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奇妙なことが起こっていることは分かっている

 もともと28人いた巨鬼(トロル)討伐隊は、フジワラ京に向かう途中のハイストン神殿で休息をとっている。


 その28人いた筈の討伐隊が27人になったというので、仮隊長に任命されたトゥーム=ストンリベルが確認の点呼をとった。巨鬼(トロル)と戦う前に討伐隊の数を減らしたとあっては、それは隊長の責任になってしまうからだ。


 そこで点呼をとった最初のときは、確かに27人、隊長を除けば26人となった。ところが、何回も確認の点呼をとっているうちに、いつの間にか自分を含めて26人になっている。隊長を除いた点呼で、25にしかならない。この間、この討伐隊に人の出入りはない。


ヒロミ

「隊長、よろしいでしょうか?」

トゥーム

「なんだっ! 発言を許すっ!」

ヒロミ

「この点呼、隊員の順番は変わっていませんでした。 ですから、最初の点呼と今の点呼と、どこかで違う番号を発した隊員が出て来るはずです。 その違う番号を発した隊員の、手前の隊員が、居なくなった隊員であると考えますが、いかがでしょうか?」

トゥーム

「その言や良し。 それでは聞こう! 最初の点呼と今の点呼とで、違う番号を唱えたのは、どの隊員からか?」

隊員

「「……」」

トゥーム

「どうしたっ! 答えよっ! どの隊員からかっ! 違う番号を唱えた隊員は、手を挙げよ!」


 だが、挙手する隊員は現れない。


ヒロミ

「隊長、違う番号を唱えた隊員がいないことも考えられます!」

トゥーム

「貴様! 隊長に対して無礼だぞ! オレは発言を許可した覚えはないっ」


 なんだ、こいつは!


 アスカは、怒鳴ろうとした。


 アスカの気性を知っているヒロミは、さっとアスカの口を押えて続ける。


ヒロミ

「失礼しましたっ。 隊長、よろしいでしょうか?」

トゥーム

「よしっ。 発言を許す」

ヒロミ

「違う番号を唱えた隊員がいないことは考えられます。 最初の点呼で最後の者が居なくなったのであれば、ここに居る全員が、最初と最後の点呼で同じ番号を唱えることになります」

トゥーム

「なるほど、確かにその通りだ。 そういうことならば、討伐隊Z、貴様が最後だったはずだ。 最初に、貴様の次に居た隊員は誰だ?」

討伐隊Z

「恐れながら隊長殿、私は、最初も最後も、点呼では一番最後でした」

トゥーム

「そんなはずはあるまい。 もしも貴様が、最初も最後も、点呼で一番最後だとすれば、最初は『26』、最後は『25』と答えるはずだ」

討伐隊Z

「恐れながら、私は最初も最後も『25』と唱えておりました」

トゥーム

「貴様! とぼけるのか! 最初は、間違いなく、オレを除いて26人いたはずだ。 ならば自分が最後だという貴様は、最初は『26』と唱えるはずだ」


 トゥーム仮隊長は、腰に佩いた剣を抜いて、不合理な回答をする討伐隊Zを斬り捨てようとする勢いだ。


討伐隊Y

「隊長! 早まってはいけません。 私も、最初も最後も『24』と唱えておりました。 そして、私は最後に近いので、討伐隊Zが隊列の最後尾であることをよく知っております!」


 不合理だ。誰が聞いても不合理だ。その不合理であることを、当然のように真顔で語り出すのである。


 そうだ、名簿だ!


 トゥーム仮隊長は、ここに来て、ようやく討伐隊の名簿を確認すれば良いことが分かった。


 この討伐隊は、隊員名簿を持ち合わせていなかった。名簿は、テンプル・ハピネスにある。そこでトゥーム仮隊長は、ハイストン神殿の下級神官の1人に命じて、テンプル・ハピネスから討伐隊員名簿を取寄せさせた。


 名簿を取寄せたトゥームは、再び、討伐隊をハイストン神殿の中庭に集める。


トゥーム

「よし、今から名簿で名前を読み上げる。 名前を呼ばれたら、返事をするようにっ!」


 こうして、トゥーム仮隊長は、名簿に名前が載っている者を、1人ずつ、読み上げた。


トゥーム

「討伐隊A」

討伐隊A

「はい!」

トゥーム

「討伐隊B」

討伐隊B

「はい!」

 ……

トゥーム

「討伐隊X」

討伐隊X

「はい!」

トゥーム

「討伐隊Y」

討伐隊Y

「はい!」

トゥーム

「討伐隊Z」

討伐隊Z

「はい!」

トゥーム

「よし、これで全員だ。 間違いなく全員いる(、、、、、、、、、)。 そうか、最初から、誰も逃げ出してはいなかったのだ。 28人いたというのは、我々の勘違いだったか。 26人というのが正しい数だったか」


 全員いる(、、、、)ですって?


 アスカとヒロミは驚愕した。


 テンプル・ハピネスを出発したとき、討伐隊は、自分たちを含めて間違いなく28人いた。


 イノテ=ウェストマンの守護霊(トーテム)能力(スキル)で、討伐隊の一員と思い込ませているアスカとヒロミの名前が、討伐隊の名簿に載っているはずがない。


 したがって、討伐隊名簿に載っている隊員数は、28からアスカとヒロミの2人分を差し引いた、26でなければならない。


 ところがヒロミが密かに数えると、今ここにいる討伐隊の人数は、自分たちを含めて、26なのだ。


 それで全員いる(、、、、)ことが確認されたのだから、トゥーム仮隊長が手にしている討伐隊名簿には、ここにいる26の討伐隊員数から、アスカとヒロミの2人分を差し引いた、24の名前しか載っていないことになる。


ヒロミ

「アスカ、気をつけて」

アスカ

「分かってる。 奇妙なことが起こってることは、分かっている」

 討伐隊は、テンプル・ハピネスからハイストン神殿に移動しました。

 テンプル・ハピネスは、Temple Happiness → 幸福寺 → 興福寺ですね。

 それではハイストン神殿はどうでしょうか? ハイ→High→高い→上。ストン→Stone→石。これで上石神殿ですが、上と石をひっくり返して石上神殿となり、石上神宮となります。

 加茂尾のネーミングセンスなんて、そんなものです。

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