僕のトーテムは蹴鞠がとても嫌いなんだ
◆ この章の登場人物紹介
アスカ=ウィスタプラン
本作の自称メインヒロイン。14歳。オビトを追いかけるつもりでテンプル・ハピネスに向かっているが、そのオビトは反対方向の羅城門に向かっていた。趣味はテニス。この世界ではバタフライ夫人が女子のトップランカーであり、憧れている。
ヒロミ=ドグブリード
自分こそ本当のメインヒロインとプライドを持っているが、そのことは決して口にしない14歳。アスカとともにオビトを追いかけてテンプル・ハピネスに向かっている。趣味は読書であるが、愛読書が「悪役令嬢やり直し」シリーズであることも誰にも言えない。
リュウゾウ=ウォータ
オビトを追いかけるアスカとヒロミに因縁をつけてきたが少年。まだ趣味と呼べるようなものは何もない少年。幼い頃に父母と生き別れ、道行く人に蹴鞠勝負を挑んでは、勝ってその人の持ち物をすべて奪い、食をつないでいる少年。
コウセイ皇子
17歳。オビトを追いかけて傷つけてやろうと家を出て行ったヒロヨ皇女を追いかけるために、テンプル・ハピネスに向かっている。その途中で、リュウゾウに襲われているヒロミとアスカを見かけた。趣味は乗馬。愛馬のヒュウガ号と一緒なら、どこまでも行ける。
蒼き竜騎士『空飛ぶイルカ』が龍馬を降りて、ボールを蹴り上げている。コウセイ皇子の守護霊だ。
リュウゾウ=ウォータとヒロミ=ドグブリードの蹴鞠勝負にコウセイが乱入した形だ。
蹴鞠勝負といっても、ボールを落とせば腕を失い、3度落とせば魂を奪われる、命を賭けた真剣勝負だ。
リュウゾウ
「蹴ってくれた……」
ヒロミ
「あぁ、皇子! 蹴ってしまったの?」
コウセイ
「蹴ったから何だと言うのだい? 僕の守護霊は、今、とても苛立っている。 こんなバカげたゲーム、早く終わらせろと、苛立っている」
リュウゾウ
「そいつはダメだよ、お兄ちゃん。 お兄ちゃんは、ボクのボールを蹴ってしまったんだ。 もうゲームは始まっているんだ。 ゲームが終わるまで、お兄ちゃんも帰さないよ」
ヒロミ
「皇子、これは呪いの遊戯なのよ。 ボールを落とせば、少しずつ肉体を失い、最後は魂を奪われる、死の遊戯なのよ。 こんな遊戯に、皇子まで巻き込まれるなんて!」
ゲームの内容を説明して嘆くヒロミだったが、コウセイは表情ひとつ変えない。
コウセイ
「フフフ。 蹴鞠なら、僕も知っているよ。 でもね、なぜだか分からないけど、僕の守護霊は蹴鞠というのがとても嫌いなんだ。 それでも遊戯に付き合わなければならないというのであれば、仕方がない。 それじゃぁ、いくよ!」
『空飛ぶイルカ』が強くボールを蹴った。
ボールは、リュウゾウの守護霊水色の獅子『見本市の遊戯』に向かって真っすぐ飛んでいく。
あまりの速度に凶器と化したボールを見て、リュウゾウはその守護霊とともに思わずのけぞった。
ボールが、バシンと水色の獅子『見本市の遊戯』の腕に当たった。
リュウゾウ
「いきなりボールを飛ばしてくるなんて、卑怯だぞ!」
コウセイ
「卑怯も何も、蹴鞠のルールには従っているはずさ。 ボールを君の方へ飛ばしたのだから。 そして、今、反則をしたのは君の方だ」
リュウゾウ
「反則だって?」
そう言った次の瞬間、リュウゾウは左手を押さえて呻きだした。
ヒロミ
「あ! リュウゾウの左手が! 消える! ということは、ポイントを取れた! でも、どうして?」
コウセイ
「腕だよ。 蹴鞠では腕を使ってはいけないのがルールだ。 それにもかかわらず、コイツは、ボールを腕で受け止めた」
リュウゾウ
「くっそぅ! お前! わざとボクの腕を狙ったな!」
コウセイ
「でも、腕を狙って蹴ってはいけないというルールはないのだよ。 さぁ、どうする? こんな遊戯を止めて、アスカ君の魂を返すか。 それとも遊戯を続けて僕に叩き伏せられるか」
リュウゾウ
「もちろん続けるさ! まだ1ポイント取られただけだ。 絶対に仕返ししてやるっ! お兄ちゃんにっ、命乞いをさせてやるぅ!」
コウセイ
「ふん。 ならば早く次のボールをよこすんだね。 『空飛ぶイルカ』が、蹴鞠好きをぶっ飛ばしたくて、うずうずしている」
リュウゾウ
「その減らず口、動かなくしてやる!」
リュウゾウの守護霊『見本市の遊戯』が蹴った次のボールは、必殺のドライブボールだ。
ドライブボールは高回転して、近距離の手前に落ちる、蹴鞠勝負では必殺の蹴法だ。
リュウゾウ
「見たか! いまにもボールは落ちるぞ!」
だが、リュウゾウがドライブボールを放つことはコウセイも予測済だ。ヒロミがこのドライブボールに苦戦している様を見ていたのだ。素早く守護霊を操作して、難なくボールを拾った。
ボールが高速回転しているので、これを一発で蹴り返すことができない。何回か軽く蹴り上げて、うまくボールをコントロールする。
そして『見本市の遊戯』めがけて強くボールを蹴る。
低い弾道だ。
リュウゾウ
「フッ、蹴鞠では、ボールは山なりに返さなければならないんだ。 だから、こんな低いボールは、拾わなければ良いだけさっ!」
コウセイ
「フフフ、しかしアウトボールでも拾わせてしまえばインボールとなる」
『空飛ぶイルカ』が蹴ったボールは、山なりではないが、高速だ。リュウゾウの守護霊は、逃げる間もない。ボールがその右足に命中する。
リュウゾウ
「クッ、避け切れない。 でも『見本市の遊戯』の足を狙ったのは失敗だったね。 ボクの守護霊は、ボールコントロールならば誰にも負けない!」
リュウゾウ
「ボクの守護霊は、誰にも負けない!」
リュウゾウ
「誰にも負けない!」
リュウゾウ
「ボール――コントロールなら――アアア?」
リュウゾウの守護霊『見本市の遊戯』は、右足に衝突したボールを蹴り返そうとした。 だが、ボールの勢いに負け、守護霊は大きく吹き飛ばされることになった。




