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身体検査だよ

トゥーム

「君たちは、一体、何者なのだ」


 イノテ=ウェストマンの守護霊(トーテム)能力(スキル)巨鬼(トロル)討伐隊に紛れ込むことができたアスカとヒロミだったが、その討伐隊員名簿に2人の名前はなかった。


 それで、討伐隊の仮隊長に任命されたトゥーム=ストンリベルが2人を呼び出したのだ。


 ハイストン神殿の中に用意された隊長の部屋、椅子に座るトゥーム仮隊長を中心に、左右に2人の男が()している。また、もう1人、壁に背を預けて立っている男もいる。


 アスカもヒロミも、この質問に対する答えを用意していなかった。沈黙。


トゥーム

「君たちが、オビト皇子のシンパであることは聞いている。 おそらく、我らが討伐隊が本来の隊長であるオビト皇子を害そうとしている、これから皇子を守ろうというのが君たちの目的とみたが、違うかい?」

ヒロミ

「……」

アスカ

「そうよっ。 何か文句ある?」


 アスカもヒロミも、ここはもう逃れられないことと観念し、自分たちが討伐隊に加わった目的を白状した。


討伐隊M

「やはりそうだったか」

討伐隊N

「我々の任務は重大だ。 その討伐隊に潜入するとは、厳罰が必要だな」


 トゥーム仮隊長の取り巻きが、口々にアスカとヒロミを非難する。しかし、その口ぶりは、どこかわざとらしい。演技がかっている。


 トゥーム仮隊長が、いきり立つ討伐隊員をなだめる。

トゥーム

「まぁまぁ、確かに我らが討伐隊に潜り込んだのは重罪だ。 今晩のうちに宮城(きゅうじょう)に報告して、律令に照らして重い処罰を求めなければならない。 さて、その結果は、島流しか、打ち首か……」

アスカ

「分かったわ。 アンタ達が陰でどんな命令を受けているか知らないけど、ここにオビトがいない以上、アンタ達はオビトに手出しができない。 そういうことならば、私たちがここに居る理由はないわ。 さぁ、どこにでも突き出しなさい!」


 そう言って、アスカは両手をトゥーム仮隊長に差し出した。手に縄をかけさせて、身柄拘束を受けても良いという意思表示だ。


トゥーム

「いや、そう早まらなくても良いと思う。 今、この隊の隊長は、ボクなんだ。 君たちのことを宮城(きゅうじょう)に報告するもしないも、ボクの一存でどうともなる」


 そう言われて、アスカは胸をなでおろす。彼女は、言われたことを字義通りにしか解釈しない。


 これを聞いて、不審に思うはヒロミである。本来であれば、本来のメンバーでないアスカとヒロミが討伐隊の中に居ることは、宮城(きゅうじょう)への要報告事項だ。それを、「ボクの一存でどうともなる」と言うトゥーム仮隊長の真意がはかりかねる。


トゥーム

「アスカ君の言うとおり、ここにオビト皇子はいない。 だから、この隊に君たちが居ようが居まいが、君たちがボクの指揮に従ってくれるのならば、我が隊には何の影響もないことになる。 つまり、戦力になる」

アスカ

「そういうことならば――」


 アスカがトゥームに従おうとする態度を示すのを、ヒロミがさっと制止した。


 これに気付いてか気付かないでか、トゥームが言葉を続けた。


トゥーム

「しかし、ここにいる討伐隊員たちは、どうしても君たちのことが信用できないというのだ。 そこで提案がある。 アスカ君、ヒロミ君、1つ、ここで、ボク達が君達のことを信用しても良いというモノを見せてはくれないだろうか」

ヒロミ

「『信用しても良いというモノ』とは、どういうことかしら?」


 この質問に、トゥーム仮隊長のそばに()する討伐隊員たちが、卑猥な笑い声をあげた。


トゥーム

「君達には、重大な嫌疑がかけられているのだ。 我々は、それを調べる必要がある」

アスカ

「これから、取調べを行うということ?」


 これを聞いて、トゥーム仮隊長の取り巻きがどっと笑った。


 ヒロミは、何か嫌な予感をさせている。だが、あえてそれに気付かない振りをする。


討伐隊L

「ガハハハ、取調べの前に、やらなければいけないことがあるだろう?」

ヒロミ

「何の、ことかしら?」


 ヒロミの惚けた返事に、討伐隊が右足で床を大きく踏みつけた。ガシンと大きな音が部屋の中に響いた。


討伐隊L

「身体検査だよっ! ここで、この場でっ! ほらっ! 着てるものを全部脱ぐんだよっ!」

アスカ

「身体検査だって!?」

ヒロミ

「ちょっと待って! 私たちは女子よ! この隊には女性隊員も居るでしょう。 私たちの身体検査は、女性隊員がするのではなくて?」

討伐隊L

「うるさい! ぐずぐずするなら宮城(きゅうじょう)にお前たちのことを報告するぞ! ほらっ! さっさと脱ぐんだ! 今すぐここで素っ裸になれ!」


 この隊員は、自分の本能を押さえきれなくなっているのか、声が上ずっている。感情的になって、アスカとヒロミに脱衣を強いた。


 何よ! そうまでして女子のハダカが見たいの?


 アスカが、半ば憐みの感情を抱いて、上着を脱ごうとした。


 それを、ヒロミが制止する。


ヒロミ

「アスカ、何をしようとしているの?」

アスカ

「何って、『素っ裸になれ』って言うから、お望み通り、なってあげるのよ」


 この言葉を聞いて、その場の討伐隊員が大爆笑した。


ヒロミ

「ちょっと待ちなさい。 アスカ? 『素っ裸になれ』って、誰が言ったの?」

アスカ

「誰って――誰が言っていたのかしら?」


 |何も言われていないところで《、、、、、、、、、、、、、》いきなり脱衣を始めようとして、アスカは赤面した。


 だが、何か、変だ。


アスカ

「何か、おかしい」

ヒロミ

「そうね。 私は、恐ろしい」


 何がおかしいのか、恐ろしいのか。


 アスカとヒロミがトゥーム仮隊長の部屋に入ったとき、そこには、トゥーム仮隊長を含めて、4人(、、)の男がいたはずなのだ。


 それなのに、今は3人(、、)しか居ないではないか。この部屋から出入りした者は誰もいない。いつの間にか、人が1人、蒸発しているのである。

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