレから遠ざかっていった。
転生して、人生リセットされたと思った。が、こういう引きこもりの運命は魂に染み付いるようで、そうは変わらないものらしい。
そしてオレは今日、育ての親のフヒトの三男、ウゴウ=ウィスタプランとの守護霊バトルに敗北し、殺されかけている。
ウゴウに胸倉をつかまれ締めあげられているオビトは、それまでの人生を振り返って後悔した。
こんなことならば、歴史なんか勉強してないで、もっと愛想よく振る舞っておけば良かった――
この時、オビトの脳裏に、ふと知識が蘇る。
これは、この世界に来てから学んだ知識だ。守護霊は、その真名を言い当てられると、能力を失い、弱体化するという。だから、守護霊使いは、その使用する守護霊の名を秘して明かさない。
ウゴウは、自分のトーテムを琥珀色の大賢者『知恵ある商人』と呼んでいたが、これは真名ではない。
オビトには、これとは別の名前が、イメージされていた。
何もしなければここで殺される。ならば最後にあの名前を試してみるか――