貴様のスキルは見切っている
オビトら子どもたちを抜け穴から逃がしたマシュー=クレイマスタが、襲ってきた盗賊団『朱屍党』の首領ヤスケと対峙している。
マシューの屋敷は自壊させた。
その瓦礫が業火に包まれる中、マシューの守護霊、空色の力士『荒野の観察者』と、ヤスケの守護霊、黄鐘調の壮士『原始の経典』の戦いとなる。
戦いは、マシューが数多の武装兵士、土俑を発生させ、壮士『原始の経典』を圧倒し、ついには土俑の1体がヤスケの背後をとった。
その土俑が腰に佩いた土剣を抜き、振り上げている。
マシュー
「もらったっ! この下賤の野匪めっ!」
ヤスケ
「やれるかっ! たかが埴輪人形にっ!」
そう言い終わるや、ヤスケの背後をとった土俑が消失した。
否――
マシューは見た。土俑が地面の中に落ちるさまを。
マシュー
「それが、貴様の能力か?」
ヤスケ
「さっきも言っただろう? その手は喰わないと。 どこに自分の戦い方を敵に説明するバカがいる!」
マシュー
「確かにそれもそうだ。 だが、もはやこの距離だ。土俑でなくとも貴様に必殺の一撃を喰らわすことは可能!」
『荒野の観察者』は、ヤスケの身体まですぐ手が届く位置にいる。その術者を守護霊の『原始の経典』が守る構図となっているが、この2体を一度に怪力で蹴り飛ばそうと、『荒野の観察者』が片脚を持ち上げた。
ヤスケ
「それは安直だ。 今やこの距離だ。 貴様の守護霊は、『原始の経典』の射程の中にいる!」
マシュー
「そう来たか! だが貴様の能力は見切っている。 土俑! 『荒野の観察者』を守れ!」
ヤスケ
「遅い!」
『原始の経典』の能力は、地面に落とし穴を作り、落ちた者を亜空間に飛ばすというものである。落とし穴は、一定の範囲内で自由に動かすことができるが、一度に落とすことができるのは1つのみである。
とすると『原始の経典』が作った落とし穴に別の不要な何かを落とし込めば、その能力攻撃を封じることができる。
マシューは、『原始の経典』の能力がこのようなものだと見抜いた。そこで土俑を生み出して、その能力攻撃から『荒野の観察者』を守ろうとしたのである。
だが、土俑は生産に時間がかかる。
だから「遅い」と言われたのだ。
土俑が地面から誕生するよりも早く、『原始の経典』が素早く落とし穴を生成し、これがマシューの『荒野の観察者』をはめた。
マシューの守護霊は亜空間に堕ちて消失した。
マシューが悶絶する。
守護霊と術者は、奇妙な霊気で連携している。ゆえに、守護霊に異変が生じれば、術者の精神が変調する。守護霊の消失は、術者に多大な精神的負担を与え、ときには死をもたらすこともある。
ヤスケがマシューに近づき、止めを刺そうとした。
マシューは、微笑んでいた。
ヤスケ
「何が、可笑しい?」
マシュー
「ハハハ。 貴様を斃せなかったのは無念だが、私は役目を果たすことができた。 これだけ時間を稼げれば、今ごろ御子様たちは、安全な場所まで逃げ切れたことでしょう」
こう聞いて、ヤスケは吹きだした。
マシュー
「何が、可笑しい?」
今度は、マシューが同じ質問を返した。ヤスケは大笑いした。
ヤスケ
「何が可笑しいって、オレは自分の戦い方を敵に教える趣味はないが、今この場で死のうとしている貴様にならば聞かせてやっても良いだろう。 真実を知って悔しがる貴様の姿の姿を見るのも一興だからな!」
マシュー
「何?」
ヤスケ
「確かにオレは、貴様を殺そうとしていたが、それが適わないときは、貴様をここに足止めできれば良かったのさ」
マシュー
「どういうことだ?」
ヤスケ
「まさかお前さん、オレたちが貴様の家の抜け道の出口を知らなかったとでも思っていたのかい? 今頃は、そこで待ち伏せしているオレの部下が、ガキどもを独り残さず殺しているところだろうよ!」




