いくぞクレイマン
オビトとヒロヨ、そしてマーモ=クレイマスタが連れるナーニャとシラクが、屋敷の外に抜ける秘密の抜け穴に入っていった。
そろそろその頃合いと感じた屋敷の主、マシュー=クレイマスタは、右手を高らかに上げてパチンと指を鳴らした。
その守護霊、空色の力士『荒野の観察者』の能力か、はたまた何かの仕掛けが発動したのか、マシューの屋敷が豪と爆音をあげて崩れた。火も出てる。
その様子を見て驚く、盗賊団、朱屍党のリーダー、ヤスケ。
ヤスケ
「ぬ? 自ら屋敷に火を放つとは。 気でも違ったか?」
マシュー
「燃えた屋敷は、また建てればよいだけのこと。 それよりも貴様らに、御子様たちの後は、追わせはさせぬ」
ヤスケ
「『追わせはさぬ』とは。 貴様、オレたちの目的がその『御子様たち』と、気付いていたか!」
マシュー
「フフフ。 貴様は私と戦うまえに、『まずは』と言ったのだ。 『まずは』とは、次があるということ。 とすると、貴様が私以外の者も殺そうとしていることは明らか」
ヤスケ
「なるほど、オレは、ここでもおしゃべりが過ぎたということか。 だが、それが分かったからと言って何になる! それこそ『まずは』、貴様を殺してゆっくりとオビトを追い詰めるのみ」
ヤスケの守護霊、黄鐘調の壮士『原始の経典』が戦闘の構えをとる。
マシュー
「なめるなよ! 『荒野の観察者』! 土俑!」
ヤスケ
「ウザい! 『原始の経典』! 破壊せよ!」
ヤスケの守護霊、『原始の経典』の前に3体の土俑が出現。
しかしその土俑は、守護霊『原始の経典』の手拳で、ほとんど間もなく破壊し尽くされた。
この様子を見て、まずは術者を殺してしまおうと、ヤスケの手勢が集団で飛び掛かる。
このマシューの大喝で、ヤスケの手勢が一歩退く。
そして「土俑!」と叫ぶと、マシューの周りを守るように数体の土俑が、武装兵士姿で地面から盛り上がり立った。
ヤスケ
「お前たち! そいつはお前たちの敵う相手じゃねぇ! それよりもお前たちは、逃げたガキどもを追いかけるんだよう! どこかに抜け穴があるはずだっ! 穴だっ! 穴を探すんだっ! 火を消して瓦礫を除いて、穴を見つけ出すんだっ!」
マシュー
「そうはさせませんぞ! 土俑!」
するとさらに地面から土俑が出現し、ヤスケの手下に襲い掛かった。
首領は、崩れ火を噴くマシューの屋敷で抜け穴を探せという。しかし、そこをマシューの土俑が襲ってくるものだから、なかなか捜索が進まない。
ヤスケ
「やいマシュー! お前の相手はこのオレ様だよ!」
マシュー
「分かっております。 ソレっ! 土俑!」
マシューは、次々と地面から土俑を生み出し、その半分をヤスケに、残り半分をその手勢に向かわせる。
ヤスケ
「おいおい! この埴輪人形、一体、どれだけ湧くんだ?」
マシュー
「ハハハ! そこに地面がある限り、いくらでも生み出せますぞ。 それがわが守護霊の能力、土俑なのです。 その気になれば、一個大隊程度の精鋭軍勢にもなりましょう。 私はこれで、40年前の戦争で勲章をもらいました」
ヤスケ
「だが、こんな能力、通常の守護霊使いであれば、どうということはない」
ヤスケの守護霊『原始の経典』が次々と土俑を破壊していく。
これに負けじと、マシューは土俑を間断なく生み出していく。
ヤスケの『原始の経典』が土俑の破壊に集中しているところ、マシューの『荒野の観察者』が間合いを詰めていく。
ヤスケ
「おのれ! 戦いは数ではないと、教えてやる!」
マシュー
「フフフ、それは強がりでしょう? 現にその数に押されているではないか」
ヤスケ
「バカにするな! オレには奥の手があるんだ」
ヤスケが気合を入れると、その守護霊『原始の経典』が強さと敏捷性を増した。周囲の土俑が次々と吹き飛ばされる。
ヤスケ
「そしてぇ! 貴様は調子に乗り過ぎたなぁ! 今、貴様の守護霊はオレの『原始の経典』に近づき過ぎて、その射程の中にいる!」
マシュー
「フッ。 わが守護霊の射程にあるのは貴様も同じこと。 いくぞっ! 土俑!」
ヤスケは背後に気配を感じた。
それは、一体の武装兵士、土俑だった。土俑は、その腰に佩いた土剣を抜き、大きく振り上げていた。




