イノテのトーテムは相手を『こんらん』させるスキルを持っている
アスカ=ウィスタプランとイノテ=ウェストマンの守護霊バトル。アスカの紅蓮の戦士『不動の解脱者』が優勢のように見えたが、イノテの銀灰の文士『博学の書生』には隠された能力があった。『博学の書生』が空中で文字をなぞる。能力、千字文が発動した。
『博学の書生』が書く文字を見たアスカは、がっくりと膝を突いた。
メイドAが、イノテの『博学の書生』に殴られて、頭から血を流して気絶している。そのメイドAにアスカが駆け寄る。
アスカ
「ごめんなさぁーい! わ、私としたことがぁ! 大丈夫?」
イノテ
「アスカ様、なんてことをしてくれたのですか。 無断でこの屋敷から抜け出そうとしながら、メイドAに見つかるや口封じに殺そうとしてしまうとは」
アスカ
「そんなつもりはなかったのよぉ!」
アスカは、両手で顔を覆って、嗚咽する。
『博学の書生』の能力、千字文は、守護霊が書いたものを真実と信じさせる能力だ。その書いた文字を見た者は、それを真実と信じ込む。
『博学の書生』は次のように書いていた。
“アスカ=ウィスタプランはメイドAを殺そうとした!!”
『博学の書生』が書いた文字を見てしまったアスカは、自分がメイドAを殺そうとしたと、本気で信じてしまった。性根が激情漢のアスカである。殺人未遂のような重大犯罪をしてしまったと思わせれば、自責の念が彼女を戦闘不能に追い込んでしまう。
剣を抜くイノテ。アスカが自責の念にかられているうちに、これを斬り捨ててしまおうという算段だ。
イノテが剣を振り上げた。
さあこれを振り下ろそうとした、まさにそのとき、イノテの剣が手から離れた。
イノテ
「何者!?」
???
「危ないところだったようね」
その声の主は、ヒロミ=ドグブリードだ。イノテから剣を取り上げたのは、ヒロミの守護霊、白銅の獣聖『迷い犬』だ。
アスカ
「あぁ、ヒロミ! どうしよう? 私、メイドAを殺そうとした」
突然の親友の登場に、ただひたらすらすがるアスカ。
ヒロミ
「アスカ! 少し、落ち着きなさい! あなたが人を殺すわけないでしょう?」
親友の様子が変だ。ヒロミは、彼女が守護霊の能力に中てられたと直感した。
イノテ
「誰かと思えばヒロミ様ではありませんか。 説得は無駄ですよ。 彼女は今、わが『博学の書生』の千字文の支配下にあります。 それで、そこにいるメイドAを殺そうとしたと思い込んでいるのです」
ヒロミ
「なるほど。 イノテの守護霊は、相手を『こんらん』させる能力のようね。 でも、そういう状態異常なら、私の『迷い犬』がいれば無効化できるわ」
ヒロミが
「全快癒!」と叫ぶと、『迷い犬』の両掌が白く輝き、優しい光がアスカを包み込んだ。
ハッと我にかえるアスカ。
ヒロミ
「アスカ? 気が付いた?」
アスカ
「油断したわ。 イノテの守護霊にこんな能力があったなんて」
『迷い犬』は、いわゆる回復系の守護霊である。能力、全快癒で、大抵の状態異常を除去することができる。
今度は、『不動の解脱者』と『迷い犬』が、『博学の書生』を迎え撃つ。




