表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
129/158

こっちの攻撃はまったく効かない

 フジワラ京にときおり現れるという巨鬼(トロル)は、身長およそ60メートル。体重は500トンを越すだろうか。その正体や目的は、公式には謎とされている。だが、その一派の記憶の断片を手に入れたアスカ、ヒロミ、ゲン、そしてキョウの4人チームは、これが反体制派によるテロ攻撃であると知っている。


 その巨鬼(トロル)が、アスカら4人が身を寄せたマール=ハイストン邸を襲った。


 4人はもともと、この巨鬼(トロル)を退治するためのチームだったから、すぐに迎撃のために外に出た。その4人の前に、マールの三男、アズマが居た。アズマが1人、大剣を担いで巨鬼(トロル)に向かっていった。


トニィ

「おい、アイツ、またあんな無茶を」

オットー

「困るんだよなぁ。 ああいうのは」


 1人で巨鬼(トロル)に向かっていくアズマを見て、後衛の兄2人は呆れ顔だ。


 アズマは、決して武芸に秀でているということはない。そういう末弟が1人で巨鬼(トロル)に向かっていくというのは自殺行為に近い。


 勇気――


 守護霊(トーテム)1つ扱うこともできないアズマは、そのことを負い目に感じていた。また、かつて通っていたキヨミハラ学院の同級生でもあったアスカら4人も守護霊(トーテム)使いになっているのも屈辱だった。


 そこで、2人の兄や4人の同窓生を見返してやろうと、巨鬼(トロル)に向かっていたのである。


オットー

「――そんなところだろうな」

トニィ

「兄さん、そんな呑気なことを言っている場合かい? あんな奴でもハイストン家の一族の者なのだ。 ()()()()で事故に遭わせるのもうまくない」

オットー

「分かっているさ。 まぁ、見ていろよ」


 そこでオットーが守護霊(トーテム)を召喚する。


 守護霊(トーテム)の名は、呂色の老兵『連なるパピルシリーズ』である。


 はるか後方で、兄2人がこのような話をしているとも知らず、当のアズマの方は、巨鬼(トロル)に十分近づくや、大声で口上を述べはじめた。


アズマ

「やーやー我こそは、マール=ハイストンの三男……」


 その口上に聞く耳も持たず、巨鬼(トロル)が迫ってくる。


アスカ

「あ! 危ない!」


 巨鬼(トロル)に踏み潰されようかという光景を見て、前衛のアスカが悲鳴に近い叫びをあげた。


 ゲンは急いで守護霊(トーテム)を召喚する。


ゲン

「山吹色の手品師(トリックスター)偉大な神鳥(グレイトピーコク)』! 行けッ! 神木の鞭(セイクリッドウィップ)!」


 鳥頭人身の守護霊(トーテム)の両腕から、無数の草木の蔓が発出する。


挿絵(By みてみん)


 巨鬼(トロル)が大きく地面を踏み抜くが、その下に居たアズマは、『偉大な神鳥(グレイトピーコク)』の神木の鞭(セイクリッドウィップ)が一瞬早く絡め取り、素早く引き戻したので、無事であった。


アズマ

「えぇい! 邪魔をするなッ!」


 ゲンに助けてもらったのに、悪態をつく。


キョウ

「貴様こそ、足手まといだ。 後は守護霊(トーテム)使いのオレたちでやるから、貴様はさっさと後ろに引っ込んでな」

アズマ

「何だとッ! 守護霊(トーテム)が使えないからって、馬鹿にしやがってッ! お前たちこそ、あの巨鬼(トロル)()られる前に、さっさとここから逃げ出しちまいなッ!」

ヒロミ

「ちょっと、あなたたち、喧嘩している場合じゃないわ。 巨鬼(トロル)がもうそこまで来ている」

アスカ

巨鬼(トロル)は、私が止める。 紅蓮の戦士『不動の解脱者(ストロングフリーダム)』!」


 アスカが五鈷金剛杵(ペントヴァジュラ)を振るうと、前身赤肌の守護霊(トーテム)が現れた。これが、巨鬼(トロル)に向かっていく。


挿絵(By みてみん)


 巨鬼(トロル)が『不動の解脱者(ストロングフリーダム)』を踏み潰す。

ヒロミ

「アスカッ!」

アスカ

「う……うう」


 巨鬼(トロル)がその踏み込んだ足を上げると、そこには何もないように見えた。


 否、一体の守護霊(トーテム)が、地中にめり込んでいた。


アスカ

「私は、無事よ。 『不動の解脱者(ストロングフリーダム)』の絶対防御パーフェクトディフェンスを発動させたから、あの手の物理攻撃ならどうということはないわ。 でも、こっちの攻撃はまったく効かない。 これでは、巨鬼(トロル)を止めることはできない」

キョウ

「ならば、オレが行く」


 キョウが数珠を手にして守護霊(トーテム)を召喚しようとした。しかし、それをゲンが必死に止める。


ゲン

「ダメだ。 君の『炎の戦士(フレイムファイター)』の攻撃力では、あの巨鬼(トロル)の足を止めるにはまだ足りない」

キョウ

「やってみなければ分からない」


 ゲンとキョウがこのような問答をしている間に、巨鬼(トロル)がますます近くに迫ってくる。


 その時、2人の眼の前に、オットー=ハイストンが現れた。


ゲン

「え? いつの間に? オットーさんは後衛に居たのでは?」

オットー

「フフフ。 それが我が守護霊(トーテム)能力(スキル)転移(メタスタシス)さ。 このぐらいの距離ならば、瞬間移動ができるのさ」


 そして巨鬼(トロル)の前に立ちはだかり、両手を拡げてアスカら4人をかばう構えをとった。


ゲン

「オットーさん、それでどうやって巨鬼(トロル)と戦う気ですか?」

オットー

「そうか、君たちは巨鬼(トロル)と戦うのは初めてなのだね。 あれと戦うには、まず最初に気合を高めること。 まぁ、見ていたまえ」


挿絵(By みてみん)


 オットーが気合の呼吸を練っていくと、確かに巨鬼(トロル)の足が止まった。


 そして、巨鬼(トロル)の方は、何を思ったのか、2歩3歩と後退し、ついにはスッとどこかへ消えてしまった。


ゲン

「こんなことが……」

オットー

「とにかく、巨鬼(トロル)を取り逃がしてしまったのは残念だが、こうして君たちが全員無事なのは良かった。 ここはいったん、屋敷に戻って作戦を練り直すとしようじゃないか」

呂色とは黒漆の濡れたような深く美しい黒色のことだそうです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ