ゲームはすでに始まっているんだよ
◆ 主な登場人物紹介
オビト皇子
本作の主人公。14歳。モデルは聖武天皇。「逃げちゃダメだ」と3回唱えないと出撃できないヘタレでもある。皇子であるが母親がウィスタプラン家の者なので、アスカと同棲している。同棲といっても、ウィスタプラン家の屋敷は広大なので、ラブコメ的な展開は一切起きない。
アスカ=ウィスタプラン
14歳。モデルは光明皇后。皇后様だからメインヒロイン的な扱いになるはず。父親のフヒト=ウィスタプランが、母親のミチヨ=ドグブリードを略奪婚して産まれた娘である。父娘関係は微妙であり、召使には自分の下着とフヒトの下着を一緒にして洗濯しないよう命じている。
ヒロミ=ドグブリード
14歳。モデルは県犬養広刀自で聖武天皇の妃。父親がミチヨ=ドグブリードと姉弟の関係になるので、アスカとは従姉妹同士である。この世界では、ウィスタプラン家の敷地とドグブリード家の敷地とが隣接しており、境界に塀もないので、アスカとヒロミはお互いの家を自由に行き来している。
ヒロヨ皇女
14歳。モデルは高円広世。史実では男子であるが、ここ異世界では女子にTS。オビトとは異母妹。母親はストンリベル家の娘である。ストンリベル家とウィスタプラン家はライバル関係にあり、アスカやヒロミとは相性が悪い。お兄様Loveが強く、皇位承継競争のライバルとなりそうなオビトのことも嫌いである。
コウセイ皇子
17歳。モデルは高円広成。高円広世と高円広成とは同一人物説が強いが、ここ異世界では、「その方がきっと面白い」という理由で別人になってもらった。人格は高潔であるが、何かとウィスタプラン家に対抗心を燃やす母親からの信頼はない。オビトはコウセイ皇子のことを兄と慕っている。
オビトが羅城門で土蜘蛛と戦っている頃――
オビトを行く先を追いかけようと、アスカとヒロミがテンプル・ハピネスに向かっていた。
二条大路を東に向かう。
右手にサカノエ古墳がある。
この古墳を守る小ぶりの神殿の背後からポーンとボールが飛んできた。
少年
「お姉ちゃーん」
ボールは、その神殿の背後から現れた、この少年の物だろう。
アスカが、ボールを拾ってやる。
少年
「ダメだよ、お姉ちゃん。 手を使っては、ダメなんだ」
アスカ
「あら、これは失礼。 このボールは、ボクのものかな?」
手を使ってはいけないということで、アスカは少年に向かってボールを蹴ってやった。
少年は、戻ってきたボールを、器用に足で蹴り上げて、ポンポンと地面に落とさないようにリフティングを始めた。
黙って、リフティングを続けた。
アスカ
「失礼ね。 お礼ぐらい、言ってくれても良いじゃない」
そのようなアスカの言葉を無視して、少年は黙々とボールを蹴り続けている。
ヒロミ
「変な子……アスカ、先を急ぎましょう」
ヒロミが、アスカの手を引いて、テンプル・ハピネスへ急ごうとする。
その門が、遠くに見えている。
だが、アスカは、まだ少年の様子が気になるのか、その場を動こうとしない。
少年が、モゴモゴと、何やら言葉を発している。
少年
「蹴った……」
アスカ
「ボク? どうしたの?」
少年
「蹴ってくれた……」
アスカ
「蹴ってもいけなかったのかしら。 だったら、ごめんなさい。 手を使ってはいけないと言われたから――」
少年
「お姉ちゃんが蹴ってくれた……ボクのボールを、自分から蹴ってくれたんだ……」
ヒロミ
「アスカ、その子、様子が変よ! 気を付けて!」
少年が、相変わらず、調子よくリフティングを続けている。
アスカは、気味が悪くなって、少年を無視して、少し先を行くヒロミに追いつこうとした。
少年
「お姉ちゃん! ボクとゲームをしてくれるんだ!」
そして少年が、ポーンと高く、ボールを蹴り上げた。その合間に満面の笑顔でガッツポーズを見せた。
ボールは放物線を描いてアスカに向かって飛んでいく。
そして、アスカの目の前で、地面に落ちて、ポンポンと弾んでいった。
アスカ
「な……何?」
少年
「ダメじゃないか、お姉ちゃん。 ゲームはすでに、始まっているんだよ」
アスカ
「ゲームって、何のこと?」
ヒロミ
「アスカ! その腕っ! どうしたの!?」
え? 何? と自分の手をみようとするアスカ。
ない! 左手が、ない!
左手を失っていることに気付き、アスカが悲鳴をあげた。
少年
「だから言ったろう? ゲームはもう、始まっているんだ。 ボールを落としてはいけないんだ。 ボールを落としたら、左手、右手の順に身体を失っていくんだ。 そして、3回ボールを落としたら負け。 お姉ちゃんは人型になって、ボクのコレクションになるんだ」
そう言って、少年は、腰に下げた小さな壺の蓋を開けて見せた。
その中に、木の棒板に顔を描き加えたような人型が、何枚もあった。
少年は、アスカとのゲームに勝って、このような人型の一つになってもらおうと言うのだ。




