まずはマシュー=クレイマスタ貴様からだ
マシュー=クレイマスタの屋敷を囲む盗賊団の名を朱屍党という。ヤスケは、その盗賊団のリーダーだ。
40人超の手勢を率いて屋敷を取り囲んだ。そのうちの血気盛んな2、3人が正門を破って屋敷内に入っていった。するとすぐに、3つの断末魔の悲鳴。返り討ちに遭ったらしい。
ヤスケ
「馬鹿め。 迂闊に中に入るなと言っておいたのに! 野郎どもっ。 都外れの屋敷だからって油断するんじゃねえぞ。 出てきた奴だっ。 出てきた奴を順番に囲んで、3人で1人を殺っちまうんだよっ!」
舎弟A
「大将、それで奴らは、出て来るでしょうか?」
ヤスケ
「心配するな。 塀の向こうの鼠たちは、このオレがいぶり出してやる」
そう言って、今度はヤスケが正門をくぐって屋敷の敷地に足を踏み入れた。
目の前に、3体の土俑の巨体がある。その大きさは、約2メートル。
マシューの守護霊、空色の力士『荒野の観察者』の能力で生み出された武装兵士の土俑だ。
それぞれの土俑の目の前に、3つの死体だ。大きな力で圧し潰されたような、ヤスケの部下の死体だ。
その向こうに、マシューが守護霊『荒野の観察者』を従えて待ち構えている。
マシュー
「大人しく、ここから立ち去れい! 逃げるのであれば命は助けてやる」
ヤスケ
「ほざけぃ! まずは着様の命から奪ってやる」
マシュー
「向かってくるとは愚かなり! それでは手前も土俑の餌食になるが良い」
マシューがさっと右手をあげると、3体の土俑が一斉にヤスケめがけて突進してきた。
ヤスケ
「なめるなよ。 力を貸せぃ! 黄鐘調の壮士『原始の経典』!」
ヤスケが腰に佩いた倶利伽羅剣を抜く。その振った剣の残像から、『原始の経典』、大男姿のヤスケの守護霊が現れた。
そこでヤスケが1歩退く。
すると向かってくる土俑がヤスケから見て縦一列に並んだ。
『原始の経典』がその手拳ラッシュで土俑を1体ずつ粉砕していく。すぐに3体を片付けてしまった。
この野盗も守護霊使いであったか。
内心、驚きはしたが、マシューはこれを表情に出さない。
マシュー
「ふむ。 野盗の分際でありながら守護霊を操るとはな。 見るに、手前の守護霊は、その倶利伽羅剣に封印された霊とみたが如何に?」
ヤスケ
「おっと、その手は食わないぜ。 守護霊は、真名を言い当てられればその霊力を失うもの。 貴様は、うまくオレから守護霊の秘密を聞き出して、守護霊の名を推理するつもりだろうが、そうはいかないぜ」
そう言ってヤスケは、今度は自分の攻撃と言わんばかりに、『原始の経典』をマシューに向かわせた。
『原始の経典』は、攻撃力も敏捷性も高いステータスとなっている。あっという間にマシューとの間合いをつめた。
素早い動きだ。マシューは『荒野の観察者』に自分自身を守らせるのが精いっぱいだった。
『原始の経典』が『荒野の観察者』の腹に強烈なボディブロウを喰らわせる。『荒野の観察者』は、術者のマシューを巻き添えにして、激しく吹き飛ばされた。
ヤスケ
「だからオレのことをなめるなと言っただろう。 さぁ、止めを刺してやろうかっ」
ヤスケが倶利伽羅剣を片手に、マシューに近づく。倶利伽羅剣は、守護霊を召喚する法具であるが、人を斬る武器にもなる。これで、マシューの首を刎ねようというのだ。
ヤスケ
「まずはマシュー=クレイマスタ、貴様からだ。 死ねぃ!」
ヤスケが倶利伽羅剣を振り上げたその瞬間、倒れた『荒野の観察者』が蹴りを繰り出す。
その動きに気付いたヤスケは『原始の経典』でこれを防御した。だが防御力が弱い。今度は『原始の経典』がヤスケを巻き込んで吹き飛ばされることになった。
『荒野の観察者』は力士型の守護霊である。攻撃力と防御力に優れる。よほど強力な一撃でもない限り、ボディブロウ一発で戦闘不能となることはないのだ。
マシュー
「やれやれ、少し平和ボケをしていましたかな。 こんな野盗相手に油断するとは、私も老いたものです」




