この世の魂で価値のない者などあるものか @ プロローグに代えて
ここは冥府――
現世に見切りをつけて、死神に誘われるがまま冥界を訪れたのが、オレ、氷上乎比人だ。ところが、冥府の主、冥王ハーデースによれば、それは手違いという。
オレを連れて来た死神426ab3号とかいう奴は、正しい「命」を刈り取りに、再びどこかの世界に行ってしまった。
その死神426ab3号が戻るまで、オレは冥府に留め置かれることになった。
オレ
「いつまでも、こんなところに留め置かないで、早く冥界に案内してはくれませんか」
冥王
「バカ者! 貴様はまだ冥界に行って良い魂ではない! 死神426ab3号が戻ってくるまで、ここで待っておれ!」
オレ
「死神426ab3号が戻ってきたら、冥界に連れて行ってくれるのですか?」
冥王
「貴様、ワシの話を聞いておったのか? 『貴様はまだ冥界に行って良い魂ではない』と言ったのだ。 安心せい。 死神426ab3号が返ってきたら、きちんと元の世界に返してやる」
安心なんてできるもんか。
オレはもう、現世ではツんでいるんだ。
このまま現世に返っても、良い事なんてあるもんか。
そんなことを考えながら、数日が過ぎる。
例の死神426ab3号が1つの小さな魂を抱えて帰ってきた。
冥王
「そうそう。 これだ、これ。 これこそ召し上げるべき魂よ。 死神426ab3号よ。 それでは、この少年の魂を、もとの世界に戻してやるがよい」
オレは、有無を言わさず、現世に差し戻された。
ところが現世に帰ってみると、魂が戻るべきオレの肉体が、すでにそこに存在しなかった。
冥府で数日留め置かれたというのが、よくなかったらしい。
この間、現世では、オレが自室で突然死したというので、大騒ぎになったようだ。警察が来て、司法解剖までされたらしい。オレの肉体はメスで大きく切り刻まれて、火葬されて骨となって、今ではすでに墓の中というワケだ。
「これは困ったことになった」と言って、死神426ab3号は、再びオレを冥府に送る。冥王ハーデースの指示を仰ごうというのだ。
再び冥王ハーデスの前に突き出されたオレは言う。
オレ
「もう肉体がないんだ。 早く冥界に行きたいんだ。 なんとかしておくれよ」
冥王
「バカ者! 冥界に行きたいなどと、そのように気軽に言うものではない! 冥界は本来生きるべき魂が来て良い場所ではないのだ! 簡単には、ここから先に行かせはせぬぞ!」
オレ
「お言葉ですが、私は、このままでは引きこもりのオタクニートにしかなれません。 この世にすがる価値なんてありません。 ならば私は、冥界に行く資格が十分にあると考えますが」
冥王
「貴様がこの世の役立たずだと? うつけ者! この世の魂で、価値のない者などあるものか!」
そうは言ったものの、肉体を失ったオレの魂は現世に戻れない。そこで冥王ハーデースは、ちょっとだけ思案をして、例の死神426ab3号に問うた。
冥王
「ところでお前が命を刈り取ってきたオビトの肉体は、まだあるのか?」
死神
「残っているはずです」
冥王
「ならば、この者に、その世界のオビトの肉体を与えるが良い」
こうしてオレは、どこかの世界の、オビトという名の身体に転生することになった。