その血統を絶やさなければ
クレイマスタ邸から逃げ出したオビトたちを、オッグ=アイランダーが襲撃する。
オビトとヒロヨは、かつてオッグと出会っている。オッグは、2年前にクラハシの丘古墳で出会った盗掘者だ。
オビトとヒロヨは、守護霊を召喚して、オッグと対峙する。
そのオッグには、仲間がいた。ここに来る途中で助けた、盗賊団『朱屍党』のレッグウィング小隊だ。
レッグウィング
「お、はじまったな」
レッグウィングは、オッグやヒロヨに気付かれないように、繁みの中に隠れながら近づいていく。そして部下に、弓矢を放てと合図を出した。
部下
「隊長、ダメです。 今、ここから矢を放つと、オッグ殿が手を出さないでほしいと言っていた幼児2人にも当たってしまうかもしれません」
レッグウィング
「だからどうしたよっ! いいか? オレ達の任務はオビトとかいう少年の抹殺なんだ。 その任務に巻き込まれて、誰が死のうが怪我しようが、オレ達の知ったことじゃぁないんだよっ」
そういうものか――彼の部下は盗賊団に加わるほどに道義に疎い。このように隊長に言われて、疑問に思わず納得だ。レッグウィングの部下、4、5人が、一斉に矢をつがえた。
発射!
オビトとヒロヨの背後から、数本の矢が飛んでくる。
オッグ
「むッ! 早いッ!」
レッグウィングの攻撃は、オッグの合図を待ってから行う手筈だった。その合図を待たずに弓矢が飛んできたので「早い」と叫ぶ。
弓矢はオビトとヒロヨめがけてまっすぐ飛んでいる。これを見て、攻撃に出たレッグウィングは「命中する!」と小躍りする。
だが――
竹である。
またしても竹である。
地面の、至るところから竹が生えてくる。
その竹がオビトとヒロヨの背後で壁となり、矢を防いだ。
オッグ
「む? 何事?」
自分の背後に強い霊気を感じる。何かしらの守護霊が召喚されたか? 振り向くと、その強い霊気の源は、恐怖で強く泣き叫ぶシラクとナーニャから発せられている。
やはり血統か?
幼いシラクやナーニャには、守護霊使いの素質があるのだ。そういう血統なのだ。その血統が恐怖の絶叫で共鳴し、守護霊を召喚できないまでも、この竹の能力を生み出したということか。
この霊気こそ、我々が求めている血統なのだ。
オッグは、その確信に興奮する。だがこの状況で、いかにしてこの子ども達を略取するか。
竹だ――
この無差別に生成される竹は厄介だ。
オッグ
「辰砂腕!」
オッグは、召喚している紫色の勇者『覇王の長子』の両腕を刀に変形させ、周囲の青竹を次々と斬り払う。
オビト
「霊刀!」
オビトの漆黒の剣士『王の愛者』も周囲の青竹を斬り払う。
目の前の竹を斬り払ったところで、オビトはオッグの姿を見た。驚いて1歩飛び退く。
オッグ
「とんだ邪魔が入ったが、ここでお前の命、貰い受けるぞ!」
オビト
「どうして僕が殺されなければならないのですかっ!」
オッグ
「血統だ! 貴様の血統! 次にこの天下に帝とならんとするその血統! オレはその血統を絶やさなければならぬ!」
オッグの『覇王の長子』が、刀とした右腕を振り上げ、斬り付けて来る。
オビト
「血統が――何だと言うのですか!」
オビトの『王の愛者』は、これを霊刀で受け止める。
だが、『覇王の長子』の辰砂腕は変幻自在。受け止められたはずの右腕刀は、オビトの霊刀を支点にグニャリと曲がり、『王の愛者』の脳天を割ろうとする。
だが、このように辰砂腕が曲がって来る様は、すでに見せつけられているので、このような挙動は想定の範囲内だ。『王の愛者』はサッと後ろに身を引いて、これをかわした。
この一騎打ちに、ヒロヨが加わろうとする。
迫る『覇王の長子』の攻撃を、ヒロヨの守護霊、輝ける闘士『太陽の法衣』の火焔光でけん制する。
ヒロヨ
「何よッ! 次の帝はお兄様なのッ! オビトじゃないわ! だからオビトを殺したって何の意味もないわよッ」
その言葉が終わるか終わらないかのところで、ヒロヨの背後から攻撃の気配があった。
氷弾が飛んできた。
『太陽の法衣』は、これを火焔光で撃ち落とす。
振り向くと、レッグウィングだ。レッグウィングが、この竹の大量発生の中、部下を引き連れて来た。
レッグウィング
「おうおう! 皇子とか帝とか、そんな難しい話はどーでもいい。 大事なことは、この場でお前たちを殺してしまい、命令を完了することだッ!」




