オッグ=アイランダー
【第7章・登場人物紹介】
オビト皇子
元は歴史オタクの転生者。後に奈良の大仏を造らせる聖武天皇になる予定の筈が、ナガヤ王(長屋王?)の密命を受けた盗賊団から命を狙われている。
ヒロヨ皇女
オビトとは異母妹。最初はオビトを暗殺するつもりだったが羅城門で妖怪に襲われたことをきっかけに、いつの間にかオビトと一緒に逃亡したことにさせられる。
マーモ=クレイマスタ
オビトとヒロヨが逃げ込んだマシュー=クレイマスタ家の一人娘。父親のマシューは、オビトを狙って襲ってきた盗賊団に殺された。
ナーニャ
マシュー=クレイマスタに養育されていた少女。5歳。シキ皇子の娘ということになっている。
シラク
マシュー=クレイマスタに養育されている幼児。2歳。ナーニャの弟と思われる。シキ皇子の子とされている。
レッグウィング
オビトを襲った盗賊団の小隊長。
竹、竹、竹、ひたすら竹――
青竹が笹薮の如く密集大量発生していて、比喩ではなく、文字どおり足の踏み場がないほどだ。
その竹の牢獄に囚われているのは、盗賊団朱屍党の小隊長レッグウィングである。
彼は、クレイマスタ邸からの抜け道の出口で待ち伏せし、逃げて来たオビトを殺す手筈だった。それが今、突然の青竹大量発生に阻まれて身動き取れないでいる。手足が何本もの青竹に挟まれ圧迫している。
レッグウィング
「畜生! オビトに逃げられたっ! その上、なんだこの竹! オレを絡め取っていやがる!」
レッグウィングは守護霊使いである。純白の聖戦士『氷柱の聖女』と召喚し、この竹の牢獄から脱出しようとする。
そこで同じく竹の牢に囚われているレッグウィングの部下達が音を上げている。
部下A
「うぅぅ! 隊長ぅ、冷てぇよぅ。 何が起きてるんだよぅ」
部下B
「助けてくれぇ。 早くここから出してくれぇ!」
レッグウィング
「うるせぃ、お前らは黙って見てろ。 待ってろ、今にここから出してやる」
だが『氷柱の聖女』の能力は氷系である。何をしようにも、ただひたすら竹が凍結するのみである。それが、竹に縛られている盗賊団の体力を奪っていく。
あいつら、こんな奥の手を持っていたなんて。
あいつらというのは、逃げたオビトのほか、同行者のヒロヨ、クレイマスタ家の娘のマーモ=クレイマスタ、そしてクレイマスタ家で養育していたナーニャとシラクの幼児2人のことである。
一瞬にして誕生した竹林である。それが何かの守護霊の能力ではないかと予想はできる。だが、オビトやヒロヨの守護霊にそのような能力があるようには見えない。この竹林の無差別な発生の仕方に成熟した知性を感じない。とすれば、守護霊の主は、幼児のナーニャか、シラクか。
そういうことを考えながら、なんとか青竹の拘束を解こうと奮闘するが、うまくいかない。レッグウィングの守護霊『氷柱の聖女』に青竹を斬り払うような切断系の能力はない。青竹を氷結させて守護霊でこれを揺さぶり、少しずつその幹を崩壊させていく。そういうやり方で竹の拘束を解こうというのであるから、なかなか時間がかかる。
そこへ――
???
「どうも困っているようだね?」
盗賊団に声をかけてきた若い男が現れた。時は深夜。そういう時に人気のない山林に現れるような男だから、常人とは言い難い。
青竹に拘束されて身動き取れないでいるレッグウィングは、そういう不審点にも気づかないほど気が立っている。
レッグウィング
「何だお前! 見せ物じゃねぇんだ! どっか行け! ……いや、黙って見てないで何とかしやがれ!」
???
「おいおい、それは人に物を頼む言葉遣いじゃないなぁ」
レッグウィング
「悪いがオレは、そうゆうお上品な言葉遣いは教わってないんでね。 何でい、手を貸さないなら、どっか行っちまえ!」
???
「やれやれ。 手を貸さないとは誰も言ってないだろう? だが、タダで手を貸すほど僕はお人好しでもないんだ。 どうだい、ここで僕と取引をしないかい?」
レッグウィング
「取引だと? どういう取引だ?」
???
「取引というのはね、僕には助けたい人がいるんだよ。 その人に手を出さないと誓ってくれるなら――ここから出るのを手伝っても良い」
レッグウィングは、慎重になった。
助けたい人とはいったい誰だ? 手を出してはいけないという人とはいったい誰だ? ひょっとして、オビトとかいう少年のことではあるまいか? だったら、この取引には乗ってはならない。
???
「あぁ、君達が狙っているオビト皇子のことならば、自由に斬ってしまって構わない。 彼は、僕にとっても仇のようなものだからね」
彼は、盗賊団『朱屍党』がオビト暗殺命令を受けていることを知っているようだった。ますます不審だが、ここはもう少し話を聞いてみるか。
???
「助けたい人というのは、今は彼と一緒にいるらしい2人の姉弟のことなんだ。オビトは、小さい子2人と一緒だっただろう? この2人の姉弟には手を出さないでほしいんだ。 約束してくれるかい?」
確かに、オビトと一緒に、姉弟とみられる2人の幼児がいた。その2人のことか。
レッグウィングが命じられているのは、あくまでオビトの暗殺だ。その同行者は、必要ならば殺すけれども、あえて殺さなければならないということもない。
レッグウィング
「分かった。 約束する。 だから、早くここから出してくれないか」
???
「そうか、ありがとう。 ならば少し待ってくれ。 召喚する! 紫色の勇者『覇王の長子』!」
男の前に1体の守護霊が現れる。そして守護霊の右腕が水銀のように液状化、次いで鋭利な刀に変形した。肘から先が刀に変形した。
男の守護霊『覇王の長子』はその刀を大きく振るい、密集する青竹を、麦を刈り取るように、次々と斬り払っていく。
青竹に拘束されていた盗賊団朱屍党の一味は、ものの5分で全員解放された。
レッグウィング
「ありがとうよ。 約束は覚えてるぜ。 一緒にいた幼児2人は、確かに手を出さねぇ」
???
「いや、そう言ってくれると、こっちもありがたいね。 どうも、僕と君達とは、目的地が同じようだ。 道連れも頼んで良いかい?」
レッグウィング
「あぁ、目標は同じオビトだ。 お前のような守護霊使いが力を貸してくれるならば、百人力だ。 それはそうと、お前、名前を何という?」
???
「僕かい? 僕の名は、オッグ。 オッグ=アイランダーとは僕のことだ」
これを聞いて、レッグウィングも名乗った。
そして、2人は固い握手を交わした。




