今です撃ってください
羅城門の楼上、ここに巣食う土蜘蛛と、オビトとヒロヨは対峙していた。
蜘蛛の糸は、触れた者を絡め取る。
土蜘蛛は、その床面に霊糸を張り巡らし、オビトとヒロヨの足場を奪っていく。
オビト
「ヒロヨさん、もう一度、水撃波を撃つことはできますか?」
ヒロヨ
「何か、考えがあるのね。 そういうことなら精神力をチャージしてみるわ。 でも、威力は期待しないでね」
オビト
「精神力のチャージが必要なんですね? そういうことでしたら、少し時間を稼ぎます。 準備ができたら、教えてください。 そして僕の合図で、もう一度、水撃波を撃ってください」
土蜘蛛
「何だい? 今さら作戦かい? そうはいかないよ! お前たちは今、ここで、ワシたちの晩餐になるんだよッ!」
土蜘蛛が『王の愛者』に霊糸を飛ばす。
『王の愛者』はこれを回避す。楼内の、まだ霊糸が及んでいない、数少ない足場を探して跳躍する。
土蜘蛛
「そっちに行くことは、読んでいたよゥ!」
その着地点、足元めがけて吐き出される霊糸。
これを『王の愛者』が霊刀で斬り払う。
大振り。
床に転がる死骸の一つを巻き込んで、屍肉が巻き散る。
土蜘蛛
「ホーホッホッホッホ! 動きが大振りだよぅ? 坊やも、そろそろ疲れてきたんじゃない?」
疲労――
確かにそれがある。
そこへ、さらに霊糸が飛んでくる。
『王の愛者』は次の足場をめがけて跳躍して回避。
土蜘蛛の霊糸攻撃が続く。
『王の愛者』が霊刀でこれを防ぐ。
その動きを、もはや「斬り払う」と描写することはできない。霊刀を振り回し、やっとのことで霊糸に当てて焼き落とすような動きだ。
土蜘蛛
「疲れてはいるようだが、なかなかしぶとい奴め。 だが、コレはどうかな?」
土蜘蛛が、今日この日、もっとも大きな霊糸を吐いて、『王の愛者』めがけて吐き出した。
『王の愛者』は霊刀を大きく振って、これを叩き落す。床に転がる遺骸の屍肉が巻き込まれて宙を舞う。
オビト
「ヒロヨさん! 水撃波のチャージはまだですか?」
ヒロヨ
「ダメ! 小蜘蛛がたかってくるから、効率的にエネルギーをチャージできない!」
オビト
「威力は、少しで良いんです。 できれば、長く発してくれると助かりますが」
ヒロヨ
「分かったわよ! でも、もう少しだけ頑張りなさい!」
この間にも、土蜘蛛の霊糸攻撃が続く。
オビトは、霊刀を振り回し、これを防ぐ。
楼内は、霊刀に巻き込まれた床材やら屍肉やらが舞い、視界も悪くなってきた。思わぬ場所から霊糸が飛んでくるようになり、回避がギリギリとなる。
そろそろオビトの限界が見えて来た頃、ついにヒロヨが叫んだ。
ヒロヨ
「そろそろOKよ! 少しの威力で良いなら、もう一度だけ水撃波を撃てるわ!」
オビト
「了解です!」
『王の愛者』がヒロヨの守護霊、輝ける闘士『太陽の法衣』に寄る。そして今度はオビトが叫ぶ。
オビト
「今です! 撃ってください!」
カサメ
「何をしたいのだが分からないけど――『水撃波』!」
『太陽の法衣』の両掌から大量の水湧。これが波しぶきとなる。
土蜘蛛や小蜘蛛たちは、どのような策かと身構えたが、水撃波を浴びても何ともない。
明らかに衝撃が弱い。
さざ波のような水流がいつまでも続くので、土蜘蛛は心の底から可笑しいと思った。
土蜘蛛
「カーカッカッカ! 今度はワシたちに水遊びをしろというのかい? 苦し紛れの攻撃と見た! 小蜘蛛たち、敵は力を出し尽くしたよ! 今こそ一斉攻撃ぞ!」
土蜘蛛は、小蜘蛛に攻撃を命じる。これに対してオビトが言い返す。
オビト
「いや、君たちは、今この瞬間だけは動かない方が賢明だよ。 攻撃するのは僕の番だ。行け! 『王の愛者』!」
『王の愛者』が土蜘蛛を霊刀で斬り捨てようと駆け寄る。
土蜘蛛はこれを避けようと動こうとするが、足が地面にくっついて離れない。それではと、口から霊糸を吐いて『王の愛者』をけん制しようとするが、口から霊糸を吐くや、これが牙にからまり、口を塞いでしまった。
土蜘蛛は、己が繰り出す霊糸攻撃で、かえって自分を縛りつけているようだった。




