表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/158

ここでオビトを殺したらどうなっても知らないよ

 オビトとオッグ=アイランダーとの戦いは、自在に辰砂腕(シナバルアーム)を操るオッグの勝利に終わりそうだ。


アスカ

「アンタたちッ! ここでオビトを殺したら、どうなっても知らないよッ!」


 オッグがオビトにトドメを刺そうとしたとき、オッグに縛り上げられていたアスカが猿轡を外し、叫んだ。


 オッグは「うるさいッ!」と言って、アスカを縛る紫色の勇者『覇王の長子オーバーロードジュニア』の辰砂腕(シナバルアーム)・左腕を引っ張った。


 アスカを、オビトの前に放り投げる。


オッグ

「お前はこうして、わが守護霊(トーテム)辰砂腕(シナバルアーム)に縛り上げられている。 そんな状態で、何ができる?」

マーモ

「そうよ。 悪いことは言わないわ。 貴方たちに勝ち目はないの。 だから、ここは大人しく降参して逃げてちょうだい」


 マーモ=クレイマスタは、今は訳あってオッグに味方している。


アスカ

「そうかもしれないわね。 でもね、ここでオビトを殺すことは、アンタたちにとって損失よ」

オッグ

「あぁ? ()()だって? こんなガキがオレたちに味方でもするのか?」


 ここでオビトが、アスカを守ろうと前に出ようとする。しかしアスカは「アンタは引っ込んでなさい!」と一括。


アスカ

「アンタたちは、あそこのゼンチィとかいう仲間を助けたいのでしょう?」


 アスカは、オッグとマーモの会話を盗み聞きしていて、フジワラ京に火を放っている守護霊(トーテム)術者(マスター)がゼンチィという名の少年だということ、そのゼンチィがスティッグレイブ古墳(ダンジョン)(マスター)の御霊に魂を奪われ自我を失っていること、そしてオッグとマーモがこのゼンチィの自我を取り戻したいと思っていることなどを知っていた。


 そこでアスカがゼンチィの名を口にしたとき、オッグはアスカの頬を平手打ちして、その胸ぐらをつかんだ。

 捕虜にしたアスカの口から仲間の「ゼンチィ」の名前が出て、本能的に頭に血が登ってしまったのである。


 これをオビトが陰陽剣を振るって助けようとするのだが、それはオッグの守護霊(トーテム)覇王の長子オーバーロードジュニア』の辰砂腕(シナバルアーム)に防がれてしまった。


マーモ

「オッグさん! 乱暴は止めて。 アスカは嘘を言うような()じゃないわ。 話を聞いてみましょう」

オッグ

「……よしッ」


 オッグは、アスカの胸ぐらを掴んだまま、「話せ」と言った。


アスカ

「あなたの仲間のゼンチィ君は、スティッグレイブ古墳(ダンジョン)(マスター)の御霊に魂を乗っ取られているのでしょう?」

オッグ

「そうだ。 だが、完全に身体を奪われたわけじゃない。 ゼンチィの魂は、必ず取り戻す」

アスカ

「取り戻すって、どうやるの? 見なさい、この燃えるフジワラ京の業火は、すべてゼンチィ君の守護霊(トーテム)が生み出したものでしょう? 恐ろしい霊力よ。 この霊気を鎮めてゼンチィ君の魂を取り戻すのは、そう簡単なことではないわ」

オッグ

「真名を探す。 真名を唱えれば守護霊(トーテム)の霊気は減衰する。 その機に乗じて、ゼンチィの魂を取り戻す」

アスカ

「オビトなら、その真名を言い当てられるとしたら?」

オッグ

「何だと?」

マーモ

「オッグさん。 確かに、オビト様は都でも王統譜に詳しいと聞きます。 アスカさんの言うことも、あるいはあり得るかと……」


 すると今度は、アスカから手を放して、陰陽剣を守護霊(トーテム)に防がれて戦意を喪失しているオビトの胸ぐらをつかんだ。


オッグ

「やい、貴様にアレの真名が分かるのか?」


 スティッグレイブ古墳(ダンジョン)――

 何だ?

 聞いたこともない古墳(ダンジョン)の名だ。


アスカ

「オビトなら分かるでしょう? スティッグレイブ古墳(ダンジョン)よ。 昼は人が造り、夜は神が造ったという伝説が残る古墳(ダンジョン)よ」


 その伝説ならば聞いたことがある。

 『箸墓古墳』のことかな?


 オビトは、前世は歴史オタクの中学生であった。その頃の記憶がかすかに残っている。


 『箸墓古墳』ならば、その被葬者は倭迹迹日百襲姫命やまとととひももそひめのみことだ。

 だが、この世界では、人の名前が微妙に違っている。

 果たして、古墳(ダンジョン)(マスター)倭迹迹日百襲姫命やまとととひももそひめのみことで間違いないだろうか?


オビト

「心当たりは……あります」

オッグ

「ほう、ならばその名を教えてくれまいか。 教えてくれたら……」


 オッグがオビトと交渉を始めようとしたとき、アスカが「止めなさい」といって介入してきた。


アスカ

「オビト、そこで名前を教えてしまったら、あなたはここで用済み、この男に殺されてしまうわ」

オッグ

「ちッ、余計な事を……」

アスカ

「それよりも、オッグさんとかいう方、私たちの方こそ信用してくれないかしら」

オッグ

「どうして敵が信用できる?」

アスカ

「私たちは、このフジワラ京に火を放っている、ゼンチィ君の守護霊(トーテム)を倒さなければならないの。 だから、私たちが、ここから逃げ出すことはないわ。 そしてオビトが彼と戦って、その守護霊(トーテム)の真名を唱え、その霊力が弱くなったところでゼンチィ君の魂を取り戻す、そういう段取りはどうかしら?」


 この話を聞いて、オッグはしばらく考える。


 目の前の少年に、賭けてみるか?


マーモ

「そこのオビト皇子は臆病者で、アスカは向こう見ずで考えの足りない少女です。 放っておいても、私たちの敵になる者たちではないと思いますが」

オッグ

「しかし、オビトの血は問題だ。 コイツはアームの血を受け継いでいる。 できることなら、ここで抹殺しておきたい」

マーモ

「この2人を殺すことは、いつでもできることです。 それよりも、ゼンチィの魂を救える可能性があるなら、まずはやらせてみてはどうでしょうか」


 オビトとアスカはいつでも殺せる、このマーモの言葉がオッグを動かした。ゼンチィを助けたいという気持ちが、オビトを利用してみたいという意識に変化した。

 そして、アスカを縛る『覇王の長子オーバーロードジュニア』の辰砂腕(シナバルアーム)を解き、彼女を解放した。オビトに対しても「行け」という。


 オッグから解放されたオビトとアスカは、お互い手を取り合って、フジワラ京のさらに奥に向かっていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ