オレはお前の兄貴と戦うがそれは倒すためじゃない
ゲンがオットーに攻撃しようとするとアズマがこれを防ぐが、アズマはオットーの攻撃も許さない。
霊剣六叉の鉾を握って、互いに戦うのを止めさせようとしているようだ。
どういうことか?
ゲンが聞くと、1年ほど前、父親のマール=ハイストンが病で倒れた頃から、オットーとトニィの両兄の様子が可怪しくなったという。
どのように様子が可怪しくなったかといえば、一見して平静と変わらぬ立ち振舞をしているから、周囲がその変異に気付くことは難しい。ただその言動の端々に微妙な変化がみられるのだ。オットーやトニィは、幼い頃より父親のマールに言い聞かされて、朝廷の忠実な家臣となっていた筈だった。それが、例えば酒が興じたときなどに、「アーム帝は正統でない」、「先の大乱ではアーム帝こそ勝利したが、オータム皇子こそ正統であった」などと外に憚ることなく放言するのだ。
このぐらいの事であれば、そもそもマールはオータム皇子の配下であった、そのわだかまりを漏らしたものと考えれば、ちょっと疲れているのではないかという話で済んだろう。それが間もなくフジワラ京に巨鬼が出没するようになると様相が変わってくる。ハイストン家は、フジワラ京の守護を任されているのだが、自力では巨鬼に対抗できないというので朝廷に応援を求めるのだ。朝廷から派遣された討伐隊は、まずハイストン家に挨拶するならわしとなった。ところが、その討伐隊のメンバーが、ハイストン家の屋敷の中で行方不明となる事が頻発した。そしていざ巨鬼と対峙する段ともなれば、討伐隊は前線に出て必ず全滅、そして後衛のオットーやトニィが辛うじてこれを撃退するのだ。その結果を、オットーやトニィは満足しているように見える。
そこでアズマの脳裏にひとつの疑念が生まれた。
兄たちは、巨鬼と戦っているのではなく、その逆で巨鬼を手引していて、朝廷の主だった守護霊使いを暗殺することを目的としているのではないか。
そこでこの日、再び巨鬼が現れたと聞いて、アズマは誰よりも最前線に向かってみた。自分はハイストン家の者、自ら死地に飛び込めば、兄が助けに来てくれて、前線から巨鬼を撤退させるのではないかと考えたのだ。すると本当にその通りの展開となった。そしてこの日の夕刻、アズマはオットーとトニィの密談を聞いた。オットーがゲンとキョウを、トニィがアスカとヒロミを暗殺する密談であった。これでアズマは事を確信した。
アズマは、できることなら、慕う2人の兄に従いたい。しかし同時に、キヨミハラ学院の同窓生の、ゲンら4人の命も救いたい。そこで、ゲンら4人が書庫で刺客に襲われている隙に盗んだ六叉の鉾を持ち出して、まずはゲンとキョウの2人を屋敷の外におびき出したということだ。ゲンとキョウがフジワラ京から逃げ出せば、兄2人に殺されずにすむと思ったのだ。
以上が、アズマの話であった。
この話、ゲンには一つだけ合点のいかないことがあった。
それは、なぜオットーとトニィが朝廷を裏切ったのかということである。
キョウ
「そいつは、こういう事かもしれないぜ」
キョウは、アズマから六叉の鉾を奪おうとする。
これに対し、アズマが柄を握る拳に渾身の力をこめて、これに抵抗した。
アズマ
「こいつは、置いていけ。 そして大人しく、ここを立ち去ってくれ」
キョウ
「勘違いするな。 オレはお前の兄貴と戦うが、それは倒すためじゃない。 救うためだ」
守護霊を傷つけられたキョウは、唐紅の鬼神『炎の戦士』を解除している。そこでアズマから六叉の鉾を受け取り、その剣先をオットーに向けた。
オットー
「おいおい、守護霊には守護霊だよ。 いかに六叉の鉾の霊力でも、生身でわが『連なる瞳』と闘おうというのは無茶があるのではないのかい?」
キョウ
「そうだと思うならばやってみろよ。 強いんだぜ、六叉の鉾の霊気は」
オットー
「何をッ!」
呂色の老兵『連なる瞳』がキョウに対し手拳ラッシュ。
だが、キョウが六叉の鉾を華麗にさばき、これを防ぐ。守護霊の攻撃は守護霊でしか防げないと言われているが、六叉の鉾ほど霊力を蓄えた霊剣である。手拳程度の攻撃ならば難なくこれを防ぐことができる。
のみならず――
『連なる瞳』の両拳が宙を舞った。キョウの六叉の鉾がこれを斬り落としたのだ。
今度はその術者のオットーがアァァァと悲鳴を上げる。傷つけられたのが守護霊とはいえ、守護霊が受けたダメージは術者に相応の衝撃を与えるのだ。
その衝撃が、オットーの隙を作った。
キョウはその隙を見逃さない。
さっとオットーに駆け寄り突き飛ばし、その後ろをとって、斬と六叉の鉾でその背中を掠めた。
オットーの骨肉を断ち切ったものではないが、手応えがあった。
おそらくは、どこかの守護霊の何かの能力で作られた、特殊な霊体であろう。キョウはその霊体を切り捨てた。
キョウ「これで、貴様の兄貴は正気に戻るはずだ。 それにしても六叉の鉾の霊力は侮れない。 これを握ると、周囲の霊気の流れが手に取るように分かり、斬るべき物の所在が手に取るように分かる」




