僕はもう見つけました
無数の妖怪である。
キョウとヒロミとアズマが、ハイストン家の邸宅に戻ろうと、オットーが作った転移の門をくぐった時、1体の妖怪が襲ってきた。
ゲン
「神木の鞭!」
ゲンは、守護霊、山吹色の手品師『偉大な神鳥』を召喚、その能力を発動した。
霊木の蔓が妖怪を遅い、一撃で斃してしまう。
オットー
「ならば私もッ!」
オットーはすでに呂色の老兵『連なる瞳』を召喚している。襲ってきた別の1体に、半身だけ転移の門をくぐらせた。
上半身だけ移動した妖怪は、門が閉じると下半身を失うことになる。
腰斬された妖怪は霊体を維持できなくなって、一瞬で蒸発する。
この能力――正気に戻ってくれて本当に良かった――
ゲンとオットーは、互いに能力を駆使して、襲ってくる妖怪の群れを、1体ずつ、確実に始末していった。
だが、次から次へと妖怪が襲ってくる。
いったい、何体いるのだろう?
ゲン
「オットーさん、ご存知でしたら教えてください。 この妖怪たちが襲ってくるのは、どういう訳ですか?」
オットー
「これは、間違いなく、ベンセイ=ウィートの仕業だ。 奴の守護霊、紫紺の蔵人『闘鶏の守人』は、その能力、死霊使いで無限に妖怪を生産することができる」
オットーは、迫る妖怪と戦いながら説明する。
オットー
「原理は、その辺りの微弱な霊魂を集めて形にし、妖怪にしてしまうというものだ。 毎日これだけ人やら動物やらが死んでいるんだ。 幽霊にもなれないような霊魂まで含めれば、その辺りにいくらでも漂っている。 奴は、そういう自我を持ち得ない霊魂を集めて妖怪にするのだから、事実上、無限に妖怪を生み続けることができるというわけさ」
ゲン
「しかし、これだけ多くの妖怪なんです。 すべて術者の思い通りに精密に動かせているというわけではないのでしょう?」
オットー
「あぁ、そのようだな。 ベンセイは、生み出した妖怪に指示を出すだけだ。 その指示の内容は、たぶんこうだ。 『ハイストン邸を襲え! 歯向かう敵を襲え!』といったところかな?」
ゲン
「敵の守護霊は、どんな奴ですか?」
オットー
「おいおい、オレ達は今、この大量の妖怪に囲まれているんだぜ。 この囲いを突破して、ベンセイの守護霊を襲うなんて、不可能だ」
ゲン
「いえ、そこは、やってみなければ分かりません」
オットー
「そうは言うがな……て? そう言えば、妖怪の数が減ってきたような」
ゲン
「妖怪の数それ自体は減っていません。 ここに近づける妖怪の数が減っているのです」
そしてゲンは「足元を見てください」と言わんばかりに、地面を指し示した。
波打っている?
月夜の下、地面が波打っているように見えるのは、すべて『偉大な神鳥』の神木の鞭である。
そして、この神木の鞭の結界に妖怪が足を踏み入れると――
別の神木の鞭がその妖怪を襲うのである。
オットー
「なるほど。 しかし、君の結界の広さはそれが限界だろう。 それではダメだ。 おそらく、ベンセイの守護霊は、もっと遠い場所にいる。 君の結界の中に入ってくることはない」
ゲン
「確かに、その通りです。 でも、僕の結界がこの程度の広さにしかならないのは、神木の鞭を面のように広げているからです。 そうではなく、1本の蔓にして伸ばしていけば、もう少し遠くまで探ることができるのです」
オットー
「しかし、探るといってもどうやって? 君の能力には、眼でもついているのかい?」
ゲン
「眼なんかついておりません。 ただ触れて、確かめるだけです。 そして、僕はもう、見つけました」
ゲンが手にした錫杖でトンと地面を一突きすると、1本の神木の鞭が大きくうねり、すぐに一人の男の足を絡めて、ゲンとオットーの前まで引っ張ってきた。
彼がベンセイ=ウィートである。
ベンセイ
「くッ、油断した。 まさか足元から迫られるとは」
ゲン
「話は後でゆっくり聞きます。 まずは大人しく、我々に縛られてください」
ベンセイ
「はぁ? 縛られろだと? 何を寝ぼけたことを言っている。 戦いは、これからなんだぜ?」
その時、ズーン、ズーンと、大きな足音が聞こえてきた。
この地鳴りは聞き覚えがある。
見上げると巨鬼である。いつの間にか、自分たちのすぐそばまで巨鬼が迫っていて、ゲンとオットーを叩き潰そうと片手を振り上げていたところであった。
オットー
「危ない!」
オットーが即座に転移の門を発動し、自分とゲンとを離れた場所に瞬間移動させた。このため、間一髪で巨鬼の攻撃をかわすことができて無事である。
しかし、せっかく捕まえたベンセイには逃げられることになってしまった。




