このボールを落としてはならない
アスカ
「ゲームって、何のこと?」
二条大路を行くアスカとヒロミに現れた少年が「ゲームをしよう」という。ボールを蹴り上げて、地面に落としてはいけないというゲームだ。手を使ってはいけない。
そして、ボールを落としたら、左手、右手と失っていき、3度落とすと命を落とす。
アスカは、少年が蹴り上げたボールを拾わないでいたら、左手を失った。
ヒロミ
「これは、ボールを使った守護霊の能力ね。とすると、この少年は守護霊使い! アスカ、待っててね。 すぐ、傷を治してあげるっ!」
ヒロミが、守護霊、白銅の獣聖『迷い犬』を召喚。「回復」と唱えた。しかし、アスカの身体は無反応だ。
ヒロミ
「あれ? おかしいな。 これは怪我ではなく、状態異常なのかしら。 それじゃあ」
と、今度は「快癒!」と唱える。やはり、アスカの身体は無反応だ。
少年
「あはは。 お姉ちゃんの左手は、回復や快癒なんかでは回復しないよ。 ボクの守護霊、水色の獅子『見本市の遊戯』の能力は、敵を傷つけるものでも苦しめるものでもないんだ。 魂そのものやり取りするんだ。 魂にはダメージも状態異常もないんだ。だから回復や快癒は効かないよ」
ヒロミ
「ということは、坊やの守護霊の能力の秘密を暴かないと、アスカの身体は元に戻らないというわけね」
そこでヒロミは、この少年が蹴り上げたそのボールが怪しいと、これをどこかに蹴り飛ばしてしまおうとした。
アスカ
「ヒロミ、それはダメ! ボールを蹴ってはいけない。 私は、そのボールを蹴って、坊やの守護霊ゲームに巻き込まれた」
これを聞いて、ヒロミはさっと足を戻す。
少年
「さっきから『坊や』『坊や』だなんて! お姉ちゃんたちは失礼だねぇ。 ボクには、リュウゾウ=ウォータという立派な名前があるんだよ」
アスカ
「あらごめんなさい。 それじゃあリュウゾウちゃん、聞くけれども、このゲームに勝てば、私は元の身体に戻れるのかしら」
リュウゾウ
「もちろん。 ボクの守護霊が負けを認めれば、『見本市の遊戯』が捉えた魂は解放されることになる。 だけれども、ボクの守護霊に勝てるかな?」
アスカ
「そういうことならば、このゲーム、受けて立つわ」
アスカが、五鈷金剛杵を取り出して構える。アスカの守護霊が封印されている仏具だ。
紅蓮の戦士『不動の解脱者』が現れた。だが、左手が失われている。
リュウゾウの守護霊『見本市の遊戯』は相手にダメージも状態異常も与えない。ただその魂を捕えるのみである。
ゲームはすでに始まっている。
そのゲームでポイントを先取されたアスカが魂の一部を捕えられたので、守護霊も同じ部位を捕えられた状態で召喚されることになる。
それでもアスカは怯まない。
アスカ
「このゲームは、手を使ってはいけないのでしょう? だったら、左手がなくても関係ないわ。 さぁゲームを再開しましょう」
そうこなくてはと、リュウゾウの守護霊『見本市の遊戯』がボールを拾い、これをアスカに向けて蹴り上げた。
『不動の解脱者』はこれを器用につま先で拾う。2、3回、軽くサッカーのリフティングをした後に、ボールをリュウゾウに返した。
リュウゾウ
「うまい、うまい。 お姉ちゃん、思ったよりも上手じゃない。 それ」
『見本市の遊戯』も危なげなくボールを拾い、これを『不動の解脱者』に返した。
こうして安定したリフティングのキャッチボールが続く。
リュウゾウ
「うーん、でも、いつまでもこうしていても決着がつかないな。 それ」
こう言うと『見本市の遊戯』が『不動の解脱者』のはるか手前に落ちるようにボールを返した。
このボールを落としてはならない。
間に合わなかった。
ポイントを取られたアスカは、今度は右手を失うことになった。




