表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/158

オレはお前の兄貴と戦うがそれは倒すためじゃない

 ゲンがオットーに攻撃しようとするとアズマがこれを防ぐが、アズマはオットーの攻撃も許さない。


 霊剣六叉の鉾(ヘキサルバルド)を握って、互いに戦うのを止めさせようとしているようだ。


 どういうことか?


 ゲンが聞くと、1年ほど前、父親のマール=ハイストンが病で倒れた頃から、オットーとトニィの両兄の様子が可怪しくなったという。


 どのように様子が可怪しくなったかといえば、一見して平静と変わらぬ立ち振舞をしているから、周囲がその変異に気付くことは難しい。ただその言動の端々に微妙な変化がみられるのだ。オットーやトニィは、幼い頃より父親のマールに言い聞かされて、朝廷の忠実な家臣となっていた筈だった。それが、例えば酒が興じたときなどに、「アーム帝は正統でない」、「先の大乱ではアーム帝こそ勝利したが、オータム皇子こそ正統であった」などと外に憚ることなく放言するのだ。


 このぐらいの事であれば、そもそもマールはオータム皇子の配下であった、そのわだかまりを漏らしたものと考えれば、ちょっと疲れているのではないかという話で済んだろう。それが間もなくフジワラ京に巨鬼(トロル)が出没するようになると様相が変わってくる。ハイストン家は、フジワラ京の守護を任されているのだが、自力では巨鬼(トロル)に対抗できないというので朝廷に応援を求めるのだ。朝廷から派遣された討伐隊は、まずハイストン家に挨拶するならわしとなった。ところが、その討伐隊のメンバーが、ハイストン家の屋敷の中で行方不明となる事が頻発した。そしていざ巨鬼(トロル)と対峙する段ともなれば、討伐隊は前線に出て必ず全滅、そして後衛のオットーやトニィが辛うじてこれを撃退するのだ。その結果を、オットーやトニィは満足しているように見える。


 そこでアズマの脳裏にひとつの疑念が生まれた。


 兄たちは、巨鬼(トロル)と戦っているのではなく、その逆で巨鬼(トロル)を手引していて、朝廷の主だった守護霊(トーテム)使いを暗殺することを目的としているのではないか。


 そこでこの日、再び巨鬼(トロル)が現れたと聞いて、アズマは誰よりも最前線に向かってみた。自分はハイストン家の者、自ら死地に飛び込めば、兄が助けに来てくれて、前線から巨鬼(トロル)を撤退させるのではないかと考えたのだ。すると本当にその通りの展開となった。そしてこの日の夕刻、アズマはオットーとトニィの密談を聞いた。オットーがゲンとキョウを、トニィがアスカとヒロミを暗殺する密談であった。これでアズマは事を確信した。


 アズマは、できることなら、慕う2人の兄に従いたい。しかし同時に、キヨミハラ学院の同窓生の、ゲンら4人の命も救いたい。そこで、ゲンら4人が書庫で刺客に襲われている隙に盗んだ六叉の鉾(ヘキサルバルド)を持ち出して、まずはゲンとキョウの2人を屋敷の外におびき出したということだ。ゲンとキョウがフジワラ京から逃げ出せば、兄2人に殺されずにすむと思ったのだ。


 以上が、アズマの話であった。


 この話、ゲンには一つだけ合点のいかないことがあった。


 それは、なぜオットーとトニィが朝廷を裏切ったのかということである。


キョウ

「そいつは、こういう事かもしれないぜ」


 キョウは、アズマから六叉の鉾(ヘキサルバルド)を奪おうとする。


 これに対し、アズマが柄を握る拳に渾身の力をこめて、これに抵抗した。


アズマ

「こいつは、置いていけ。 そして大人しく、ここを立ち去ってくれ」

キョウ

「勘違いするな。 オレはお前の兄貴と戦うが、それは倒すためじゃない。 救うためだ」


 守護霊(トーテム)を傷つけられたキョウは、唐紅の鬼神『炎の戦士(フレイムファイター)』を解除している。そこでアズマから六叉の鉾(ヘキサルバルド)を受け取り、その剣先をオットーに向けた。


オットー

「おいおい、守護霊(トーテム)には守護霊(トーテム)だよ。 いかに六叉の鉾(ヘキサルバルド)の霊力でも、生身でわが『連なる瞳(パピルシリーズ)』と闘おうというのは無茶があるのではないのかい?」

キョウ

「そうだと思うならばやってみろよ。 強いんだぜ、六叉の鉾(ヘキサルバルド)の霊気は」

オットー

「何をッ!」


 呂色の老兵『連なる瞳(パピルシリーズ)』がキョウに対し手拳ラッシュ。


 だが、キョウが六叉の鉾(ヘキサルバルド)を華麗にさばき、これを防ぐ。守護霊(トーテム)の攻撃は守護霊(トーテム)でしか防げないと言われているが、六叉の鉾(ヘキサルバルド)ほど霊力を蓄えた霊剣である。手拳程度の攻撃ならば難なくこれを防ぐことができる。


 のみならず――


 『連なる瞳(パピルシリーズ)』の両拳が宙を舞った。キョウの六叉の鉾(ヘキサルバルド)がこれを斬り落としたのだ。


 今度はその術者(マスター)のオットーがアァァァと悲鳴を上げる。傷つけられたのが守護霊(トーテム)とはいえ、守護霊(トーテム)が受けたダメージは術者(マスター)に相応の衝撃を与えるのだ。


 その衝撃が、オットーの隙を作った。


 キョウはその隙を見逃さない。


挿絵(By みてみん)


 さっとオットーに駆け寄り突き飛ばし、その後ろをとって、斬と六叉の鉾(ヘキサルバルド)でその背中を(かす)めた。


 オットーの骨肉を断ち切ったものではないが、手応えがあった。


 おそらくは、どこかの守護霊(トーテム)の何かの能力(スキル)で作られた、特殊な霊体であろう。キョウはその霊体を切り捨てた。

キョウ「これで、貴様の兄貴は正気に戻るはずだ。 それにしても六叉の鉾(ヘキサルバルド)の霊力は侮れない。 これを握ると、周囲の霊気の流れが手に取るように分かり、斬るべき物の所在が手に取るように分かる」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ