お遊びは終いだ
殺される覚悟のある者だけが、人を殺すことができる。
オビトには、殺される覚悟がなかった。
だから、野盗の集団に襲われても、これを殺して反撃することはできない。
正拳、膝蹴、手刀、頭突――
合計6人の野盗が、真剣を振り上げてオビトに襲い掛かるが、オビトは守護霊に守られているから、野盗はなかなかオビトに近づけない。
他方のオビトの方も、これを殺す覚悟ができていないので、野盗の攻撃が繰り返される。
ヒロヨ
「オビト、待ってなさい! 今、コイツを斃して、助けてあげるわ!」
ヒロヨと対峙しているのは、盗賊団『朱屍党』の別動隊の隊長であるレッグウィングだ。
レッグウィング
「おうおう! このオレ様を簡単に斃せるかのような口ぶりじゃないか。 なめるなよ!」
レッグウィング隊長の守護霊、純白の聖戦士『氷柱の聖女』が氷弾を連打する。
その攻撃を回避しながら――
ヒロヨ
「その攻撃も、そろそろワンパターンでなくて」
今度はヒロヨの守護霊、輝ける闘士『太陽の法衣』が火焔光を連打する。
『氷柱の聖女』は、これをすべて迎撃する。
レッグウィング
「ワンパターンはお嬢ちゃんのほうだろう? 戦いは、パターンを見せつつ、意表も突くものだ」
そう言って、レッグウィング隊長は、自ら、刀を抜いて、ヒロヨに駆け寄った。
肉弾戦!
自分に近づかせてはまずいと、『太陽の法衣』のもう1つの能力を発動する。
ヒロヨ
「水撃波!」
『太陽の法衣』が放つ激流で、レッグウィング隊長を押し流そうというのだ。
レッグウィング
「その能力は、オレ様には通用しないっ! オレの守護霊は氷の支配者っ! 水による攻撃は、『氷柱の聖女』に対しては禁忌なんだよぅ!」
『太陽の法衣』が放った水撃波は、『氷柱の聖女』の目の前で、完全に氷結してしまった。
氷結した水撃波は、ヒロヨとレッグウィング隊長を隔てる厚い氷の壁となった。
厚い、というのがヒロヨにとって不幸であった。
レッグウィング隊長は、この分厚い氷の壁を素早くよじ登り、その頂上からヒロヨを見下ろした。
ヒロヨ
「ハッ! 火焔光!」
『太陽の法衣』が火焔光を放つ。
レッグウィング
「効かぬ!」
『氷柱の聖女』が、火焔光を氷弾で迎撃する。
氷壁の頂上で、刀を振り上げる。
レッグウィング
「お嬢ちゃん! お遊びは終いだ!」
その頃――
野盗に囲まれたオビトはどうか。
こちらは、迫る野盗群の攻撃を巧みに防いでいる。
だがオビトは気付いていなかった。その野盗群の人数が、最初の6人から、いつの間にか4人に減っていたことを。
???
「おい、そこの守護霊使い! いい加減、大人しくしたらどうだ!」
その声の方を、オビトが向く。
野盗の仲間の1人が、マシュー=クレイマスタの娘であるマーモを捕え、その首に小刀をあてていた。もう1人が、5歳児のナーニャと3歳児のシラクを抱えて捕まえている。
野盗A
「ここで大人しくオレたちに殺されてくれたら、お前の仲間は助けてやる。 それとも、ここで仲間を棄てて逃げ出すか! 選びやがれ!」
オビトは、洞穴の中に残してきた、マーモら3人を、人質に取られてしまった。




