この場所はまずい
トライリング神殿――
ここは、巨鬼を支配するヨーダ王一派がアジトとする廃社である。
時は、アスカらがフジワラ京のマール=ハイストンの邸宅にたどり着いた頃にさかのぼる。
ヨーダ王が、スティッグレイブ古墳で兄弟な守護霊の力を得たことを、ねぎらっていた。
そこへ、ベンセイ=ウィートが駆けつけてきた。
ベンセイ
「おい、オッグ。 お前、また失敗したらしいな」
オッグ
「何をッ! ゼンチィがどんな思いで古墳に入ったかも知らないでッ!」
オッグは、ゼンチィとともに、主君と仰ぐヨーダ王に、スティッグレイブ古墳での戦果を報告していた。帝国が編成した巨鬼討伐隊を全滅させたと報告したが、一方で、ゼンチィが新たな守護霊を得た代償で、人格を失ってしまったのだ。
オッグは、それを「失敗」と、ベンセイが揶揄したものと受け止めた。
ベンセイ
「その事じゃねぇよ。 お前さんたちが全滅させたというその討伐隊、無事のようだぜ」
この知らせを聞いてさらに驚愕した表情を見せるオッグの横、捕虜のマーモ=クレイマスタは、ホッと胸をなでおろした。マーモは、元々アスカの友人で、眼の前で、彼女がゼンチィに焼き尽くされたように見た。それが、無事だと聞いて、安堵したのである。
「もっと詳しく」とマーモがせがむと、ベンセイは、仲間がフジワラ京でマール=ハイストンの邸宅に向かうアスカら4人の討伐隊員を見た、と説明した。
シャーキン
「だったら問題ないじゃないか」
シャーキンは、巨鬼に変身する少年の姉貴分だ。
ヨーダ王
「問題ないとは、どういうことだい?」
シャーキン
「あの方面には、罠が仕掛けてあるんだ。 オレたちは、そのマール=ハイストンの家の中に、仲間を2人、潜入させている。 これまでも何度か討伐隊が編成されてるけど、そのほとんどを奴らが始末してくれたんだ。 それで取りこぼした奴は……」
そう言って、シャーキンは、連れてる小僧の頭をポンポンと叩いた。その少年を巨鬼に変身させて始末する、これまで、そうやって帝国の守護霊使いを暗殺してきたのだと、ヨーダ王に説明した。
シャーキン
「しかし、討伐隊がフジワラ京に入ったとなれば、仕方ないね。 念のため、アタイらも、あっちに向かおうかしらねぇ」
そう言って、シャーキンは少年を連れて、フジワラ京に向かうものとした。
このような経緯があって、アスカらの前に巨鬼が現れたのである。
マール=ハイストンの邸宅の書庫の中、アスカらを本の中に封じ込めていたウグイとカノイの兄弟は、ヨーダ王一派が送り込んでいた巨鬼討伐隊に対抗する刺客であった。どうやって知ったか、その2人が返り討ちに遭ったと察するや、巨鬼の方から先制攻撃を仕掛けたのである。
巨鬼が巨岩を投げつけて、アスカら4人が在室していた書庫が半壊である。
崩れた壁、吹き飛ばされた屋根の向こうに見えた巨鬼の姿は、遠くにいたはずだが1歩の歩幅が想像以上に大きい。ゆっくり歩いているように見えて、すぐに近くまで寄せてくる。
ヒロミ
「なんて大きさ……」
ヒロミは、身長50メートルは超えようかという巨鬼の巨体を見て、正面からやり合うのは不利と考えた。まずは、このまま書庫の中に身を潜めていようか。
ゲン
「いや……この場所はまずい。 なぜならば……」
巨鬼が、足元から手ごろな大岩を拾う。巨鬼の掌におさまる大きさであるが、身長50メートルは超えようかという巨鬼のサイズに換算すれば、直径4、5メートルはあるだろう。
巨鬼がそれを、書庫にめがけて投げつけてきた。
このまま書庫に隠れていると、かえって逃げ場が無くなってしまう。
ゲンは「まずはここを脱出する!」と叫んで、崩れた壁の隙間から、書庫の外へ出た。
すると、巨鬼が投げた巨岩がまっすぐ書庫に飛んでくる。
キョウはゲンのそばに居て、その行動の意図を瞬時に受け止めることができたから、無事に書庫の外に逃げることができた。
だが、少し離れた場所にいたアスカとヒロミは判断が遅れて、まだ書庫の中である。
そこへ、巨鬼が投げた大岩が飛んで行くのである。
ゲン
「神木の鞭!」
ゲンは、鳥頭人身の守護霊『偉大な神鳥』を召喚し、その能力を発動して、2本の木蔓を放出した。そしてすばやくアスカとヒロミを書庫の中から引きずり出した。
その直後に大岩が書庫に着弾、書庫は轟音とともに崩れ去ってしまった。




