オレは普通の中学生だった @ プロローグに代えて
オビトは、ウゴウ=ウィスタプランとの守護霊決闘に敗れ、とどめを刺されようとしている。ウゴウの守護霊琥珀色の大賢者『知恵ある商人』が馬乗りになって、止めの一撃を食らわさんと、拳を振り上げている。
薄れゆく意識の中、オビトは、それまでの記憶を走馬灯のように喚起した。
オレが生きていたのは、こんな、いつ誰に殺されるか分からない、物騒な異世界ではなかったはずだ。
そうだ、オレは普通の中学生だったはずだ。
歴史オタクで、それをクラスメイトに馬鹿にされて不登校になって、1年以上も外出していないことを除けば、多分、どこにでもいる中学生だったんだ。
そんなオレが、ある日、いつものように目覚めると、ベッドのかたわらに死神が立っていた。
死神なんて見たこともなかったが、直感で、ソイツが死神と分かった。
白色シャツに黒マントを羽織り、漆黒ロングのストレートヘア、その男がオレに聞く。
死神
「君、名前は何て言うの?」
オレ
「氷上乎比人……」
死神
「オビトだって? オビト君だ! やっと見つけたぞ、その名前! すまぬが、お前の命、ここで譲ってもらえないかい?」
オレ
「どうぞ」
死神
「?」
オレ
「どうぞ、私の命が欲しいのであれば」
死神
「『どうぞ』って、お前、本当にいいのか? お前の魂、ここでもらって本当にいいのかい?」
オレ
「構いません。 引きこもりを始めてもう1年、出席日数が足りなくて、留年も確実です。 私の人生はもうツミました。 ご所望でしたら、どうか、私の命、ここでもらってくださいな」
死神
「そういうことならば、まぁ、いいか。 うむ、君は本来、ここで死ぬべきではないのだが、オレにはどうしても助けてやりたい命があるのだ。 閻魔帳に名が載った者の命を刈ってくるのがオレの仕事。 しかし、今回の相手はどうにも不憫に思えてな。 それでどこかに同名の者がいないか探していたのだ。 つまり、君は、どこかの世界のオビト君の身代わりというわけだ。 それでも君は、オレに、命をくれて、くれるのかい?」
閻魔帳とか、身代わりとか、そんな話はどうでも良い。夢も希望もないこの社会、早く人生をリセットさせてくれ。オレは、死神の問いかけに、ただただ、うなずき、彼に手をとられ幽体離脱した。
冥府の門へはすぐに到着。死神とはここでお別れ。いざ、冥王ハーデースから、黄泉の国への片道切符をもらおうか。
ところが冥王ハーデスは、引き出されたオレの顔を見るなり、猛烈に怒鳴りだした。
冥王
「違ーう! 違う違う違う! 違ーう! この少年は、召し上げるべき魂とは違ーう! 死神426ab3号を呼び戻せ! 今すぐ、にだ!」
死神426ab3号というのは、オレを連れて来た、あの死神のことらしい。すぐに、死神が戻ってきた。
冥王
「貴様! しくじったな! これは閻魔帳に書かれた魂魄ではない! すぐに戻って、正しい命を持ってくるのだ! 間違いなく、オビトの魂魄だ! その命を、必ず持ってくるのだァ!」
あの偉そうな態度だった死神が、冥王ハーデースの前では顔も上げられずに神妙にしている。冥王というのは、それぐらい偉い立場なのだろう。死神は、「ハッ」とだけ回答し、どこぞへや退場した。おそらく、冥王ハーデースが言う「命」を刈り取りに行ったのだろう。