逃げ出したい
オッグ=アイランダーの守護霊は紫色の勇者『覇王の長子』。辰砂腕の両手を長い鉄鞭様に変形させてオビトに連続攻撃をする。
オビトの守護霊は漆黒の剣士『王の愛者』。霊刀を縦横に振るい、辰砂腕の連続攻撃を防いでいる。
オッグが、その連続攻撃の合間に、じりじりと間合いを詰めていく。
オビトの『王の愛者』が剣術に優れるといっても、『覇王の長子』に間合いを詰められては不利か。
破戒僧
「オビト皇子! 援護する」
守護霊『巣無しの蜘蛛』が粘液を発射した。触れたものを溶かす能力だ。
オッグの『覇王の長子』の辰砂腕は、その霊体の形状を自在に変形する能力だ。だから、多少の溶解液い触れたところでどうということはない。だが、粘液に触れると一定のダメージが蓄積されるので、間合いを詰めて来るオッグを1歩2歩後退させるぐらいの効果はある。
そこへ――
『巣無しの蜘蛛』が飛ばす粘液を空中で叩き飛ばす氷弾があった。
盗賊団『朱屍党』の小隊長、レッグウィングが召喚する純白の聖戦士『氷柱の聖女』の氷弾だった。
レッグウィング
「オッグの旦那! これで借りは返したことにしてもらうぜ」
その背後には、『朱屍党』の首領のヤスケもいる。
ヤスケ
「オウオウオウオウ! 勝手に持ち場を離れては困るんだなぁ!」
ヤスケは、口ではオッグの単独行動を責めるも、怒気はない。
オッグ
「オレは、貴様の部下になった覚えはない」
ヤスケ
「じゃぁ、この作戦が終わったら、お別れだなァ!」
オッグ
「望むところ。 だが、厄介なことがある。 早く目の前の古墳を破壊しないと、祀られている荒御魂が敵に奪われる。 そうなると、我らが巨鬼でも苦戦するかもしれない」
ヤスケ
「そうかい。 じゃぁ、一気に行くぜ!」
ヤスケが倶利伽羅剣を抜いて、黄鐘調の壮士『原始の経典』を召喚する。
オビトと破戒僧が古墳・ウィステリアの入口を守る。そこを攻めるオッグの元にヤスケとレッグウィングの救援が加わった。
相手は3人――
『覇王の長子』の辰砂腕や『氷柱の聖女』の氷弾がオビトを襲う。しかし、まだ間合いが広いので、オビトの『王の愛者』の霊刀の防御には余裕がある。そこでオッグやレッグウィングは、何とか間合いを詰めようとするが、そこを『巣無しの蜘蛛』が粘液を飛ばすので、容易には近づけない。
その様子を見ているヤスケは、どうするか?
ヤスケ
「底無しの落穴」
地面を深淵の落穴が滑っていく。
その底無しの落穴が、『底無しの蜘蛛』を捉えた。
『底無しの蜘蛛』は、見た目ほど機敏ではなく、オビトの『王の愛者』の背後に隠れて粘液の遠距離攻撃を続けていたのである。そこをヤスケが『底無しの蜘蛛』に狙いを定め、底無しの落穴に落とし込んだのだ。守護霊を失った破戒僧は断末魔の悲鳴を上げて、戦闘不能となった。
残るはオビト1人である。
敵は3人――ダメだ、これでは勝てない。逃げ出したい!
オビトは、ふと背後の古墳入口が気になる。この中には、兄と慕うコウセイと妹のヒロヨがいる。この中に逃げ込めば、兄が何とかしてくれるのではないか。
オッグが『覇王の長子』の辰砂腕でオビトの胸を貫こうとするが、これは『王の愛者』が霊刀で弾き返す。
今後はレッグウィングが『氷柱の聖女』の氷弾を放つが、『王の愛者』が霊刀で斬り払う。
ヤスケ
「どけ。 最後はオレが仕留める」
オッグとレッグウィングの間に割って入り、ヤスケが倶利伽羅剣を振り上げて、『原始の経典』の底無しの落穴を発した。
底無しの落穴は、地面に生まれた穴そのものなので、これを霊刀で防ぐことはできない。
底無しの落穴が、なす術ない『王の愛者』の足元に、スススと滑り込んでいく。
その時、古墳・ウィステリアの入口を塞ぐ戸口が外に弾け飛んだ。
その中からコウセイの蒼き竜騎士『空飛ぶイルカ』が現れて、オビトと『王の愛者』の身体を抱えて飛び立っていた。




