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陰陽劍

 羅城門の楼上、土蜘蛛と対峙するオビトとヒロヨ。


 霊糸を吐いて動きを縛ろうとする土蜘蛛に対するオビトの一策は、ヒロヨに水撃波(ハイパーウェイブ)を撃たせることだった。


 ところが水撃波(ハイパーウェイブ)は、土蜘蛛に何のダメージも与えられない。あまりの拍子抜けの必殺技に、嘲笑を止められない土蜘蛛だったが、得意の霊糸を繰り出そうとしたら、かえって土蜘蛛自身がこれに縛られてしまった。


 これは一体どういうことか?


オビト

「蜘蛛が蜘蛛の糸にからまらないのは、その足先に油が塗られているからさ! さっきの『水撃波(ハイパーウェイブ)』は、攻撃のためでも防御のためでもない! あなたの体からにじみ出ている油を洗い流すためさ!」


 土蜘蛛は、ヒロヨの『水撃波(ハイパーウェイブ)』で足の油が洗い流されていたことに気付かず動こうとしたので、自ら張り巡らした霊糸に足が(から)め取られてしまった。それは周囲の小蜘蛛(スパイダー)も同じで、あちこちで身動きをとれなくなっている。


土蜘蛛

「バカな! 水と油ははじき合う。 水をかけたぐらいでワシの体液を洗い流すことはできないはず……」

オビト

「それは――これです!」


 『王の愛者(キングズラバー)』が霊刀(プラズマソード)で床に転がる、ミイラ化した屍の一つを切り崩す。その屍肉片が宙を舞う。


オビト

「死体は、放置すると、体脂肪が化学変化して石鹸になるのです。 僕は、あなたの攻撃を防ぐと見せかけて、あなたの犠牲になった死体の身体を少しずつ削って散らかしていたんです。 これをヒロヨさんの水撃波(ハイパーウェイブ)に溶け込ませてしまえば、石鹸水の出来上がりというわけです。 石鹸水ならば、あなたの足の油を洗い流すことができます」

土蜘蛛

「おのれ! だが、そういうことならば、再び体液をにじませてェェェ!」


 土蜘蛛は、全身に力をこめて、霊糸から守る体液を体中から発しようとした。


 その前に勝負をつけようと、『王の愛者(キングズラバー)』が土蜘蛛に取り付く。


オビト

霊刀(プラズマソード)!」


 だが弱い。


 オビトも疲労(MP不足)していた。


 霊刀(プラズマソード)の威力が落ちていたので、土蜘蛛に致命傷を与えられない。


土蜘蛛

「ケッ! 坊やはツメが甘いなぁ! コッチは霊糸から抜け始めているゥ!」


 土蜘蛛が体をもがかせて、己に(から)む霊糸から抜け出そうとしていた。


 霊糸から抜け出せるほどの体液が、土蜘蛛の身体を覆い始めているのだ。


 その足元、オビトはそこに、陰陽劍が落ちているのを見た。


 土蜘蛛が、オビトとヒロヨの身ぐるみを剥ぐと同時に、金目の物と己の側に置いておいたものだ。


 オビトは『王の愛者(キングズラバー)』に陰陽劍を拾わせた。


土蜘蛛

「やるかァ? コノヤロウ! だがこの距離! 貴様の守護霊(トーテム)を、ワシの霊糸で縛り上げてやるゥ!」

オビト

「やります! 羅城門の妖怪(モンスター)め! この距離です! あなたの身体を、僕の陰陽劍で斬り伏せてやる!」


 土蜘蛛が霊糸を吐いた。


挿絵(By みてみん)


 『王の愛者(キングズラバー)』はこれを回避(かわ)し、手にした陰陽劍で土蜘蛛を十字に斬り捨てた。


 陰陽劍は、霊気を増幅させる。


 土蜘蛛に致命傷を与えるには十分な攻撃だった。


   ×   ×   ×

 

 かつて、娘がいた。

 娘は、蜘蛛の巣にかかった蜂を助けた。

 その助けられた蜂が、何処かに旅立ってくれていればよかった。

 ところが、自由を得た蜂は、今度は仲間が巣にかからないように、蜘蛛に復讐をした。

 蜂を助けた娘は、これで蜘蛛の逆恨みをかうことになった。

 蜘蛛の霊が娘に取り憑き、その身体を異形とし、終には人心を奪った。

 妖怪となり果てた娘は、羅城門に住み着くことになった。


 土蜘蛛を斬ったオビトの精神に、このような記憶が流れ込んだ。蜘蛛の霊に取り憑かれた娘は、悪霊を支配できるほど精神は強くなかった。このため、かえって肉体が霊に支配され、妖怪化したのだろう。


 土蜘蛛を斬り捨てたオビトは、少しの吐き気を覚え、床に腰を下ろした。


 守護霊(トーテム)で強力な妖怪(モンスター)(たお)すと、守護霊(トーテム)が霊力を増し、これで術者(マスター)の負担になることがある。


 その頃、羅城門の楼上にのぼろうとする人の気配。楼上が騒がしいと、門番が見回りに来たのだろう。階下から、「おい、様子を見て来いよ」、「お前が先に行けよ」と、何人かの男の声がする。


 見つかってはまずい――。


 ヒロヨは直感した。今、目の前で倒れているオビトは、女帝(みかど)から巨鬼(トロル)退治のためにテンプル・ハピネスに向かうよう命じられている。そのオビトが方向違いの羅城門に居ることが見つかっては、後でどのような(とが)があるか分からない。


ヒロヨ

「オビト、逃げるわよ!」


 そう言って、守護霊(トーテム)、輝ける闘士『太陽の法衣(ヘリオスローブ)』にオビトとヒロヨの二人を抱えさせて階下に飛び降り、何処かへ走り去った。

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