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オビト皇子も戦力でございます

 盗賊団が、マシュー=クレイマスタの屋敷を囲んでいる。

 盗賊団は、ナガヤ親王が雇った、オビト皇子を暗殺する刺客だ。


 これに対してマシューの爵位は男爵(バロン)である。日本で言えば、従四位下といったところだ。数人の召使を雇えるのがやっとで、屋敷を守る手勢などはそろえられない。


マシュー

「はて、こんな貧乏貴族の屋敷に物々しい強盗とは、いったいどういうことかな」


 オビトが、外壁の隙間から、外をそっと見る。うごめく松明(たいまつ)の様子からして、盗賊の数は、だいたい40人ぐらいといったところか。


オビト

「こんなにたくさん! 屋敷の中に入られたら大変です。 どこか、逃げ道はないのですか?」

マシュー

「逃げるですって? 皇子、どうして逃げなければいけないのですか? 見たところ、盗賊の数は40人程度、これぐらいの人数ならば、どうということはありません」

オビト

「本気ですか? この屋敷には、マシューさんのほかに戦えそうな人は見当たりません。 ボクやヒロヨちゃんの守護霊(トーテム)を加えたとしても、この人数の前に太刀打ちできるとは思えません」

マシュー

「皇子、戦いにおいて数の問題はどうにでもなるものです。 ただ、この戦い、少し厄介なことがあります」

オビト

「厄介なこととは何でしょうか?」

マシュー

「屋敷の者が、それぞれ戦力になれば良いのです。 しかし、わが屋敷には、戦えそうな者が私しかおりません。 ナーニャ王女|(5歳)やシラク王子|(2歳)のように、大人が守ってやらねばならない子どもたちもいます。 娘の、マーモのことも心配です」


オビト

「そういうことでしたら、子どもたちはボクが守ります」

ヒロヨ

「何を言っているのよ! アンタ、守護霊(トーテム)も満足に召喚できないクセに」


 ヒロヨは、先の羅城門の戦いで、オビトが守護霊(トーテム)を召喚できると言っても、その思った時にただちに召喚できるものではないということを知っている。ひとことで言えば、守護霊(トーテム)の召喚が下手なのだ。これでは、肝心な時に、自分自身や子どもたちを守れない。


ヒロヨ

「だから、ナーニャやシラクは、私が守るわ」

オビト

「ダメだよ。 ヒロヨちゃんは、強力な守護霊(トーテム)を召喚できるから、マシューさんを、後ろから援護するべきだと思う」

マシュー

「ハッハッハッ。 オビト皇子、私に援護を回そうとしてくれるなど、心遣いありがとうございます。 でも、心遣いは不要です。 これしきの人数、相手は私1人で十分です。 ヒロヨ皇女も子どもたちの護衛にまわってください」


 オビトが、子どもたちの護衛は自分1人で十分と返すと、ヒロヨ皇女が「守護霊(トーテム)を自由に召喚できないアンタは戦力にならない」と突っかかる。このやり取りを聞いて、マシューがさらに(わら)った。


マシュー

「もちろんオビト皇子も戦力でございますよ。 守護霊(トーテム)の問題は、あまり深刻に考えなくても良いです。 私が見たところ、オビト皇子は、守護霊(トーテム)を自由に召喚できるだけの集中力がすでに備わっているようです」


 このように言われて照れるオビトであるが、同時に不安をもらした。ヒロヨが言うように、自由に守護霊(トーテム)を召喚できるわけではないのは事実だ。これまでは、あと一歩で生命を奪われるような、そういう極限状態の集中力がなければ守護霊(トーテム)を召喚できなかった。これでは、いざという時に、守護霊(トーテム)を召喚できない可能性がある。


マシュー

「そういうことなら、こうしてはどうでしょう。 オビト皇子は、ご自身の守護霊(トーテム)について、どのようなイメージをお持ちですかな?」

オビト

「黒装束で、剣を振るって戦うから、『漆黒の剣士』でしょうか」

マシュー

「ならば、守護霊(トーテム)の二つ名を唱える前に、その『漆黒の剣士』という言葉も口にしてはどうでしょうか。 こうしたイメージを口にすることで、守護霊(トーテム)召喚の集中力が増し、自由に守護霊(トーテム)を操ることができるはずです」


 こういう作戦会議をしている中、いきなり、火矢が敷地内に飛んできた。屋敷を取り囲む盗賊団の1人が放ったものだ。


マシュー

「そうです。守護霊(トーテム)の召喚とはこのようにするのです。 わが守護霊(トーテム)の二つ名は『荒野の観察者フィールドオブザーバー』、イメージは『空色の力士』。 ゆえに召喚時はこう唱えます。 出でよ! 空色の力士『荒野の観察者フィールドオブザーバー』!」


挿絵(By みてみん)


 すると、マシューの傍らに、空色の着物を来た力士が現れた。これがマシューの守護霊(トーテム)荒野の観察者フィールドオブザーバー』だ。


 マシューの屋敷の門が堅く閉ざされている。その門が破壊されて3人の盗賊が乱入してきた。


オビト

「あっ。 一度にこんなにたくさん!」


 いきなりの盗賊乱入に動揺するオビトだが、マシューはどうということはないと落ち着いている。


マシュー

「言ったはずです。 戦いにおいて数の問題はどうにでもなると。 向こうが数で来るなら、こちらも数で行くまで。 『荒野の観察者フィールドオブザーバー』! 能力(スキル)! 土俑(クレイマン)!」


 このように叫ぶと、『荒野の観察者フィールドオブザーバー』の足元の地面が盛り上がり、その土塊が3体の土人形へと変化した。その大きさは約2メートル。マシューは、この3体の|土俑を、敷地内に侵入した3人の盗賊に向かわせる。


 盗賊団のリーダーであるヤスケが、門の外からこの様子を見ていた。


ヤスケ

「これが噂に聞くクレイマスタ家の土俑(クレイマン)かい。 果たして、どれほど厄介なモノなのかねぇ」 

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