僕はあなたの真名を知っている
フジワラ京の中心部では、巨鬼が暴れている。ゲン=アルクソウドと長兄オットー=ハイストンが必死にその侵攻を防いでいる。
その奥の、フジワラ京の守護を命じられているマール=ハイストンの屋敷は、炎に巻かれて間もなく全焼である。
炎は、スティッグレイブ古墳で主に魂を奪われたゼンチィの仕業だ。
火を吐くゼンチィにとは、キョウ=ボウメイクと次兄トニィ=ハイストンが戦っている。ヒロミ=ドグブリードはそのサポート役。傷ついたキョウやトニィを回復する。
トニィ
「キョウ君、もう一度いくぞ!」
キョウ
「はい!」
ゼンチィが大きく息を吸い込んで業火を吐く。
これを、キョウの守護霊、唐紅の鬼神『炎の戦士』が六叉の鉾を構えて弾き返す。六叉の鉾は、キョウがハイストン神殿で賜与された霊剣である。これを守護霊に持たせると、その霊力が大きく上がる。
こうやってキョウがゼンチィからの攻撃を防ぎつつ、トニィが自身の守護霊の霊力をチャージする。
トニィ
「よしッ、今度こそッ! 大雷撃ッ!」
トニィの守護霊、青雷の鑑定士『十市の長』が強力な雷撃を放つ。
『十市の長』の雷撃は、小妖怪を相手にする程度であれば連撃可能であるが、この場合は威力が低い。十分に時間をかけて霊力をためると、強力な攻撃力を発するのである。
キョウがゼンチィの攻撃を防いでいる間にトニィが雷撃の霊力をためて反撃する、そういう連携攻撃の戦法だ。
ゼンチィ
「まだ弱い」
スティッグレイブ古墳の主に憑かれたゼンチィが片手をトニィに向けて構えて、造作もなく火弾を放つ。
これは雷撃を防ぐためであるが、火弾はトニィの雷撃を飲み込んで、なお余力を残す。そのまままっすぐトニィの守護霊に向かって飛んでいき、命中した。
トニィ
「クッ」
トニィの『十市の長』のダメージ大。
ヒロミ
「回復!」
ヒロミの守護霊、白銅の獣聖『迷い犬』が『十市の長』が受けたダメージを治療する。
この間、前衛が薄くなるので、ゼンチィの攻撃がキョウに集中することになる。
いかにキョウの『炎の戦士』が六叉の鉾を装備していたとしても、これでは防御には限界がある。
ゼンチィが渾身の攻撃をキョウに浴びせようとする。
そこで長老のマール=ハイストンが助けに入る。守護霊、輝赤の料理人『幸告げる王』がその能力で障壁を張ってキョウを守った。
マール
「やれやれ、ワシもそろそろ限界じゃのう」
トニィ
「ヒロミ君、私はもういいから、父さんを回復してやってはくれまいか」
マール
「それはダメじゃ。 ワシのは怪我ではなく老衰による疲労じゃ。 ヒロミ君の能力では回復できまい」
ヒロミ
「どうしよう……こちらは疲労が溜まっている。 これに対して敵の方はまだ余力があるみたい。 このまま消耗戦を続けていたら、全滅するわ」
キョウ
「弱気なことをッ! こんな奴、この六叉の鉾があればァァァッ!」
キョウが六叉の鉾を持つ『炎の戦士』に突撃をさせる。
トニィ
「キョウ君! ムチャだッ!」
ゼンチィ
「フン、虫けらめ」
ゼンチィがキョウに向かって指をはじくと、大きな火弾が放たれた。
ゲンは六叉の鉾でこれを防がせようとしたが、弾けない。
ゲンの身体が火弾に包まれた。
ヒロミは、そこで惨劇を覚悟して眼を覆う。
煙が晴れる。
キョウは無事。
そこにはキョウをかばうアスカとオビトの姿があった。その前に、アスカ=ウィスタプランの守護霊、紅蓮の戦士『不動の解脱者』がいた。『不動の解脱者』は防御力に優れ、能力、絶対防御を発動すれば、滅多なことではダメージを受けない。
アスカ
「アチチチ、なんとか間に合ったようね」
ゼンチィ
「なかなか頑丈な守護霊のようだ。 だが、わが業火で焼けぬものはない。 そうやって前に出てくるからには、覚悟は良いな」
そう言って、ゼンチィは、その身体の周りに炎をめぐらせ始めた。防御力に優れる『不動の解脱者』を焼き尽くすには相応の火力が必要であると考えたためだ。
オビト
「そうはいかないぞッ! 僕はあなたの真名を知っている。 あなたはスティッグレイブ古墳の主と聞きました。 ならばあなたの真名はコレです!」
ゼンチィは、アスカとともに現れたオビトのことは初見である。そこで「貴様は何者だ?」と聞こうとしたが、オビトの方がその前に叫んでしまった。
オビト
「スティッグレイブ古墳とは箸墓古墳、昼は人が造り夜は神が造ったという陵だッ! ならばあなたは倭迹迹日百襲姫命、ゆえに真名は、トトヒモモソではないか!」
ゼンチィ
「!」
正解であった。
ゼンチィは、アスカの守護霊を焼き尽くそうと、強力な炎を身にまとっていた。その最中で真名を唱えられ、突然霊力が半減したものだから、自ら生み出した炎を制御できなくなってしまった。
逆にゼンチィが、炎に身を焼かれてしまうこととなった。




