もうやめて
右足首に衝撃を体感し、キョウはアァと激痛の悶え声をあげる。
守護霊は攻撃を受けると、その霊気が術者に伝わり、その肉体に相応の衝撃が走る。
今、キョウの守護霊、唐紅の鬼神『炎の戦士』は、対するオットー=ハイストンの守護霊、呂色の老兵『連なる瞳』の攻撃を受け、その右足首を切断された。その衝撃が、術者のキョウに伝播したのだ。
オットーの『連なる瞳』の能力は転移である。空間に入口と出口の2つの門を作り、この門をくぐって瞬間移動する能力である。物がこの門を通過している途中で能力を解除するとどうなるか。物は、入口を通らなかった部分と、出口を過ぎた部分とで、分断されることになる。
キョウは、一瞬早くその罠を見抜いて門から抜け出そうとしたが、右足首をとられてしまった形となった。それで、右足首が切断されたのである。
オットー
「チッ、思ったよりも機敏な奴め」
ゲン
「僕がいることを忘れてもらっては困る!」
今度は、ゲンの守護霊、山吹色の手品師『偉大な神鳥』の攻撃である。『偉大な神鳥』の能力は神木の鞭、草木の蔓を発して自在に攻撃する。炎玉や雷撃のように遠隔攻撃とまではいかないが、それなりに長い間合いで攻撃をしかけることができる。
神木の鞭の連続攻撃。
しかし、いずれも、ことごとく『連なる瞳』に防がれる。その攻撃が転移の門で別の場所に瞬間移動させられるのだ。
ゲンは、己の背後から神木の鞭の気配を感じる。
オットーは、ゲンの攻撃の行き先が彼の背後にまわるよう、転移の門を発生させているのだ。
しかしこれはゲンにおいて想定の範囲内である。転移で攻撃をかわされるとみるや、すぐに神木の鞭を手元に戻すので、紙一重で攻撃を受けることはない。
オットー
「しかし、そういう中途半端な攻撃では、僕に当てることはできないよ」
ゲン
「だが、数を打てば必ず隙ができる。 僕は、その隙を突いて貴方を倒すッ!」
オットー
「そうかい。 でもね、僕はこういう事もできるのだよ」
その瞬間、オットーがその守護霊と共に姿を消した。
転移を使って、瞬間移動をしたのである。
その行き先は――
キョウ
「ゲン! 後ろだッ! お前の後ろに敵がいるッ!」
オットー
「今更気付いても遅いワァッ! そして今ッ! 貴様はオレの間合いにいるッ!」
『連なる瞳』がゲンの足元に転移の門を作る。その出口は近くの空中だから、地面を失ったゲンの身体は落下することになる。
その半分ぐらい落ちたところで門を解除すれば、ゲンは上半身と下半身を分断されることになる。
だがゲンは落ちない。神木の鞭が彼の身体を絡め取り、持ち上げているのだ。だから、ゲンが転移の門に落ちることはない。
ゲン
「貴方の転移は、守護霊の近くにしか門を作れない。 そういう貴方が僕を倒すためには、接近戦に持ち込むしかない。 だから貴方がこうして転移で僕の背後を襲おうとすることは、読んでいました」
オットー
「クッ!」
ゲン
「そして、言ったでしょう。 僕は『隙を突いて貴方を倒す』と。 その隙が、今、見えましたッ!」
ゲンは、オットーがいつ転移を用いて自分を攻撃してきても良いように、密かに自身の周囲に神木の鞭を張り巡らしていたのである。
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その真ん中に転移してきたのだから、四方八方から神木の鞭がオットーとその守護霊を襲う。このように全方位から襲われれば、転移の門を作って防ぐにも間に合わない。
やられた――
とオットーは思った。
ゲン・キョウ
「「何ッ!」」
神木の鞭は、その守護霊『偉大な神鳥』より草木の蔓を伸ばして攻撃する能力である。ゆえに、その霊気の源の蔓を断ち切ってしまえば、神木の鞭は攻撃力を失う。
その神木の鞭を断ち切った者がいた。
それは、六叉の鉾を抜いたアズマ=ハイストンであった。
オットー
「アズマ、よくやった!」
だが、アズマの腕が震えている。キョウから盗み出した六叉の鉾を抜いたは良いが、剣そのものが持つ霊圧に耐えかねて、アズマの身体が限界に達しつつあるのだ。
オットー
「よし、後はお兄ちゃんに任せろ。 アズマはそこで見ていなさい」
だが、その言葉がアズマの耳に届いている気配はない。
アズマ
「お前たちが……お前たちが悪いんだ。 僕の言うとおり、何も言わずに逃げていてくれれば、こういうことにはならなかったんだ」
オットー
「そうだ。 悪いのはそこにいる2人なのだ。 だから、2人はお兄ちゃんが必ず倒す」
そう言ってオットーは、『連なる瞳』に転移の門を作らせた。門が、キョウの足元に生成されていく。これが完成するとキョウは門に落下して、その途中で門を解除されて腰斬されるだろう。
そこでアズマは、最後の力を振り絞り、六叉の鉾を振るってキョウの足元の門を破壊する。六叉の鉾に封じられた霊力をもってすれば、常人でも守護霊の能力を破壊するぐらいのことはできる。
オットー
「どうした? アズマ、血迷ったかッ?」
アズマ
「兄さん……兄さん、こういうことは、もうやめて……」




