27人いた筈だ それがどうして26人なんだ?
討伐隊が、フジワラ京に向けて出発する。
トゥーム=ストンリベル仮隊長が率いる28人の討伐隊が、テンプル・ハピネスから、アッパー街道を通って藤原京へ向かう。
本来の隊長はオビト皇子だが、彼はこの場にいない。
そこで朝廷の伝令官となったホヅミ皇子が、母親と同族というそれだけの理由で、トゥームを仮隊長に任命した。
だが――
家族から甘やかされて育った貴族のトゥームには、リーダーの資質がまったくなかった。
ゆえに、たった28人の隊列でも、行軍が乱れる。
中継地、あるいは休憩地のハイストン神殿に到着した頃には、28人いた筈の討伐隊が、27人になっていた。
ハイストン神殿の神官は、皆、仮面を被っている。その仮面を被った神官達の出迎えを受けながら、仮隊長のトゥームは、頭を抱えた。
トゥーム
「どうしよう。 早くも脱走者が出てしまった。 巨鬼と戦う前に隊士を減らしたとあっては、隊長のボクが処罰されることになってしまうではないか」
このように焦るトゥーム仮隊長の姿を見て、キョウ=ボウメイクを舌打ちをする。
まず、伝令官のホヅミ皇子が、立候補したキョウを差し置いて、無能のトゥームを仮隊長に任命したのも気に入らない。ストンリベル家は、これより120年前、ボウメイク家の本宗家であるプリスト家を滅ぼした氏族だ。だからキョウは、ストンリベル家に良い印象をもっていない。
そして討伐隊のメンバーがハイストン神殿に土足で上がり込んでいるのも気に入らない。ハイストン神殿は、今でこそ朝廷が管理する官営の神殿であるが、もともとはボウメイク家の本宗家であったプリスト家の神殿だったのだ。
そこで不機嫌となっているキョウを、親友のゲン=アルクソウドが慰める。
ゲン
「そう言うな。 この討伐行で巨鬼を仕留めることができたら、僕らの評判も上がる。 そうしたら、僕は震旦に渡る。 震旦に渡って最先端の仏法を学んで帰って来る。 その間に君は、こっちで朝廷の信頼を勝ち取って権力を取る。 そうすれば、必ず我らがプリスト家は再興する」
ゲンのアルクソウド家も、もとはプリスト家から分派した家柄だ。だから、同じプリスト家の系列のキョウが考えていることは、何となく分かる。
こうしたキョウとゲンの葛藤など見向きもしないで、討伐隊のトゥーム仮隊長は、メンバーの点呼を取り続ける。隊員たちは飽き呆れるが、仮にも隊長の命令なので黙って従う。
何度点呼しても討伐隊の人数は27人だ。討伐隊が1人減った事実は覆らない。
トゥーム
「あぁ、やっぱり27人だ。 いや、そんな筈はない。 もう1度だ。 もう1度、点呼だ!」
アスカ
「ねぇヒロミ、あいつ、頭がイカれてるわ。 また、点呼だって」
ひそひそ声で隣のヒロミに話しかける。
ヒロミ
「黙って従いなさい。 仮にもアイツが隊長なんだから」
こういう決断力のない隊長の態度は、討伐隊員の反感を高めていく。中には、わざとトゥーム仮隊長に聞こえるように「なんだよ。 またお点呼かい!」と言い出す者も現れた。それを無視して、トゥームは再度の点呼を命じる。
討伐隊A
「1」
討伐隊B
「2」
……
討伐隊X
「23!」
討伐隊Y
「24!」
討伐隊Z
「25!」
トゥーム
「どうした! どうした26人目っ! 26人目っ、ちゃんと点呼に応じるのだっ」
討伐隊Z
「恐れながら!」
トゥーム
「なんだっ! 発言を許すっ!」
討伐隊Z
「私が、私がぁ、私がぁ最後であります!」
トゥーム
「何? そんな筈はぁないっ! なぜならば、これでは、討伐隊はオレを含めて26人になってしまうっ! 27人だっ。 27人いた筈だっ! それがどうして26人なんだ? もう1度だ。 もう1度点呼を取るっ」
トゥームは何度目かの点呼を、再びとった。
討伐隊X
「23!」
討伐隊Y
「24!」
討伐隊Z
「25!」
トゥーム
「なぜだっ。 なぜまた25で終わるのだっ。 さっき点呼をとったときは26だったではないかっ。 見ていたぞ。 オレは見ていたぞ。 確かにここに居た討伐隊の全員が点呼に応じていた。 それが、どうして25になっているのだ。 居なくなったのだ。 ここに居た討伐隊の誰かが居なくなったのだ。 一体、誰が居なくなったのだ?」




