随分と面白い遊びをしているようじゃないか
リュウゾウ=ウォータとの勝負に負けて木の人型にされてしまったアスカ。そのアスカを助けようと、今度はヒロミがリュウゾウとの蹴鞠勝負に挑む。
ヒロミの守護霊白銅の獣聖『迷い犬』は、攻撃力もなければ器用さもない。その武器は、ただただ敏捷性のみである。
リュウゾウの守護霊水色の獅子『見本市の遊戯』が蹴り上げたボールは、どこに飛ばしても『迷い犬』が素早く着地点に先回りして拾っていく。
蹴鞠に慣れてきたのか、その拾う見た目も、安定してきた。
リュウゾウ
「ふむ。 それでは、コレはどうかな?」
『見本市の遊戯』がボールを強く蹴る。
あの勢いなら着地点はこの辺りと『迷い犬』が移動すると、ボールは不自然に手前に落ちて転がっていった。
ヒロミ、ポイントを奪われて左手を失う。
ヒロミ
「何なの? 今のボールの動きは不自然だわ。 卑怯者! 何か細工をしたわね」
リュウゾウ
「だからボクは『卑怯』なことは何もしていないって。 今のはドライブだよ。 ボールにちょっと回転を加えて蹴り上げてやるんだ。 そうしたら、ボールにドライブがかかって、通常よりも手前に落ちるようになる」
ヒロミ
「なるほど。 今度はドライブボールにも気を付けなくてはならないのね」
リュウゾウ
「そういうこと。 じゃぁ、次、行くよ」
『見本市の遊戯』がボールをフワリと蹴り上げる。
『迷い犬』がこれを拾って返す。
そして『見本市の遊戯』が再びボールを蹴り上げる。
回転数が速い。ドライブボールだ。
敏捷性に優れる『迷い犬』が素早く対応、うまく拾うことができた。
ヒロミ
「ドライブボールも、分かってしまえば大したことはないわね。 私の『迷い犬』ならば簡単に拾うことができるわ」
リュウゾウ
「本当にそう思っているのかい? ドライブボールというのは、こういう使い方もできるんだよ」
『見本市の遊戯』が拾ったボールを強く蹴り上げる。
回転数が速い。またドライブボールだ。
この回転、何か妙だ。
縦回転に横回転が加わっているようにも見える。
だが、考えている時間はない。
『迷い犬』がギリギリのところでボールを拾う。
その拾った後のボールの行方、予想外の方向に飛んで行った。
予想外の方向に飛んだので、『迷い犬』もボールを追いきれず。ボールは無常に地面の上を跳ねた。
ヒロミ、2ポイント目を奪われる。悲鳴を上げる。
リュウゾウ
「あはははは。 今のはちょっと難しかったかな? ドライブボールはね、不規則な回転を与えると、蹴った先で不規則に跳ね上がるんだよ。 お姉ちゃんの守護霊の器用さでは、ちょっとコントロールできないんじゃないかな」
ヒロミ
「だから……何よ」
ポイントを失って、両手を奪われたヒロミだが、声を振り絞って言い返した。
リュウゾウ
「だから何って? それでも勝負を続けるのかい、ということさ。 ボクがドライブボールを返す限り、お姉ちゃんの守護霊はボールを返せない。 つまり、この勝負はボクの勝が決まるんだ。 それでも続けるのかい?」
ヒロミ「うるさい! 勝負は最後まで分からない!」
リュウゾウ
「そういうのをヤケクソというんだよ。 分かったよ。 じゃぁ、もう、勝負をつけるよ。 それ!」
『見本市の遊戯』がボールを蹴り上げた。
強く、ボールに回転を加えて蹴り上げた。
ドライブボールだ。
ボールが両手を失った『迷い犬』に向かって飛んでいく。
拾う。
だが、回転が強い。
拾われたボールは『迷い犬』のはるか後方に飛んでいく。
『迷い犬』はギリギリでドライブボールを拾ったため、体勢を崩している。だから、飛んで行ったボールを拾いに行けない。
ヒロミは、敗北を覚悟した。
ボールの弾む音。
だがそれは、地面で弾んでいる音ではない。何者かが蹴り上げている音だ。
???
「やぁ、随分と面白い遊びをしているようじゃないか」
そのボールを地面に落とさず蹴り上げていたのは、コウセイ皇子の守護霊蒼き竜騎士『空飛ぶイルカ』であった。




