こっちの攻撃はまったく効かない
フジワラ京にときおり現れるという巨鬼は、身長およそ60メートル。体重は500トンを越すだろうか。その正体や目的は、公式には謎とされている。だが、その一派の記憶の断片を手に入れたアスカ、ヒロミ、ゲン、そしてキョウの4人チームは、これが反体制派によるテロ攻撃であると知っている。
その巨鬼が、アスカら4人が身を寄せたマール=ハイストン邸を襲った。
4人はもともと、この巨鬼を退治するためのチームだったから、すぐに迎撃のために外に出た。その4人の前に、マールの三男、アズマが居た。アズマが1人、大剣を担いで巨鬼に向かっていった。
トニィ
「おい、アイツ、またあんな無茶を」
オットー
「困るんだよなぁ。 ああいうのは」
1人で巨鬼に向かっていくアズマを見て、後衛の兄2人は呆れ顔だ。
アズマは、決して武芸に秀でているということはない。そういう末弟が1人で巨鬼に向かっていくというのは自殺行為に近い。
勇気――
守護霊1つ扱うこともできないアズマは、そのことを負い目に感じていた。また、かつて通っていたキヨミハラ学院の同級生でもあったアスカら4人も守護霊使いになっているのも屈辱だった。
そこで、2人の兄や4人の同窓生を見返してやろうと、巨鬼に向かっていたのである。
オットー
「――そんなところだろうな」
トニィ
「兄さん、そんな呑気なことを言っている場合かい? あんな奴でもハイストン家の一族の者なのだ。 巻き添えで事故に遭わせるのもうまくない」
オットー
「分かっているさ。 まぁ、見ていろよ」
そこでオットーが守護霊を召喚する。
守護霊の名は、呂色の老兵『連なる瞳』である。
はるか後方で、兄2人がこのような話をしているとも知らず、当のアズマの方は、巨鬼に十分近づくや、大声で口上を述べはじめた。
アズマ
「やーやー我こそは、マール=ハイストンの三男……」
その口上に聞く耳も持たず、巨鬼が迫ってくる。
アスカ
「あ! 危ない!」
巨鬼に踏み潰されようかという光景を見て、前衛のアスカが悲鳴に近い叫びをあげた。
ゲンは急いで守護霊を召喚する。
ゲン
「山吹色の手品師『偉大な神鳥』! 行けッ! 神木の鞭!」
鳥頭人身の守護霊の両腕から、無数の草木の蔓が発出する。
巨鬼が大きく地面を踏み抜くが、その下に居たアズマは、『偉大な神鳥』の神木の鞭が一瞬早く絡め取り、素早く引き戻したので、無事であった。
アズマ
「えぇい! 邪魔をするなッ!」
ゲンに助けてもらったのに、悪態をつく。
キョウ
「貴様こそ、足手まといだ。 後は守護霊使いのオレたちでやるから、貴様はさっさと後ろに引っ込んでな」
アズマ
「何だとッ! 守護霊が使えないからって、馬鹿にしやがってッ! お前たちこそ、あの巨鬼に殺られる前に、さっさとここから逃げ出しちまいなッ!」
ヒロミ
「ちょっと、あなたたち、喧嘩している場合じゃないわ。 巨鬼がもうそこまで来ている」
アスカ
「巨鬼は、私が止める。 紅蓮の戦士『不動の解脱者』!」
アスカが五鈷金剛杵を振るうと、前身赤肌の守護霊が現れた。これが、巨鬼に向かっていく。
巨鬼が『不動の解脱者』を踏み潰す。
ヒロミ
「アスカッ!」
アスカ
「う……うう」
巨鬼がその踏み込んだ足を上げると、そこには何もないように見えた。
否、一体の守護霊が、地中にめり込んでいた。
アスカ
「私は、無事よ。 『不動の解脱者』の絶対防御を発動させたから、あの手の物理攻撃ならどうということはないわ。 でも、こっちの攻撃はまったく効かない。 これでは、巨鬼を止めることはできない」
キョウ
「ならば、オレが行く」
キョウが数珠を手にして守護霊を召喚しようとした。しかし、それをゲンが必死に止める。
ゲン
「ダメだ。 君の『炎の戦士』の攻撃力では、あの巨鬼の足を止めるにはまだ足りない」
キョウ
「やってみなければ分からない」
ゲンとキョウがこのような問答をしている間に、巨鬼がますます近くに迫ってくる。
その時、2人の眼の前に、オットー=ハイストンが現れた。
ゲン
「え? いつの間に? オットーさんは後衛に居たのでは?」
オットー
「フフフ。 それが我が守護霊の能力、転移さ。 このぐらいの距離ならば、瞬間移動ができるのさ」
そして巨鬼の前に立ちはだかり、両手を拡げてアスカら4人をかばう構えをとった。
ゲン
「オットーさん、それでどうやって巨鬼と戦う気ですか?」
オットー
「そうか、君たちは巨鬼と戦うのは初めてなのだね。 あれと戦うには、まず最初に気合を高めること。 まぁ、見ていたまえ」
オットーが気合の呼吸を練っていくと、確かに巨鬼の足が止まった。
そして、巨鬼の方は、何を思ったのか、2歩3歩と後退し、ついにはスッとどこかへ消えてしまった。
ゲン
「こんなことが……」
オットー
「とにかく、巨鬼を取り逃がしてしまったのは残念だが、こうして君たちが全員無事なのは良かった。 ここはいったん、屋敷に戻って作戦を練り直すとしようじゃないか」
呂色とは黒漆の濡れたような深く美しい黒色のことだそうです。




