そのまま地面に叩きつけられてしまいな
深夜から、フジワラ京に巨鬼が現れている。
フジワラ京を守るハイストン邸では、ヨーダ王一派のゼンチィが、スティッグレイブ古墳の守護霊の力を借りて一面火の海としている。
この巨鬼とゼンチィとを連携させては厄介だ。
そう考えたゲン=アルクソウドとオットー=ハイストンは、巨鬼をこの場で足止めすることにした。
身長50メートルはあろうかという巨鬼の肩の上、これを操るシャーキンと、その支援者のベンセイが、ゲンやオットーの抵抗を「無駄なこと」と嘲笑する。
シャーキンが巨鬼に「ゲンとオットーを踏み潰せ」と指示する。巨鬼は敏捷性が低いわけではないが、巨体な分、動きが大回りだ。したがって、守護霊使いのゲンやオットーならば、これを回避するのは容易である。
シャーキン
「おのれ、ちょこまかと」
ベンセイ
「まずは2人の動きを止めることだな」
シャーキン
「できたらやっているよッ! そういう貴様はできるのかい?」
ベンセイ
「心得た。 自分は十分休ませてもらった。 それでは少しやってみよう」
巨鬼の肩から地面に下ろしてもらって、ベンセイは紫紺の蔵人『闘鶏の防人』を召喚し、その能力、死霊使いを発動した。死霊使いは、周囲に漂う浮遊霊を集合させて小妖怪をいくつも生み出す能力だ。浮遊霊は、元は日々多量に殺戮される獣、たまに人間の死霊であり、放置すればものの数日で風化する。その風化前の浮遊霊を集合させ、妖怪としてこれを操るのだ。
オットー
「ゲン君、また死霊が現れたようだ」
ゲン
「なかなか厄介ですね。 巨鬼に加えて、何体もの死霊も相手にしなければならない。 そこで隙ができて巨鬼に攻撃されたらひとたまりもありませんね」
オットー
「しかし、これはベンセイの死霊使いの能力。 死霊使いは、妖怪の成形に時間がかかる。 死霊使いの妖怪成形よりも素早く妖怪を斃していけば、あるいは活路も切り開ける」
それほどうまくいくだろうか――ゲンは不安を感じた。ゲンもオットーも、その守護霊の攻撃力は中程度である。次第にベンセイの生み出す妖怪の数が多くなっていき、2人は追い詰められてきた。
そして行き場が少なくなってきたところで、巨鬼が足を出したり拳で地面を叩きつけたりするのである。
シャーキン
「くそッ、今のは惜しかったねぇ。 おいベンセイッ! もっと妖怪の数を増やすことはできないのかい?」
ベンセイ
「注文の多い姉御だねぇ。 言われなくてもやってるよッ! 最大出力でッ!」
対するゲンとオットーは、もっぱら防戦一方である。
オットー
「まずいぞ。 トニィたちは何をやっているんだ。 早く来てくれないと、こちらが持たない」
ゲン
「もう少しねばりましょう。 また、例の戦法を使ってみます」
例の戦法とは、結界である。ゲンが山吹色の手品師『偉大な神鳥』の神木の鞭を周囲に張り巡らして、近づいていくる敵を自動で攻撃するのである。
ベンセイが生み出す妖怪は、それほど知能が高いものではない。結界が張られていることも気にしないでゲンに近づこうとするものだから、次から次へと神木の鞭の餌食となっていく。
シャーキン
「ベンセイ、しっかりしてくれよ。 あんたの妖怪が次から次へと斃されていくじゃないか」
ベンセイ
「いや、その作戦はもう古い。 シャーキン、難しく考えるんじゃないよ。 何も考えずに、あの結界の真ん中を巨鬼に踏みつけさせろ」
シャーキン
「なるほど、確かに言うとおりだ」
ゲンとオットーが、神木の鞭の結界の中心にいて、次の攻撃の機会を伺っている。これに対して巨鬼が片足上げて、一気に結界のその真ん中を踏み抜いた。
シャーキン
「よし! 確かに踏みつけたァッ!」
ベンセイ
「……」
オットー
「そう思うでしょ?」
ゲン
「巨鬼の術者は貴様だな? 覚悟せよ!」
シャーキンの背後の空中、突然、ゲンとオットーが現れた。そのゲンの『偉大な神鳥』が神木の鞭を発動、シャーキンめがけて攻撃を仕掛けた。
オットーの守護霊は呂色の老兵『連なる瞳』、その能力、転移を発動して、巨鬼から攻撃を受ける直前にシャーキンの背後の空中へ瞬間移動したのだ。
シャーキン
「ぬ! だがそれも、私にとっては想定内ッ!」
ゲン
「何ィ!」
シャーキンの背後に一体の守護霊が現れ、『偉大な神鳥』の神木の鞭をはじいた。
ゲン
「馬鹿なッ! 守護霊だって? この女の守護霊が巨鬼ではなかったのか?」
シャーキン
「おいおい、いつ、誰がそんなことを言ったんだい? アタシの守護霊は元々こちら、攻撃力はそれほどでもないんだけれどもね、あんたの不意打ちを防ぐぐらいのことはできたようだね」
シャーキンがアハハと高笑いした。
ゲンとオットーが落下していく。オットーの『連なる瞳』は、転移を使ったばかりなので、能力を再発動させる余裕がない。
シャーキン
「そして、そのまま地面に叩きつけられてしまいなッ!」
ゲン・オットー
「「うッ!」」
2人は、負けたと思った。
だが、地面に激突することはなかった。
地上50メートルから落下する2人を空中ですくい上げた者がいたのである。
ゲン
「あなたは?」
コウセイ
「いまは亡きカール大帝の長男、ストンリベル家のコウセイであるッ!」




