認識を整理する
オットー
「あぁ……すまない……混乱している。 いや、少しずつ理解している。 自分が何をしていたか……それが、間違っていたことを」
アズマ
「兄さん……本当の兄さんが、戻ってきたのかい?」
オットー
「少し待ってくれないか。 認識を、整理する。 ……うむ……もう大丈夫だとは思う。 しかし、どうしてだろう、どうして私は、かのオータム皇子を信奉していたのか……」
オットー=ハイストンは、何者かの守護霊の能力で認識を改変されていたのだが、キョウがその認識改変の原因である、オットーの背中に打ち込まれていた霊気の楔を破壊したので、正気に戻れたのだ。
ゲンが、そのように説明した。
そして、どうしてそのように操られていたのか、オットーに心当たりを問おうとした。
その時、ハイストン家の邸宅の中からヒロミ=ドグブリードが飛び出してきて、息を切らして駆け寄ってきた。
ヒロミ
「ゲン、キョウ、こんな所にいたのね? 大変なことになったわ。 あ、オットーにアズマ!」
ヒロミは、オットーとアズマの兄弟を見て驚愕した。
この兄弟を見て、ヒロミはこれを敵と認識している。その態度を見て、ゲンはアスカとヒロミに何が起こったか察した。そこで、オットーとアズマは今は味方であると説明した上で、念のため、ヒロミに、何が起きたのか聞いてみた。
ヒロミの言うところによれば、オットーの弟であり、アズマの兄であるトニィ=ハイストンが、アスカとヒロミが休む客屋に入ってきて、襲ってきたのだという。
オットー
「すまない。 そういう手筈になっていたのだ。 しかしトニィの守護霊は雷属性で強力な能力をもっている。 ヒロミ君は、よく逃げることができたね」
ヒロミ
「アスカが盾になってくれたのよ。 彼女の守護霊は防御力が高くて、『私がここを引き受けるから、その隙にここを出てゲンとキョウを呼んで来て』と言って、それでこうして、霊気を辿ってあなた達を探して、ここまで来たというわけよ。 早く、戻りましょう。 アスカが簡単にやられるとは思わないけど、いつまで持ちこたえられるか分からないわ」
ゲン
「よし、そういうことならすぐ戻ろう。 ヒロミ君、案内してくれたまえ」
オットー
「戻るならば、私も強力しよう。 我が守護霊の転移を使えば、高速で屋敷に帰ることができる」
キョウ
「いや、待て」
ヒロミ
「ちょっと! アスカの命がかかっているのよッ! 何を呑気に構えているのさッ!」
キョウ
「そうではない。 周りをよく見てみろ」
気配である。
気配が、1つ、また1つと増えている。
妖怪である。妖怪が、周りに集まってきているのである。
ゲン
「すごい数の霊気を感じる。 一つ一つは大したことがなさそうだが、数がすごそうだ」
ヒロミ
「確かに……そして、この妖怪の襲撃、覚えがあるわ。 ハイストン神殿でも、こういう攻撃を受けた」
ゲン
「そして、集まっている妖怪は、その辺で屯している浮遊の霊体なんかじゃぁない。 もっと、はぐれの妖怪なんかでは考えられない統制がとれた動きだ。 何者かに、操られているような」
オットー
「そういうことならば、これはベンセイ、ベンセイ=ウィートという男の守護霊の能力だろう。 私は、オータム皇子派の残党に操られていて、奴らの仲間だったときの記憶があるから、分かるのだ」
ゲン
「貴方の能力で、僕たち全員を瞬間移動させることはできませんか?」
オットー
「さすがにそれは無理だ。 私の転移は、門を短時間しか維持することができない。 せいぜい、3人を移動させるのがやっとだろう」
キョウ
「その隙に、残った者が、この妖怪の群に襲われるということだ」
そこでキョウは、「だからオレがここに残る」と言い出した。
しかし、ゲンがそれを否定した。
ゲン
「キョウは、アスカ君を助けにいかなければならない。 おそらくは、トニィさんも敵の能力で操られているのだろう。 ならば、その能力を破る六叉の鉾を使えるキョウは、トニィさんと戦うべきだ」
ヒロミ
「私は、アスカを助けたい。 アスカが大怪我をしていたら、それを治療できるのは回復系の守護霊を使う私しかいないわ」
オットー
「そして、守護霊を扱えないアズマも屋敷に戻るべきだと思う」
これを聞いて、アズマは「オレもここに残って戦う!」と言い出したが、兄のオットーから「かえって足手まといになる。 ここは聞き分けてくれ」と説得され、屋敷に帰れというその指示に渋々と従った。
ゲン
「ならば決まりだ。 アスカ君を助けに行くのはキョウとヒロミ君、そしてアズマの3人。 オットーさん、それならば出来ますか?」
オットーは「やってみよう」と言って大きめの門を出現させた。キョウとヒロミは、この門をくぐって、トニィとアスカが戦うハイストン家の邸宅の中に戻っていった。




