オビト様ヒロヨ様こちらへ
マシュー=クレイマスタの屋敷を取り囲む盗賊団、朱屍党のリーダー・ヤスケは、屋敷の主のマシューが守護霊使いとみるや、部下に屋敷の包囲を固めさせ、単身、その敷地内に乗り込んだ。
マシューとヤスケの守護霊バトルが始まる。
これを見守るオビトやヒロヨ。その背後で、マシューの娘のマーモが預り児のナーニャとシラクを守っている。ナーニャとシラクは、王子ということになっている。
そのオビトらに、マシューが声をかけた。
マシュー
「オビト様、ヒロヨ様、ここは危ないかもしれません。 さきほど私は、この戦い『どうということはない』と言いましたが、撤回しなければならないようです。 今、私の目の前にいるこの男、戦い方を知っている相当の手練れ。 もう少し、安全なところへ下がっていただけますか」
オビト
「そういうことなら、加勢します」
マシュー
「いけません。 オビト様もヒロヨ様も、大切な先帝の御子様でございます。 そもそもここは私の屋敷。 その屋敷を襲う者がいるならば、それは私自身で退けなければなりません」
こういう会話をしていると、相対するヤスケが割って入って来た。
ヤスケ
「オウオウオウオウ、おしゃべりしている時間なんて無いんだよ!」
ヤスケの守護霊、黄鐘調の壮士『原始の経典』がマシューに向けて指をさす。
マシュー
「とにかく、オビト様もヒロヨ様も、ここは私の戦いを見ていてください。 そして、とにかく自分の身を守ることに集中してください。 事と次第によっては、ここから退避することも考えてください」
それだけ言って、マシューはヤスケを睨みつける。そして、守護霊、空色の力士『荒野の観察者』の能力を発動。
『荒野の観察者』の目の前の地面から、3体の土俑が形成された。武装兵士の形状だ。
だが、その中央の1体が、突然姿を消した。
ヤスケ
「チィッ」
マシュー
「何! わが土俑が一瞬で消失とは」
それは、ヤスケの『原始の経典』の能力と思われた。
マシュー
「そうなのだろう?」
ヤスケ
「だからその手は喰わないと言ったろう? そうやって、わが能力の秘密を聞き出そうとしたって、そうはいかねぇ」
そしてヤスケは、大きく口笛を吹いた。
門外で屋敷を包囲する部下たちに、一斉に攻撃をしかけるよう命じる合図だ。
数人が正門から、何人かが外塀を乗り越えて、マシューの屋敷の敷地内に侵入してきた。
オビト
「あっ。 強盗たちが入って来る!」
ヒロヨ
「オビト! ぼぅっとしてないの! 戦うわよ」
ヒロヨはすかさず、その守護霊、輝ける闘士『太陽の法衣』を召喚した。
ヒロヨ
「火焔光!」
『太陽の法衣』の能力、火焔光の一閃。これを喰らったその野盗は、自分の顔面を両手で庇って、地面でのたうち回る。
これを見てオビトは蒼ざめる。
人間が、血を流している。
ヒロヨ
「オビト、何をしているの! アンタも守護霊を召喚して戦いなさいよ」
オビト
「でも、僕の守護霊は、攻撃力が強すぎる。 ここで守護霊で戦ってしまうと、人を殺してしまう!」
ヒロヨ
「何を言ってるの! ここで戦わないと、アンタが殺されるのよ?」
そう言っている合間に、次の野盗が迫ってきた。そこでヒロヨは、再び『太陽の法衣』の火焔光を発射、これが迫る野盗の胸を貫いた。野盗は即死した。
守護霊を持たない野盗たちには、守護霊は見えない。しかし、目の前で仲間が怪我をしたり即死したりで、守護霊による攻撃を受けていることは理解できた。
侵入してきた野盗たちは怯んだ。
ヤスケ
「お前たち! そこに守護霊がいるからってビビるんじゃねぇぞ! こういう時は弓矢だよ。 弓矢で術者を攻撃するんだよ。 術者は、そこの黄色い毛のお嬢ちゃんだよっ!」
「黄色い毛のお嬢ちゃん」とはヒロヨのことである。
野盗数人が遠巻きにヒロヨを取り囲み、一斉に矢をつがえた。
マシュー
「ヒロヨ様! お守りいたします。 それ土俑!」
ヒロヨの目の前の地面から3体の土俑が沸き上がった。
野盗が放った矢は、すべてこの土俑が盾となり、弾き返された。|土俑は頑丈である。よほどの強弓でなければ破壊することはできない。
ヤスケ
「オイオイオイ! お前の相手はこっちだよ!」
マシュー自身を守る土俑の数は現在2体。ところがヤスケがそのように言うと、また1体が消失した。
一方、ヒロヨを守る土俑は3体。土俑は地面の土を瞬時に武装兵士に変える能力である。出来上がった土俑は通常人の目にも見ることができるし、猛者であれば破壊することもできる。このヒロヨを守る土俑も、確実に1体ずつ破壊されていく。
マーモ
「オビト様、ヒロヨ様、こちらへ!」
野盗たちが土俑の破壊に手間取っている間に、マーモがオビトの手を取って、屋敷の中に引き入れた。その先に、敷地の外に通じる秘密の抜け穴があると言う。ヒロヨが『太陽の法衣』の火焔光で迫る野盗を威嚇しつつ、子どもたちはその秘密の抜け穴に入っていった。




