オビトを追いかけて呼び止めるのよ
いよいよ第2章の始まりです。
主人公のオビト皇子の幼馴染、ヒロインのアスカ=ウィスタプランの登場です。
アスカ=ウィスタプランは怒っている。
父親のフヒト=ウィスタプランが幼馴染のオビト皇子に無謀な巨鬼退治を命じたからだ。要するに、追い出しじゃないか。
オビトは、この日、早朝、誰にも見送られずに出発したという。「行ってらっしゃい」も言えなかった。それも気に入らない。
それにしても――
アスカ
「誰かいる? 服ぐらい返してよ! |(怒)」
彼女は、今、ハダカでフヒト邸敷地のサウナ棟に閉じ込められている。
どうしてこういうことに、なったのか? 時は数刻さかのぼる。
怒りの形相でフヒトの部屋に飛び込むアスカ。そこでフヒトは、妻のミチヨ=マンダリナ|(旧姓はドグブリード)と何やら話をしていた。ミチヨは、アスカの母親でもある。
フヒト
「ちょうど良いところに来た。 ちょうど今、お前の出仕の話をしていたところだ」
ミチヨ
「お向かいのナガヤ親王様のところよ。 ナガヤ親王様はよく知っているでしょう? 明日にでも、挨拶に行こうと思っているのですが、よろしいですか?」
アスカ
「ナガヤですって?」
彼女は露骨に嫌な顔をした。
アスカ
「あの人、好かんわ。 イヤらしいことばかり言うもの!」
ミチヨ
「そんなこと言うものではありません! ナガヤ親王様は次代の皇帝にもなろうというお方ですよ!」
アスカ
「親王だか皇帝だが知らないけど、私、絶対、ナガヤのところには行きませんからね!」
フヒト
「こら! アスカ! ナガヤ親王様のことを内心どのように思おうが構わぬ! だが呼び捨てはいかん! 『親王だか皇帝だか知らない』というのも、さすがに不敬ではないか!」
この帝国では、皇帝はもちろん、これに連なる皇族、中でも皇帝直系の親王は絶対に近い存在、父親の言うことももっともだと、凹むアスカである。
フヒト
「それは、そうと。 ここには何か用があって来たのではないのか?」
用事を思い出し、姿勢を正すアスカ。用事というのは、オビトのことである。
アスカ
「そう、それよ。 パパ、オビトを追い出したというのは本当なの?」
フヒト
「追い出したとは、それは違うぞ。 女帝より、オビトにフジワラ京の巨鬼退治の勅が出たのだ。だから、その通りにさせたのだ」
アスカ
「その勅と言うのがおかしいじゃない! オビトはまだ子どもなのよ! フジワラ京の巨鬼退治なんて無理に決まってるじゃない!」
フヒト
「無理なものか。 オビトは、最近、守護霊を操れるようになったと言うじゃないか。 きっと、うまくいく」
ミチヨ
「あのね、アスカ。 女帝に、オビトに巨鬼退治を命じるよう提案したのは私なの。 あの子、女帝から嫌われているようじゃない? だから、手柄を立てさせようと思ってね」
そしてミチヨはホホホと笑う。
この母親の笑い、アスカはその胸の内に意図があると直感する。
ミチヨは、オビトが任務に成功すると、信じていない――
アスカは、これ以上の問答は無駄と悟り、部屋を出ていこうとする。
ミチヨ
「アスカ! どこに行くの? 待ちなさい!」
アスカ
「決まってるじゃない! オビトを追いかけて、呼び止めるのよ!」
ミチヨ
「それはダメよ! 勝手なことをしては、いけません!」
ミチヨは、言いだしたら聞かないアスカの性格をよく知っている。
だから、家中の女中を集合させて、10人以上はいるだろう多人数で、山になってアスカを取り押さえた。
女中たちは、彼女をフヒト邸敷地の一角にあるサウナ棟に押し込む。
そして、着ているものを身ぐるみ剥いでしまった。
ハダカならば、どこにも行くことはできないだろうと、そう考えたのだ。
アスカ
「誰かいる? 服ぐらい返してよ!」
返事はない。
見張りはいないようだ。
ニヤリ。
アスカ
「ママも甘いわね。 裸にすれば私が大人しくなると思ってる。 こんなもの、どうてことはないんだから」
アスカは、ハダカのまま、サウナ棟の入口ドアを、そおっと開けた。




