強いボール
コウセイ皇子とリュウゾウ=ウォータの蹴鞠勝負となる。
コウセイ皇子の守護霊蒼き竜騎士『空飛ぶイルカ』が蹴ったボールが、リュウゾウの守護霊水色の獅子『見本市の遊戯』の右足を強打した。
『見本市の遊戯』はこのボールを蹴り返そうとしたが、ボールの勢いがあまりにも強すぎて、かえって大きく吹き飛ばされることになった。
その勢いが伝播して、守護霊使いのリュウゾウも転倒した。その拍子に履いていた皮鞋が脱げてしまって宙を舞った。
これを『空飛ぶイルカ』が槍を使って一刀両断する。
リュウゾウ
「な……なぜ?」
コウセイ
「パワーです。 パワーが違うんです」
そして仰向けに倒れたリュウゾウが、再びうめき声をあげる。今度は、右腕を失う。
ヒロミ
「すごい、またポイントが入った! さすが皇子、私たちにできなかったことを平然とやってのける」
コウセイ
「さぁ、どうしますか? 遊戯を止めるのであれば、今のうちですよ」
リュウゾウ
「確かに……皇子の守護霊の霊力は、ボクの『見本市の遊戯』よりもはるかに上だ。 精神力も、皇子の方がはるかに高いでしょう。 ダメだ。 勝ち目がない。 これは勝ち目がない戦いだ。 でも、蹴鞠ならば、ボクの守護霊は誰に負けるはずがないんだ。 これを、今ここで、証明する!」
そう言って、リュウゾウはさっと立ち上がる。そしてボールを拾い、その守護霊『見本市の遊戯』に何回か蹴り上げさせた。こうしてボールを蹴り回しながら、気持ちを落ち着かせ、姿勢を整えているのだ。
そして、真上に高くボールを蹴り上げた。
リュウゾウ
「これは、ボクの守護霊の最終奥義、大回転究極蹴!」
ボールに合わせて『見本市の遊戯』もハイジャンプ、空中で縦に大回転を始め、そこにボールが吸い込まれるや、重いドライブ回転する高速ボールが吐き出された。
ヒロミ
「あんなに強い弾! あれではさすがの『空飛ぶイルカ』でも打ち返せないかもしれない!」
しかし、コウセイは動じない。
コウセイ
「やれやれ。 龍馬、暴食」
龍馬は、『空飛ぶイルカ』の乗馬竜だ。コウセイの指示に応じて、ゆっくりと『空飛ぶイルカ』の前に立って、くわっと口を開けた。
『見本市の遊戯』が蹴ったボールが、龍馬の口に吸い込まれた。
暴食は龍馬が使う能力の名だ。その口に入る大きさのものであれば何でも吸い込んでしまい、亜空間に封印してしまう能力だ。
リュウゾウ
「や、卑怯だぞ! ボールを守護霊に食べさせてしまうなんて」
コウセイ
「食べた、だって? それはちょっと違うかな。 龍馬は、その口に入れたものを亜空間に飛ばしてしまうんだよ。 亜空間は、地面もなければ空もない、だから、ボールが地面に落ちることもない。 こういう場合、蹴鞠ではどちらのポイントになるのだろう?」
ボールがどのプレイヤーに触れることなく失われた場合、ロストボールとして、蹴った者がポイントを失うことになる。
3ポイントを失ったリュウゾウが断末魔の悲鳴を上げた。
ポトリと木片が地面に落ちる。リュウゾウの人型だ。
コウセイ
「可哀そうに。 逸れ御魂にあてられたんだな」
誰にも祀られない霊体は、通常は現世の中で自然に風化していくが、まれに霊力の強いものが子どもなどの精神が未成熟な者に憑りついて守護霊使いにしてしまうことがある。このようなものは、術者が守護霊を操っているように見えるが、その実は守護霊が術者の生気を吸い取っているのであり、術者はいずれ魂の抜けた廃人となる。
リュウゾウも、そのような者だったのだろう。
『見本市の遊戯』が斃されたことにより、その呪いが解けたアスカが復活した。
ヒロミ
「それで、皇子はどうしてここに?」
コウセイ
「そのことだ。 君たち、妹のヒロヨを見なかったかい? あいつ、オビト君をぶっ飛ばすと言って出て行ったのだが、早く見つけて家に帰したいんだ」
アスカもヒロミも、見ていないと答えた。
その背後から、2人の少年が現れた。
???
「オビトなら、こっちには来ませんよ」
???
「アイツ、逃げ出したらしい。 羅城門で逃げる姿が目撃されている。 ヒロヨ皇女も一緒のようだ」
アスカ
「あんたたちは!」
2人は、オビトの学友だった、ゲン=アルクソウドとキョウ=ボウメイクだ。学友というより、2人ともオビトを侮っていた悪友というべきだが。
コウセイ
「そうか、ありがとう。 だったら、僕も、羅城門の方へ急いでみるよ」
ゲン
「皇子、待ってください。 あなたも討伐隊の一員では?」
コウセイ
「しかし、オビト君が来なければ巨鬼討伐というわけにはいかないだろう? 追いかけて、ヒロヨを家に帰したら、こっちに連れてくるさ」
キョウ
「そんな時間はない。 オレたちは先に行く」
コウセイ
「そうか。 なら、どこかで合流しよう。 オビト君は、必ず連れて来る」
そう言って、コウセイは愛馬のヒュウガ号にまたがり、行ってしまった。
残されたキョウは「フン」と鼻息を鳴らして、テンプル・ハピネスへ向かおうとした。
これをアスカが呼び止める。
アスカ
「あんたたち! オビトに酷いことをしたら承知しないわよ!」
ゲン
「君たちこそ、どうしてここに?」
ゲンもキョウも、討伐隊のメンバーにアスカやヒロミがいるとは聞かされていない。
そこでヒロミが、イノテ=ウェストマンが守護霊の能力で作成したメモを見せた。
“アスカとヒロミは、オビト皇子を守るよう命じられている!”
それは、能力、千字文で書かれたメモで、読んだ者をその通りと信じさせる効果がある。ゲンとキョウは、ヒロミとアスカが巨鬼退治のメンバーであると信じ込み、まずは集合場所のテンプル・ハピネスに向かうこととなった。




