そういうことなら
アスカ=ウィスタプランとイノテ=ウェストマンの守護霊バトル。イノテの銀灰の文士『博学の書生』の千字文の効果を受けて、戦意を喪失しかけたアスカだったが、そこにヒロミ=ドグブリードが駆け付けて、アスカの状態異常を除去した。
今度は『不動の解脱者』と『迷い犬』が、『博学の書生』を迎え撃つ。
イノテを前に、冒険者スタイルのアスカとヒロミである。
アスカ
「ヒロミ、その冒険者スタイルはどういうことなの?」
ヒロミ
「何をとぼけたことを言っているの? 今さっき、あなたの方が冒険に行こうと誘ってきたのではなくて? オビトを助けようというのは、嘘だったの?」
アスカ
「嘘ではないけど、ヒロミは不賛成だったじゃない」
ヒロミ
「それは、あの場のことだからじゃない。 屋敷の中は家人もいる、メイドもいる。 アスカは、秘密秘密といいながら、あの大声よ。 これは洩れてはならない、そう考えたから一応冷淡に聞いていたのよ」
そのような掛け合いの前、イノテの『博学の書生』が攻撃を仕掛ける。火弾の連打。『不動の解脱者』と『迷い犬』は飛び退く。
アスカ
「ヒロミ! 気を付けて! イノテの守護霊を見ると、彼の千字文でおかしなことを信じ込まされるわ!」
ヒロミ
「相手を見ないでどうやって戦うっていうの?」
イノテ
「その通り! よそ見をしていると、わが『博学の書生』の火弾に当たりますよ」
『博学の書生』の火弾が『不動の解脱者』の右足に命中。守護霊が受けたダメージの影響を受けて、アスカがつまづく。
ヒロミ
「アスカ! 回復させるわ! 回復!」
『迷い犬』が両掌から光弾を放出し、『不動の解脱者』の右足に当てる。火弾の威力がそれほど大きくなかったため、これで『不動の解脱者』は全回復。
イノテ
「うむ、思ったよりも連携が取れている。 これでは2対1で、自分が不利。 やはりもう一度、千字文を発動させるしかないか」
イノテは、懐中から大きな紙片を取り出し、これを宙に投げると、『博学の書生』がこれを掴みとり、その上にサラサラと字を書いた。
『博学の書生』の千字文は、守護霊が書いた文章を見せると、読んだ者にその通りだと信じ込ませる。
アスカ
「その攻撃ならば、無駄よ。 要は、守護霊が書いたものを見なければ良いだけ。 私は目をつむるわ」
ヒロミ
「ちょっとアスカ! それでは戦えないわ!」
アスカ
「じゃぁ、どうしろと言うの? 目を開けていると、書いたものを読まされるのよ!」
ヒロミ
「もう! 仕方ないわね!」
そこで目をつむるアスカとヒロミ。
ここが攻め時と『博学の書生』が火弾の連続攻撃。『不動の解脱者』と『迷い犬』はギリギリのところで回避するが、2人とも目をつむっているので危なっかしい。
イノテ
「おやおや。 ヒロミ様の言うとおり、目をつむっていては、戦えませんぞ。 安心しなさい。 私が『博学の書生』に書かせたのは、あなた達が仲間でないということだけです。 連携して攻撃されると、少々厄介ですからねぇ」
ん?
アスカ・ヒロミ
「「そういうことなら」」
2人はカッと目を見開いた。目の前に『博学の書生』が書いた一文。
アスカとヒロミが今から喧嘩をする!!
これを見て、アスカとヒロミが喧嘩している間に、2人を始末してしまおう、漁夫の利を狙うという作戦のイノテだった。
ところが――
この『博学の書生』の文章を直に見たはずのアスカとヒロミ、その直後に『不動の解脱者』と『迷い犬』がイノテを滅多打ちした。
イノテ
「な、なぜ?」
イノテはすでに虫の息。
アスカ
「私たちの」
ヒロミ
「喧嘩なんて」
アスカ・ヒロミ
「「いつものことよ!」」




