テンプル・ホーリィで慰霊している荒御魂の力を借りる
身の丈57メートルという巨鬼がテンプル・ホーリィに向けて進撃してくる。皮膚は厚く、生半可な攻撃は通用しない。
その巨鬼の進撃を、幼きナーニャとシラクの連携能力、林間焼葉で食い止めようというのだ。
林間焼葉は、無限に竹を生成する能力だ。瞬時に地面から無数の竹が生み出され、竹の壁を作り出す。
対する巨鬼のパワーが桁外れだ。目の前の竹を次々となぎ倒していく。
だが、巨鬼の動きは鈍い。
その巨体のわりにゆっくりと進むものだから、竹をなぎ倒し、引っこ抜いても、次から次へと竹が生み出されていく。
ヤスケ
「む? そういうことならば、巨鬼ではなく、我らでそのルートを作り出すか」
盗賊団『|朱屍党』の首領のヤスケが、倶利伽羅剣を振るって守護霊黄鐘調の壮士『原始の経典』を召喚し、能力、底無しの落穴を発射した。無数の真黒い穴が地面をすべるように竹林の中に突っ込んでいく。だが、底無しの落穴は、1度に1個の物体しか落とし込むことができない。消し去ることができるのは、1個の底無しの落穴につき1本の竹のみである。巨鬼が足を踏み出す頃には次の竹が生成されてしまう。
レッグウィング
「大将、オレも手伝うぜ!」
レッグウィングは純白の聖戦士『氷柱の聖女』を召喚。その氷弾で竹を粉砕していくが、こちらはヤスケの『原始の経典』の底無しの落穴が竹を消し去るようも時間がかかるようだ。巨鬼の前に道を作るというのには至らない。
ヤスケ
「オレ達で道を作るのはダメなようだ。 よし、やり方を変える。 草を刈るには根を除けば良いのだ。 レッグウィング、準備は良いか!」
レッグウィング
「合点!」
草を刈るには根を除けば良いとはどういうことか?
目の前の竹林が何かの能力であることは明らかだ。ならば、その能力の主を斃してしまえば竹の生成も止まるというものだ。
その意味を察した、巨鬼を操るシャーキンは、2人に警告を発する。
シャーキン
「ちょっと、あんたたち! まさか、あの姉弟達に手を出そうというのじゃないだろうね? だったら、私が許さないよ!」
ヤスケ
「オウオウ! じゃぁ、どうするつもりだい? アンタの巨鬼は、見たところ大層強そうだが、目の前の竹の林を突破できそうにないじゃねぇか」
シャーキン
「黙って見てろっ! あんな竹、すぐに突破してやる!」
レッグウィング
「そう言えば、オッグの旦那はどこに行った? アイツ、まさか逃げたんじゃねぇだろうな?」
シャーキン
「バカ言っちゃいけないよ。 アンタ達と違ってな、すでにオッグは竹林の裏側に回っているのだよ!」
× × ×
こういう会話をしている一方、竹壁の内側、テンプル・ホーリィの状況はどうか。
ヒロヨ
「ナーニャちゃん、シラクちゃん、すごい!」
ヒロヨがこのようにナーニャとシラクの連携能力をおだてるものだから、幼い姉弟はますます得意になって、竹の生成のペースが上がる。ナーニャとシラクは、どのように集中したら竹が生成されるのか、完全にコツをつかんだようだ。
司祭長
「よし! 頑張れ! ナーニャ! シラク!」
ナーニャ
「ハーイ!」
司祭長は、幼い姉弟に、とにかく厚い厚い竹壁を築かせようとする。
だが、竹の壁にも限界があるのではないか。
調子づいている司祭長とは違い、オビトは不安だ。
ナーニャとシラクの竹壁は、巨鬼の進撃を食い止めてはいるが、ダメージを与えているようにも見えない。対巨鬼の防御力であれば無敵の竹壁のようにも思えるが、これを生成しているのは5歳児と2歳児なのだ。その集中力には限界があり、いつ、竹の生成が止まるか分からない。
オビト
「コウセイ、次はどうしましょうか」
コウセイ
「子ども達には申し訳ないが、ナーニャちゃんとシラク君には、もう少し時間を稼いでもらう。 その間に僕は、このテンプル・ホーリィで慰霊している荒御魂の力を借りる」
この会話を聞いていた司祭長が、コウセイを思いとどまらせようとする。
司祭長
「コウセイ皇子、あの荒御魂を用いるのですか? それは危険です。 一昨年、コウセイ皇子よりお預かりした荒御魂は、まだ、鎮魂が完了しておりません。 迂闊に近づけば、かえってコウセイ皇子の御身体が乗っ取られます」
一昨年、とある古墳でオッグが覚醒させた荒御魂を、オビトが真名を言い当てて霊気を拘束し、それでもなお持て余す力を残していたようなので、その荒御魂をテンプル・ホーリィに移置し、後の供養を委ねたということがあった。コウセイと司祭長がいう「荒御魂」とは、その時のものを言う。
コウセイ
「それならば大丈夫だ。 我が母、ストンリベル家の血統は、あの荒御魂と同じ系譜なのだ。 必ず僕らに味方してくれる筈である」
そんなバカな!
オビトは荒御魂の正体を知っている。かの荒御魂は、転生前のオビトが知る所の崇峻天皇なのだ。そしてコウセイは、転生前のオビトが知る所の蘇我氏の系譜である。崇峻天皇は、蘇我馬子の命令で暗殺されている。だから、コウセイとかの荒御魂の相性が良いはずがない。
それでオビトは「それは危険」とコウセイを必死で止めた。だがコウセイは「他に方法はない」と聞く耳を持たず、かえって妹のヒロヨに「手伝ってくれ」と言って、一緒に行ってしまった。




