旅に出る
アスカ=ウィスタプランとイノテ=ウェストマンの守護霊バトルに、アスカの幼馴染ヒロミ=ドグブリードが参戦。イノテの守護霊は、千字文という特殊な能力を持っていて、守護霊の書いた文章を読んだ者を、その通り信じ込ませることができる。
“アスカとヒロミが今から喧嘩をする!!”
イノテの守護霊、銀灰の文士『博学の書生』が書いたこの文章を読んでしまったアスカとヒロミは、互いに喧嘩を始めることになった。
喧嘩の内容は、アスカの紅蓮の戦士『不動の解脱者』とヒロミの白銅の獣聖『迷い犬』の、いずれが強いかだ。
強さ比べは、相互に殴り合う方法ばかりとは限らない。
アスカとヒロミは、どちらがイノテを斃すかという勝負をした。戦陣で武将が先を競うように『不動の解脱者』と『迷い犬』の手拳ラッシュが術者のイノテを襲う。
イノテ――戦闘不能
『博学の書生』の千字文の効果も失われた。
イノテ
「ぢぐじょう! アズガ様がドーデヴで暴れだど、千字文でブビド様に信じざぜる作戦だっだどに!」
アスカ
「イノテ、答えなさい! どうして私を殺そうとしたの?」
イノテ
「言ぶぼのが!」
まだ負けを認めきれないイノテの態度、『不動の解脱者』が、その足でイノテの顔を踏みつける。
イノテ
「ぎゃぁ! 言ぶ! 言びばず!」
そこへ――
???
「どうした! 騒がしいが、何があったのだ?」
そこへ駆け付ける、もう一人の男がいた。アスカの異父兄、カヅラギ王(*1)だ。
アスカ
「げっ! 兄貴!」
ヒロミ
「カヅラギ王様が来るとは、少し厄介ね」
イノテは、ここで「カヅラギ王様だ!」と叫んで、助けを呼ぼうとした。
それを『不動の解脱者』がさらに踏みつけて、黙らせる。
ヒロミ
「イノテ、今回は誰も死ななかったから、見逃してあげるわ。 その代わり、あなたの守護霊の能力を使ってくれないかしら」
イノテ
「ハ、ハイ!」
血だらけで倒れるイノテの元に駆け寄るカヅラギ王。屋敷の執事が襲われたような光景に、緊張の表情でアスカとヒロミに問う。
カヅラギ王
「これは、どういうことか?」
アスカ
「はい、そのことでしたら――」
“イノテは、転んで大怪我をした!”
それは千字文で書かれた文字だ。
カヅラギ王
「そ、そうか。 それは大変だな。 アスカ、すぐにイノテを医務室に連れて行ってあげなさい」
アスカ
「そうしてあげたいのだけれども、私も急ぎの用があるのです」
“アスカとヒロミは、オビト皇子を守るよう命じられている!”
アスカは『博学の書生』が千字文を使って書いたメモ書を見せた。その能力の効果で、カヅラギ王は、その通り信じた。
カヅラギ王
「そ、そう言えばそうだったな。 よろしい! イノテは私が医務室まで連れて行こう。 アスカとヒロミは、急いでオビトを追いかけるが良い」
こうして、アスカとヒロミは、堂々とオビト皇子を追いかける旅に出ることができた。
一方、アスカを殺そうとしたイノテはどうなったか。
千字文を駆使して、相変わらず自分が忠実な執事であると、家長のフヒト=ウィスタプランを信じ込ませている。後にフヒトは、トネリ親王とともに、歴史書の編纂を行った。イノテが、この作業に加わったかどうかは、現代には伝わっていない。
*1 カヅラギ王:母親は、アスカ=ウィスタプランのそれと同じくミチヨ=マンダリナだが、父親はミヌ王であるから、アスカから見ると異父兄となる。後に臣籍降下(王族から抜けること)して、母親と同じマンダリナ姓を名乗った。モデルは、橘諸兄。




